主にメーカー企業のマーケティング・販売促進の担当や営業の方々に向けて、小売業への提案のあり方とハウツーを解説するシリーズとして「全3回」で連載します。
今回は2回目として小売業の課題や要望を見つけるヒントとなる「売り場の見方」がテーマです。
普段、買い物客として訪れることの多い「売り場」も、視座に注意するとさまざまな発見があります。
株式会社リテイルインサイト 代表取締役 倉林武也
売り場での課題の見つけ方について
今回は売り場における課題やヒントの見つけ方をテーマに紹介します。
モノの見方に関する例えとして、「虫の目」・「鳥の目」・「魚の目」といった表現が挙げられます。
「虫の目」は複眼であることから、近づいて細部をさまざまな角度から見ることを表します。
「鳥の目」は高い所から景色を見渡すことから、全体を捉えようとする見方を表します。そして、「魚の目」は潮の流れに乗ることから、流れを見ることを表します。
ビジネスの場面では「虫の目」で情報を多角的に眺め、「鳥の目」で判断を下して、「魚の目」で決断を行うことが重要と言われています。
さて、今回の売り場をはじめ現場におけるモノの見方についてはどうでしょう。
この場合も、「小売業の見方」「お客さまの見方」「メーカーなど取引企業の見方」などいくつかの見方に分けることで、そこにさまざまな気づきやヒントを得ることができます。
「小売業の見方」とは、店舗の責任者である店長や商品を仕入れるバイヤー、売り場のスタッフによる捉え方を指します。これはメーカー企業の営業マンにとっては最も気になる存在だと思います。第1回目の記事でも触れましたが、小売業の売り上げは、商圏におけるお客さまの来店数と買い物単価によって構成されます。小売業で働く人にとっては、自分たちのお店のお客さまがどのような層か、どの位の頻度で利用されて、どんな嗜好かが最大の関心事になります。
一方、メーカー企業で働く人にとって最も気になるのは、自分たちの製品(ブランド)の取り扱いや販売状況です。
小売業からすると売り上げ全体を構成する商品はAやBやC(ブランドではなく、売り上げを積み上げるひとつのアイテム)に映り、メーカー企業の自社製品に関する想いとは全く異なる見方になります。
また、「お客さまの見方」では、自分と家族の好みのほか、物価が高騰する現代において、普段購入している商品価格の変化が反映されます。
こうした誰か(小売業やメーカー企業、お客さま)のモノの見方を「視座」と言い、特にメーカー企業の営業マンが小売業と商談を行う上では、相手(小売業)の「視座」で考え提案ができるかが重要なポイントになります。
売り場の課題を見つける上で
一度に3者の目で見ることは難しいことから、まずは買い物するお客さまの「視座」を意識して売り場や売り方を見ることからはじめましょう。
私たちも仕事の時間から離れて買い物をする時間はひとりの買い物客ですので、自分の行動や感じたままの気持ちに従います。その時に、見ているモノや手に取るモノ、歩く順番や場所が習慣化されていることに気づきます。
人は習慣的に購入する商品(習慣商材)を頭の中で決めており、売り場の歩き方や移動する順番がほぼ決まっている場合が多いのです。お店のレイアウトや商品の構成は、こうした無意識のうちに繰り返されている買い物客の行動を基に設計されています。
小売業やメーカー企業は、こうした買い物客の習慣を変えることや、自社製品が選ばれるための仕組みづくりを考えることに注力していますが、メーカー企業が売り場を見る際は、自社製品の展開状況を見ながら、次のような点に注意をします。
- ① 買い物中のお客さまの行動を変える仕組みがあるか。
- ② 小売業が売りたいと感じる商品は何か。
- ③ 自社のカテゴリー以外で工夫を感じる展開があるか。
メーカー企業の方々と話をすると、自社製品やそのカテゴリーについては熱心に見ていても、店舗全体や買い物客の行動を意識している印象はあまり持ちません。
①は自分自身の買い物行動において「思わず手に取る」「普段は気にしていない売り場や商品に目がとまる」など、変化を感じた時を指します。
