画像生成AIは、マーケティングや広告制作において効率性と創造性を高める一方で、肖像権や著作権侵害などの法的リスクを伴います。本連載では、企業が画像生成AIを安全に活用するために知っておきたい基礎知識と、具体的なリスク回避策をご紹介。後編では、実務で気をつけたいチェックポイントや、外部パートナーとの協業における注意点について詳しく解説します。また、「画像生成AIが本当に必要なのか」という点も併せて考えます。

監修:池田・染谷法律事務所 弁護士 染谷隆明/弁護士 土生川千陽

知っておきたいリスク回避のチェックポイント

(1)リスク回避の大原則

画像生成AIを使用する際は、以下の2点を徹底する必要があります。

  • ①担当者自身が、どんなリスクが想定されるかを把握し、できる限りの対策を講じること
  • ②外部の制作会社に指示する場合、対策を万全にしてもらうこと。対策内容を報告してもらうことも大切

また、生成する画像が「0から1(プロンプトからAIが完全に新しい画像を独自生成する)」なのか、「1から100(AIによる既存写真の背景削除やスタイル変更などの加工・修正を行う)」なのかによっても、想定されるリスクは異なります。

一般的に、「0から1」の場合は、既存作品に企図せず類似する可能性があります。この場合、著作権法上の「依拠」がない(既存作品に基づいていない)場合に相当しますが、類似性が高い場合などには依拠があると判断されることがあるので注意が必要です。

一方、「1から100」の場合は、元となる「1」に類似していないか、「1」の「翻案」(原作に基づいた二次的著作物)にあたらないかの注意が欠かせません。
※元となる「1」をオリジナルで撮影して、その画像をAIによって加工・修正する場合は比較的注意する事項が減ります。

(2)具体的なチェックポイント

以下の点をしっかり確認しておくと、リスク対策になります。参考にしてください。

①利用規約の徹底確認

AI生成ツールや素材提供サイトの利用規約を必ず確認し、著作権に関する規定を理解しておきましょう。利用規約は変更されることがあるため、定期的なチェックも欠かせません。

②プロンプトの内容チェック

プロンプトに以下の内容が含まれていると、著作権・著作者人格権・肖像権・パブリシティ権など、複数の法的リスクが生じる可能性があります。

  • ・特定の作家名
  • ・特定の作品タイトル
  • ・映画やドラマの監督名、タイトル、登場人物、俳優の名前

③生成画像の類似性チェック

一見オリジナルに見えても、既存の作品に酷似している場合があります。できる限りの確認を行いましょう。

④生成した画像の加工

生成画像の類似性チェック(③)には限界があります。既存作品との類似性や権利侵害指摘のリスクを下げるには、生成画像そのままではなく、適切な加工や調整を施しておくことで、権利侵害のリスクを低減できます。

⑤入力に使われたデータの確認と明示

画像生成AIに使用された入力データに著作権のある画像が含まれていると、生成されたデータの類似性が高くなる可能性があります。入力データの出典なども記録しておくと、後からの説明がしやすくなります。

⑥肖像が実在の人物に類似していないかのチェック

特に著名人、芸能人、政治家などに似ている場合、偶然の類似だったとしても、肖像権やパブリシティ権の侵害を指摘されたり、物議をかもしたりする可能性があります。

⑦表現の誤解リスク

使われ方によっては、誤解や炎上を招くことがあります。モデルでは再現困難なシーンや、特定の人物ではないかという誤解や誤認につながらないよう、十分に配慮しましょう。

⑧第三者チェック

社内の法務部門や外部の専門家による事前チェックを挟むことで、リスクの早期発見と回避につながります。

⑨「画像生成AIを使用したこと」と「打ち消し表示」の記載

「本画像はAIを利用して自動生成されたもので、実在の人物などとの関係はありません」と明記しておくことで、誤認リスクを避けやすくなります。ただし、法的責任が生じないと確約されるわけではない点に留意が必要です。

⑩生成プロセスに関するすべての情報の保存

生成の過程や、どんなことを事前および生成後にチェックしたかをすべて記録しておくと、⑧の第三者チェックがしやすくなり、チェック内容の精度も高まるため、トラブル防止策として極めて有効です。

