「時価総額3兆円以上のプライム市場上場企業」については、2027年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書から、開示が求められるSSBJ基準。その対象は翌年以降から徐々に拡大していきます。
HintClipではSSBJに基づく開示基準について前編・後編に分けて特集を組みました。
ISSBの設立過程と概要について解説した前編に続き、後編ではSSBJ基準の概要とISSB基準との相違点、および企業が具体的に取るべき対応策を解説します。
義務化が迫るSSBJ ~ 企業がとるべき対応とは
SSBJ基準と概要、ISSB基準との相違点
SSBJは日本版サステナビリティ開示基準を作成する組織であり、日本企業が環境・社会・ガバナンス(ESG)に関する情報を開示する際の透明性を担保できる基準作成を主な目的としています。
日本にはすでに地球温暖化対策推進法など非財務情報開示に関連する独自の法規制があり、ISSB基準と独自の法規制の間で整合性をとることが必要です。
さらに、ISSB基準はグローバル企業向けに設計されています。日本の中堅・中小企業への適用には負担が大きいという課題も抱えているため、そのまま適用するのではなく、「国際基準との整合性」と「国内実情との適合性」を両立させるサステナビリティ開示基準の作成を進めています。
組織としては、FASF(公益財団法人財務会計基準機構)内に所属する委員会の一つ(下図参照)です。 FASFは経済団体連合会・日本公認会計士協会など10の民間団体により設立された公益財団法人であり、公正な会計基準・サステナビリティ報告基準の調査研究および開発などを目的として活動してきたのですが、サステナビリティ情報開示のニーズが高まるなか、財務情報以外の企業開示にも焦点を当てるために、2022年7月にSSBJが設立されました。
13名の委員と8名の研究員、2名のディレクターから構成され、委員はASBJ(企業会計基準委員会)の大学・監査・金融・製造業など幅広い業界から構成されています。
SSBJ「サステナビリティ開示基準」とは?
SSBJは、日本企業のサステナビリティ情報開示の促進と透明性・信頼性の確保を目的として、2025年3月5日に確定版の「サステナビリティ開示基準」を公表しました。
ISSBが策定する国際的サステナビリティ開示基準(IFRS)との整合性を担保しつつ、既存の諸法律・会計基準と齟齬がないようにするなど日本企業の実態に合うように調整されています。
したがって、SSBJが作成するサステナビリティ開示基準は基本的にISSBが作成するIFRSを、国際的な整合性を保ちつつ日本企業に合わせるものであり、IFRSの開示基準が、SSBJが作成する日本基準に直結することになるのです。
さらに、日本のサステナビリティに対する考え方をIFRSに反映し、サステナビリティ基準開発における日本の存在感および影響力の向上を図ることで、日本市場のプレゼンス向上もめざしています。
SSBJ基準は基本的にISSB基準(国際基準)をベースに作られているため内容はほぼ同じですが、日本の法律や商習慣に合わせて調整されています。
例えば、温室効果ガスの排出量算定において、日本国内の法律に基づいた算定を認めるなど、日本企業が取り組みやすいように一部の選択肢が用意されています。
ISSBが策定した「IFRS S1号(全般的要求事項)」と「IFRS S2号(気候関連開示)」で構成されており、構造や要求される開示項目は、ISSB基準と共通です。
そのため一部のSSBJ基準独自の取り扱いを選択しなければ、ISSB基準に準拠できることになります。グローバルな投資家に対して「ISSB基準への準拠」は一定のメッセージになるといえるでしょう。
企業の報告実務への影響
1. SSBJ基準の開示先
ISSBでは開示先の詳細な規定はありませんが、日本ではSSBJ基準に基づく開示を有価証券報告書のなかに含める方向で2026年2月20日に企業内容等の開示に関する内閣府令(開示府令)の改正が公表されました。
サステナビリティ情報を財務情報と同時に、かつ同じ厳格さで開示することを要求するもので、時価総額ごとに設定された義務化へのスケジュールも設定されています。
これまでのサステナビリティレポートなど自由な形式ではなく、法的な責任を伴う公式文書の一部として記載することになるため、情報の正確性や信頼性の担保がより一層重要になります。
2. 対応への課題
SSBJ基準対応における最大の課題の一つが、信頼できるデータの収集・管理です。特にバリューチェーン全体での連携が必要なScope3排出量や、これまで定量化が難しかったリスク・機会の財務的影響など、新たなデータ収集・分析が求められるため、財務とサステナビリティ双方に精通した人材が必要となります。
また、既存の情報開示との整理も大きな課題です。SSBJ基準の導入は有価証券報告書において法定開示が求められ、その正確性・網羅性・比較可能性が担保される必要がありますが、同時に欧州発のCSRDや評価機関への対応も継続する必要があり、目的の一つでもあった、企業の開示業務の負荷軽減は現実的には難しい状況です。
SSBJ基準において企業が取るべき対応とは?
