HintClip編集部が、広告・販促・広報・サステナビリティなどの各分野のプロフェッショナル(専門家)に依頼して、お薦めの書籍を紹介してもらうシリーズ企画です。
第4回目となる「広報・PR/中級編」では、出版プロデューサーとして、また経営者の担当編集者として、書籍出版や企業の広報活動に携わっている株式会社スターダイバー代表・米津 香保里さんが面白くて役立つ本を3冊ご紹介します。
題字:書家 小川啓華

(推薦理由)
広報・PRの仕事は、商品の露出をめざしてメディアにアプローチすることから、会社とステークホルダーが良好な関係を築くための取り組みや不祥事が起きたときの適切な対応まで、多岐にわたります。この広く多様な世界で「プロフェッショナル」になるには、いったいどうしたらいいのでしょう? 私はその鍵は「仕事の本質を理解することにある」と思います。今回はそんな視点でセレクトしました。
それでは3冊一気にご紹介します!

■推薦者

株式会社スターダイバー

代表取締役

米津 香保里

出版プロデューサー、経営者の担当編集者。ビジネス書や自己啓発書を中心に出版プロデュースに従事。手がけた書籍は180点超。ロングインタビューを実施した経営者は700人以上。「経営者の担当編集者」として経営者の「言葉」をブランディングの要に変換する新しい広報モデルを展開している。

『組織は「言葉」から変わる』
著者:黒田天兵
出版社:朝日新聞出版

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「インナーブランディング」という言葉を聞いたことはありますか? 多くの人が「ブランディング」と聞くと、外向きのイメージの確立や認知度向上を思い浮かべるかもしれません。しかし、強固なブランドを築くには、実は社内にこそブランディングが必要。それを「インナーブランディング」と言います。
一見魅力的な会社であっても、社内では不満や理不尽が渦巻き離職率も高い。そんな会社はせっかく築き上げたブランドも一夜城のごとく内部から崩壊していく…なんてことになりかねません。内部を整えることは非常に重要なのです。
想像してみてください。明確な理念のもと、経営層も一般社員も本気で結束する会社。これ以上に強い会社は無いと思いませんか? このような会社は大きな広告費を投下しなくても、独自のブランドを社会に提示し続ける優良企業になることでしょう。

だからこそ、広報・PRパーソンにはインナーブランディングを学んでほしいと思います。その学びの1冊目としてお薦めするのが本書です。会社のブランド力を向上させるために、まずは社内の風土や意識を再構築する方法を学んでほしいのです。

本書の特徴は、「言葉」にフォーカスしてインナーブランディングに取り組む方法を紹介していること。とかく人の心を変えるのは難しい。毎朝全社員で唱和する…なんて昭和なやり方ではもはや理念が根付く日は来ないでしょう。だからこそ、「言葉」を吟味し、磨き、浸透させる作業が必要です。
物語スタイルで書かれた本書はとにかく読みやすい。忙しいビジネスパーソンが限られた時間で大意を掴むにぴったり。組織に所属する人もフリーランスの人も、広報・PRに携わるなら、これからの時代、インナーブランディングを学ぶことは自分への有効な投資だと思います。

『パーパス経営』
著者:名和高司
出版社:東洋経済新報社

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ちょっと分厚い本なので(総ページ数508p!) 取り上げるか迷ったのですが、本書は気になる箇所だけ読んでも十分読む価値あり。迷いを振り切りオススメします。

本書は、「パーパス(=志)」を中心にした経営を資本主義に代わる新しい経営戦略として提唱。理由や方法を余すところなく説き起こしているのですが、この視点を広報・PRパーソンが持てば、仕事の質が変わることまちがいなし。あらゆる場面で自分の見識を持って判断・行動することができるようになれると思います。

「パーパス経営」とは、要は会社の価値観を明らかにし、それをベースに社会に価値を提供すること。なぜ、広報・PRパーソンにこの経営手法の理解を薦めるかというと、個々の商品をPRするような場面であっても会社の価値観を深く理解していたほうが、格段に的確な手を打てるからです。
例えば、安全な食を後世に伝えたいと思っている食品会社がお菓子を開発したとして、パーパス経営の視点があれば、原材料や製法に誰でもアクセスできるようなプランを提案に折り込むことができます。

ところで皆さんは、レンガ職人の話をご存知でしょうか?

