動きが激しい業界の一つと言える美容関連ビジネス。「Cowen’s Consumer Tracker」の調査によると、約70%の消費者が何らかの形で毎月美容関連商品を購入しています。米国における主要な美容関連小売りの大手は「Amazon」、「Sephora(セフォラ)」、そして「Ulta(ウルタ)」の3社。その中で、特にUltaは消費者からの支持率が高まっています。なぜ、競争の激しい業界で幅広い年代の消費者支持を伸ばしているのでしょうか。実は、「Ulta」ではあらゆる価格帯と幅広いニーズをカバーした品揃え、新規顧客を増加させる会員プログラム、カスタマイズされたモバイルアプリなど、カスタマーエクスペリエンス」を充実させていることが一因です。今回、この「Ulta」が行うサービスを紹介し、成功の秘訣を探りたいと思います。

美容関連商品を牛耳る大手企業に成長した「Ulta」

「Ulta」はコスメに限らず、メイクやスキンケア、ネイル、香水、ヘアケア用品など美容関連の商品を取り扱う大手企業で全米に1,213店舗(2019年8月時点)を展開。さらに2018年10月以降は消費者からの支持率が高まり、AmazonとSephora(セフォラ)を凌駕する勢いです。

Ultaは、2018年第4四半期の売上高は9.7%(2017年度第53週を除くと16.2%)、さらに同四半期の売上高では9.4%成長、2018年の純売上高は14.1%増の67億ドルでした。 2017年度の第53週の売上高1億880万ドルを除けば、純売上高が16.3%上昇という結果です。

競合の一つであるSephoraとは店舗数での大差はなく、売上やその伸び率もUltaが優位です。そしてAmazonは、ヘルスケアや美容関連製品の2018年の売上高が、2017年比で37.9%増の160億ドルに達したと見積もるものの、3社を比較するとUltaが抜きん出ています。

要望を的確に捉え「顧客満足度」をあげた販売戦略

そんなUltaの戦略を知る前に、まず、アメリカのコスメ事情を理解する必要があります。Ulta登場以前のコスメ購入と言えば、ドラッグストアのようなところでの「セルフ販売」か、もしくはデパートのような「対面接客販売」のみでした。日本のようなドラッグストアでの接客やテスターはなく、陳列商品の購入だけです。そのため、アメリカで購入前に試したい場合はデパートへ行くのが通例だったのです。そこへ登場したUltaがこの常識を覆し、セルフと対面接客を組み合わせた販売法を始めました。

それに加え、ドラッグストアで取り扱うリーズナブルなコスメと、従来デパートでしか取り扱いがなかった『デパコス』と呼ばれるコスメ両方を取り扱い、しかも、どちらも試せる革新的なものでした。セルフのような手軽さと自由なテスティング、そして必要があれば、美容部員がカウンセリングと「タッチアップ(=実際の商品を使いメイクし、使用感や色を見られるサービス)」してくれます。

Ulta発足当時はデパートブランドとの提携も少なかったので、リーズナブルなものやマイナーブランド系ばかりでしたが、店舗の雰囲気や接客レベルの高さが評価され、現在は多くの『デパコス』も取り扱っています。CNBCによると、Ultaは3~100ドル以上の価格帯で500以上のブランドを扱っているです。これはSephoraの2倍近くになります。

自社の強みを生かし「商品バラエティー」と「利便性」でリピートを追求した実店舗

また、実店舗における他の戦略として店の奥に「ヘアサロン」を併設、コスメ購入客以外にヘアサロンの客の取り込みも行っています。ヘアケア商品はもちろん、ドライヤーなどの関連商品も豊富に揃えており、例えば、ドライヤーはすべての商品の風圧や使用感を試すことができます。そして、多くの年齢・客層を囲い込むべく、価格帯・取い扱いブランドも幅広く強化。女性たちが定期的に足を運ぶ場所でもあるヘアサロンを起点としながら「商品バラエティー」と「利便性」でリピートを促す仕組みを作りました

