今から10年ほど前、小売業におけるデジタルの導入や活用をテーマに、オムニチャネルやO2O(オンラインツーオフライン)を追求した記事を書いたことがありました。
まだ日本においては実例が少なく、アメリカのウォルマートやアマゾンなどの先鋭的な企業の展開を解説して、日本の小売業における可能性を紹介しました。
近年、日本では「リテールメディア」という捉え方により、小売業における買い物行動の接点としてアプリやECサイト、デジタルサイネージなどを駆使した積極的な取り組みが進められています。
それは、購買データを活用することで、小売業とその市場に参画する企業(メーカーやITベンダー企業など)にとって新たな収益を期待できる「新しいマーケティング手法」として注目されているからです。
今回の記事では、この手法のなかの「デジタルサイネージ」にフォーカスします。
小売業・メーカー企業における「活用状況」や「メリット」、「それぞれの課題」、「今後の効果的な活用法」などについて解説したいと思います。
(株式会社リテイルインサイト 代表取締役 倉林武也)

デジタルサイネージの活用の状況

日本のデジタルサイネージ市場はこの数年で急速に拡大しており、2025年には1,110億円に達して、2030年には1,674億円まで拡大すると予想されています。この市場には交通広告・屋外ビジョンなども含まれており、商業施設・店舗での活用は約260億円といわれています。※
百貨店やショッピングモール、スーパーマーケット、ドラッグストアまで業種業態を問わずに、店頭や売り場でのデジタルサイネージの活用は商品やサービスの訴求、広告の伝播などマーケティングや販促活動において、現代では無くてはならないものになっています。

※「デジタルサイネージ広告市場規模推定2024年-2030年」調査主体:株式会社LIVE BOARD

デジタルサイネージの活用メリット

デジタルサイネージのメリットについて、あらためて考えてみたいと思います。
本記事では、「小売り」「メーカー企業」「買い物客」の3つの視点に分けてメリットを整理します。

1. 小売りにおけるデジタルサイネージを活用するメリット

(1) 売り場全体の売り上げを押し上げる可能性

  • 「思わず手にした」などの衝動買いを促進。
  • クロスセルやアップセルなどの強化。
  • 購買順序の変化(ついで買いなど)。

(2) 立ち止まり率のアップ

  • 印刷物のPOPや動きのないPOPと比べた際の視覚による効果。
  • 動きのある映像(広告)は、売り場で思わず立ち止まることを高める。

(3) リテールメディアとしての収入

  • メーカーの広告を店内で配信。
  • 店頭や売り場のメディア化。
  • 小売りは広告収入を得る。
  • 店頭や売り場を広告媒体(メディア)として扱う。

(4) 運用効果・コストの削減

  • ポスターやPOPの印刷や貼り替え作業などの削減。
  • リアルタイムに情報を更新。
  • 全店舗、全売り場の一括管理。
  • これらによりトータルコストが下がるケースが多い。

(5) (リテールメディアとして)高度なデータの活用による売り上げ拡大

  • 視聴ログとPOSデータ、ID-POSの連携。
  • 顧客属性に応じた取り組みとしてOne to Oneマーケティング。
  • 時間帯別の販促の最適化。

2. メーカー企業におけるデジタルサイネージを活用するメリット

(1) CMの想起

CMの内容や商品の特徴を、購買の直前で訴求できることから、購買変容や購買行動を生む可能性を持つ。

(2) 自社商品の並ぶ棚への立ち寄り率アップ

変化や動きの少ない売り場・棚で商品を使った食べ方や使い方を、動画で伝えることができる。

(3) クロスMD(マーチャンダイジング)

デジタルサイネージは食や商品の利用シーンを伝えやすいことから他のカテゴリーと連動した訴求が行える。買い上げ点数のアップを求める小売りの課題に取り組むことができる。

(4) (リテールメディアに力を入れる)小売りへの商談の材料

店頭や売り場を広告媒体として扱う小売りにおいては、広告収入として、あるいは売り上げづくりのための新しいメディアとして商談が進めやすい。また、前述の小売りにおけるメリットをメーカーが実際に取り組むなかで、これらを「数値化」すると、より商談における効果が高まる。

(5) 効果測定

高度なデータの活用により「誰が自社の商品を買っているのか」が見えることで、「広告から購買」といった行動の確認ができる。また、デジタルサイネージ実施店と未実施店を比較した効果測定ができる。

