これまで『堅い』『地味』といったイメージを持たれがちだったBtoB企業の間で、既存イメージからの脱却を図る動きが活発になっています。
産業構造を下支えしているBtoB企業では、商品やサービス、またそのベースにある技術力こそが企業価値とされ、一般消費者向けのマーケティング活動はこれまでほとんど行われてきませんでした。
しかし近年、「フィジカルな営業ではモノが売れにくくなった」「人材が集まらない」といった問題と向き合う中で、社会に向けて自らの存在価値を発信する必要性を認識し、企業ブランディングに取り組むBtoB企業が増えています。
本稿では、こうした企業ブランディングの動向の一つとして注目されている「まんが・アニメの活用」について考察していきます。

BtoB企業の名作CMに採用されたアニメーション

広告史に残る企業CMは数々ありますが、大成建設株式会社の『地図に残る仕事。』もその代表例の一つです。同シリーズは、1991年12月の新聞広告に始まり、その後実写版テレビCMへと展開され、2011年以降はアニメCMとして親しまれている企業広告の名作です。初期のアニメ版を手掛けたのは、後にアニメーション映画『君の名は。』でその名を知らしめた新海誠監督でした。

ビッグプロジェクトに挑むゼネコン社員の姿を精巧なタッチで描き出した映像は、当時のアニメCMに対する既成概念を覆す圧巻のクオリティでした。思わず見入った人も少なくないと思います。私もその一人ですが、同時に「BtoB企業がここまでするようになったのか」という時代の変化を感じたことを思い出します。

そもそも『地図に残る仕事。』は何をめざして企画されたのでしょうか。『大成建設150年史』(2024年刊行)には、1990年代初頭の同社広報部の様子がこう綴られています。

当時、広報部は、単なる企業広告ではなく、「きつい・汚い・危険の3K」と敬遠されがちな業界全体への応援歌として、またわれわれの生きがいを語るPRができないかと広告のありかたを探っていた。(中略)広告が出ると全国から反響が来た。ライバル会社の家族からも共感と感謝の手紙が寄せられた。

出典:大成建設150年史
https://www.taisei.co.jp/corp/ayumi/150th.html

「企業ブランディング」という言葉こそ同書には見つかりませんが、これはまさに「企業ブランディング」です。

現在は、新海監督からバトンを引き継いだ徳野鉄雄監督、窪之内英策氏、丹治匠氏のスタッフ陣がその歴史を紡ぎ続けています。特筆すべきは35年という歴史を通じて当初のコンセプトが貫かれていること。徳野監督のチームで制作され2026年4月に公開されたテレビCM「挑戦」篇では、一人の若者を育んだ「場所」の数々が、アニメーションならではの迫力と繊細さを融合させる描写で表現され、『地図に残る仕事。』の新たな作品世界が立ち上がっています。

「挑戦」篇

近年、企業向け制作サービスなどでまんが・アニメ市場の間口が広がってきたのを背景に、『地図に残る仕事。』のような先駆例をベンチマークにした企業オリジナル作品が一つのトレンドになっています。しかし中には、作品の核となるメッセージが抜け落ちていて、単に「まんが・アニメを作ってみた」だけのケースも散見されます。

「何を語るのか」という明確な意思を持っていなければ、どんなクリエーターを起用しても、読者・視聴者を魅了する作品世界を描くことはできません。まんが・アニメを使って広告やオウンドコンテンツを制作するなら、この視点を大切にしなければいけません。

企業価値を言語化・視覚化する「まんが・アニメ × BtoB企業」

しかし『地図に残る仕事。』は稀有な例であって、従来BtoB企業の多くは、企業ブランディングやマーケティングにそこまで積極的ではありませんでした。企業努力を怠っていたわけではなく、最終製品を消費者に届けるBtoC企業とは異なり、消費者に対して企業価値をアピールする必要がなかったのです。それぞれの分野の共通言語で商品・サービス・技術が語られる、人対人のフィジカルな営業のほうがより業績に直結すると考えられてきたからです。

ところが近年は、地球環境問題や人口問題(少子高齢化や生産年齢人口減少など)といった山積する社会課題を背景に、BtoB企業に対する社会からの関心が高まり、多様なステークホルダーに向けた姿勢を示す必要が出てきました。「社会からどのように評価されているか」がBtoB企業間でも重要視されるようになってきているのです。

こうなってくると、これまでは企業間で分かり合えていればよかった「企業価値=商品・サービス・技術」の公式は通用しません。一般の人が企業を理解する上で必要なのは、「コアバリュー=商品・サービス・技術の根底にある価値観」だからです。ここでBtoB企業の課題になってくるのが「マーケティングの経験値不足」です。BtoC企業にはマーケティング活動を通じてこつこつ蓄えてきたコンテンツ資産が豊富にありますが、BtoB企業にはそうしたコンテンツが乏しいのが実情です。ではそんなBtoB企業に求められるコンテンツとはどのようなものでしょうか?

