初めて年史・社史・記念誌づくりを担当する方に向けて、基礎知識や実務に役立つ情報をまとめた本連載。後編では、いよいよ具体的な社史制作のプロセスに踏み込みます。「制作期間はどれくらい?」「どんな体制をつくるべき?」「紙とWeb、どちらがいい?」など、新任担当者が抱える疑問を解消し、成功への道筋を示す実践的な内容をお届けします。
制作前に知っておくべき2つのこと
社史の企画・制作に取りかかる前に、以下の2点を押さえておきましょう。これらは、体制づくりやスケジューリングなど、社史プロジェクト全体の進行に大きく関わります。
(1)社史づくりは「長期プロジェクト」
社史の制作には、一般的に3〜5年が必要です。周年事業の一環として発行されることが多いため、早めに計画を立てることが重要です。刊行日からスケジュールを逆算し、余裕をもって準備を進めることが、成功の鍵となります。
(2)社史づくりは「共創プロジェクト」
社史は、社内の各部署やOB、取引先などの関係者、外部パートナーなど多くの関係者が関わり、それぞれの知見や経験を持ち寄りながら、ひとつの形にしていく「共創型」のプロジェクトです。「みんなで創る」という意識と役割分担が欠かせません。
成功の鍵を握る「編纂体制」のつくり方
社史プロジェクトの成功には、「チームワーク」が欠かせません。明確な役割分担と責任体制を確立した「編纂体制づくり」が、成功を大きく左右します。以下に、体制づくりの基本的な考え方やポイントをまとめました。
(1)社内体制を「意思決定」と「実務」で構成する
社史編纂の体制は、「編纂委員会」と「事務局」の2つで構成するのが基本です。
- ①編纂委員会…経営層や部門長クラスで構成される「意思決定機関」です。社史の基本方針や全体像、予算といった重要事項を決定し、プロジェクト全体の方向性を定めます。
- ②事務局…実務を担う「ワーキングチーム」です。社内の調整、資料収集、原稿確認、外部との連携、進行管理、予算管理など、多岐にわたる業務を担当します。一般的には、広報・総務・人事・経営企画部門などが中心となります。
(2)事務局メンバーは「調整力」と「収集力」が必要
事務局のメンバーには、特に社内の「調整力」と、資料・記録・証言などを集める「情報収集力」が求められます。専門的な編集や執筆作業は外部のプロに任せる方が効率的ですが(後述)、社内の歴史に精通し、関係部署との連携を円滑に進められるキーパーソンが不可欠です。
(参考)事務局の編成例
事務局メンバーは、以下のようなチーム構成が推奨されます。
- ●発行責任者(経営層または広報部門の管理職など)
- ●プロジェクトマネージャー(実務の統括)
- ●原稿・資料担当(情報収集・整理)
- ●関係部署との連絡担当
- ●外部協力スタッフ/協力会社…編集者・ライター・デザイナー・カメラマンなど

プロジェクトの背骨となる「企画骨子」の設計
社史制作を始めるにあたり、最も重要なのが「企画骨子」の設計です。プロジェクトの「背骨」となり、制作途中の「羅針盤」にもなります。
「5W1H」で固める基本方針
企画骨子を固める際は、「5W1H」を明確にすることが肝心です。
- ●WHY:何のために残すのか…社史制作の目的を明確化します。前編で解説した「理念・精神の継承」「企業情報の資産化」「共感の創出」といった目的をもとにします。
- ●WHO:誰に届けるのか…社員、OB、株主、得意先・取引先、地域社会、未来の自社など、コアターゲットを設定します。
- ●WHAT:何を残すのか…企業理念、沿革、製品・サービス、人物、証言、各種数値など、社史に盛り込むべき具体的な内容をリストアップします。
- ●WHEN:いつ発行するのか…周年記念事業のタイミングなど、具体的な発行予定時期を定めます。
- ●WHERE:どのメディアで発信するか…紙媒体、デジタル媒体、あるいはその併用か。目的やターゲットに応じて、それぞれの役割を分けることが重要です。併用する場合は、相乗効果を高めるための戦略も必要です
- ●HOW:どのように編集するか・どう読ませるか…例えば、以下のような方向性が考えられます。目的やコアターゲットによって大きく変わります。
- ①「歴史的資料」として、事実の記載に徹する
- ②ストーリー性などを重視し、「読み物」としての価値を高める
- ③グラフィックを重視して「見せる」ことに重点を置く
- ④歴史という視点から見た「会社案内」としてまとめる
- ⑤祝祭的な演出を強め、「周年/アニバーサリー」というコンセプトで全体を構成する
- ⑥社内の結束力を強めるために「社員参加型プロジェクト」にする
紙とデジタルの、使い分けと連携
近年は、紙媒体とデジタル媒体を併用するケースが増えています。それぞれの特性を理解し、目的やターゲットに応じて使い分けることが重要です。
紙媒体にQRコードを掲載したり、デジタルコンテンツをDVDに格納して紙媒体に付属させるなど、両媒体を連携させることで、より多面的な情報発信が可能になります。

