社会状況が大きく変化している現在、販促の現場は、次々と登場する新たなマーケティング理論を試したり、DX(デジタルトランスフォーメーション)を取り入れたり…と、常に進化し続けています。こうしたなかで、つい忘れがちなのが「基本」です。当社のマーケティングプランナーである多田知生は、「激変し続ける今こそ、基本に立ち返った販促企画が必要」と主張しています。そこで今回は、多田が長年の経験から独自に構築した販促理論の「基本」、そして「極意」をご紹介します。ぜひ参考にしてください。
■販促企画の基本は「売り方」と「見せ方」
私は販促企画を立案する上で、二つの「どのように」を大切にしています。
一つは「どのように商品・サービスを売るか」ということ。つまり「売り方」、マーケティング的には「販売戦略・販促戦略」です。
もう一つは「どのように、ターゲットに商品・サービスの優位性を伝えるか」。これは「見せ方」、つまり「店頭施策」や「店頭演出」のことを指します。さまざまなメディアを使った情報発信による「コミュニケーション施策」とも言えるでしょう。
ここで大切なのは、売り方は戦略のことであり、見せ方は戦術=施策だということ。まず考えるべきは全体的な戦略であり、次に戦略の具体的なアクションとして戦術を考える——これが自然で論理的な流れです。
ところが販促企画の現場では、売り方よりも先に見せ方を考えてしまうことが少なくありません。当社でも、クライアント企業から店頭施策や店頭演出のプランの提案を求められる際に、売り方の説明を十分に受けられないことがあります。しかし、売り方をしっかり理解せずに、見せ方のアイデアを考え始めることはしません。「販促施策の企画がうまく立てられない」「いい見せ方ができない」といった企画立案上の壁にぶつかるのは、多くの場合、“売り方の理解”が十分にできていないことに原因があるからです。
図1 販促企画の基本
■「トレース」の重要性と企画立案の流れ
こうした状況を回避するために私が必ず行っているのが、個人的に「トレース」と呼んでいる作業です。
「トレース」の説明をする前に、販促企画の流れを少し整理しましょう。最初に行うのが、販促戦略の構築です。一般的には、対象となる商品・サービスの特徴や開発時のコンセプトなどを確認してからマーケティング目標を立て、その後マーケティング分析を行います。そこで得たさまざまなデータから商品・サービスの優位性や課題などを抽出した上で、販促戦略を立案します(図2)。
これらは、主にメーカーやリテール(流通)のマーケティング担当者が行う仕事です。販促戦略を構築できたら、具体的な販促戦術を作成します(図3)。施策全体の基本方針を立て、個々の施策を立案し、具体的なプランに落とし込みます。この作業は多くの場合、メーカーやリテールなどのクライアント企業からの依頼を受けて、当社のような販促を得意とする企画制作会社が担当します。
それでは「トレース」について説明しましょう。ご存知の通り、日本語に直訳すると「たどる・なぞる」という意味です。ここでは、クライアント企業が立案した販促戦略をたどり直すこと、具体的にはその戦略内容の検証作業を指します。トレースの目的は、販売戦略をより深く理解すること。売り方をしっかり把握した上で見せ方(店頭施策・店頭演出などの戦術)を立案するよう心がけています。こうすれば、見せ方を担当する企画制作会社はクライアント企業により近い視点から企画提案することが可能になり、先に挙げた壁にぶつかることも避けられます。
図2 販促戦略(売り方)立案の流れ
図3 販促戦術(見せ方)立案の流れ
*ペルソナとは、サービスや商品を購入・利用する典型的な顧客像のこと。年齢、性別、地域、職業、ライフスタイル、価値観などのパーソナリティを詳細に設定して、架空の顧客像を作りあげます。
■販促企画の「7つの手法」
具体的な店頭施策や店頭演出にはさまざまな手法が存在しますが、基本的には以下の7カテゴリーに集約できます。手法をカテゴリーごとに体系的に提案することで、クライアント企業にとっても全体像を把握しやすい企画提案となります。
1. プロダクト&サービス・オリエンテッド・プロモーション
商品・サービスの機能や特徴の理解を促進し、接触機会を創出するための施策です。商品やそのラインアップを、販促のために改めて開発することもあります。
1-1:動機付け
商品・サービスの注目度を高めたり、機能や特徴を強く訴求したりすることで、購買の動機付けを行います。
- ①スペシャルプログラム…既存商品の品質を高めた「プレミアム版」や、キャラクターをあしらった「コラボパッケージ」「限定パッケージ」などを開発。
- ②セットアップ・スペシャルアソート販売…季節需要などをフックにしたセット販売。例えば、人気のパスタ麺に同一ブランドのパスタソースを組み合わせて「クリスマスセット」として販売することで、パスタ麺の購買者にパスタソースの接触機会を創出します。
- ③スペシャル販売(流通・形式)…スーパーなどの実店舗で販売していた商品を、通販やコンビニなどの他のチャネルで販売する手法。
