校正校閲シリーズの後編にあたる今回は「校閲編」です。
効率よく校閲を実施するためのポイントを整理しました。
校正と校閲について簡単におさらいすると、校正は「原稿との照合や赤字修正確認、全体の素読みなどを行い、文字や文章の誤りを正すこと」。校閲は「基本校正に加え、原稿の記述内容、文章の意味や整合性、事実関係などを読み取り、誤りを正すこと」です。
表面的な文字の間違いだけでなく、文章内容やトーン&マナーを含め、深く掘り進めるようにチェックを入れましょう。
また「校閲」では、法律やコンプライアンス、サステナビリティなどの専門的な知識も必要となります。そのため社内の関連部署や制作会社には、より広く深い知見によるチェックを実施するように依頼しましょう。
内容が正しく、読みやすい文章に仕上げる「校閲」は、危機管理だけではなく、ブランディングにも貢献してくれます。
文字や文章の間違いを正す
文字の間違いを修正することはもちろんですが、文章の意味を捉え、文章の前後関係を把握しながら誤りを見つけることが大切です。
◎同音異字や同訓異字
例)一が違う→位置が違う
跡を断たない→後を絶たない
◎出入力時の誤変換
例)そのときm→そのとき、 ※キーボードのタッチミス
単純な誤用が多いだが→単純な誤用が多いが ※文章作成中のミス
※PC環境の違いから来る誤変換は、最終的な出力環境での校正が必要。
◎慣用句、熟語などの誤用
例)いいことずくし→いいことずくめ
一同に会する→一堂に会する
※単純な誤用が多いが、不適切な表現になるものもあり、注意が必要。
◎送り仮名の誤用
例)申し訳けない→申し訳ない
少くない→少なくない
※文化庁「送り仮名の付け方」(昭和48年内閣告示第二号)を参照。
◎句読点の位置による意味の違い
例)君、走らないの?——君は、知らないの?
◎主述のねじれ、破綻
例)私の希望は昼休みにスポーツしたい→私の希望は昼休みにスポーツすることだ
私の仕事は販促をしています→私の仕事は販促です
※長い文章になると、特に主語と述語のねじれが起こりやすいので注意。
トーン&マナーや表現を調える
トーン&マナーや表現が調ったわかりやすい文章を作成することは、ブランディングにも関わり、企業そのもののイメージアップや信頼性の向上にもつながります。
◎表記の統一
・同じ媒体の中で用字用語の使い方を統一すること。間違いではないが、表記が統一されていないと読みづらさが増してしまう。
例)打ち合わせ/打ち合せ/打合わせ/打合せ/打合/打ちあわせ/うちあわせ
モノづくり/モノ作り/ものづくり/もの作り/物づくり/物作り
・『記者ハンドブック 第14版』(共同通信社)などを参考にしながら、あらかじめ会社やメディア独自の表記基準を作り、情報共有しておく。
・社内表記基準などがあれば、事前に制作会社に伝えておく。
※表記統一はSEO対策にもつながる。
◎長い文章、わかりにくい文章
・読者は長々とした文章、難しい文章を読んでくれない。一般読者にとって読みやすく、わかりやすい文章かどうかを確認する。
・重複文などの構造を持ち、一文が長すぎる文章は、文章そのものの間違いや矛盾を誘発しやすい。
・読点(、)のない長い文章は、意味が通じにくく、誤解を生むもととなる。
・漢字が多すぎる文章、平仮名が多すぎる文章も気をつけたい。
◎文語か口語か
・会話の中では「でも、」であっても、文章化する際には「しかし、」などに変える。
・口語文が混じりがちなのでチェック。
◎常態か敬体か
・一つの文章中では、常態(だ、である)か、敬体(です・ます)か、どちらかに統一する。
◎敬語の間違いを避ける
・尊敬語と謙譲語の混同や二重敬語など、誤った敬語の使用は避けたいもの。
例)どうぞいただいてください→どうぞ召し上がってください
今度、結婚させていただきます→今度、結婚することになりました(など)
ご覧になられる→ご覧になる(など)
◎単調な表現を避ける
・正しい文章であっても、文末が「~です。~です。~です。」のように同じ言い回しになるだけで、読者は退屈してしまう。文章のリズムを考えて修正したい。
◎やさしい言い方に変える
例)逡巡する→ためらう、決心できない(など)
◎指示語、接続詞などの使いすぎを避ける
例)これ、それ、あれ、
しかし、そして、ところで、また
※実際に文章を読んで、リズムが悪くないかをチェックする。
◎冗長な表現を避ける
例)働くということができる→働くことができる(働ける)
※「という」や「こと」など、削除できるものは削除するか連続使用を避ける。
◎常用漢字表、表内音訓を使う
・新聞、雑誌などでは基本的に常用漢字表(2010年内閣告示)の漢字を使用する。読みやすい原稿のための一つの基準となる。
例)遵守→順守
・表外読み(常用外の読み方)は基本的に使用しない(表外音訓)
例)上手い→うまい、可愛い→かわいい、想い→思い
・表外漢字を使う場合は「ルビ」をつける