「スケジュール」は、逆算が基本
スケジュールは、発行日からの逆算が基本です。「長期プロジェクト」であることを念頭に置き、各工程に十分な期間を確保しましょう。
制作工程の「10ステップ」
一般的な書籍・冊子の社史制作の工程は、以下の10ステップで構成されます。
- ①基本方針の決定…目的・ターゲット・掲載内容・刊行時期の大枠を整理し、社内で合意形成を図ります。
- ②資料収集…社内外の文書・記録・写真など、必要な素材を集めて分類します。
- ③素年表作成…時系列で出来事や変化を整理し、全体像を把握します。
- ④仮目次作成…章立てや展開順など、テーマの組み方を検討します。
- ⑤原稿作成…執筆/取材/寄稿/社内確認などを行います。
- ⑥写真・図版の選定と整理…視覚素材を選び、掲載する場所・レイアウト方針を固めます。
- ⑦デザイン・レイアウト制作…本文と視覚素材を組み合わせて誌面を組み立てます。
- ⑧製版・色校正…印刷の校正紙で色調などの確認を行います。
- ⑨印刷・製本…すべての校正確認が終わったら製造の工程へ進みます。
- ⑩発行…配布計画をつくり、関係各所に届けます。
遅延を防ぐための注意点
編集段階(資料収集〜原稿作成〜確認)では、進行の遅延や見直しが発生しやすいため注意が必要です。特に、以下の原因による遅延がよく発生します。
- ●資料が見つからない、出てこない、まとまっていない
- ●原稿が遅れる、内容の質や深度、粒度がばらつく
- ●社内確認に時間がかかる
- ●写真や図版が不足、または差し替えが発生
- ●人事異動などの影響(メンバーが途中で離任)
これらのリスクを事前に想定し、余裕のあるスケジュールを組むとともに、外部パートナーとの連携を密にすることが重要です。
心強い味方「外部パートナー」の選び方
社史制作は、社内だけで完結するには負担が大きく、専門知識やノウハウが必要です。したがって、プロの力を借りることもまた、成功の鍵となります。
どのようなパートナーを選ぶべきか
外部制作会社を選ぶ際は、以下の3つのポイントを重視しましょう。
①社史という特殊なコンテンツを扱う経験
社史制作には、一般的な書籍制作とは異なる専門知識とノウハウが必要です。社史制作実績がどれくらいあるかを確認しましょう。また制作に必要な機密情報を安全に管理できる会社であるかの確認も必要です。
②社内事情への理解力
企業の歴史や文化、複雑な社内組織を深く理解し、事務局やその他関係者間の調整を円滑に進められるコミュニケーション能力があるかを見極めましょう。
③進行・品質の設計力
長期にわたるプロジェクトを計画通りに進め、高い品質の成果物を生み出すために欠かせない「進行設計力」や「品質管理力」が十分か確認しましょう。
共同印刷による、企画初期からの「伴走型支援」
社内体制の設計と合わせて、適切な外部パートナーと初期段階から協力関係を築いておくことが、社史プロジェクトを計画的かつ円滑に進める上で、特に重要です。
共同印刷では、長年にわたる社史・周年事業の支援実績を生かし、多くの企業・団体で企画構成段階から制作に関与しています。企画骨子策定のサポートや構成案づくりといった初期フェーズから、お客さまと並走しながら進める「伴走型支援」が特徴です。総合印刷会社ならではの幅広い知見と提案力で、お客さまの社史制作をトータルにサポートしています。

まとめ:社史は「未来への架け橋」
社史制作は、単なる記録作業ではありません。過去を紐解くことで企業のDNAを再認識し、未来への架け橋となる、非常に意義深いプロジェクトです。その成功を確実なものにするには、媒体選びや内容はもちろんのこと、「支える体制」と「進め方」をしっかり固めておくことが重要です。
共同印刷は、長年の経験と多様なメディア対応力で、貴社の社史制作を強力にサポートします。なんでもお気軽にご相談ください。
HintClipでは今後も、社史制作の実務に役立つさまざまな情報を発信していく予定です。ぜひ定期的にチェックしてください。
※本記事では「社史制作」を社史の企画・編集・発行までを含む広義の意味で用い、「編纂」はその中の編集・資料整理・原稿作成の工程を指す場合に限定的に使用しています。
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