- ④アンテナショップ…新商品の認知度アップや接触機会創出、購入動向の調査などを目的にした直営店舗の設置・運営。
1-2:試用体験
試供品や試食・試飲などを通じて商品・サービスの体験機会を提供することで、購買を促進します。配布形態や配布プログラム(配布方法、ルート、スペース、コスト)のプランニングが必要です。
- ①ドライ・サンプリング…試供品の配布。
- ②テイスティング、ウェット・サンプリング…試食・試飲。
- ③モニタリング…商品を実際に使用していただき、感想や使用感を調査。
- ④セーラブル・サンプリング…おためし価格での販売。
2. プライス・オリエンテッド・プロモーション
価格を操作することで、購買や利用を促進します。
- ①クーポン・プロモーション…割引券の配布。
- ②キャッシュバック…購入金額の一部を、購買者に払い戻す。
- ③おためし価格・サイズ…トライアル購入を促進するお得な価格や大きさ。
- ④増量パック…価格は変えずに、量を増やして販売。
- ⑤スペシャルパック…お得なまとめ買いパッケージの開発。
3. チャネル・オリエンテッド・プロモーション
リテール(小売業者、リテイラー)やトレード(卸業者や小売業者)などの流通業者向けに、商品・サービスをより積極的に取り扱ってもらうための施策を行います。
展開スタイルは、①メーカー独自、②リテール独自、③メーカーとリテールの共同展開、④リテイラー・プロモーションの4種類があります。
「④リテイラー・プロモーション」とは、大型量販店などのリテイラーが主体となり、メーカーがサポートする展開のことです。最近、当社では「リテイラー・プロモーション」を提案する機会が増えています。メーカーが店頭で販促を行う目的が「自社の商品・サービスの選択率アップ」にあるのに対して、リテイラーは「来店者の増加と客単価の向上による、店舗全体の売上アップ」を重視します。特定のメーカーの商品・サービスだけの売り上げが増えても、リテイラーにはあまり意味がありません。重要なのは、商品カテゴリーや店舗全体の売り上げです。したがってメーカーは自社の商品・サービスのためだけでなく、売り場活性化のための施策を提案する必要があります。提案する施策の売り場全体や店舗全体への貢献度の高さが、提案採用の際のポイントです。
手法は、以下のものがあります。
3-1:トレード・プロモーション
リテールやトレードに、より積極的に自社の商品・サービスの販売支援に取り組んでいただくための施策です。
- ①セールスコンテスト
- ②セールストレーニング・セミナー
- ③流通向けプレミアム・プロモーション
- ④流通タイアップ・プロモーション
- ⑤スペシャル・プロダクト提供
- ⑥仕入れリベート(キックバック)、アローワンス(販売協賛金)
- ⑦セールスマニュアルなどのセールスバックアップ・ツール提供
- ⑧トレード情報提供…商品詳細情報、競合流通情報、トレンド情報など。
3-2:POP&ディスプレイ・プロモーション
売り場での商品訴求を行います。
- ①POPツール
- ②ディスプレイ
- ③展示装飾サイン
- ④特設ブース会場制作
4. メディア・オリエンテッド・プロモーション
マスメディア、SPメディア、Webサイト、SNS、アプリなどのメディアを使用するプロモーションです。最近は、以下のメディアに注目が集まっています。
- ①店舗チェーン…美容室やカラオケ店、飲食店などのチェーン店舗に、チラシやフリーペーパーなどを配布・設置。
- ② 各種SPメディア…チラシ、DM、リーフレット、フリーペーパー、Webサイト、SNS、アプリなど。
- ③ 各種のニッチメディア…レシート裏面広告、牛乳パック広告、書店ブックカバー広告、薬局内サイネージなど。
また、手法は以下のものがあります。
4-1 コンテスト・プロモーション
売り場の活性化や話題づくり、来店顧客との関係強化などが目的の施策です。
- ①クイズ、アンケート
- ②作品応募
- ③出場型イベント
4-2 イベント・プロモーション
店舗や売り場の活性化、来店促進、ブランディングなどが目的の施策です。
- ①文化・スポーツイベント
- ②地域振興・商店街イベント
- ③街頭・店頭イベント
- ④セミナー、シンポジウム
- ⑤展示会、プライベートショー
- ⑥地方博覧会、国際博覧会
5. ノンメディア・オリエンテッド・プロモーション
メディアに頼らずに、「プレミアム提供」や「カスタマーサービス」などにより新規購入・継続購入を促進する施策です。
5-1 プレミアム・プロモーション
直接的に購入を動機付けする施策です。
- ①オンパック、インパック、サイドパック、ニアパック…商品へのプレミアムやノベルティの封入、外付けなど
- ②クローズド懸賞
- ③オープン懸賞
- ④スピードくじ
- ⑤共同懸賞
- ⑥来店・来場・先着順提供プレミアム
5-2 カスタマーサービス・プロモーション
継続購入、クロスセル、アップセルなどを促進する施策です。
- ①顧客サービス制度…スタンプ、インセンティブなど。
- ②顧客組織化…友の会、カード会員制度など。