SSBJ基準への対応には、まず社内のデータ収集体制や意思決定プロセスそのものを見直す必要があります。対応に向けて、企業が準備し、進めていくべきポイントは以下となります。
1. すでに開示している非財務情報との整合性を確認する
これまでさまざまなガイドライン、評価機関への対応を通してサステナビリティ情報を収集し、開示してきた企業については、SSBJ基準の要求に対応できる情報が多くあるはずです。基準に照らして対応するデータ、計算方法などを変更すべきデータ、改めて収集すべきデータなどを確認し、やるべきことを整理。効率的な情報開示の準備を整えます。
ただし、ガイドラインなどの項目の詳細や読み解きには難解な部分も多いため、専門機関への協力の依頼や、汎用のシステムの利用など人材のリソースと合わせて最適な運用を検討する必要があります。
2. マテリアリティを特定し評価する
SSBJ基準においてもマテリアリティ(重要テーマ)は必須の課題です。
これまでも多くの企業が、サステナビリティ推進を目的としてGRIなどにより、環境や社会へ企業が与える影響をマテリアリティとして特定していますが、SSBJ基準で求められるマテリアリティは「財務に影響の強い」項目に限られ “サステナビリティ関連財務開示の文脈において、それを省略したり、誤表示したり、不明瞭にしたりした場合に、財務報告書の主要な利用者の意思決定に影響を与えると合理的に見込み得る情報”とされています。
財務影響という視点から、選定における経営陣での議論は本来必須となるテーマです。まずは、既存のマテリアリティ分析がSSBJ基準の視点(財務的影響)と合致しているか、再確認し、SSBJ基準に対応するマテリアリティの特定を進める必要があります。
3. Scope3を含むデータを収集する
新たなデータ収集にはプロセスの構築が必要であり、もっとも手間と時間を要しますが、特に気候基準で求められるScope3(サプライチェーン排出量)は、自社だけでなく取引先からのデータ収集が必要になるため、難易度が高くなります。
算定ロジックの構築、データ収集システムの導入、取引先への協力依頼など、膨大な作業が必要となります。
最初の年次報告期間においてはScope3の開示が免除になっていますが、義務化直前になって慌てないよう、算定方法の理解を進め、排出量の算定範囲を広げ、データの精度を高める準備が重要です。
4. サステナビリティガバナンス体制を構築する
SSBJ基準では、サステナビリティに関するリスクや機会を経営陣がどのように管理・監督しているかという「ガバナンス体制」の開示が求められます。
取締役会での議論の頻度や、サステナビリティ委員会と経営会議の連携など、実際の組織体制が問われるので、社内規定の整備や会議体の見直しを進め、実績を積み上げておく必要があります。
また、SSBJ基準の影響は、直接的な開示義務を負う大企業だけでなく、バリューチェーン全体の取引先となる中堅・中小企業にも及びます。
大企業からの情報提供要請の増加や、金融機関によるサステナビリティ融資の広がりなどから、中堅・中小企業にとっても、自社のサステナビリティへの取り組み状況を把握し、対応を進めることが求められてきます。
SSBJ基準義務化のスケジュール
2026年2月20日の企業内容等の開示に関する内閣府令(開示府令)の改正により、もっとも早い企業では2027年3月期の有価証券報告書からSSBJ基準に基づいた開示が義務化されます。2026年度(2026年4月〜2027年3月)の活動実績の開示となります。対象となる企業は、義務化の前の年度からすでにデータの収集や管理体制を整えておく必要があるため、実質的な準備期間は非常に短いという状況です。
まずは「平均時価総額3兆円以上のプライム上場企業」から適用が開始され、その翌年の2028年3月期には「1兆円以上」の企業に適用され、2029年3月期には「5,000億円以上」へと対象が拡大していく見込みです。
今後の課題と展望
SSBJ基準への対応が必須となる以上、必要なのは、単なる「コスト」や「義務」として受け身で捉えるのではなく、自社の持続的な成長と企業価値向上につなげる「戦略的な機会」として位置付けることです。
サステナビリティの視点から、機会とリスクの両面において財務的インパクトを可視化することが目的なので、サステナビリティ・リスクを体系的に把握・評価し、経営戦略に統合することができれば、価値創造につなげていくことができるはずです。
今後財務報告と同等の法定開示となっていくことを考えれば、SSBJの目的と構造を正しく理解し対応することで、企業価値の向上と持続的な成長の実現につなげていくことが可能になるのです。
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