企業の財務情報、非財務情報を合わせてレポーティングする「統合報告書」。発行企業が1200社を超え、IR領域のツールから企業コミュニケーションの基幹ツールとして、ますます拡がりを見せています。共同印刷では2021年に専門チームを立ち上げ、制作に携わっていますが、今回は、多くの企業の統合報告書の制作を支援しているコンサルタントの山内 由紀夫氏と共同印刷ディレクターの立石 健に、統合報告書の外部評価を受けるメリット、評価を高めるためのポイント、これからの統合報告書に求められることについて対談していただきました。

〈ファシリテーター〉HintClip編集長 杉山 毅

統合報告書の外部評価とは

立石:あらためて統合報告書の外部評価にはどのようなものが存在しますか?

山内:メディア、業界団体、投資家やアセットオーナーによる評価や、経営戦略、財務、ガバナンスなどに関する有識者による評価があります。海外にも、統合報告書を評価する団体がいくつかあります。

立石:近年は評価項目についてどのようなトレンドがありますか。

山内:外部環境の変化に対する適切な経営判断と柔軟な対応力は、経営や事業活動の底力を映す鏡です。例えば、ロシアのウクライナ侵攻やその他の紛争は、エネルギー価格の高騰、サプライチェーンの混乱、紛争に関連する国への経済制裁など、世界経済に多大な影響を及ぼしています。積極的な事業機会の追求に加え、これらのリスクに対して迅速かつ適切に対応できるリスク管理体制、ガバナンス体制が構築されているかという点に関心が寄せられていると感じます。

立石:リスクや機会が自社にどのような影響を及ぼす可能性があるのか、どのように対応しているかを明確に示すことが重要ですね。

外部評価を受けるメリット

立石:外部評価が企業にもたらす主なメリットは何でしょうか?

山内:外部評価を通じて、自社に対して投資家の理解が進んでいる点や、一方で自社の統合報告書に不足している、表現できていない部分を把握し、次年度に向けて改善を図ることができます。そして、コンサルティングファームや有識者との「対話」により、読者に伝えるべき本質がどこにあるかが明確になります。

立石:外部との「対話」が自社の課題や伝えるべきことを知る機会となり、それが企業価値を訴求するコンテンツの制作へとつながりますね。ESG評価機関やメディアによる評価についてはいかがですか。

山内:ESG評価機関やESGアナリストの評価からは、注目されている社会課題・環境テーマが何か、自社が取り組むべきサステナビリティの課題は何かを知ることができます。また、メディアによる評価では、表彰されることで自社の経営力や先進性のアピールになり、企業ブランド力の向上や自社のファンづくりにも大きく貢献することとなります。

注目が高まるメディア系の統合報告書コンテスト

立石:近年、メディア系の統合報告書のコンテストが話題にのぼります。注目が高まっている背景について教えてください。

山内:例えば「日経統合報告書アワード」は、エントリーする企業・団体が年々増えているようです。発行企業・団体にとっての魅力は、このアワードに応募すれば、資本市場の関係者による詳細なフィードバックが受けられる点にあります。

立石:評価する側が企業・団体を選ぶのではなく、評価を受けたい企業・団体の意思でエントリーできるのは魅力的ですね。

山内:加えて、アワードにエントリーをした企業や受賞した企業が全国紙などで紹介されることにメリットを感じる企業も多く、受賞することを強く意識して内容の充実を図る企業も少なくありません。

立石:新聞などに掲載されて広く発信できることは、個人投資家や就職活動をしている学生に向けても効果的ですね。

外部評価の高い統合報告書の共通点

山内:外部評価の高い統合報告書は、一言で言えば「投資家オリエンテッドな内容」であることです。高い評価を受けている統合報告書の多くは、価値創造ストーリーの「わかりやすさと腹落ち感」があり、「成長戦略の妥当性」「目標達成の蓋然性」「経営の持続可能性」を読み取ることができます。

立石:わかりやすいことは重要です。根幹にパーパスや経営トップの言葉があり、それが事業戦略、ガバナンス、サステナビリティへと冊子全体を通じて一貫性を持って展開していると「腹落ち」します。投資家にストーリーを伝える上で、心を動かすコピーワークやデザインといったクリエイティブも、幅広いステークホルダーの「共感」を生むためには必要不可欠です。

山内:ストーリーのわかりやすさ、そして投資家の琴線に触れるロジックで書かれているレポートは高く評価され、中長期にわたって支えてくれる株主の拡大、そして、マルチステークホルダーからの共感の広がりへとつながっていくと思います。

これからの統合報告書に求められること

立石:統合報告書を発行する日本企業は1200社を超えましたが、これからの統合報告書に求められることは何でしょうか?