旅人がレンガを積み上げている職人に出会った。
「何をしているのですか」と訊いたところ…、

1人目の男は「見ればわかるじゃないか。レンガを積み上げているんだ」と答えた。
2人目の男は「レンガを積み上げて壁を造っているんだ」と答えた。
3人目の男は「レンガを積み上げて後世に残る大聖堂を造っているんだ」と答えた…。

この寓話は、同じことをするのでも、目の前のことに目線を合わせるか、大局に目線を合わせるかでやり甲斐も結果もまったく違ってくるということを教えています。3人目のレンガ職人が一番腕のいい職人になることはあきらかです。

私がお伝えしたいことも同じ。SNSの投稿やメディア向けのリリース作成はレンガを積む作業に似ています。でも、そういった仕事を単に「それだけ」と思うのか「大聖堂を造っている」と思うのか。もしプロフェッショナルになりたいなら、大聖堂を造る意識で取り組むほうが何十倍も力がつきます。

なにしろ分厚い本ですから楽に読める本ではないかもしれません。でも、ときにはちょっと背伸びをして、経営層は何を考えているのか、会社経営で売上を上げる以外の大切なことは何なのか、そんな1つ上の視点を持つきっかけにしてほしいのです。

筆者は、「パーパスに羽をつけて、遠くの高みへと舞い上がらせていく構想力が求められている」と述べています(302p)
パーパスをフックに未来を構想し、そこに貢献すること。そうすれば、広報・PRの仕事を通じてどこまでも高みに行けることを本書から感じていただけたら嬉しいです。

『シン・ニホン』
著者:安宅和人
出版社:ニューズピックス

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気宇壮大になってきたところで、3冊目はさらにスケールの大きい本です(笑)。
本書は2年前に出版されて以来、多くの人に支持されていますので、すでに手に取っている人もいるかもしれませんが、広報・PRパーソンにとって価値ある一冊と思いますので紹介します。

『パーパス経営』の推薦のなかで会社の価値観を理解しようと書きました。この本はさらにもう1つ上のレイヤーを扱っています。
それは「日本社会」です。

日本社会がいま、世界のなかでどのような立ち位置で、どんな課題や可能性を抱えているか。会社はどうしていけばいいのか。個々人はどう生きていけばいいのか。本書にはその手がかりがすべて書いてあります。
つまり、いまの世の中をベースに会社や個人の在り方をざっくり捉えるのに最適な本なのです。

目次を少し紹介してみましょう。

  1. 1章 データ×AIが人類を再び解き放つ(時代の全体観と変化の本質)
  2. 2章 「第二の黒船」にどう挑むか(日本の現状と勝ち筋)
  3. 3章 求められる人材とスキル
  4. 4章 「未来を創る人」をどう育てるか
  5. 5章 未来に賭けられる国に(リソース配分を変える)
  6. 6章 残すに値する未来

全体を俯瞰するところから始まって、最後、私たち一人ひとりがどんな未来を残したいかを問う構成になっています。
私は本書を読んで、日本が直面する課題はたしかに大きいものの、まだまだ世界のなかで価値を示せると感じました。そしてその領域として「コンテンツ」と「コミュニケーション」があるとも。
どちらも広報・PRが得意とする分野です。

詳しくはぜひ本を読んでいただきたいのですが、この本は読む人の問題意識に応じて手がかりが見つかると思います。
最後に、本書で知った数学者・岡潔氏の言葉を紹介したいと思います。

「数学は必ず発見の前に一度行き詰まるのです。行き詰まるから発見するのです」

仕事も人生も同じ。困難は次のフェーズに進むためのドア。
どんな仕事にも逆風も挫折もある。でも、そのたびにそれをドアとして、新しい景色をつかめる。本書をそのきっかけにしていただけたらと思います。


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