『Amazon』は2017年に高級スーパーの『Whole foods Market(ホールフーズ・マーケット)』を137億ドルで買収。この出来事は、食品リテール業界のターニングポイントになったと言われています。この買収により、競合他社は自社のデジタル戦略の見直しを迫られました。また、これを契機に食料品のオンライン購入や配達がさらに強まると予想されていました。このような業界の根本をゆるがすような変化を歓迎したのが、ノースカロライナ州に拠点を置くスーパーマーケットチェーン『Lowes Foods』。ここでは、顧客の店舗体験を高める仕掛けを矢継ぎ早に展開、ローカルを重点に新しい価値観を生み出しています。今回はこの『Lowes Foods』の施策を複数紹介、考察としてまとめていきたいと思います。

『Lowes Foods』とは?

『Lowes Foods』は、ノースカロライナ州ウィンストンセーラムに本拠を置く97店舗のスーパーマーケット。2013年、Tim Lowe氏がCEOとして就任して以来、『地元密着型』をキーワードに、より「パーソナライズ」させた顧客体験と施策を打ち出しました。ローカルだからこそできるユニークな製品やサービスを提供し、「顧客との強いつながり」を作ることを考えたのです。

現在の消費者ニーズは、買い物や店頭での受け取り方法や宅配にいたるまで多様です。その中で、オンライン注文による収穫前の地元農産物を予約購入する『Community Supported Agriculture』の一環、『カロライナの木箱』という農産物宅配サービスを展開、地元の200以上の農家を応援しつつ、地域社会での雇用創出や農産物輸送の燃料を減らすなど、ローカル事情を考慮した取り組みを推進しています。さらに、その取り組みから得た、よりパーソナルな好みを販売や営業に反映させており、Amazonが行うマスな手法とは逆の手法で成功を生んでいます。実際のそれらのサービスはどのようなものか見てみましょう。

「ローカルを徹底追求」した Lowes Foods独自のサービス

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1つ目は『The Carolina Crate(カロライナの木箱)』。このサービスは地元の契約農家から、毎週「生鮮食材」を「レシピ」とともに提供するサービスです。1箱につき2~4人分で、季節の旬な野菜を6~8種類、収穫から24時間以内に箱詰めしています。価格は$250(10週間+無料の1週間分)、または$125(5週間)で申し込めます。しかも、店に入らずピックアップでき、時間も手間もなく新鮮な食材を買えるため、健康志向の中高年世代のみならず、忙しい共働き世代にも人気があります。

2つ目に人気のオリジナルサービスとして、『CHICKEN KITCHEN』があります。アメリカ南部の定番である鶏肉料理である、ロサリーチキン・フライドチキン・バッファローチキン・ウィングスなど、通常は冷凍を揚げて販売するスーパーも多い中で冷凍を一切使用せず、鶏肉やパン粉まですべて地場産(NC=ノースカロライナ)でまかない各店舗で調理・販売をしています。

3つ目に『SAUSAGEWORKS』というソーセージの自社工場です。牛肉・豚肉・鶏肉・七面鳥の肉をベースに、定番から変わり種まで、専門店並みの50種類以上のフレイバーを取り揃えています。アメリカでは、家族や仲間が集まる休日以外も、平日に庭のBBQグリルでソーセージを焼き、ホットドッグを楽しみます。地元の酪農家から仕入れた鮮度抜群な肉を使用した上、しかも「無添加」となっています。

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4つ目は『BEEF SHOPPE』。これは地元の提携酪農家から仕入れる新鮮な牛を20の部位から好みでリクエスト、切り方も指定できるサービスです。普通のスーパーではなかなか実現するのは難しく、地元との連携がとれているからこそできるサービスといえるでしょう。しかも、生肉のプロフェッショナルにオススメ部位や、部位に合わせたシーズニング(調味料)、焼き方まで何でも相談できるのも普通のスーパーにはないサービスです。

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5つ目に、料理はきちんとしたいけど子育てや仕事に忙しい、そんな世代などに人気を得ているのが『PICK & PREP』です。調理の手間を省くためにカット野菜を利用する人も多いですが、これらはカットからパック、販売までの時間を考えると鮮度が落ちています。そんな問題を解決するのがPICK & PREPで、カットして欲しい野菜を選び、切り方をリクエストすると、買い物の間に下処理してくれます。切り方も、皮むきからさいの目切り、みじん切りなど8種類から選べ、料理に合わせて頼めるのです。

スーパーの「コミュニティー」が生み出す付加価値

Lowes Foods では、『COMMUNITY TABLE』という地域コミュニティのつながりを作り、より強くしようという取り組みを行っています。これは、地元シェフを招いた料理教室や地元の農家やワイナリー、中小企業が自慢の商品で試食会を行うなど、人々の交流を促すイベントです。季節に合わせて週に2回行われ、地元の交流場として以上に、ローカルのオリジナル商品を紹介・周知させるプロモーションの役割を果たし、顧客も店舗(地元)も一挙両得となる仕組みです。

THE BEER DEN』はスーパーの中に設けられたワイナリーで、IPAやスタウト、ESBなどのクラフトビールが個性豊かに揃えられています。試飲が可能で、気に入ったビールが見つかれば、64oz(1.8L)のオリジナルガラスボトルに出来立てを詰めてくれます。初回は$4.99のボトル代がかかりますが、次回からは繰り返し使用できエコ的な観点からも無駄がありません。そして、上述のcommunity tableでバーのように利用したり、ビールに合わせた料理教室が開かれることもあります。これらは一見、別々のサービスのように見えますが、どちらもコミュニティーを生みながら、プロモーションと店舗への来店促進や顧客獲得に大きな役割を果たしているのです。

『地元密着型』という名の「パーソナライズ」化

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Amazonの生鮮食品業界への進出によって「オンラインオーダー」・「ピックアップ」・「デリバリー」が一気に他のスーパーへ広がり顧客の選択肢を増やしました。その中で、Lowes Foodsは、その流れを追随しつつもWalmartや他の全米展開している大型スーパーとは異なった路線、つまり『地元密着型』に特化したサービスを展開し成功しています。大型店では難しい「小回り」を利かせた方法で差別化を図ったのです。

さらに、マーケティングでも徹底的にターゲットを絞る=ローカル路線、と以前のチラシやDMなどの広告をFacebookやInstagramなどのデジタル戦略によってその費用対効果をあげています。一般的な広告費に対する効果は、4:1または5:1の比率であると言われています。しかし、Lowes FoodsではSNS中心のアプローチで、支出1ドルにつき29ドル、つまり29:1の費用対効果をあげることに成功しました。アメリカでは中小規模であるLowes Foodはそれを逆手に、マスな打ち出しから顧客の耳に囁くような徹底した戦略で、「パーソナライズ」化を実現、そこから得られた情報をさらに顧客の要望やサービスに転換した好事例と言えます。現在、Amazonなどでもパーソナライズ化をはかるべく様々な施策が試行されていますが、オンラインとオフラインを巧みに使い分け、地域を巻き込みながら成長した「現代版御用聞き」と考えてもよいかもしれません。

まとめ

Lowes Foods 独自の商品のバラエティさや、かゆい所に手が届くような細やかなサービスは、大型店では難しいものばかりです。大型店舗に圧され次々と姿を消していく中小店舗にとって、このLowes Foods の手法は、小回りと現在の通信サービスなどの発展をうまく絡めて展開していく上で、ぜひ参考になるものではないでしょうか。

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