⑪ 日常的な情報収集

著作権や肖像権、AI関連法制の最新情報を得るために、専門サイトやブログを定期的にチェックしておくことをおすすめします。

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画像生成AIを活用する際の手順(例)

画像生成AIは、以下の流れで活用するとリスク回避に効果的と思われます。外部の制作会社とやりとりをする際などの参考にしてください。

(1)目的・要件の明確化

活用目的およびターゲット、用途、活用媒体、表現の方向性などを言語化します。

(2)使用するAIツールと入力データ・素材の検討と決定

どの画像生成AIを使用するかを決めます。必要に応じて、入力データや素材を用意します。
画像生成AIの作成ツールには、さまざまな特長をもったサービスが存在します。ここでは、代表的な4つのツールを紹介します。

DALL·E 3(OpenAI)

高いテキスト理解力と細部までの描写精度を備えた最新の画像生成モデルです。ChatGPTと連携できるため、対話ベースで直感的に画像を作成できます。

Adobe Firefly(Adobe)

PhotoshopやIllustratorなどAdobe製品との連携に優れた画像生成AI。商用利用が明確に許諾されており、ビジネスシーンでの活用に向いています。

Midjourney(Midjourney Inc.)

アーティスティックな表現に特化した生成ツールで、ユニークなビジュアルが得意です。クリエイターやデザイナーを中心に人気を集めており、広告やアートワーク制作に適しています。

Stable Diffusion(Stability AI)

オープンソースで開発されており、高解像度かつリアルな画像生成が可能です。カスタマイズ性が高く、商用利用にも柔軟に対応できる点が評価されています。

(3)画像の生成とプロセス(プロンプトなど)の保存

どんな指示で生成したかを記録しておくと、第三者チェックの精度が高まります。
また、トラブルになった際にも説明しやすくなります。画像を修正する際、参考にすることもできます。保存を習慣化しましょう。

(4)生成した画像の権利確認

第三者の著作物や人物の特徴が含まれていないかチェックします。可能な限り、法務担当や外部の専門家に確認を依頼しましょう。

(5)生成した画像の編集・修正

明らかに既存の作風や人物に酷似している部分は、修正します。

(6)生成した画像の活用

活用範囲や媒体に応じて、注意すべき法的リスクや、誤認・炎上などのリスクは異なります。最終確認の体制づくりをしておくと安心です。

画像生成AIが必要ない場合

画像生成AIを使用する際は、「本当に必要か」という視点から代替手段を検討することも重要です。もちろん代替手段にもリスクはあるので同様のチェックは必要ですが、画像生成AIのような想定外のトラブルは回避しやすくなると言えるでしょう。

①プロンプトから完全に新しい画像を生成する場合(0から1)…著作権関係の明らかな無料画像や、ストックフォト、撮影した画像、3DCGなどを使うことはできないか

②画像生成AIで既存写真の背景削除やスタイル変更などの加工・修正を行う場合(1から10)…画像生成AIを使わずに、画像合成やレタッチなどで対応できないか

まとめ:安全な活用のカギは「パートナーの選び方」

画像生成AIを扱うには、クリエイティブと法的知識の両立が求められます。だからこそ、リスクを理解し、適切なチェックフローを持つ制作会社との連携が成功の鍵となります。

共同印刷は、画像生成AIの使用に長けているだけでなく、画像生成AIを安全・安心に活用するためのパートナーとして、細やかな提案や対応が可能です。
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また、当社の撮影スタジオ「播磨坂スタジオ」には多くのフォトグラファーが在籍しており、画像生成AIの代替手段としての撮影・画像合成・レタッチ・3DCG画像の作成などにも対応しています。ぜひご相談ください。

※本コンテンツは、2025年5月現在の情報をもとに、当編集部が独自の観点からまとめたものです。
※当社は本稿に関して一切の法的責任を負いません。記載内容については必ず貴社や取引先などの法務部門や顧問弁護士などにご確認ください。

▶本文:HintClip編集部
▶監修:池田・染谷法律事務所 弁護士 染谷隆明/弁護士 土生川千陽


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