連載企画「プロモーション法務入門」、第2回のテーマは「どのように伝えるか」の根幹に関わる「表示」です。景表法の「表示規制」のほか、不正競争防止法や薬機法などにも注意する必要があります。今回は、これらの規制の概要をご紹介します。販促物や広告などを作成する際は参考にしてください。

※本コンテンツは、2023年4月現在の情報をもとに、当編集部が独自の観点からまとめたものです。
※当社は本稿に関して一切の法的責任を負いません。記載内容については必ず貴社や取引先などの法務部門や顧問弁護士などにご確認ください。

(1)景表法における「表示規制」

景表法(不当景品類及び不当表示防止法(昭和37年法律134号))では、第1回で取り上げた不当な景品類の提供だけでなく、不当表示も規制しています。不当表示とは、事業者が商品・サービスの品質や価格などについて、実際のものより著しく優良あるいは有利であると誤認される表示のことをいいます。不当表示があったと認められた場合、消費者庁などの景表法当局から措置命令や課徴金納付命令などの措置がとられます。
景表法上、以下の3つの表示が規制されています。

① 優良誤認表示(景表法5条1号)

商品・サービスの品質、規格、その他の内容について、実際のものよりも著しく優良であると示す表示、および事実に反して競争事業者のものよりも著しく優良であると示す表示をいいます。合理的な根拠を有さずに「No.1」「日本一」と表示する場合や効能効果を標榜する場合などが該当します。原材料に含まれていない食材の写真やイラストをパッケージに掲載するなど、文字以外の表示も対象になります。

② 有利誤認表示(景表法5条2号)

商品・サービスの価格その他の取引条件について実際のものよりも取引の相手方に著しく有利であると消費者に誤認される表示、および商品・サービスの価格その他の取引条件について競争事業者のものよりも取引の相手方に著しく有利であると消費者に誤認される表示をいいます。例えば、「期間限定価格」と表示してお得であるかのように表示しているのにもかかわらず実際には通常の価格と同じだった場合や、「他店より安く販売」と表示しているのに他店の販売価格と同額以上だった場合などが該当します。取引条件には、商品の数量やサービスの利用期限、アフターサービスの内容・期間、金利手数料の有無なども対象になります。

③ 商品等の内容、取引条件以外の事項に係る不当表示(指定告示)(景表法5条3号)

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①②以外にも、内閣総理大臣が指定する不当表示があります。経済社会状況の変化の中で、優良誤認表示や有利誤認表示でカバーできない問題のある表示が出てきた場合に迅速に対処するため、不当表示の内容を内閣総理大臣が指定できるとされています。現在、景表法5条3号に基づいて不当表示と指定されているものは、以下の7つです。

  • ・無果汁の清涼飲料水等についての表示(昭和48年公取委告示第4号)
    例えば、無果汁のドリンクのパッケージにりんごの絵を表示した場合には、「無果汁」など原材料に果汁などが使用されていないことをわかりやすく記載しないと不当表示になります。
  • ・商品の原産国に関する不当な表示(昭和48年公取委告示第34号)
    例えば、過去には、イギリスの国旗および「イギリス」の文言がチラシに掲載されていたのにもかかわらず、おもちゃの原産国は中国であったことが不当表示であると判断されたものがあります。
  • ・消費者信用の融資費用に関する不当な表示(昭和55年公取委告示第13号)
  • ・不動産のおとり広告に関する表示 (昭和55年公取委告示第14号)
    例えば、賃貸住宅情報サイトに物件を掲載し、当該物件を賃借することができるかのように表示していたのにもかかわらず、実際には、当該物件が情報サイトへの掲載開始以前にすでに他の人に賃借されていた場合には、不当表示となります。
  • ・おとり広告に関する表示(平成5年公取委告示第17号)
    例えば、過去に問題となった事例としては、大手寿司フランチャイズチェーンが、キャンペーン対象商品が早々に品切れしたにもかかわらず、テレビCMを継続したことが「おとり広告」に当たると判断されたものがあります。
  • ・有料老人ホームに関する不当な表示(平成16年公取委告示第3号)
  • ・一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示(令和5年内閣府告示第19号)
    一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示については、「(4)ステルスマーケティングの規制」で内容を紹介します。

(2)不正競争防止法(平成5年法律47号)

不正競争防止法は、事業間の公正な競争を確保するための法律です。不正競争防止法では、事業者間の公正な競争を阻害する行為を「不正競争」として類型化しています。不正競争を行った場合、相手方は民事上の措置として、差止請求、損害賠償請求などをすることが可能となり、また、刑事処罰の対象となる場合もあります。以下の4類型は、販促・広告における表示と特に関係が深いため注意が必要です。

①周知な商品等表示の混同惹起(不正競争防止法2条1項1号)

他人の商品・営業の表示(商品等表示)として需要者の間に広く認識されているものと同一または類似の表示を使用し、その他人の商品・営業と混同を生じさせる行為をいいます。例えば、大阪の有名かに料理屋の名物「動くかに看板」と類似した「かに看板」を使用した場合が、これに該当します。

②著名な商品等表示の冒用(不正競争防止法2条1項2号)

他人の商品・営業の表示(商品等表示)として著名なものを、自己の商品・営業の表示として使用する行為をいいます。例えば、過去に、三菱グループに属さない信販会社が、三菱の名称と三菱標章(スリーダイヤのマーク)を使用したことが問題となった事例があります。

③誤認惹起行為(不正競争防止法2条1項20号)

商品やサービス、その広告などについて、その原産地、品質、内容、製造方法、用途、数量について誤認させるような表示をするなどの行為をいいます。例えば、過去に、豚肉を混ぜたひき肉を牛ミンチとのみ表示して出荷したことが問題となった事例があります。

