店頭販促のプロ集団である当社。最近は「新型コロナウイルスの影響で店頭販促はどのように変わりましたか?」という質問を受けることが多くなりました。これほど大きなインパクトのある出来事があれば、“売場は大きく変わったのでは?”と思うのは無理もありません。確かに営業時間の短縮や来店客数の減少という変化はありますが、“店舗に消費者が出向いて必要なモノを買う”という行動自体は変わっていません。よって、店頭における販促施策の必要性や役割は、根本的には変容していないのが事実です。

とはいえ、近年のデジタル技術の進化とともに、昨今の新型コロナによる人々の生活様式の多様化があり、消費者の購買行動に変化が生じていることは間違いありません。5年後、10年後には小売店の店頭で購入するという行動の目的やスタイルが現在とはガラリと変わっていると考えられます。

そこで今回は、共同印刷グループの株式会社コスモグラフィック SPメディア部のチーフディレクター 石井優が、これまでの店頭販促の経験と知識を踏まえ、今後店頭販促がどのように様変わりするのか、4つのキーワードから予測します。


[店頭販促を進化させる4つのキーワード]

  1. アフターコロナ 
    「ピンチはチャンス」「科学技術で衛生的環境を促進「デジタル技術で新たな価値創出」
  2. 環境負荷軽減 
    「SDGs」「POP=自然環境破壊?」「デジタルデバイス」
  3. DX (デジタルトランスフォーメーション)
    「Data×Digital」「パーソナライズ化」「双方向コミュニケーション」
  4. リテールテイメント
    「体験型消費行動」「ミレニアル世代」「ショールーミング」

①アフターコロナ

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「ピンチはチャンス」

コロナ禍により外出自粛要請が発出され、“店頭で現品を見て購入する”という当たり前の購買行動をためらうという、想像もしていなかった社会情勢となりました。小売店では、店頭で消費者を引き付ける販促活動を制限せざるを得ず、経営環境が悪化するケースも出てきました。しかし、この苦境を“新たな店頭施策を展開する好機”と前向きに捉え、発想を転換することが重要と考えます。

「科学技術で衛生的環境を促進」「デジタル技術で新たな価値創出」

現在、店頭では「動画を流すモニター」や「特定商品を売り場で際立させるLED照明」などの、科学技術を用いた付加価値のある販促ツールが一般的になってきています。イニシャルコストはかかりますが、ランニングコストを抑えられ、頻繁なPOPの入れ替えの手間を削減できます。また、環境にも配慮できる点が、ツール供給側であるメーカーの意向に合致し、普及を後押ししたと考えられます。

今後は、科学やデジタル技術を駆使した店頭施策がさらに推進していくと予測します。コロナ対策としては自らの手指を除菌するのではなく、手に触れるもの自体が抗菌・抗ウイルス効果のある素材や加工でつくられるなど、消費者に衛生面での不安を与えないツールが誕生し、気兼ねなく買い物が楽しめる環境が整備されるのも遠い未来ではないはずです。

また、先に挙げた動画や照明は“視覚”に訴えかけるツールとなりますが、対象領域を拡げて“五感”で体感できるツールの登場も期待できます。映画館では3Dを進化させた4DXが開発され、よりリアルな体験を味わえるようになりました。消費者がこれと同じことを日常的な購買行動で体験できれば、ECとは異なる価値を生み出し、店頭に行きたくなる新たな動機付けになっていくのではないでしょうか。

②環境負荷軽減

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「SDGs」

“SDGs”や“サスティナビリティ”というキーワードがここ数年で一般社会にも浸透してきました。もはや、環境負荷を軽減する取り組みを行っていなければ『悪』という印象を与えかねない社会風土になっています。地球温暖化からはじまり、海洋プラスチック問題など、環境保全への対応が企業価値を決める一要因になったといっても過言ではありません。

