画像生成AIは、マーケティングや広告制作において効率性と創造性を高める一方で、肖像権や著作権侵害などの法的リスクを伴います。本連載では、企業が画像生成AIを安全に活用するために知っておきたい基礎知識と、具体的なリスク回避策をご紹介。前編では、その法的リスクについて解説します。
監修:池田・染谷法律事務所 弁護士 染谷隆明/弁護士 土生川千陽
画像生成AIがもたらすメリットとリスク
画像生成AIとは、入力画像やテキストで入力した指示(プロンプト)に基づいてイラストや写真風の画像を自動生成する技術です。近年はさまざまな画像生成AIサービスが登場し、一般ユーザーでも本格的なビジュアル制作が可能になりました。
(1)画像生成AIの活用メリット
画像生成AIには、以下のようなメリットがあります。
●表現の幅の拡大
実在しない風景や理想的な構図、非現実的な演出など、これまで困難だったビジュアル表現が可能になります。撮影や3DCGなどと比べて表現の自由度が高まるため、企画意図に合わせて多様なイメージを作成できます。
●品質の向上
プロンプトの記述や細かな調整設定を工夫することで、意図に沿った訴求力の高い画像を制作できる可能性があります。
●コスト削減
モデル手配や撮影、イラスト発注にかかっていた費用を抑制できます。一部のカタログや広告では、すでに画像生成AIによる「AIモデル」の活用が進んでいます。
●スケジュール短縮
撮影準備や素材調達の手間を省き、必要な画像をその場で生成できます。急な修正依頼や短納期案件でも柔軟に対応でき、制作全体のスピードアップとワークフローの効率化につながります。
(2)法的リスクの把握
しかし、画像生成AIには見過ごせない法的リスクがあります。
現在、画像生成AIの権利などに関しては法的な整備が進められています。企業が画像生成AIを活用する場合、この動向にも注意を払いつつ、現在想定されるリスクを把握しておくことが大切です。
画像生成AIの活用によって抵触するリスクのある主な権利・法律には、以下のようなものがあります。
① 著作権
著作権とは、自分が創作した作品に対して認められる権利です。著作者すなわち作品を創作した人に、自動的に与えられます。著作権の目的は、創作活動による成果を守り、文化の発展を促進することにあります。
著作権は、大きく分けて「著作権(財産権)」と「著作者人格権」の2つで構成されます。
・著作権(財産権)
著作物を利用して得られる経済的利益を守るための権利です。たとえば、著作物を複製・上演・上映・放送・公衆送信・翻訳などする際には、この権利が関わります。著作権(財産権)は譲渡や相続が可能であり、契約によって他者に使用を許諾できます。
・著作者人格権
著作物に込めた著作者自身の人格的利益を保護する権利です。著作物をどのように世に出すかを決める「公表権」、自分の名前を表示するかどうかを決める「氏名表示権」、勝手に内容を改変されないようにする「同一性保持権」などが含まれます。著作者人格権は著作者のみに与えられるものであり、他人に譲渡したり、相続させたりすることはできません。
著作権は、小説・音楽・写真・絵画・映画・アニメ・プログラムなど、幅広い創作物に適用されます。また、著作物を創作した時点で自動的に発生し、特別な申請や登録は必要ありません。原則として、著作者の死後70年が経過すると、その著作物はパブリックドメインとなり、誰でも自由に利用できるようになります。
著作権を侵害した場合、民事上の損害賠償請求だけでなく、刑事罰(罰金や拘禁)を受ける可能性もあります。
② 肖像権/人格権、パブリシティ権
肖像権およびパブリシティ権は、人物の顔や名前などが無断で使用されることを防ぎ、個人の人格的・経済的利益を保護するための権利です。これらは主に、次の2つに分けられます。
・肖像権
個人が自らの容姿や姿を、本人の同意なく撮影・公開・利用されない権利です。一般の人にも認められており、人格的利益を保護するプライバシー権の一種とされています。たとえば、無断で撮影された写真が広告やWebサイトに掲載された場合などには、肖像権の侵害とされる可能性があります。
・パブリシティ権
著名人などの肖像や氏名、その他の個性がもつ「顧客吸引力(顧客誘引力)」を、本人の許諾なく商品や広告に使用されない権利です。パブリシティ権は経済的価値に着目したもので、商業目的での利用において特に問題となることが多いです。
③ 不正競争防止法
