「広報」という言葉は、「Public Relations」の訳語として1940年代から行政で使われるようになり、民間に広まっていく過程で時として本来の意味から離れ、「広告」「宣伝」と混同されて使われるようになりました。しかし「広報」と「広告」「宣伝」は、英語圏では明確に異なる概念です。
- Public Relations(PR)=広報
- Advertising(AD)=広告・宣伝
近年、ステークホルダーとの関係構築を重視する企業が増えるなか、広報活動を経営戦略として位置付け、本来の意味での「Public Relations」に立ち返る動きが生まれています。
企業の持続的な成長を支える広報・PRとは?そしてその実現のために求められる視点とはどのようなものでしょうか?
その業務、本当に広報の仕事?

「広報」をめぐっては、その言葉の曖昧さからこのようなさまざまな勘違いや混乱が生まれてきました。
皆さんは、こんな場面を目にしたり、耳にしたりしたことはないでしょうか?

しかし、このような勘違いの場面はほんの一例に過ぎません。広報周辺では溜め息交じりの声が日々漏れ聞こえてきます。
- 経営者「事業に込めている思いが、顧客や取引先に届いていないんだよな」
- 広報「できあがった原稿をリリースするだけで仕事がつまらない」
- 営業・販売「なんで広報は新商品を宣伝してくれないんだ」
それぞれが考える「広報」にズレがあって、社内のコミュニケーションが今ひとつかみ合っていないようです。
さまざまなステークホルダーと向き合う広報・PR

「なぜこんなことになってしまったのか」については、すでにさまざまなところでなされている議論に任せるとして、本稿では日本広報学会による「広報概念の定義」を共通認識として、企業がこれから取り組むべき広報活動について理解を深めていけたらと思います。
以下、同学会が2023年に発表した定義文です。
「組織や個人が、目的達成や課題解決のために、多様なステークホルダーとの双方向コミュニケーションによって、社会的に望ましい関係を構築・維持する経営機能である。」
出典:日本広報学会 https://www.jsccs.jp/concept/
同会Webサイトでは、定義文を構成するフレーズがそれぞれ何を意味しているか次のように解説されています。
- 主体=組織や個人
- 目的=目的達成や課題解決
- 客体=多様なステークホルダー
- 手段=双方向コミュニケーション
- 目標=社会的に望ましい関係を構築・維持
- 分類=経営機能
ここで注目したいのは広報の「客体」、つまり「誰に対するアプローチなのか」を明示している点です。
日本企業では長きにわたって「パブリック=大衆」という前提のもと、テレビ・新聞・雑誌に取り上げてもらうことで事業・商品・サービスを世に知らしめることが広報・PRの主な業務とされてきました。その場合の客体とはもちろんメディアです。
しかし定義文では、広報の客体は「ステークホルダー」だと言っているのです。

広報・PRの本質はレピュテーション・マネジメントにあり

定義文によって「広報」に一定の解釈が与えられたことで、メディア・リレーションズに偏った広報のあり方を見直そうとする動きが生まれたのは、日本の広報・PRにとって大きな前進と言っていいでしょう。

このように広報・PRの軸足をメディア・リレーションズからステークホルダー・リレーションズへと移していくなかで、「レピュテーション」という言葉を耳にすることがあると思います。
レピュテーション(Reputation)とは、「企業が社会からどう評価されているか」。平たく言うと「評判」ということになるでしょうか。ここで重要なのは、企業自身が「こういう会社です」と定義したものではなく、企業を取り巻くステークホルダー側で形成された評価だという点です。
- ・製品・サービス
- ・経営者の発言
- ・社員の行動
- ・サステナビリティへの取り組み
- ・不祥事への対応
- ・顧客対応
- ・プレス発表
- ・SNSへの投稿
など、企業のあらゆる活動がレピュテーション形成につながっていきます。
これからの広報・PRに求められるのは、その過程においてレピュテーション・マネジメントを図っていく役割です。それはステークホルダーとの継続的な対話を通じて評価を築き上げていく中長期的な取り組みであり、商品・サービスがどれだけ売れたかで評価される広告・宣伝とは一線を画する企業活動です。
めざすはハイブリッド型広報・PR

「何のために広報活動を行うのか」という目的意識が弱かった日本の企業広報では、「ニュースリリース」「プレス対応」といった業務が自己目的化し、本来の目的から離れたところで広報・PR部門の立ち位置が確立されてしまっていることが少なくありません。
スイッチを切り替えてレピュテーション・マネジメントに取り組んでいくためには、なぜステークホルダーとの関係構築が重要視されるようになったのか。その背景も理解しておく必要があります。
- ・SNSや口コミによって、企業自身のコントロールを離れて情報が広がるリスクを負っている。
- ・メディア経由での一律の情報発信では、多様化するステークホルダーとの間でミスコミュニケーションが起こりうる。
- ・企業側が発信するブランド価値と実態との整合性が様々な観点(下図参照)から評価されるようになっている。

広報・PR部門は、企業を取り巻く環境がこのように変化している局面でステークホルダーと対話し、「どんな姿勢で社会と向き合っているのか」という社会の関心に応えていかなければなりません。しかしステークホルダーの関心は多岐にわたる上、時代と共に変遷もしていくため、時流に柔軟に対応できるレジリエンスもこれからの広報・PRには求められます。
また企業は、ステークホルダーとの対話の手段として様々なコミュニケーションツールやコンテンツを作成します。このとき担当部署や協力会社と連携し、企業としての意思統一を図っていくのも広報・PR部門の重要な役目です。

このような活動を通してレピュテーションを獲得し、企業価値を押し上げていくのが広報・PRの本来あるべき姿です。そこでは「経営戦略としての広報・PR」という欧米型PRの視点を持つことが重要になってくることは間違いありません。
しかし、長年培ってきたメディアとの信頼関係や、インナーコミュニケーションの核としての調整能力など、日本型広報には日本型広報の強みもあります。欧米型PRに学ぶべきところは学び、企業それぞれの強みを生かして広報活動の守備範囲を広げる。日本企業にはそんな「ハイブリッド型広報・PR」が求められているのではないでしょうか。
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