デジタル技術によって販促や広告の手法が拡大し複雑化している昨今、マーケティング担当者が考慮すべきリスクも増大しています。例えば景品表示法では、誇大広告などの不当表示に対する罰則を強化する改正案が2023年2月に閣議決定されました。
法令違反は法的に処罰されるだけでなく、消費者からの信頼も失うことになりかねません。そこでHintClipでは、3回にわたり「プロモーション法務入門」を連載します。第1回のテーマは、景表法における「景品表示」です。リスク回避策の参考にしてください。

※本コンテンツは、2023年3月現在の情報をもとに、当編集部が独自の観点からまとめたものです。
※当社は本稿に関して一切の法的責任を負いません。記載内容については必ず貴社や取引先などの法務部門や顧問弁護士などにご確認ください。

■「景表法」は、不当な顧客誘引を防ぐための法律

「景品表示法」は「景表法」と略されることもありますが、正式名称は「不当景品類及び不当表示防止法(昭和37年法律134号)」。事業者が、不当な景品類の提供や不当な表示を行うことによる顧客誘引を防止し、消費者の利益を保護するための法律です。
景品表示法の内容は、大きく二つに分かれています。
一つ目は「表示規制」。事業者が商品・サービスの品質や価格などについて、実際のものより著しく優良あるいは有利であると誤認するような表示を行うことが禁止されています。これについては、本連載の第2回で詳しく解説します。
二つ目は、今回のテーマである「景品規制」。あまりに過大な景品類の提供は、商品・サービスの質ではなく景品類を目当てに購買するといった不当な顧客誘引になりうるため、この法律で規制されています。

■「景品類」の定義

景品表示法2条第3項において、「景品類」は以下のように定義されています。
規制の対象となる景品類とは、「①顧客を誘引するための手段として(顧客誘引性)、②事業者が自己の供給する商品又は役務の取引に付随して(取引付随性)、③相手方に提供する物品、金銭その他の経済上の利益(経済上の利益)であって、内閣総理大臣が指定するもの」をいいます。

  1. ①顧客を誘引するための手段として(顧客誘引性)
    提供者の主観的意図や企画の名目に関係なく、客観的に顧客誘引のための手段になっているかどうかによって判断します。また、全く新しい顧客を誘引するだけでなく、既存の取引相手を誘引する場合であっても、顧客誘引性が認められます。
  2. ②事業者が自己の供給する商品又は役務の取引に付随して(取引付随性)
    景品類が商品・サービスの購入を条件に提供される場合だけでなく、入店者に対し景品類が提供される場合なども該当します。
  3. ③取引の相手方に提供する物品、金銭、その他の経済上の利益(経済上の利益)
    経済上の利益とは、物品、土地、建物、金銭、金券、有価証券、映画・演劇・スポーツなどの催物への招待・優待、便益、労務など、通常、経済的対価を支払って取得すると認められるものを指します。

景品類と見なされないもの

「ハンバーグとサラダのセット」「玩具付き菓子」など、商品・サービスを二つ以上組み合わせて一つの商品・サービスとする場合、サラダや玩具は景品類とは見なされません。値引き、アフターサービスも景品類に該当しません。割引券やキャッシュバックについては、条件によっては景品類と見なされる場合があるので注意が必要です。

■「景品類」の分類について

景品表示法では、景品類の提供は以下の四つの方式に分類されます。

  1. (1)総付景品
    マーケティングの現場では、「ベタ付け」と呼ばれる手法です。懸賞によらず、「もれなく」「先着○○名様」といった方法で、ある一定の条件に当てはまるすべての顧客に景品類を提供する場合を指します。
  2. (2)一般懸賞
    抽選やじゃんけんなどの偶然性、競技・作品などの優劣、クイズなどへの回答の正誤などによって、当選者や景品類の価額を定める方法です。
  3. (3)共同懸賞
    商店街のイベントなど、一定の地域の小売業者、サービス業者などの複数の事業者が共同で実施する懸賞を指します。一般懸賞よりも景品限度額が高く設定されていますが、中元や年末などの時期において年3回を限度とし、かつ年間通算70日の期間内とするなどの条件があります。なお、オンラインでは活用できません。
  4. (4)オープン懸賞
    商品・サービスの購入や来店を条件とせず、誰でも懸賞に応募できる場合を指します。取引に付随していないため、景品類には該当せず、景品規制は適用されません。Twitterのフォロー&リツイートで100名様に抽選で景品をプレゼント、アンケートに回答してくれた方に抽選で景品をプレゼントといったキャンペーンはオープン懸賞に当たります。

■規制内容と判断方法(5つのチェック項目)

