「株主優待」は、いま大きな転換期を迎えています。
新NISAの開始や個人株主の増加を背景に、多くの企業が制度を新設・見直す一方、運営の負荷やデジタル対応など、新たな課題も生まれています。
そうした中、共同印刷が提唱しているのが、株主優待をマーケティング施策として活用する「攻めの優待」という考え方です。
本記事では、当社で株主優待の運営業務支援を担当する石井敦が、最新トレンドや運営上の課題、ワンストップBPOの考え方、そして株主との関係づくりにつながる新しい株主優待のあり方を語ります。
ファシリテーター:HintClip編集長 杉山毅

株主優待が注目されている理由

杉山:株主優待を取り入れる企業や、その内容を見直す企業が増えていますね。なぜ株主優待への注目が高まっているのでしょうか。

石井:新NISAが始まって株式投資を始めるハードルが下がったことが、要因の一つだと思います。これまで機関投資家を重視していた企業も、政策保有株式の縮小(*1)を背景に、最近は個人株主を増やすことを強く意識するようになりました。「自社の株式を、自社に共感して長く保有してくれる個人株主に持ってもらいたい」と考える企業が増えているのです。

杉山:個人株主の母数を増やしたいのですね。

石井:それに加えて、1人あたりの保有株数の増加や、保有期間の長期化も重視されています。

杉山:そのために株主優待が注目されているのですね。配当金だけでは不十分なのでしょうか?

石井:個人株主の場合、配当金だけでなく株主優待の内容も投資判断の一つになります。そこで優待を新たに始めたり、既存の制度を見直したりする企業が増えているのです。BtoC企業に限らず、BtoB企業からのご相談もあります。

*1 政策保有株式:企業が純粋な投資目的ではなく、取引先との関係維持や強化、業務提携、買収防衛などを目的に保有する株式のこと。近年は、自己資本利益率(ROE)の低下やコーポレート・ガバナンスの形骸化の一因になるという考えから縮小される傾向にある。

デジタル化と体験型へ。株主優待の最新トレンド

杉山:株主優待の内容に、トレンドのようなものはありますか?

石井:ありますね。一つは「デジタル化」です。紙のカタログギフトやプリペイドカードに代わって、Webで申し込める電子ギフトカタログやデジタルギフト券を採用する企業が増えています。申し込みや受け取りがしやすいことに加え、紙媒体の制作・発送費を抑えられる点もメリットです。特にデジタル優待券は、商品の配送が不要になるため、コスト軽減にもつながります。

杉山:ほかにトレンドはありますか?

石井:最近増えているのが「体験型」です。例えば、工場見学や施設見学、試乗・試用、株主限定イベントなどですね。ユニークなところでは、芸能プロダクションが株主向けにコンサートを開く例もあります。商品だけでは伝わりにくい企業の魅力や事業内容を、実際に体験してもらうことで、理解を深めることができます。BtoB企業にとっては、自社の技術やものづくりを知っていただく貴重な機会にもなります。

杉山:その企業の商品やブランドのファンには、とてもうれしい優待ですね。

株主優待の運用における課題

杉山:株主優待を運用する上で、企業はどのような課題を抱えているのでしょうか?

石井:一番大きいのは、マンパワーとノウハウの不足です。株主優待は総務や経営企画、経理・財務系の部署が担当することが多いのですが、専任の担当者がいる企業は多くありません。既存業務を抱えた数人の担当者に、新たに株主優待の準備や運用が加わるケースがほとんどです。

しかも、優待内容を決めるだけでなく、スケジュール管理、告知、申し込み受付、問い合わせ対応、発送、個人情報管理まで、実施後も継続してさまざまな業務が発生します。上層部から「何月までに始めてほしい」と指示されても、何から手を付ければ良いのかわからず、手を動かす人も足りない。そこが、多くの企業に共通する課題です。

杉山:すでに株主優待を実施している企業では、どのような点が課題になるのでしょうか?

石井:一番難しいのは「制度を大きく変えにくい」ということです。長く続けてきた優待は株主の方にも定着しているため、大きく変更すると不満につながる可能性があります。そのため、制度そのものを変えるというより、選択肢を増やしたり、紙だけだった申し込みをデジタルでも受け付けたりといった形で見直すケースが多いですね。
デジタル化する場合は、高齢の株主など操作に不慣れな方からの問い合わせが増えることを想定し、電話でのサポートなども丁寧に設計する必要があります。
また、制度を新設・変更する際は、告知も大きな課題になります。

杉山:株主への告知はどのように行うのでしょうか?

石井:制度の新設や変更をする場合、既存株主には株主通信への同封や郵送で知らせます。一方、株主優待をきっかけに新たな個人株主を増やしたい場合は、ターゲットに向けてWeb広告を活用するなど、相手と目的に合わせて告知方法を考える必要があります。

なぜ、「ワンストップ」が必要なのか

杉山:株主優待には、想像以上に多くの業務がありますね。人手が足りない企業では、外部に委託することも多いのでしょうか?