山内:統合報告書は、長期視点の投資家にとって非常に有用な、欠かせない情報源となっています。加えて、学生のリクルート活動における企業研究や、社員が自社の全体像を知ることができるインナーブランディングのためのツールとしても活用が広がっています。

立石:企業の魅力が詰まった唯一無二のツールとして、今や統合報告書は幅広いステークホルダーから求められるものになったと言えますね。

山内:そのようななかで、「ウソのない誠実な統合報告書」であることが求められます。高い外部評価を得ることを目標とするのではなく、自社の等身大の姿、本質的な企業価値をわかりやすく、誠実に伝えることが重要です。

立石:ポジティブな話ばかりではなく、例えば、弱みや課題をどのように認識しているのか、それらに対する取り組みについて説明されていると信憑性が高まります。

山内:そのためには、経営トップを巻き込んで統合報告書を作り込むことが必要です。報告書の適正性を担保する経営責任者のサインを入れることも一考です。

立石:統合報告書のボリュームや形態については、いかがですか。

山内:掲載するコンテンツは拡大する傾向にありますが、一方で、ストーリーがわかりやすく伝わるように情報を絞り込み、シンプルにすることも求められます。統合報告書で軸となるストーリーを簡潔に示した上で、それを補足する情報としてIRサイトやサステナビリティサイト、TCFDレポート、人的資本レポートがあり、さらにリクルート向けにダイジェスト版を発行するといった展開も考えられます。

統合報告書のコンサルティングにあたって

立石:山内さんは統合報告書の制作を数多く支援されていますが、コンサルタントの役割をどのように考えていますか。

山内:統合報告やサステナビリティのフレームワーク、さまざまな先進事例に基づく企画提案はもとより、ストーリー作りに向けて、取締役や執行役員などと戦略や資本市場などについて多面的に議論を重ね、それにより発行企業の経営者や経営部門の方々に多くの気づきを促すことにも価値があると思います。

立石:コンサルタントと経営層が対話することにより、一貫性のあるメッセージが定まることは大きなステップですね。

山内:「対話」を重ねることで、経営トップの想いを織り込む形でアウトプットを生み出すことが理想です。統合報告書の制作担当者は、見映えの良い報告書の発行を最終目標とするのではなく、まずは統合報告書の制作プロセスを通じて得たい成果について、コンサルタントと議論を深めてほしいと思います。

「統合報告書の傾向と対策」Vol.2の予告

「2026年版 統合報告書の傾向と対策」シリーズ企画のVol .2のテーマは「トップメッセージ」です。統合報告書のなかでも、「トップメッセージ」は最も読まれている重要なコンテンツです。実務に必ず役立つ内容ですので、ご期待ください。

【写真左】

山内コアバリューデザイン合同会社

代表

山内 由紀夫

都内信用金庫のシステム部門、証券運用部門、経営企画部門を経て、IR支援会社において企業分析、アニュアルレポート・統合報告書・サステナビリティレポートの企画・編集コンサルティングに携わる。2018年からはメディア系コンサルティング・ファームで企業の価値創造ストーリー構築を支援。2021年7月、山内コアバリューデザイン合同会社設立。

【写真右】

共同印刷株式会社

プロモーションメディア事業部 コミュニケーションデザイン部 ディレクター

立石 健

カード会員誌編集部、社会保険専門誌企画会社、建築設計会社・建材メーカー・設備メーカー特化の企画プロダクションを経て共同印刷に入社。大手広告代理店への出向で企業の広報・SP・情報媒体のクリエイティブディレクションを担当。出向より復帰後は企業広報ツールの企画制作ディレクターとして従事する傍ら、自社創立120周年では社史編纂を併任。現在は広報IRに主軸を置き、統合報告書などの企画制作を担当。企業の情報開示支援に努める。

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