年史や社史、記念誌の制作は、企業や団体にとって大変重要なプロジェクト。しかし数年から数十年に一度しか発行されないという性質上、ノウハウが社内に蓄積されにくく、「何をどう進めればよいのか分からない」と戸惑うケースが少なくありません。
そこで本稿では、初めて年史・社史づくりを担当する方に向けて、基本的な進め方や必要な体制など、実務に役立つ情報を前後編で解説します。
前編では、社史とは何か、そしてその目的・効果・仕様の考え方について、簡潔に整理しました。
社史編纂とは、企業の「歴史を編む」こと
社史編纂とは、企業がこれまでに歩んできた道のり、重要な意思決定の積み重ね、そして変化と成長の軌跡などを、書籍やデジタルコンテンツなどに集約する仕事です。単なる過去の記録ではなく、企業の未来に生かすためのリソースをつくるという、大きな意義のある仕事です。
年史? 社史? 記念誌? 呼び方の違い
前の段落では「社史」という言葉を使いましたが、ほかに「年史」「記念誌」といった呼び方も存在します。これらに明確な定義や業界基準があるわけではありませんが、一般的には以下のように区別されます。
年史
組合や業界団体といった各種団体や学校など、企業以外の歴史をまとめたものです。
社史
企業の歴史をまとめたもので、創業から現在までの沿革を記録します。理念や経営、組織の変遷なども網羅します。
記念誌
周年イベントの模様や社員の声を中心とした内容の冊子。あるいは、長寿ブランド商品の歴史をまとめた冊子など。写真や寄稿が多く掲載される傾向があります。
本記事では、これらを総称して「社史」として扱います。

社史制作における3つの目的
社史制作には、大きく分けて3つの目的があります。
(1)理念・精神の継承
企業の創業精神や理念、培われてきた文化を社員に伝え、共有することで、組織の一員としての誇りや帰属意識などの「内面の軸」を育みます
(2)記録とアーカイブによる企業情報の資産化
企業の活動記録やノウハウを体系的に整理し、知的資産として未来に引き継ぎます。これは、社員教育や事業戦略の立案など、多様な企業活動に活用可能な「ナレッジ」として機能します。
(3)企業の歴史の“物語化”による共感の創出
企業の歴史を単なる事実の羅列ではなく、困難を乗り越え、成長を遂げてきた「物語」として語り継ぐことで、社員のエンゲージメントを高めます。また、そのターゲットを社外へ広げることで、巷間における信頼の獲得や親近感の醸成につなげます。
期待される2つの効果

社史の発行は、さまざまな効果を期待できます。
(1)インナーブランディング
組織の一体感醸成、自社理解の促進、後進が事業を推進するための気づきやモチベーションの向上、周年記念事業における社内の雰囲気づくりに貢献します。
- ①採用活動への活用…企業の歴史や文化を伝えることで、採用候補者への訴求力を高めます。
- ②社員教育・研修での活用…新入社員教育や管理職研修などで、企業のDNAを学ぶための教材として活用できます。
(2)アウターブランディング
企業の社会的信頼性を高め、企業価値を可視化する強力な広報ツールとなります。
- ①IR・広報ツールでの活用…企業の歴史や文化、理念を伝えることで、投資家やメディアに対し、自社の本質的な価値や、歴史を根拠とした将来性の高さ、信頼性などをアピールできます。
- ②産業史、企業史としての学術的価値の創出…特定の産業や地域経済の発展のなかで自社が果たした役割や影響を明らかにすることで、学術研究などに貢献します。
発行時期 〜いつ発行すべきか
社史制作は、一般的には「周年」を機に、記念事業の一環として創立記念日の当日やその前後に発行されることが多い傾向にあります。
しかし企業によっては、周年式典の開催に合わせて記念品やWebサイト、映像ツールなどは制作しますが、社史については周年式典の内容を掲載するために半年〜1年遅れて発行するというケースもあります。
社史の発行時期は、周年事業全体を俯瞰し、「最も効果的なタイミングで情報発信する」という戦略的な判断で計画してください。
社史の形式と媒体
社史の形式や媒体に決まったものはなく、デジタル化により多様化する傾向にあります。目的に応じて最適な媒体を選択することが重要です。近年は複数のメディアで発行するケースが増えています。
(1)紙媒体
- ①上製本(ハードカバー)…厚く堅い表紙で本文を包み込む製本方法。耐久性が高く、高級感もあり、歴史の重みを演出しやすい。
- ②並製本(ソフトカバー)…表紙に厚紙や塗工紙などの柔らかい素材を用い、本文と直接接着剤で固める製本方法。装丁の自由度が高く、親近感を抱かせやすい。近年は主流となっている。
- ③冊子(小冊子・パンフレット)…手軽に手に取れるため親近感がある、大量配布向き。
(2)デジタル媒体
- ①Webサイト・デジタルコンテンツ…検索性や拡張性に優れており、音声や動画も掲載できるため、外部発信に最適。
共同印刷が伴走した社史制作事例
共同印刷は長年にわたり、お客さまの年史・社史・記念誌の編纂を支援してきました。ここでは、当社がサポートした事例を3件、ご紹介します。
食品メーカーA社さま「100年史」
周年式典の会場で配布するため、表紙の見栄えからクオリティを重視した内容に仕上げました。掲載画像は、式典で上映するスライドコンテンツに二次利用されました。
NPO団体Bさま「30年史」
初めての本格的な年史編纂だったため、企画構成段階から共同印刷がサポート。特に校正・校閲の質の高さが高く評価されました。
素材メーカーC社さま「110年史」
100年史に引き続き、共同印刷が制作を担当。長年の協業により培われた深い企業理解が、質の高い社史制作につながりました。
前編まとめ:自社にベストな形式を!
社史制作に「正解」はありません。大切なのは、自社の目的、ターゲット(誰に届けたいか)、予算、そしてどのように活用したいかを、明確に見極めることです。これらを総合的に考慮した上で、最適な形式や媒体を選定することが、成功への第一歩となります。
次回の【後編】では、社史制作の具体的な手順や、社内体制のつくり方、紙媒体とデジタル媒体それぞれの選び方や併用のコツなど、より実践的な内容をご紹介します。
私たちがお役に立てること
次代につなげる社史・年史制作
多種多様な制作実績によるノウハウを生かし、強力なスタッフ体制で、貴社に最適な提案を行います!
詳細はこちら
関連資料
-
-
周年事業計画立案ハンドブック
資料をダウンロード