他社と差別化した「ローカライズ」立地戦略

オンライン販売を行う小売業のほとんどが実店舗を持たないか、規模を縮小させていく中、逆にUltaは実店舗を続々とオープン。そしてその成功の秘密の一つにこの店舗立地があります。Sephonaが都心部のショッピングモール内の立地に対し、Ultaは90%以上が郊外の「ストリップモール(=建物自体はつながっているが、店舗の出入り口がそれぞれ独立した店舗)」にあります。一見、集客には不向きのようですが、顧客にはわざわざ都市部やデパートへ行かないで「自宅近くで気軽」に「デパコス」を買える「利便性」が高く評価されています。最近ではダウンタウンの都市部へも出店、郊外と都市の2立地展開もはかっています。

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会員プログラムの「スペシャライズ」で顧客満足度を高める

Ultaのリワードプログラムには現在、3,180万人のアクティブメンバーがいます。過去1年間で14.4%の成長を遂げています。Ultaクレジットカードでは通常、購入時に$1=1ポイント付与されますが、新規会員は2ポイント、もしくは期間限定でそれ以上のポイント特典を設け、新規獲得を増加させています。さらに、申込時のフリーギフトプレゼントや、チェックアウト時によりスムーズに買い物できるサービスなど、新規からそのまま固定客として誘導される仕組みになっています。

また、会員のみに新ブランドを先行紹介し、さらなる「スペシャライズ」強化に取り組んでいます。GenZ(ジェネレーションZ)に人気を集める『Morphe、Kylie、Revolution Beauty、Jeffrey Star』など、1150万人以上のフォロワーを持つインフルエンサーたちがプロデュースしたブランドを導入し、来客数と売上を伸ばす起爆剤としました。例えば、通常「Kylie」プロデュースのコスメはオンライン限定販売ですが、Ultaは2018年11月に実店舗で発売。店舗で直接手に取れることが功を奏し、第4四半期末までに、一部のKylieブランドコスメが在庫切れになるほど人気を集めました。

顧客取り込みと自社ブランドの拡散も狙った「オンライン戦略」

そして、近年では自社のオンライン販売にも力を入れ、オンラインとオフラインを巧みに使い分けています。2017年はオンライン売上が前年比40%の成長をとげました。さらにそれと併せ、Ultaサイトへの商品レビューを大量収集することにも成功。Amazonに劣らない「化粧品の口コミサイト」として、さらに自社の販売力とブランド力を底上げしました。

また、顧客サポートと購買欲を高めるためにより統合された「モバイルアプリ」も準備、アプリでクーポン・試供品配布、プレゼントを積極的に行いました。SimilarWebのレポートによれば、2018年のUltaへ来た60%がモバイルアプリの使用者と言われており、アプリで簡単にメイクができる疑似体験やヘアサロン予約の機能も併せ持つなど、単なるポイント管理アプリではない、便利さと「モバイル世代の獲得」に注力した特徴的なアプリ戦略を実現しています。

「顧客の要望」からオフラインに注視した戦略こそが成功のカギ

アメリカの女性たちも他国に劣らず、様々な美容情報をSNSやサイトで検索しています。しかし、最終的な購入には手に取り使用感を確かめたい人が多く、オンライン購入でも、事前にテスティングしてからの購入が少なくありません。Ultaは、まさにその「顧客の要望」を的確に捉え、購買を生み出す戦略で成功を果たしたのです。現在の小売の戦略とは逆を行く「実店舗」への注力や「接客」「テスター」「ヘアサロン併設」など、顧客の「カスタマーエクスペリエンス」を向上させることに注力し、他社と差別化したこの「価値の提供」こそが急成長の要因と言えるのではないでしょうか。

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まとめ

今後の小売業においては、購買に付随した「カスタマーエクスペリエンス」と他社との差別化をはかる「ブランディング」が不可欠です。単なる物販にはとどまらない実店舗の価値創造やインフルエンサーマーケティングなど、Ultaの戦略のような顧客獲得・売上向上につながる仕組み作りがますます必要とされるでしょう。

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