主にメーカー企業のマーケティング・販売促進の担当や営業の方々に向けて、小売業への提案のあり方とハウツーを解説するシリーズとして「全3回」で連載します。
第3回目は、小売業の課題や要望を見つけて、自社製品を通じた解決策を提案・実行するにはどのように進めたら良いのか?具体的な考え方や展開の事例などを含め解説します。

小売業への提案のあり方

メーカー企業が小売業へ提案する際、大切なことや注意すべきポイントとはなにか?

メーカー企業の営業や販促部門の方々が小売業と向き合う際、多くの方は次のような印象や考えを持つと思います。

  1. ① 取り引きに関して厳しい条件を突き付けてくる。
  2. ② 提案の内容になかなか耳を貸してくれない。
  3. ③ 数値(取り扱い量や仕入れ値)の話に終始して、製品の育成や売り場の考え方について取り合ってくれない。

では、なぜこうした関係になるのでしょうか。その原因は、第1回目でも紹介したように、小売業とメーカー企業の「売り上げに関する考え方の根底の違い」にあります。

こういった考え方の違いを理解したうえで、さらに、近年小売業を悩ませている次のような〈事象〉についても理解しておく必要があります。

  1. ① 原材料費や販管費の値上がりから商品の売価を値上げするものの、利益は少ない。
  2. ② DX化を進めているが、まだまだ売り場や接客対応における人手が不足している。
  3. ③ 『令和の米騒動』と言われるような突発的な事象への現場対応に追われがち。

メーカー企業にとっては、「自社の製品を提案する商談の場」は限られた貴重な時間だからこそ、小売業を取り巻くこうした環境や変化も頭に入れて、商談の構成や提案の中身を考えることがマストとなります。

小売業側から捉える企画提案

メーカー企業が自社の製品を主役にしたさまざまな提案を行うことを「プッシュ型営業」と言います。

多くの製品がコモディティ化する時代、小売業が今まで以上に店舗や売り場の差別化を求めるなかで、この「プッシュ型営業」はバイヤーや売り場担当者に受け入れられるスタイルではありません。

むしろ「プル型営業」として、聞き手が興味を持っていっしょに取り組みたいと感じてくれる姿勢や視点が大切になります。

「プル型営業」を行う上ではじめに行うことは、聞き手(商談の相手)の視点に立って物事を考えること。前回の記事でも紹介した「視座」の捉え方の大切さです。

例えば、前述の小売業を悩ませる課題①~③について、小売業の担当者の立場で考えるとすべてが厄介な問題に映ります。

メーカー企業の皆さんは普段、このような課題を見過ごして、自社製品の提案に注力をされていないでしょうか?
では、メーカー企業が自社の製品やサービスを介してこのような小売りの課題を解決やサポートすることができるとしたら、どのような方法があるでしょうか?

課題解決の具体例

①の解決法として、メーカー企業が利益を落とさず(値引きの要請に応じず)に小売りの利益創造を支援できる方法、そのひとつにPB商品の販売強化があります。コロナ禍以降、小売業が力を注ぐ対象に自社のPB商品があります。

生鮮部門(青果・農産・鮮魚・精肉)以上に粗利づくりに貢献ができ、価格高騰の時代に消費者からも支持を得ています。

メーカー企業は長年、小売業へのアプローチとして、生鮮部門との連携(クロスセルと言った関連購入の訴求)を行ってきましたが、近年のPB商品の重要度を考えると、支援する対象をPB商品にシフトする必要があります。

これは食品や飲料部門に限ったことではありません。生活用品・消耗品においても、メーカー企業の製品と関連づけるテーマや購買シーンを捉えた提案に活用できると思います。

例えば、電気料金が値上がりした際、「電気を使わない掃除(節電掃除)」を啓蒙・推奨する売り場の展開がありました。そこで紹介されていた内容は、メーカー企業の電気を使わずに掃除ができる製品と小売業のPBの消耗品を上手に合わせて使う方法でした。

メーカー企業の自社製品と小売業のPB商品を絡めて解決できるテーマを見つけることで、新しい商機を創ることができます。

また、②の小売業における人手不足は慢性的な課題です。
DX化によって商品管理や商品の受発注、売り場の管理などはこの数年で大きな効果を生んできました。しかしそれでも人件費の面で、売り場における店員・アルバイトスタッフの作業(項数)はなお見直す必要があります。

例えばメーカー企業の販売支援に関するもので、POPなどの販促資材の設置の問題があります。

以前、店舗に送り込まれた販促資材の開封・設置率を調査したところ、約6割が未開封のままバックヤードに積み残されており、時期が過ぎると廃棄されると言う結果がありました。

店舗側でも販促は必要であり、販促物は売り場の演出にも役立つと理解をしながらも、開封・設置・その後の撤去に割り当てる時間を惜しむ声が多いのが現実です。

そういった実情を踏まえ、ある菓子メーカーでは、売れ筋商品数種を同じ段ボールに梱包し、開封時に段ボールがそのまま店頭での販売什器になるものを製作しました。

店頭での設置を容易にすることが目的の段ボール梱包は以前からありますが、「売れ筋を揃えることと、その製品を使った工作LAB」(お菓子のパッケージを使ったさまざまな工作を店頭のリーフレットと専用サイトで紹介)を行うことで、売り場における新しい需要の喚起を図った点に菓子メーカーの工夫を感じます。

最後の③の社会事象や問題をテーマにした取り組みについて。
小売業に限らずに、ビジネスの世界では常に突発的な変化や課題にさらされます。小売業は日々の暮らしとの密着度が高い分、社会や景気の変化と言うモノに大きく影響を受ける産業です。

