主にメーカー企業のマーケティング・販売促進の担当や営業の方々に向けて、小売業への提案のあり方とハウツーを解説するシリーズとして「全3回」で連載します。

小売業の課題や要望を見つけて、自社製品を通じた解決策を提案・実行するにはどのように進めたら良いのか?具体的な考え方や展開の事例などを含めながら解説します。

株式会社リテイルインサイト 代表取締役 倉林武也

Vol.1 小売業の担当者の課題を理解する。

少子高齢化や人口減少に加えて、物価の高騰が重なり、生活やビジネスを取り巻く環境が厳しくなってきました。そうした時代を背景に、小売業やメーカー企業のあり方にも変化が生じています。

私は普段、小売業やメーカーの営業やマーケティング部門の方々と接するなかで、それぞれに異なる課題があることを感じています。

この原因には、両社の「視座」の違いがあります。

お互いが異なるモノの見方をしていてはどんなビジネスにおいてもwin・winの関係は築けません。まずは、小売業が現在(2023-2024年)抱えている課題から目を向けたいと思います。

コロナ禍以降、小売業を悩ませる変化と課題。

コロナ禍が過ぎ、私たちの暮らしは元のスタイルに戻っているように感じられますが、小売業における「来店客数」や「客単価」はコロナ禍前に比べてダウンしています(正しくは商品の値上げによる嵩上げから売上高は維持)。人件費や光熱費が高騰する状況下で、小売業の利益を圧迫しています。

元来、小売業の営業利益率は一桁台と大変低く、店舗における利益をどのように確保するかは、常に店長や店舗スタッフを悩ませる課題です。

メーカーの皆さんは最初に、この「利益」獲得の根本である「売上」の考え方に注視していただければと思います。

小売業とメーカーにとって「売上」は同じ言葉でも構成するものが全く異なります。

[図1]小売業の売上を構造的に捉えると

上の【図1】は小売業の「売上」の構成を示したもの、下の【図2】は同様にメーカーの「売上」を示したものです。

小売業の「売上」は、はじめに「客単価」と「客数」に分けることができ、その内容を細分すると「商品単価」や「買い上げ個数」に分かれます。

一方でメーカーの「売上」を見ると、「取扱店舗数」や「店舗あたりの売上」に分かれます。この図の違いにあるように、小売業とメーカーとでは同じ「売上」を追求するにあたって、全く捉え方が異なります。

つまり、メーカーが力を入れて自社製品(ブランド)の提案・訴求を行っても、小売業(主に窓口になるバイヤー)にとっては、数ある商品(小売の立場では製品を商品と捉えます)のひとつとしてしか映らないことになります。

メーカーも同様に、小売業は自社の製品を販売してくれる販路(チャネル)のひとつでしかないと認識するのであれば、この両者の関係は決して上手に進むことはありません。

お互いが違うところを見る提案や関係は、ビジネスでなくても良好な関係づくりは期待できません。

[図2]メーカーの売上を構造的に捉えると

現在、小売業が力を注ぐ売り方や商品について。

円安や原材料の高騰から、この数年、商品価格の値上がりが続いています。加えて人件費や光熱費の負担割合が大きい小売業においては、次のような傾向が鮮明になってきました。


  1. ① 生鮮品(青果・農産や鮮魚)や輸入肉、グロサリー部門で扱う製品の値上がり。長ねぎやトマト、キャベツの値上がりは記憶に新しい。
  2. ② 惣菜・総菜など中食商材の開発・販売の強化。小売業の中で惣菜・総菜は比較的粗利・利益率の高い(平均で36~37%)カテゴリー。
  3. ③ セット販売や購入個数に合わせた割引販売。対象にする部門が冷凍食品などに集約されてきた。
  4. ④ 携帯端末のアプリを使っての配信、ポイント還元による顧客の囲い込み。
  5. ⑤ PB(プライベートブランド)商品の販売の強化。このPB商品のメーカーによる支援については、次回のテーマでも取り上げる。

こうした中で、小売業では利益の改善を図る施策にも取り組んでいます。例えば、共同仕入れ(競合する小売チェーンや異業種とも一緒になり)・共同配送による業務効率の見直しや、キャッシュレス決済、セルフレジなどの導入を進めています。

また、デジタル化やDX改革により受発注システムや、状況に応じた売価のリアルタイム表示や棚割り、労働力の最適配分なども進めていますが、同時にこれらの分野の人材育成や採用も小売業にとっては新たな壁になっています。

小売業への提案の際に気を付けたいこと。

まず、小売業とメーカーの「売上」に関する捉え方の違いについてお伝えしました。

メーカーは自社の製品の特徴や販売の支援策を提案する前に、次の文脈で小売業の担当者と話をすることを意識しましょう。

それは「私たちの製品はお店や買い物客の中にあるどんな厄介な課題を解決するのか?」ということです。メーカーの皆さんの製品にはさまざまな特徴やメリットがあると思いますが、それが小売業や買い物客の持つ具体的な課題解決につながることを明確に伝えるようにします。

その上で【図1】に描かれた、どの内容に貢献するのかを伝えるようにします。

例えば、電力料金が値上がりした時に、洗剤や生活用品を製造するメーカーが、自社の製品を使って「電気を使わない節電掃除」といった提案をしたことがありました。自社の製品による課題の解決とはこうした考えや方法を指します。

また、小売業のバイヤーが商品を取り扱う際に採用の基準は次のうちのどちらかです。

一つ目は「その商品は売れるのか?」もう一つは「その商品を取り扱う理由があるのか?」。

売れるのかの判断は実績(売上高やシェア、購買率の高い数値)から判断されます。

商品を取り扱う理由は、利益率など数値によめ判断もありますが、、お店や買い物客のなかにある厄介な課題を解決する商品か否かが判断材料になる場合もあります。

価格訴求に関する要望に応え、販促を投下する前に。

メーカーは小売業からの「価格協力の要請」や「クーポンなどによる利益還元や懸賞型販促の投下」に対応する前に、まずは自社の製品がどのような役割を持つのか(主語を自社のブランドにしても、必ず小売業や買い物客と言った対象を設定した文脈)を考えてみてください。そうした考えに基づいて行う小売業との商談や提案は、今の小売業やバイヤーとの関係を変えることにつながります。

次回は、この1年の間でGMSやSM、専門店で行われて来た商品の売り方や売場づくりからのトピックスを含めて、売場における課題やヒントの見つけ方について紹介します。


「リテ―ル・インサイト入門」全3回シリーズ

  1. Vol.1 小売り担当者の課題を理解する
  2. Vol.2 売場での課題の見つけ方
  3. Vol.3 小売りへの提案のポイント

株式会社リテイルインサイト

代表取締役

倉林武也

2018 年に流通小売業やメーカー・事業会社のマーケティング領域におけるコンサルティング業務を担う会社として起業。営業戦略や販売の支援、社内組織の活性化や社員の育成(ナレッジや Teams 、 LINE などプラットフォームを使用した活動支援)を行う。近年、広告やコミュニケーション、販売促進のあり方が大きく変わる中、リアルな「場」(チャネル)や商談における課題をインサイトの抽出やデジタルを含む方法で最適解・将来の姿を追求。JPM(日本プロモーショナルマーケティング協会)アワード最終審査員 宣伝会議「ビジネスプロデュース力養成講座」ほかに登壇。

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