小売業が抱える課題の一つに、レジ待ちの長い列や重い買い物袋といった小さなストレスの積み重ねによる顧客離れがあります。特に子どもが小さい場合などは、店舗よりオンラインショッピングがより快適であることは想像に難くありません。その一方で、色やサイズが思っていたものと違う、実物を見てみないと購入に踏み切れないといった意見は、オンラインショッピングの限界の表れでもあると言えます。このような消費者のジレンマを解消すべく、2018年10月にアメリカで登場した「GH Lab」。アメリカの有名女性誌「Good Housekeeping」と「Amazon」がコラボ、商品の認知・体験・購入・配送までをシームレスに繋げることに成功した「ポップアップ店舗」です。今回は、この「GH Lab」 から見えてくる新しい顧客購入体験について迫ります。

有名女性誌「Good Housekeeping」の店舗がショッピングセンターに出現

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出展:Good Housekeeping

「GH Lab」は、ミネソタ州ミネアポリス近郊の北アメリカ最大のショッピングセンター「モールオブアメリカ」内にあリます。この店舗は、アメリカのクリスマス商戦に合わせて、10月頭から12月末までの期間限定で設置されるポップアップストアです。GH LabのGHは、1885年に創刊された女性誌「Good Housekeeping(グッド・ハウスキーピング)」の頭文字で、この店舗が話題となった理由の一つに商品の広告媒体としての雑誌社が、そのブランド力を活かし商品販売を手がけるようになったことがあります。

さらに、ユニークなのは販売商品がGood Housekeepingの持つ研究所「GHI(Good House Institute)」で『最高評価』をつけたもののみとなっていること。GHIは、科学者やエンジニアなどの専門家が消費者目線から市販の電化製品・家具・日用品をチェックする研究所で、この審査に通った商品は『GHI認定商品』として下記写真のような認定マークと共に雑誌に紹介されています。 GH Labは、この研究所が40以上のブランドから厳選した最先端の家電、家具・日用品を体験できる店舗として大きな注目を集めました。

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出展:Good Housekeeping

『最高のものを一つだけ!』とした実店舗の「ショールーム化」で顧客を誘導

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出典:Mall of America

そしてGH Labのもう一つの特徴として、商品のラインナップとその見せ方があります。店舗はショールームのようになっており、買い物客は自分の家にいるような感覚でスマート家電やデバイスを中心に、最新の電化製品や家具を試せます。大型の商品以外にもおもちゃやベッドシーツ、化粧品、料理本など、100種類以上の商品が並んでいます。通常の店舗と異なる一番の点は、各カテゴリーにおいて『GHIの最高評価を獲得した商品1点』のみしか販売されていないことです。

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出典:Mall of America

例えばベッドを買う場合、複数メーカーを比較できる家具店に行ったりしますが、GH LabではGHIが最も優れていると評価したベット1種類のみの展示です。複数の種類を見てから決めたい消費者もいるかもしれませんが、逆に選択肢が多すぎ精神的負担となることも事実。そのような時に、「信頼できる誰か」に選んでもらいたいと思うこともあるのではないでしょうか?

オンラインショッピングで「他人のレビューを見て購入を決める行動」は、その誰かをレビューに求めているとも言えます。しかし高評価のレビューでも、実際にその商品を試せないので、不安や購入に踏み切れない場合もあります。GH Labでは、『最高評価のレビュー』がつく100種類もの商品を一つの店舗で知ることができるだけではなく、試すこともできます。また、専門知識に精通する白衣姿の販売員を配置するなど、購入者の商品に対する迷いや疑問をその場で解消、「この商品は間違いない」という商品への『信頼性の獲得』を重視していることがわかります。

購入はオンラインベースで行う「カスタマージャーニー」の一元化

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商品を選んだ後の購入手続きにおいて、この店内には商品在庫はなくレジや配送手配のサービスセンターもなく、購入に必要なのはAmazonのアプリです。このアプリのカメラ機能で各商品に付くSmileCode(上部Amazon版QRコード)を読み取ることで、購入と配送の手続きが2~3回のクリックで終了します。

ここでは、最先端の商品が並ぶおしゃれな店舗で買い物をする高揚感はそのままに、レジに並んだり買い物袋を持つ必要がなく、スピーディでより快適な購入体験が作り出されています。Internet Retaileの調査によれば、Amazonを利用する人のうち、スマートフォン経由でアプリを利用する人が42%、残りの58%がブラウザー利用者です。ところが、それぞれの利用時間に関しては、アプリ利用者がブラウザー利用者の5倍以上も長くなっています。このような傾向を見ると、アプリでの買い物環境を整えることは、小売店にとってますます重要になると言われています。店舗で商品を認知して体験、その場でアプリによる購入から後日自宅に商品配送されるという、GH Labが作り上げたこの新しい「カスタマージャーニー」の形は、将来の顧客購入体験を大きく変えるのではないかと、現在注目されています。

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出典:Mall of America

まとめ

今回は、有名女性誌とAmazonが提携することで実現した実験店舗「GH Lab」についてお伝えしました。リアル店舗が持つ魅力とオンラインショッピングの利便性の両方を活かしたこのポップアップストアは、オンラインショッピングの普及により低迷する小売業界の起爆剤になるのではないかとの期待も高まっています。

一方で、Amazonが好評価のレビューを獲得した商品を扱った店舗を出すなど、商品そのものではなく、商品の広告媒体や配送経路を持つことが小売業にとって有利になることも、今回の事例から垣間見えてきます。GH Labのような店舗の出現は、顧客購入体験のみではなく、在庫管理や決済処理がない新しい小売業のあり方も示唆していると言えるかもしれません。

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