「POP=自然環境破壊?」

販促の分野でトピックスとなっているのがPOPの製造についてです。POPの製造において、主に使用される材料は紙・プラスチック・金属・木が挙げられます。POP自体は販売するものではなく、商品の売り上げアップに貢献するための助成物であり、一定の期間が過ぎれば廃棄することがあらかじめ分かっています。不適切な表現かもしれませんが、“廃棄するものをつくることで自然環境を破壊している”と言うこともできるのではないでしょうか。このことから店頭販促ツールは、より一層、環境に配慮したモノづくりを率先しなければいけない分野だといえます。

印刷物においては「FSC認証制度(※1)」や「SOY INK(ソイインキ)使用(※2)」が進んでおり、得意先から対応を求められるケースが頻繁にあります。直近では、不要となったPOPを回収してリサイクルする取り組みや、脱プラスチックの流れから“非プラスチック製パーツ”を製造する動きも加速しています。

これらはまだトライアル段階であり、小売店の負荷やコストパフォーマンスの面に課題があるため、まだ賛同企業が少ないのが現状です。浸透するには相応の時間がかかると予想されます。

結局のところ、“POPをつくらない”ことが環境負荷軽減に貢献する最善の策といえるかもしれません。しかし、競合ひしめく売り場において自社商品のプロモーションを行い、購入してもらうことが製造・販売メーカーの企業目的であることを踏まえれば、その選択肢はないといえるでしょう。

※1 FSC(森林管理協議会)による森林認証制度のこと。適正な管理を行っている森林を審査・認証し、その森林から切り出された木材などに認証マークを付与し、持続可能な森林の利活用・保護を図る制度。

※2従来の石油系溶剤を大豆油に置き換えることで、有機溶剤を大幅に削減し、環境を配慮したインキのこと。

「デジタルデバイス」

現時点で想像できる対応策としては「デジタルデバイスの有効活用」が挙げられます。一度店舗に設置すれば、小売店もしくはメーカーの本部が一元管理をして訴求内容の更新が可能です。新商品発売のタイミングに新たなコンテンツを配信するだけで、POPのリニューアルが完了します。アフターコロナだけでなく「省人化」つまり“人手を介さずに売場を変えられるオペレーションの実現”という観点からしても、今後、求められる取り組みといえます。

③DX (デジタルトランスフォーメーション)

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「Data×Digital」

近年、各組織で「DX(デジタルトランスフォーメーション)」が進められるなか、業種や分野を問わず“DXへの取り組みを強化しています!”とアピールすることが、企業の先進性の指標になっているようです。DXは、IoT・AIの拡大解釈のように思われているかもしれませんが、それとは異なります。2018年に経済産業省が公表した定義では「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」となっています。要するに、“データとデジタル技術を駆使して業務を変革し、社会生活をよりよいものにするための概念”であるといえます。

店頭販促の場においてDXを考える場合、「そもそも必要なPOPは何か?」といった根本から捉え、DXの要素を取り込む必要があります。新商品が出るたびに「POPを導入することが売り上げに直結する」という認識が正しいことなのかを見直すことも必要です。売り場における購買行動データと店舗POSデータなどから分析を加えて、“無駄のない販促物の導入”を検討し、供給するメーカー側と店頭に設置する小売店側のコスト・労力を軽減することが求められてきます。その過程で製造物や輸送の削減につながり、先ほどの「②環境負荷軽減」にも効果をもたらします。

「パーソナライズ化」「双方向コミュニケーション」

もう1点、店頭販促とDXについてのトピックを挙げるとすれば、店舗での「パーソナライズ化」の実現があります。Webを閲覧していると、以前、自身が検索したことのある商品が画面に表示されていることに気付くことはありませんか? これは個人の嗜好にカスタマイズした広告であり、これもDX化の一例です。
リアル店舗においても同様のアプローチを行うことで、購入率向上につながるはずです。店頭にあるカメラが来店客の属性を認識して、「季節(催事)や気温・曜日」×「店舗のオススメ品や余剰品」といった複合的データを瞬時に処理し、来店客と店舗双方にメリットのある商品情報を目の前のデジタルサイネージで紹介するといった「パーソナライズ化」の実現とともに、来店客と店舗の「双方向コミュニケーション」の実現が待ち望まれます。