不正競争防止法とは、事業者間の公正な競争を確保するために、不正な行為を禁止し、それによって損害を受けた者に救済措置を認める法律です。具体的には、他人の営業秘密を不正に取得・使用・開示する行為(営業秘密侵害)、他人の商品を模倣する行為や誤認を招くような表示を行う行為などが規制対象となります。
④ 個人情報保護法
個人情報保護法は、個人情報の有用性に配慮しながら、個人の権利と利益を保護することを目的とした法律です。ここでいう「個人情報」とは、氏名、生年月日、住所、顔写真、メールアドレスなど、生存する個人を識別できる情報を指します。この法律により、個人情報の取得・利用・保存・提供において、適切な取り扱いが求められます。
画像生成AIの活用には、著作権や肖像権といったビジュアル表現に関する「権利の侵害」、内部資料や未公開の業務情報が不適切に扱われた場合の「営業秘密侵害」(不正競争防止法)、顔画像などが個人情報に該当する場合の「個人情報保護法違反」といったリスクが伴うため、活用には十分な注意が求められます。
本稿では、画像生成AIによるビジュアル制作において特に注意すべき「著作権」と「肖像権」のリスクにフォーカスして解説します。
法的リスクを理解する
画像生成AIを使った画像制作で特に問題になりやすいのは、著作権・肖像権など、他者の権利を侵害する可能性のある画像、侵害するのではないかと疑われて問題となるような画像の生成・使用です。
(1)著作権
生成画像が、意図していないにもかかわらず、既存の著作物に似てしまうことがあります。以下のようなケースが想定されます。
① データに含まれる著作物に対する著作権侵害となる場合
・(例1)著作権で保護されたイラスト(※)を学習データとして使用。生成された画像がそのイラストと類似していることに気づいたが、そのまま使用してしまった
・(例2)著作権で保護された写真を学習データとして使用。生成された画像がその写真と類似していることに気づかぬまま、使用してしまった
※「著作権で保護されたイラスト」などの著作物を、著作者の許諾なく無断で学習データに使用した場合、その時点で著作権侵害に該当するトラブルとなる可能性があります。
② 出力画像が既存作品と類似していると指摘された場合
・(例1)生成された画像が偶然、有名イラストレーターの描く特徴的なタッチに酷似していると、イラストレーター本人からクレームが来た
・(例2)生成された画像を使用したところ、著名なフォトグラファーが撮影した写真と酷似していることを、フォトグラファー本人から指摘された
(2)肖像権/人格権、パブリシティ権
人物の顔や姿が写った生成画像も、実在の人物と似てしまうことがあります。特に広告や販促物で使用する場合、著名人や一般人から、自身の容貌が使用されているのではないか、肖像権やパブリシティ権の問題が生じているのではないかという疑問を持たれるなど、トラブルとなるケースが想定されます。以下のようなケースが想定されます。
① AI生成画像が実在の人物に酷似していた場合(著名人に似ている場合)
・(例1)広告のビジュアルのために生成した人物の画像が、実在のスポーツ選手に似ているという指摘を受けた
・(例2)カタログに掲載するモデルとして生成した人物の画像が、SNSで「俳優の○○に似ている」と話題になり、拡散された
② AI生成画像が実在の人物に酷似していた場合(一般人に似ている場合)
・(例1)店頭ポスターのために生成した人物の画像が、実在する第三者に酷似していると指摘された
・(例2)一般顧客をイメージした生成画像をWebサイトに掲載したところ、第三者から「私の写真を勝手に使った」という苦情が寄せられた
まとめ:まずはリスクの正確な理解から
画像生成AIは、表現力と効率性を高める強力なツールであり、ビジネス活用が急速に進んでいます。しかしその一方で、法的リスクを見落とすと、炎上や訴訟といった重大なトラブルに発展する可能性もあることに注意が必要です。特に「著作権」と「肖像権」のリスクは複雑化しており、十分な理解と注意が不可欠といえるでしょう。
リスクを知らずに使ってしまうことが最大のリスクです。「リスクを知る」という点において、本稿が参考になれば幸いです。
次回の後編では、画像生成AIを実務で使用する際に気をつけたい具体的なチェックポイントや、外部パートナーとの協業における注意点について、詳しく解説します。
※本コンテンツは、2025年5月現在の情報をもとに、当編集部が独自の観点からまとめたものです。
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▶本文:HintClip編集部
▶監修:池田・染谷法律事務所 弁護士 染谷隆明/弁護士 土生川千陽