「日常で使う商品」を選ぶのと「これから長く付き合うかもしれない取引先」を選ぶのとでは明らかにレベルが違います。仕入れ先をWeb検索で探すのが当たり前になった昨今、候補企業が絞り込まれた時点で商品・サービスの比較検討はすでに完了しているだろうと考えると、そこから先で差別化ポイントになるのは「企業そのもの」です。ここでもやはり「自分たちは何者なのか」を語るコンテンツが不可欠になってきます。

さて、少し遠回りしましたが、『地図に残る仕事。』を思い出してみてください。現実とパラレルな作品世界を立ち上げて、どんなバックグラウンドを持つ企業なのか、人々の暮らしにどう関わっているのかなど、「表現することが難しい」と従来思われていたBtoB企業の企業価値を巧みに言語化・視覚化しています。

BtoB企業が注目!表現の壁を打ち破るビジュアライズ

まんが・アニメのようなビジュアルを活用しなければ実現できないコミュニケーションとは何か。ここをもう少し掘り下げてみましょう。

例えば、自分たちの強みである技術をアピールするとして、どういう技術かをそのまま言葉にしてもそれはただの「説明」になってしまいます。それはそれで必要な場面がもちろんあると思いますが、上述したように企業ブランディングの核になるのは「コアバリュー=商品・サービス・技術の根底にある価値観」です。

その技術が社会にどんな恩恵をもたらすのか。何をめざして開発しているのか。その核になっている「こうありたい」という理念やビジョンこそが「自分たちは何者なのか」です。しかし現実世界で形になっているのは、何かの原材料だったり、部品だったり、その分野の人にしかわからない機械だったりするわけです。理念やビジョンは、その現実の姿をそのまま映し出しても伝わりません。

まんが・アニメのメリットは、そういう意思や概念といった抽象的な物事を、読者・視聴者が「どういうこと?」と考えるよりも先に彼らの前に提示し、直感的に理解させる物語性にあります。デフォルメやメタファーなどが使える作品世界の中では、現実世界よりも表現の幅が格段に広がるからです。「現実とパラレルな世界」を立ち上げてブランドの世界観や精神を鮮明に表現できる一方で、「現実の延長上」にある過去や未来、例えば創業ストーリーや未来構想などを描き出すこともできます。

また、無形商材を扱うBtoC企業や、難解な制度や専門情報を一般向けに伝えたい場合などにも、まんが・アニメは有効だと思います。さまざまな活用シーンが考えられます。

あらゆるステークホルダーとつながるまんが・アニメ

まんが・アニメならではの「ターゲットを限定しない」という優位点について、最後に触れておきましょう。

企業ブランディングの必要性を認識し、「自分たちは何者なのか」を語り始めたBtoB企業。その企業ブランディングをもう一つ上の高みに引き上げるにはどうしたらよいでしょうか。

それは、ターゲットを限定せず、あらゆるステークホルダーに向けて企業価値を発信することです。顧客とだけコミュニケーションをとっていても企業価値は何も変わりません。企業としての存在意義を社会全体が認めてくれることで、企業価値は自然と底上げされていくのです。

言語や文化の壁を越えてグローバルな大衆文化となりつつあるまんが・アニメは、対象を限定することなく、多くの人にメッセージを届けることができるコンテンツです。企業ブランディングでは、ここも重要なポイントになってくるでしょう。

デジタルマーケティングに携わる中で、私自身も、より企業目線で「まんが・アニメにできること」を考える機会が増えてきました。共同印刷でも、まんが・アニメをコンテンツとして活用した情報発信のお手伝いが可能です。ぜひお気軽にご相談ください。

共同印刷株式会社

プロモーションメディア事業部 販促企画部 チーフプランナー

菅田 賢司

テレビ局ディレクター、インターネットポータル会社の企画営業・Webディレクターを経て、2012年に共同印刷へ入社。以後、10年以上共同印刷のデジタルマーケティングを推進している。Web広告の運用だけではなくWebサイトやアプリ、動画の制作などもディレクション。紙媒体をはじめとしたリアル媒体とデジタルを融合したトータルプランニングも得意としている。

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