②は小売業のバイヤーが商品を採用する際の基準を思い浮かべながらご覧になると良いと思います。
バイヤーは商談の際に「メーカー企業から提案されたその商品は売れるのか?」また「その商品を取り扱うことでどのようなメリットがあるのか?」の2点を頭の中で追求しています。
売り場に並ぶ商品(大陳展開され、エンドや優位置に並ぶ商品)やPOPの付いている商品がこれらのことをクリアしているのか、どのようなメリットを与えているのかを想像すると、そこに小売の課題や自社が提案をする際のヒントを見つけられる可能性があります。
まずは売り場に行く習慣をつけることから
ITや情報収集の方法が発達する時代でも、店舗や売り場に関する情報を集めることは難しいものです。デジタル化が進んで行く中でも、例えば買い物客の高齢化といった問題に対しては、売り場でのサービスや商品の品揃えや売り方などリアルな場での工夫が重要になります。
オンラインで集めることの難しいそうした情報こそ、営業活動や提案においては大きな価値を持ちます。自分の生活や仕事の中で、まずは近所のスーパーマーケットや小売店(実店舗であれば業態は問わず)に立ち寄る習慣を身に付けることからはじめましょう。
以下はそうした行動の中で何か新しいヒントや発見のためのチェックリストとして活用してください。これにより普段の買い物をする中で意識が変わっていくことと思います。
売り場でヒントをみつけるためのチェックリスト
□ Q1.売り場の導線が「時計まわり」と「反時計まわり」のお店があります。それぞれのメリットや狙い(期待する効果)はなんでしょう。
□ Q2.昔は売り場の入り口付近には青果や農産物が並んでいましたが、最近は惣菜や他の食材を陳列するお店が増えました。この理由はなんでしょう。
□ Q3.ドラッグストアの売り場の基本は、カテゴリー別に商品を並べることにあります。しかし、近年スーパーマーケットのように「季節ごとのテーマ」を設ける展開が見られるようになりました。ドラッグストアにおいてはどのようなテーマや展開が有効でしょうか。
□ Q4.近年エンドに並ぶ商品にPB(プライベート・ブランド)商品が増えてきました。自社の製品(NB)と一緒に並べて販売してもらうには何が必要でしょう。
□ Q5.メーカーは自社製品の訴求を目的にしたPOPを用意・提案しても、お店でなかなか活用してもらえません。他社の製品では時々POPによる訴求や演出がされているようです。どのようにすれば自社のPOP設置が可能でしょうか。
□ Q6.売り場の課題を解決することが大事と言われます。売り場や売り方、店員さんによる接客には具体的にどのような課題があるでしょうか。
※チェックリストの回答例はVol.3に掲載します。
「リテール・インサイト入門」全3回シリーズ
- Vol.1 小売り担当者の課題を理解する
- Vol.2 売場での課題の見つけ方
- Vol.3 小売りへの提案のポイント
リテイルインサイト 倉林武也氏登壇。店頭実現アップのためのセミナー
メーカー企業のマーケティング・販促・営業ご担当者のために、リアルセミナーと展示会を開催します。
小売り業の課題の見つけ方から、施策提案、ツール制作、流通加工まで、今すぐ役立つヒントが満載の2時間です。

株式会社リテイルインサイト
代表取締役
倉林武也
2018 年に流通小売業やメーカー・事業会社のマーケティング領域におけるコンサルティング業務を担う会社として起業。営業戦略や販売の支援、社内組織の活性化や社員の育成(ナレッジや Teams 、 LINE などプラットフォームを使用した活動支援)を行う。近年、広告やコミュニケーション、販売促進のあり方が大きく変わる中、リアルな「場」(チャネル)や商談における課題をインサイトの抽出やデジタルを含む方法で最適解・将来の姿を追求。JPM(日本プロモーショナルマーケティング協会)アワード最終審査員 宣伝会議「ビジネスプロデュース力養成講座」ほかに登壇。
関連資料
-
-
商品を思わず手に取らせる 店頭販促ツール制作の3つのポイント
資料をダウンロード