デジタルサイネージの展開における課題

デジタルサイネージは従来のポスターやPOPに比べて動きや変化のある表現から注目を集めやすい点や、人が設置作業を行わないことで運用効率が上がった点については評価されています。

しかし、その活用が「当初の期待に十分に沿えているか、また、それ以上の効果を感じたか」の問いについては「まだ模索中」という回答が多くを占めています。
では、小売業やメーカー企業がデジタルサイネージを使って、狙い通りの効果を上げるためには何が課題で、今後どのような取り組みをすればよいでしょうか。この点をテーマに掘り下げたいと思います。

買い物客のキモチを理解する

買い物客の多くは、買い物中は「買い物脳」になっており、頭にある感情は買い物における「損得」や「自分にとって必要か不必要か」と言う主観的なキモチが占めています。買い物行動を引き起こす「トリガー(引き金)」は、これらのスイッチの入り方によるものです。小売り企業の中には買い物の行動を「計画的」「衝動的」に分けて、デジタルサイネージを使ってアプローチを図る事例もあります。
つまり、サイネージによる情報の提供は、こうした「買い物中のキモチ」を理解した伝え方がポイントになります。

買い物客の課題を理解する

次に、買い物客の「買い物の目的や解決したい課題」を理解することが重要です。
小売業やメーカー企業の配信するデジタルサイネージの内容を見ると、買い物客を置き去りにして、自分たちの伝えたい内容を一方的に配信しているものがあります。
いわゆる「プッシュ型配信」と呼ばれるもので、自社のサービスや商品の特徴にフォーカスして伝えようとするものです。店舗で扱う商品が異なれば、買い物客の課題を解決するものが異なります。それを理解したデジタルサイネージの活用は「プル型配信」として買い物客を引き寄せる役割になります。

サイネージの設置場所

また、買い物客が買い物中、「売り場のどこを歩いているか」を理解することもサイネージを上手に機能させる上では大切な役割です。
スーパーマーケットなどの場合、売り場の外周(主通路)と内側(サブ通路)を歩く割合は8:2程度と言われます。
また、売り場の棚の下段に特売やセール商品が多く並ぶことから、買い物客の視線はおのずと上方向よりも下方向に向きます。
買い物客の行動はこうした習慣や流儀のようなものがあり、まずはこれらを理解する必要があります。
買い物客が店内で買い回りをするストーリーや、目線などを配慮してデジタルサイネージの設置場所を検討することも重要です。

課題の解決とまとめ

デジタルサイネージを活用する際に、小売業側やメーカー企業側による視点だけで捉えると、十分な効果を生むことはできません。
デジタルサイネージをはじめとした多くのデジタルによる取り組みで、その最大効果を得るには、効率や便利さの追求といった面に加えて、それが使われる環境や、買い物客のキモチと行動(ショッパーインサイト)を捉えながら進めることが、最も重要な要素になります。

(株式会社リテイルインサイト 代表取締役 倉林武也)

買い物客に刺さる動画をタイムリーに配信できるサイネージとは

売り場において、ショッパーインサイトを捉えたコンテンツをタイムリーに配信したいというご要望があれば、配信型デジタルサイネージ一体什器「デジタルゴンドラ」をお試しください。
大型画面が一体化した商品展示用汎用什器と、デジタルサイネージの映像などをコントロールするクラウド上のコンテンツ管理システムで構成されています。
アナログのPOPでは難しかったさまざまな表現が可能になり、店頭でのアテンションや訴求力がアップするデジタルPOPツールです。簡単にコンテンツを運用できることから、ご担当者の業務負荷を軽減できます。
詳しくは以下から資料をダウンロードしてください。

株式会社リテイルインサイト

代表取締役

倉林武也

2018 年に流通小売業やメーカー・事業会社のマーケティング領域におけるコンサルティング業務を担う会社として起業。営業戦略や販売の支援、社内組織の活性化や社員の育成(ナレッジや Teams ・ LINE などプラットフォームを使用した活動支援)を行う。近年、広告・コミュニケーションや販売促進のあり方が大きく変わるなか、リアルな「場」(チャネル)や商談における課題をインサイトの抽出やデジタルを含む方法で最適解や将来に向けてのあるべき姿を追求。JPM(日本プロモーショナルマーケティング協会)アワード最終審査員。宣伝会議「ビジネス・プロデュース力養成講座」「行動デザイン講座」「プランナー養成講座」に登壇。

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