私は広報部門長だった期間中に、自社の120周年事業の実務的統括責任者を務めた経験があります。また、広報部門に配属される前は企画制作部門に在籍し、お客さまに周年事業やCIなどの企画提案やディレクションをしていました。つまり「お客さまの立場」と「企画制作会社の立場」の両方を経験しています。
今回は、事業の準備から事業計画書を完成させるまでの心構えと実務のポイントを、担当者の視点から、「戦略編」と「戦術編」に分けて解説します。また本稿とは別に、詳細な実務の考え方や手順をまとめたハンドブックを用意しました。ぜひダウンロードしてください。
HintClip 編集長 杉山 毅
戦略立案で押さえるべき「7つのポイント」
下図は、周年事業計画の前半部分となる「戦略立案業務フロー」です。前編では、このフロー図の流れに沿って、戦略立案で押さえるべき「7つのポイント」を説明します。
[ポイント1]「トップの想い」は戦略の土台
周年事業の企画は、トップの想いを聞くことから始まります。自社の歴史、現状の課題、未来へのビジョンなどを改めてヒアリングしましょう。特に重視したいターゲット(ステークホルダー)の確認も忘れずに。戦略立案における重要な要素になります。
また、トップ以外の役員の意見も聞き取ります。全社・全グループを巻き込み、事業を円滑に実行するためには、重要なステップです。役員会議での承認や、各役員の協力を得やすくなります。
[ポイント2]「社員の声」で満足度を上げる
周年事業では、どの会社も必ず加えるべき目的があります。それは、「社員の会社へのエンゲージメント」。できるだけ多くの社員を巻き込んで参加・満足してもらうには、アンケートなどの調査や、実行までのプロセスの情報共有が必要です。
[ポイント3]「過去の資料」に学び、未来に残す
過去の周年事業の資料は、運営体制やコンセプト、挨拶文、施策、スケジュール、予算など、戦略立案の参考となる重要な情報の宝庫です。
また、あなたが企画段階で作成した資料や実行段階の記録、終了後の振り返り資料などは、10年後、20年後の周年事業の際に、後輩たちが使うことになります。引き継ぐことを常に意識し、わかりやすいかたちで資料をまとめておきましょう。
[ポイント4]「運営体制」で推進力が決まる
どのような会社の事業も組織の良し悪しで結果が決まる側面がありますが、周年事業は全社・全グループで、2年から3年という長い時間をかけて進行するため、通常の社内プロジェクト以上に運営体制の質が問われます。特に「運営事務局」は、営業企画、人事・総務、広報など全社・全グループに情報面で精通し、かつ発信力の高い部門を中心に体制を構築しましょう。
一方、「周年事業委員会」は、全社・全グループの情報の収集と共有を円滑に行うために、管理部門だけではなく、開発、製造、営業など幅広い部門から委員を選んでください。
[ポイント5]「協力会社」の選定は早めに
周年事業は10年ごとに実施されるケースが一般的であるため、在職中に2回以上担当することはほとんどありません。したがって、社内で周年専任担当者を育成するよりも、周年事業に精通した社外の協力会社を活用するほうが効率的です。これには、二つの大きな利点があります。
①調査結果からコンセプトや方向性を導き出す際に不可欠な、論理的な技術が得られる
②さまざまな施策の企画や実施計画作成の際に、彼らの専門知識や経験を活用できる
協力会社は、調査・分析段階から事務局メンバーに協力会社を加えられるよう、早めに選定しましょう。
[ポイント6]「目的×ターゲット」でブレない方向性を
目的が明確になると、ターゲットも定まります。調査の結果によっては、ターゲットの優先順位に基づき目的を絞り込みましょう。周年事業においては、目的もターゲットも「一つだけ」にすることはできませんが、複数の目的やターゲットをすべて対等に扱うのも非現実的です。優先順位とバランスを配慮しながら方向性を定めます。
■一般的な目的の例
- ・周年への感謝を伝える
- ・経営理念やビジョンの発信
- ・事業の活性化
- ・市場機会の創出
- ・社会的共感の拡大
- ・社員の理念共有
- ・モチベーション向上
■一般的なターゲットの例
- ・社員
- ・お客さま
- ・お取引先
- ・株主・投資家
- ・地域・社会
[ポイント7]「コンセプト」は分かりやすく
目的の方向性が定まったら、社内外に周年事業の理念を伝えるための「言語化」を行いましょう。文字数を絞り込み、分かりやすい言葉を使うのがポイントです。
コンセプトは視覚化して図表にしておくと、理解しやすく記憶にも残りやすくなります。
また、コンセプトは広告などのクリエイティブプランや、名刺などに載せるメッセージなどの開発の際にも重要なキーとなります。
[まとめ]事業計画は「戦略」が7割
周年事業計画の戦略は、調査分析から目的とターゲットの策定、コンセプトの策定までの流れです。戦略がしっかりまとまれば、事業計画は、登山に例えるなら7合目まで登った状態。つまずくことなく頂上まで登り切るには、事務局メンバーなどとのチームワークが大切です。体制構築にも十分に配慮してください。
後編は、施策の計画のポイントを具体的に説明します。
周年事業計画立案のために、詳細な実務の考え方や手順をまとめたハンドブックを用意しました。事業を推進する中心メンバーと共有して、事業計画書づくりにお役立てください。
共同印刷株式会社
トータルソリューションオフィス ディレクター
杉山 毅
1982年共同印刷株式会社入社。商業印刷部門の企画営業を経て、1987年よりセールスプロモーション部門でクライアントの事業戦略・マーケティング戦略のプランニングから、広告・広報・販促の各種ツール・メディアのクリエイティブ・ディレクションを担当。2008年からコーポレートコミュニケーション部門にて広報、IR・総会、CSRなどを部長として担当。2017年の自社の創立120周年では、CIとコーポレートブランド構築を含む周年事業の全体を統括管理。2020年から4月から現職。
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