提供したい景品類が前述のどれに分類され、どんな景品規制を受けるかを判断する際に役立つフローチャートとチェック項目を用意しました。キャンペーン企画の際などに参考にしてください。【※下記フローチャートの「チェック①取引に付随する?」の前に、「①景品類(経済上の利益)に該当する?」を挿入し、チェック番号を修正してください。】【フローチャート内の「取引価額」と「取引金額」を「取引の価額」に修正してください。】

景品チャート_(1).jpg

  1. 〔チェック①〕景品類(経済上の利益)に該当する?
    最初に、事業者が提供しようとするものが「景品類」に該当するかを確認しましょう。値引き、アフターサービス、附属物は、基本的に取引の本来の内容をなすものであり、「景品類」に該当しません。
  2. 〔チェック②〕取引に付随する?
    商品・サービスの購入を条件に景品が提供される場合は、取引付随性が認められます。
    よく問題になるのが、「ご来店いただいた方に」という条件で景品を提供する場合です。リアル店舗の場合は、「ご来店いただいた方に」という条件は取引付随性があると判断されますが、オンライン上での懸賞企画では、無償の会員登録をすることを求めたとしても、ウェブサイトに訪れたことによって取引付随性があるとはされていません。ウェブサイトで商品・サービスを購入しなければ懸賞企画に応募できない場合には、取引付随性が認められます。
  3. 〔チェック③〕「もれなく/先着」か、「抽選」か?
    「購入した方全員に」「先着○○名様に」など、取引付随性が認められ、かつ景品提供の条件を満たした消費者にもれなく先着で景品類を提供する場合は、「総付景品」となります。しかし、先着であっても、「総付景品」にならない場合があるので注意が必要です。例えば、ウェブサイト上で商品・サービスの購入の申込順に商品・サービスを提供する場合、「○名」に達した時点で直ちに申し込みができなくなるようにしない限り、「○名+α」の申し込みを受け付けそのうち「○名」に景品類を提供することになります。この場合は、「先着」と示しているものの、偶然の事情によって景品類の提供の相手方が決定されるので、懸賞に該当します。
    一方、以下の方法によって景品類を提供する場合は「懸賞」と見なされます。
    ●くじなどの偶然性
    ●コンテストのような特定の行為の優劣やクイズの回答の正誤
  4. 〔チェック④〕商品・サービスの「取引の価額」はいくら?
    「取引の価額」によって提供できる景品類の最高額が算定されるため、キャンペーン(共同懸賞を除く)を企画する際は、「取引の価額」を設定する必要があります。
    具体的には、購入者を対象とし、購入額に応じて景品類を提供する場合、商品・サービスの販売価格(消費税込み)が「取引の価額」になります。ただし、以下の場合は注意が必要です。
    ●購入者を対象とするが、購入額の多少を問わずに景品類を提供する場合…100円またはその店舗で景品類提供の対象となる取引の価額のうち最低額
    ●来店者に景品類を提供する場合…100円またはその店舗で景品類の提供の対象となる取引の価額のうち最低額
  5. 〔チェック⑤〕「景品類の価額」はいくら?
    景品類と同じものが市販されている場合、消費税を含む販売価格が「景品類の価額」となります。調達原価や製造原価ではなく、消費者がそれを通常購入するときの価格になる点に注意しましょう。景品類が市販されていない場合は、景品類を提供する者の入手価格や類似品の市価等を考慮して、消費者がそれを通常購入するときの価格が「景品類の価額」になります。また、郵送費・梱包費は含まれません。
    「景品類の価額」が規定額を超えてしまう場合は、〔チェック④〕の「取引の価額」を見直すことで解決できる場合があります。
  6. 〔チェック⑥〕どれくらいの売上を見込んでいる?(「懸賞」の方法により景品類を提供する場合)
    景品総額は、売上予定総額によって決まります。具体的には、懸賞販売の実施期間中における対象商品・サービスの売上予定総額を指します。

■「知らなかった」「ついうっかり」は通用しない!

景品規制の判断基準は、具体的な金額など判断基準が明確になっている一方、オンライン化やOMOといった近年のマーケティング手法に対応できていない面があり、判断が難しくなっています。しかし、消費者庁などによる調査の結果、違反行為が認められ措置命令が出された場合、自社に対するダメージは計り知れません。
新しいキャンペーンのアイデアがある場合は、必ず法務部門や顧問弁護士などに相談し、景品規定を遵守できているか確認しましょう。

▶本文:HintClip編集部
▶監修:池田・染谷法律事務所 弁護士 染谷隆明/弁護士 李明媛

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