④信用毀損行為(不正競争防止法2条1項21号)

競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、または流布する行為をいいます。例えば、ライバル会社の商品について、事実と異なる内容を記載して自社の商品の長所を説明する場合が、これに該当します。

(3)特定の業種・業界に対する法律やルール

特定の業界を対象に、表示規制等が定められている場合があります。ここでは、数ある法令による表示規制の中で、薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和35年法律145号))、健康増進法(平成14年法律103号)による表示規制の概要を簡単に紹介します。また、業界団体が公正競争規約として自主規制を行っている場合もあります。

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①薬機法

薬機法は、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器、再生医療等製品を対象とした法律です。これらの対象物について、品質、有効性、安全性の確保のため、製造や販売などに関するルールを定めています。薬機法に違反した場合、各種の行政処分、課徴金納付命令、刑事罰を受ける可能性があります。
薬機法の広告規制は、以下の3つがあります。

  • ・虚偽または誇大広告の禁止(薬機法66条)
    医薬品などの名称、製造方法、効能、効果、性能について、虚偽または誇大な広告を禁止しています。「何人も」規制なので、誰もが規制対象となります。厚生労働省から「医薬品等適正広告基準」と「医薬品等適正広告基準の解説及び留意事項等」が通知されているので、目を通しておくとよいでしょう。例えば、特定の医薬品に関し、「服用すれば必ずダイエット可能」との表示は、「必ず」効能・効果が生じることはあり得ないため、虚偽広告または誇大広告に当たります。
  • ・特定疾病用の医薬品・再生医療等製品の広告制限(薬機法67条)
    がん、肉腫および白血病の医薬品の医療関係者以外の一般人を対象とする広告を制限しています。
  • ・承認前の医薬品や医療機器・再生医療等製品の広告禁止(薬機法68条)
    承認・認証を受けていない医薬品などについて、名称、製造方法、効能、効果、性能に関する広告を禁止しています。「何人も」規制なので、誰もが規制対象となります。

    例えば、健康食品にもかかわらず「高血圧の改善」「脂肪の吸収をおだやかにします」などの医薬品的な効能効果を表示・広告すると、薬機法68条に違反するおそれがあります。ただし、健康食品の中でも、特定保険用食品(トクホ)、機能性表示食品、栄養機能食品については、エビデンスをもって定められた機能性を表示できます。

②健康増進法

健康増進法は、国民の健康を増進するための基本的方針や各種ルールを定め、国民保健の向上を図ることを目的とした法律です。食品の広告に関する以下の5項目について、虚偽または誇大表示が規制されています(健康増進法65条)。「何人も」規制なので、誰もが規制対象となります。

  • ・健康の保持増進の効果
    例)「疲労回復」「血圧が高めの方に適する」
  • ・含有する食品または成分の量
    例)「大豆が〇〇g含まれている」「カルシウム〇〇mg配合」
  • ・特定の食品または成分を含有する旨
    例)「プロポリス含有」「〇〇抽出エキスを使用」
  • ・熱量
    例)「カロリーオフ」「エネルギー○○kcal」
  • ・人の身体を美化し、魅力を増し、容ぼうを変え、または皮膚もしくは毛髪を健やかに保つことに資する効果
    例)「皮膚にうるおいを与えます」

なお、あくまで虚偽または誇大表示を行うことが禁止されるのであり、例に記載の表示そのものが禁止されるわけではありません。虚偽誇大表示規制に違反した場合、勧告、行政処分を受けることがあり、命ぜられた行政処分に違反すると刑事罰の対象になります。

③公正競争規約(景品表示法31条に基づく協定または規約)

公正競争規約とは、公正取引委員会および消費者庁長官の認定を受けて、事業者または事業者団体が表示または景品類に関する事項について自主的に設定する業界のルールです。一般に、規約が新設される際に同時に設立された公正取引協議会によって運用されています。
公正競争規約が設定されている業種は、一般社団法人全国公正取引協議会連合会のホームページ(https://www.jfftc.org/)で確認できます。

(参考)公正競争規約を設定している業種・業界の例

  • ・自動車等:一般社団法人自動車公正取引協議会
  • ・酒類:日本酒造組合中央会、日本蒸留酒酒造組合、ビール酒造組合、日本洋酒酒造組合、日本ワイナリー協会、日本洋酒輸入協会、全国小売酒販組合中央会
  • ・金融:全国銀行公正取引協議会

(4)ステルスマーケティングの規制

2023年3月、広告であるにもかかわらず広告であることを隠す行為(いわゆるステルスマーケティング)が、景表法5条3号の規定に基づき、不当表示に指定されました。施行開始は10月1日からです。施行後は、消費者に広告かどうかを明示するために「広告」「宣伝」「PR」などの表示が必要となり、広告であるか不明瞭な場合は不当表示と見なされます。インターネットを含むすべての媒体が規制の対象です。通販サイトなどで対価と引き換えに第三者が高評価を付ける「やらせレビュー」も規制対象になります。

まとめ:膨大な量の「表示規制」に対応するために

不当表示など表示規制に関連する法律等は非常に数が多いため、「把握しきれない」と感じるかもしれません。しかし、これらを守ることはマーケティング活動における基本中の基本です。内容をしっかり把握し専門家と相談した上で、貴社の「自主ルール」や「チェックシート」をつくっておくと、違反等を防ぎやすくなります。なお、ルールづくりの際は法改正や新しい広告手法などに対応する必要があるため、ご注意ください。

▶本文:HintClip編集部
▶監修:池田・染谷法律事務所 弁護士 染谷隆明/弁護士 李明媛
https://www.ikedasomeya.com/

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