- ③情報サービス…情報誌、メルマガなど。
- ④顧客客紹介プロモーション(お友達紹介など)
- ⑤顧客囲い込みプロモーション…マイレージ・プログラムなど。
6. カンパニー・オリエンテッド・プロモーション
社外であるリテールやトレード、消費者に働きかけるのではなく、自社内の活動を中心とした施策です。
6-1 インナー・プロモーション
メーカーが自社の営業担当者などに対して行う施策。主な目的は、モチベーションアップやスキルアップです。
- ①成果達成プログラム…コンテスト、報奨制度など。
- ②活動強化サポート・プログラム…マニュアル、トレーニング、セミナーなど。
- ③各種イベント&コンベンション…表彰式、懇談会、招待旅行など。
6-2 ソーシャル・プロモーション
社会貢献を通じてコーポレートブランドや商品ブランドのイメージ向上を図り、消費者に「ファン」になってもらうための施策です。社員の会社に対する帰属意識や愛着などを高めるインナー・ブランディングの効果も期待できます。
- ①メセナ活動…文化支援
- ②フィランソロピー…社会貢献活動
- ③コーズ・リレーション・プログラム…社会還元型プロモーション(寄付)
- ④企業マルシェ…復興支援、地方創生など。
7. パブリック・リレーション(PR)
ニュースリリースや記者会見、イベントなどを通じて間接的にコミュニケーションを確立し、話題を拡散する施策です。
- ①ニュースリリース配信
- ②個別メディア取材
- ③記者会見・メディアツアー
- ④PRイベント
■7つの手法は「統合」で使う!
当社では、常にこれらの7つの手法を念頭に置いて、販促企画を立案しています。その際に必ず重視しているのが「統合アプローチ」です。
販売戦略に基づいて施策を展開しても、施策が単独では期待通りの効果が出ない場合があります。より大きな結果を出すには、複数の施策を効果的にミックスするIMC(Integrated Marketing Communication:マーケティング活動の統合化)の視点が不可欠です。
例えば、マーケティング目標が「商品の拡販」の場合は、クローズド懸賞のような消費者の購入促進を直接刺激する施策を中心にしつつ、POPやディスプレイ、商品パッケージなどを使った店頭での情報発信、さらに店外のメディアも活用した情報発信を組み合わせた統合的なプロモーション企画を提案しています。
図4 統合プロモーションの展開例
■販促企画の極意は「関係の円滑化」
販促企画は、メーカーからリテールやトレードへ、そして消費者・生活者というコミュニケーションの流れの上に成り立っているため、どこか一つでも断絶が生じてしまうと、コミュニケーションは滞り、施策はうまくいかなくなります。つまり販促企画の極意は、メーカー・リテール・消費者の関係を円滑にし、コミュニケーションのパイプを太くすることにあると言えます(図4)。例えば「チャネル・オリエンテッド・プロモーション」の場合、施策を最適化するには、メーカーの「売り方」だけでなく、リテールやトレードの、「売り方」に対する考え方や基本姿勢をしっかり理解するための調査や分析が特に重要になります。その店舗によく来店する消費者・生活者の傾向を把握することも、もちろん大切です。
言い換えると、以下の三つをマッチングさせて(トレンドなどの外部要因も加味した上で)統合的に展開することが関係の円滑化、そして販促企画の効果の最大化につながるのです。
- ①メーカー主導でできる施策
- ②生活者視点で考える施策
- ③リテール視点で考える施策
図5 メーカー/リテール/消費者の関係(食品メーカーの場合)
■まとめ:「トレース」すれば、「統合」を作りやすくなる!
どんな分野でも、“基本”や“極意”は意外にシンプルなもの。販促企画も同様です。私が重視している「トレース」の説明を読んで、オリエンテーションの重要性を再認識できた方は多いのではないでしょうか。
トレースと同様に、施策の「統合アプローチ」も大切です。コンペの際に採用されやすいのは、統合による全体像の作り込みが巧みな企画だと実感しています。どのように、消費者やリテールとのコミュニケーションの全体像を構築するかが、販促担当者の腕の見せ所。そしてそのためには、当社では企画制作会社として、改めてマーケティング分析から戦略立案までのトレースをすることで、クライアント企業とマーケティングの課題を正確に共有し、課題解決のための最適なご提案をすることに心がけています。
共同印刷株式会社
プロモーションメディア事業部 プランナー
多田 知生
大手製薬会社の商品開発担当から広告・販促会社に転職し、マーケティングプランナーとして多数の大手メーカーを担当。その後、大手広告代理店や大手スーパーマーケットなどでマーケティングプロモーションを担当。その後、マーケティングプロモーション会社を設立し、大手自動車メーカーや食品メーカー、スーパーマーケットなどのマーケティングディレクターとして活動。現在は豊富な実績と独自に構築・体系化したプロモーション手法を活かし、共同印刷でマーケティングプランナーとして活動中です。