「令和の米騒動」は、2024年の米の不作、インバウンド需要、減反政策などの複合的な原因から起こりました。小売業の店頭では日々米の品不足が起こり、販売価格も通常よりも2~3割値上げとなりました。物価高騰の時代に、生活者への追い打ちとなり家計にも大きな影を落とすことに。

小売業は米の仕入れや販売方法の工夫などの手を打ちましたが、食品メーカー企業のなかでは次のような取り組みを提案する動きもありました。「お米不足を冷凍食品で上手に乗り切ろう!」「こうした時代、レトルト食品を試してみませんか?食べてみたら美味しかった!」お米の売り場やその代用となる商品の売り場でこうした訴求が見られました。

米不足は次第に解決する課題と思いますが、小売業にとって重要な課題が発生した際に、直ぐに反応して自社の製品で行えることを実践することが大切です。こうした力を行動力も含めて『目利き力』と呼んでいます。

【まとめ】

メーカー企業における小売業への提案のポイント。

  • ■メーカー企業の製品で、小売業にとって利益率の高い商品(PB商品や惣菜など)の販売を支援する。
  • ■小売業は慢性的な人手不足。作業・販売・接客など、メーカー企業としてサポートできることを考える。
  • ■小売業が社会や環境の変化から影響を受ける問題に、メーカー企業として(自社の製品を介して)対応できることを提案する。

【第2回目のチェックリストに関する回答】

Q1. 売り場の導線が「時計まわり」と「反時計回り」のお店があります。GMSや食品スーパーなどの小売業の売り場ではどちらが多いのでしょうか?

A. 20~30年ほど前まで小売業では、右利きのお客さんが多く、買い物かごを左手に持つことから、商品を手に取り易いようにといった理論で左回り(半時計まわり)のレイアウトがよく見られました。しかし最近では店舗の立地や商圏(まとめ買いや急ぎ買いなどの需要獲得)、力を入れる商品や売り場の考え方から、前述の理論にこだわらない売り場が見られます。

Q2. 昔は売り場の入り口付近には青果や農産物が並んでいましたが、最近は惣菜やほかの食材を陳列するお店が増えました。この理由はなんでしょうか?

A. 売り場の入り口付近に惣菜を陳列する店舗は、惣菜による差別化や買い物時間を少しでも減らしたいと願う「買い物時短派」を意識した狙いがあります。従来は生鮮(青果や農産)により鮮度や季節の変化を店頭でアピールすることがセオリーでしたが、競合店が増えたり生活行動が変化したりするなかで、店舗もさまざまな工夫を行います。

Q3. ドラッグストアの売り場の基本は、カテゴリー別に製品を並べることにあります。しかし、近年スーパーマーケットのように「季節ごとのテーマ」を設ける展開が見られるようになりました。ドラッグストアにおいてはどのようなテーマや展開が有効でしょうか?

A. まず近年の日本の気候変化が注目されます。猛暑・酷暑への対策はすべての業態共通のテーマです。また、高齢化の進む日本では、シニアと季節の変化(暑さと共に寒さや急な気温変化)を捉えた売り場づくりやマーチャンダイジングも重要になります。

Q4. 近年エンドに並ぶ商品にPB(プライベート・ブランド)商品が増えて来ました。自社の製品(NB)と一緒に並べて販売してもらうには何が必要でしょうか?

A. メーカー企業のナショナルブランド(NB)の値上げが続く時代、小売業のプライベートブランド(PB)が見直されてきました。特に大手GMSでは商品の改良や、販売スタッフが一丸になって商品の良さを伝えたり店頭での販売に力を注いだりしています。そして、このPBの販売を支援する活動は、メーカー企業の製品も有利な展開につなげる可能性があります。メーカー企業は併売値などのデータから、自社の製品(ブランド)を一緒に並べることで販売の効果を高められるPBを検討し提案をする必要があります。

Q5. 売り場の課題を解決することが大事と言われます。売り場や売り方、店員さんによる接客には具体的にどのような課題があるでしょうか?

A. 単に商品を並べるだけでなく、買い物客が「この商品が必要、使いたいと感じる気づき」や、接客により「このお店を利用したいと感じるきっかけ」をつくることなどが、売り上げや来店客数づくりなどの課題を克服します。

Q6. 自社の製品訴求を目的にしたPOPの企画・提案をしていますが、お店ではなかなか取り付けてもらえません。他社メーカーの製品は時々POPによる訴求や演出がされています。どのようにすればPOPの設置が可能でしょうか?

A. メーカー企業は自社の製品の特徴やお役立ちポイントなどを売り場で訴求するためにPOPを用意します。こうしたPOPは小売業にとっては自分たちの売り場での作業を増やす「負担」に感じられ、この気持ちを変えなければ設置や効果にはつながりません。メーカー企業の製品とお店の売りたい商品を一緒に訴求したり、POPを設置したことで売り上げが上がった実績を示したりするなど、小売業側がPOPの設置に協力的になるよう取り組むことが大切です。


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代表取締役

倉林武也

2018 年に流通小売業やメーカー・事業会社のマーケティング領域におけるコンサルティング業務を担う会社として起業。営業戦略や販売の支援、社内組織の活性化や社員の育成(ナレッジや Teams 、 LINE などプラットフォームを使用した活動支援)を行う。近年、広告やコミュニケーション、販売促進のあり方が大きく変わる中、リアルな「場」(チャネル)や商談における課題をインサイトの抽出やデジタルを含む方法で最適解・将来の姿を追求。JPM(日本プロモーショナルマーケティング協会)アワード最終審査員 宣伝会議「ビジネスプロデュース力養成講座」ほかに登壇。

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