例)傲慢→傲慢(ごうまん)
◎相手や状況による言い換え
例)弊社、当社、自社
※敬語の使い方も関連する。
◎社内用語、社内略語、業界用語
・社内だけで日常的に使用している用語や略語、業界用語、過度な横文字などは、わかりやすく一般向けに修正する。
校閲にリーガルチェックを加える
「リーガルチェック」は、法務部や弁護士が契約書の内容に法的な問題がないかを確認する場面で使われるケースが多いようです。法務確認とも言います。
しかし、契約書に限らず、法律はあらゆるビジネスに関係します。広告・販促・広報ツールなどであっても、そこに法的な問題が潜んでいないかをチェックすることが大切です。
例えば、ネットから有名人の画像を黙って取ってきてリリースに貼るだけで、企業は責任を問われます。多くの人に読者プレゼントをあげたいと思っても、提供できる景品に対する制限があります。よい栄養ドリンクができたからといっても「よく効く」とは書けません。また、求人広告の場合、性差別や年齢差別につながるような禁止表現の規制もあります。微妙で明確な答えの見つからない表現もあるので、いずれにしても一人で判断しないよう気をつけたいところです。
法務部でなくとも知っておきたいリーガルチェックとしては、以下のようなものがあります。普段から情報収集を心がけ、チェックを習慣化しましょう。
- ・著作権法
- ・商標法
- ・肖像権・パブリシティ権・プライバシー権
- ・景品表示法
- ・金融商品取引法
- ・薬機法(旧・薬事法)
- ・食品表示法
- ・個人情報保護法
- ・特定商取引法
- ・労働基準法、男女雇用機会均等法、雇用対策法など(求人広告などの場合)
- ・情報セキュリティ関連法(サイバーセキュリティ基本法、不正アクセス禁止法など)
コンプライアンス観点からの校閲
コンプライアンスは、一般的に上記のような「法令遵守」を意味する言葉として使われています。しかし、企業倫理の観点からすると、法令を守るだけでは十分とは言えません。明確に法令で規定されていないようなモラルや倫理、差別表現など、社会規範領域を幅広く含んでいます。
企業を取り巻いている多くのステークホルダーや社会全般に対して、企業が守るべきルールを包括したものがコンプライアンスです。企業のメディアが外部に発信され、不特定の相手を対象とするものであればなおさらのこと、基本的人権を守り、あらゆる差別をなくすよう努めることは企業の責任です。
発信側に差別的意識がある、ないにかかわらず、一つの文章や一つの単語が、当事者にとっては苦痛や不快につながることがあります。あらゆる可能性を考慮し、言葉や表現には十分すぎるほど気を配る必要があります。デジタル・ネットワーク社会となった今、「炎上」などのリスクも配慮し、日本だけでなく、世界の視線を意識する必要があります。
企業の中では、やはり法務部などの専門部署がコンプライアンス体制を担うことになりますが、媒体制作を担当する皆さんも知見を共有しておくことが大切です。
メディアの校閲作業に関わる不適切表現・用語には、主に以下のようなものがあります。
- ・差別表現・不適切表現
人種、民族、地域、身体的特徴、心身の障がいや病気、ジェンダー、職業、境遇など。
※『記者ハンドブック』の「差別語・不快語」などを参照 - ・モラル・倫理に関する不適切表現・用語
- ・その他、会社が独自に使用を避けている表現・用語
サステナビリティ分野への対応
CSR(企業の社会的責任)やCSV(共通価値創造)、ESG(環境・社会・企業統治)、SDGs(持続可能な開発目標)などの基本的な考え方や、常にアップデートされている世の中の動きを知っておくことは言うまでもありません。特に、企業の対外的窓口となっている広報や販促の方々は、自社の経営方針・活動内容についての正しい理解や、自社が社会から何を求められ、それにどう応えているかを把握しておくことが必要となります。
サステナビリティ・レポートや統合報告書に限らず、広報や広告・販促メディアでも、サステナビリティに直接関係する発信のニーズは高まっています。
サステナビリティの分野は、英単語をカタカナで表記した専門用語や、アルファベットの頭文字で団体名や制度名を表記することが多く、校閲を行う際にも専門性が求められます。
専門性の高い編集者や校正者の校閲チェックによって正確を期し、納得感をもって自社の取り組みを広く伝えていってください。
まとめ
校閲の分野では、「文字や文章の間違いを正す」「トーン&マナーや表現を調える」といった編集技術から、「法令遵守」「企業倫理」「サステナビリティ」などの専門的な知見も求められます。
ご担当者や社内の専門部署でのチェックに加えて、制作会社のプロの編集者・校正者を積極的に活用することをお勧めします。
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