石井:そうですね。ただ、株主優待の業務をすべて一社に任せるのではなく、例えば優待品の手配はA社、Webサイトの制作はB社、事務局やコールセンターはC社というように、複数の会社へ分けて発注しているケースもあります。

杉山:各社との調整は、企業の担当者が行うことになりますね。

石井:はい。もともとマンパワーが足りないために外部へ委託しているのに、発注先が分かれていると、企業の担当者が複数の支援会社を管理することになります。また、各業務は同じスケジュールの中で連携させながら動かす必要があります。

杉山:業務が煩雑化しそうですね。

石井:そこで重要になるのが、企画から運用までを一括して支援する「ワンストップ」という考え方です。

杉山:すべてを一括して委託できるということですね。当社では、他の分野のBPO(*2)でもワンストップ対応によってご担当者の負荷軽減を図っていますが、株主優待ではどこまで対応しているのでしょうか。

石井:株主優待の企画・設計から、優待品の調達、紙やWebによる各種ツール制作、事務局運営、コールセンター、商品の発送、個人情報管理まで、一連の業務をワンストップで支援しています。必要な部分だけをご利用いただくことも可能です。

杉山:株主優待に関する業務を、ほぼ一括で任せられるのですね。

石井:はい。共同印刷には、長年キャンペーン事務局を運営してきたノウハウがあります。株主優待も、申し込み受付や個人情報管理、問い合わせ対応、発送管理など、キャンペーン運営と共通する部分が多いため、その経験を生かすことができます。また、紙の印刷物だけでなく、Webサイトやデジタル施策まで含めて対応できることも当社の強みです。

杉山:企業の担当者は、運用面の負担を大きく軽減できそうですね。

石井:そうですね。ただ、私たちは株主優待を「きちんと運用する」だけでは、少しもったいないと考えています。

*2 BPO:Business Process Outsourcingの略。企業の業務プロセスの一部を、外部の専門会社に継続的に委託すること。

共同印刷が提唱する「攻めの優待」とは

杉山:「『きちんと運用する』だけでは、もったいない」とは、どういうことでしょうか?

石井:従来の株主優待は、「よかったら受け取ってください」という、いわば受け身の施策でした。しかし、せっかく実施するのであれば、「こんな優待がある会社なら株を持ちたい」と思ってもらえるところまで持っていきたい。私たちは、それを「攻めの優待」と呼んでいます。

そのためには、株主優待を単なる還元制度ではなく、マーケティングの視点で捉える必要があります。

杉山:マーケティングの視点とは、具体的にはどのような考え方でしょうか?

石井:冒頭でも触れた「母数・保有株数・長期保有」の3要素のうち、どれを重視するかによって優待の内容や伝え方は変わります。そのためには、「株主」という一括りの対象ではなく、株主像をより具体的に捉え、どのような優待やコミュニケーションが求められているかを考える必要があります。

杉山:具体的には、どのようなことを行うのでしょうか?

石井:例えば、デジタルで優待を申し込んでもらう際にメールアドレスを取得したり、簡単なアンケートを実施したりする方法があります。従来の株主名簿から得られる情報は、住所、氏名、保有株数、保有期間などに限られていました。しかしデジタル化によって、株主の関心やニーズを把握し、継続的に情報を届けるための接点をつくることができます。

杉山:取得した情報を、株主との継続的なコミュニケーションやエンゲージメント向上に活用していくわけですね。

石井:そうですね。企業への理解や共感を深め、「この会社を応援したい」と思ってもらうことが、長期保有にもつながります。株主は、その企業にとって大切なパートナーです。優待を単に配るのではなく、株主との関係をつくり、ファンを増やし、さらには育てる施策として活用していきたいと考えています。

杉山:今後は、どのような支援を広げていく予定ですか?

石井:まず調査やアンケートで株主を理解し、その結果をもとに優待制度を見直すなど、マーケティング視点からのコンサルティングにも力を入れていきます。
さらに、運用を継続して株主に関するデータが蓄積されれば、将来的にはCRMの考え方を取り入れることで、より継続的で効果的なコミュニケーションにつなげていくことも可能になると考えています。
運用を代行して終わるのではなく、2年目、3年目と改善を重ねながら、株主とのコミュニケーション全体を支えるパートナーになりたいですね。

共同印刷株式会社

プロモーションメディア事業部 営業第四部 部長

石井 敦

1997年に共同印刷株式会社入社。数多くのメーカー・通販会社の販促支援を担当。キャンペーン事務局立ち上げなどの経験から、現在は株主優待BPO業務の拡販リーダーとして優待業務受託のみならず、株主とのエンゲージメント向上の施策策定に取り組む。(写真右)

共同印刷株式会社

プロモーションメディア事業部 HintClip編集長

杉山 毅

1982年共同印刷株式会社入社。商業印刷部門の企画営業を経て、1987年よりセールスプロモーション部門でクライアントの事業戦略・マーケティング戦略のプランニングから、広告・広報・販促の各種ツール・メディアのクリエイティブ・ディレクションを担当。2008年からコーポレートコミュニケーション部門にて広報、IR・総会、サステナビリティなどを部門長として担当。2017年の自社の創立120周年では、CIとコーポレートブランド再構築を含む周年事業を統括管理。2020年4月から現職。(写真左)

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