④リテールテイメント

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「体験型消費行動」「ミレニアル世代」「ショールーミング」

“目的の商品を購入するために小売店に出向く”というのは、これまで当たり前の行動でした。しかし、デジタル技術の進化により、わざわざ店に足を運ばなくても自分の都合が良いときに好きな場所で、スマホやパソコンからECサイトを閲覧・比較しながら商品を購入し、自宅で受け取る行動が日常的となっています。年配者からは特に“便利で贅沢な時代になった”と思われていることでしょう。

この波は、今後ますます押し寄せてくることが安易に想像できます。そのため、小売店で購入するケースは「緊急性があり、配達されるまで待てない」「新規購入となるため、まずは現品を見て確かめたい」「高額商品なので、写真や文字情報だけで購入するのは不安だから、一度現品を見ておきたい」など、シーンがより限定的となり、顧客離れが深刻化するかもしれません。

そこで生まれたのが、消費者が店舗に行きたくなるように仕向ける「リテールテイメント」です。これは「リテール=小売り」と「エンターテインメント=娯楽」を掛け合わせた言葉であり、実店舗でモノを買う以外の役割として、“そこでしかできない体験”という価値を提供し、来店や購入意欲の促進につなげる概念を指します。

消費動機として“体験”を求める20代半ば~30代後半の「ミレニアル世代」への対応として拡大してきており、日本でも認知度が高くなった「ショールーミング」と同様の新たなマーケティングトレンドとなります。ショールーミングとは、実店舗で商品を確認や試着をしてから、ECサイトで購入するスタイルで、ネット割引や商品を持ち帰る手間がないメリットがあります。

今後は「近くにあって便利で、安い。だからその店舗で購入する」のではなく「ワクワクする体験ができる。役に立ちそうな体験ができる。だからその店舗にわざわざ足を運んで購入する」という購買行動が一般的になり、そのような機会提供に積極的に取り組む小売店が支持される時代が到来するのではないでしょうか。

●まとめ

今後の店頭販促に深く関わると思われる4つのキーワード、①アフターコロナ、②環境負荷軽減、③DX、④リテールテイメントについて解説してきました。この4つのトレンドが複合的に取り入れられることで、“新たな店頭販促”が作り上げられていくと予測できます。

これからも、ECでの購入率は高まると思われますが、消費者の“リアルな店舗で買い物を楽しみたい”という気持ちは変わることはありません。このことからも、企業にとってリアル店舗は“ブランドメッセージを伝達する場”、“購買動向を把握する場”としての位置付けとなり、リアル店舗における店頭販促はさらに重要度を増していくと予想します。

ぜひ、“4つのキーワードのトレンド”を複合的に取り入れて、新しい時代の波に乗り、より効果的な店頭販促に力を入れていきましょう。

kakui-portrait-small.jpg共同印刷グループ 株式会社コスモグラフィック
SPメディア部 店頭メディア第一課長
石井 優

アパレル関連の企画営業、芸能プロダクションでコンサートグッズのコーディネイター、SPプロダクションで制作ディレクターなどの多様な職務を経験して共同印刷に入社。入社後は一貫して店頭販促物(POP・什器)の企画・製造管理業務に従事。主にAV・理美容家電案件を担当している。2020年よりグループ会社の株式会社コスモグラフィックへ所属部門が移管。現在は領域拡大を目指し、社内外との連携した取り組みを推進している。プロモ―ショナル・マーケター。

私たちがお役に立てること売り上げに直結する店頭販促サービスこれまでの店頭販促のノウハウに加え、「累積店舗データベース420万件」と「28万人の人材ネットワーク」からお客さまの課題に合った店頭販促・店舗運営サービスを提供。詳細はこちら

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