企業の財務情報、非財務情報を合わせてレポーティングする「統合報告書」。
発行企業が1000社を超え、IR領域のツールから企業コミュニケーションの基幹ツールとして、ますます拡がりを見せています。
共同印刷では、2021年から専門チームを立ち上げ制作に携わっていますが、今回は、その中心として、多くの企業の統合報告書の制作を支援している、共同印刷のディレクター宮澤隆紀に、統合報告書に関するトレンドと、制作ディレクションの手法についてインタビューしました。
〈ファシリテーター〉HintClip編集長 杉山 毅
統合報告をトータルでディレクション
杉山:さまざまな企業の統合報告書を制作されていますが、その業務内容について教えてください。
宮澤:主にIR領域のツールとして作成される統合報告書の制作ディレクションを行っています。
これまで多岐にわたるツールを担当してきましたが、統合報告書のニーズの高まりに応えて、2021年に社内に統合報告書の専門チームがつくられた時から、統合報告書の制作ディレクションを専門としています。
統合報告書は企業の財務情報、非財務情報を一冊のレポートとしてまとめたツールですが、制作にとどまらず、上流のコンサルティング、企画、構成、取材、撮影、ライティング、誌面デザイン制作から予算管理まで、すべてをトータルでディレクションしています。
専門性の高い分野でもあり、多様な外部スタッフのスタッフィングを中心に、クライアントとの密なコミュニケーションによる円滑な制作進行を行うのが主な仕事です。
案件のほとんどが、新規のコンペから発生しますが、企画提案からプレゼンテーション、受注後の制作まですべてを請け負っています。
幅広いステークホルダーへのアプローチ
杉山:次に、統合報告に関わる近年のトレンドについて教えてください。
宮澤:2013年に「国際統合報告フレームワーク」が発行されて以来、日本での発行企業は増加し続けていますが、メインターゲットである株主・投資家以外にはあまり読まれることがありませんでした。
専門的な用語も多く、一般的なリテラシーの人が内容を理解するのは難しいツールでしたが、最近、企業のビジョンや戦略・成長性の理解浸透を社内・社外のステークホルダーに理解してもらい、サステナブルな企業成長ビジョンを理解してもらうためのコミュニケーションツールとしての役割が高まり、株主・投資家以外のステークホルダーへのアプローチをめざす企業も出始めています。
また、さまざまな企業不祥事などが続き、ガバナンス問題も注視されているなか、絵に描いた餅ではない、本質的な企業としての信頼・安心感・成長への期待感を伝えるツールでなくてはならない、という視点もトレンドとなっているように思います。
トップメッセージの重要性
杉山:コミュニケーションツールとして企業の透明性を伝える役割があり「報告書を毎年作る」というだけのものでは無いということですね。
宮澤:これまでは統合報告書を作って発行することがクライアントのメイン業務でしたが、最近は、社内外を含めた広いステークホルダーに何を伝えたいか、どう伝えていくかが重視されるようになっています。
トップメッセージひとつとっても、かつては経営企画部門・広報部門が作成し、トップが確認するというケースが多かったのですが、近年はトップの考え方がダイレクトに伝わるようなメッセージ、肉声感が求められています。
会社全体が報告書の中身で何を伝えようとしているのかというコアなところを、トップにストーリーとして語っていただく必要があるのです。
そのために、私たちはトップの生の言葉を、取材やインタビューを通して、どんな言葉に置き換えながら伝えるかを重視しています。
杉山 :なるほど、トップの生の声は、すべてのステークホルダーが望んでいる要素といえますね。
報告書制作のお客さまの負荷を軽減する
杉山 :統合報告書の制作にあたっては、内容だけでなく、プロセスの負荷についての課題が取り上げられますが、制作側としてはどのようにお考えでしょうか。
宮澤:制作における社内プロセスの負荷軽減は、クライアントからの強い要望でもあります。
私たちは、レポート主幹部門と関連部門(人事、環境、法務など)との、円滑なコミュニケーション(原稿依頼、催促、チェックなど)の支援を行っています。
さらに、ツール提案や社内会議への参加など、あらゆる側面からお客さまの負荷削減にご協力しています。
たとえば、多くの企業では報告書のライティングについて、内容決めから各事業部門への依頼、原稿のリライトまでを、企業側の担当部門が担当していましたが、昨年頃から社内業務負荷の軽減のため、ライティングを依頼してくる企業が増えています。
当初はどの企業も担当部門が自分達でやるしかないという感覚だったのですが、発行から数年すると、報告書のベーシックな内容や依頼部門へのワークフローが確立され、社外に委託することも可能と判断されたのだと思います。
当社では、コンサルティングからクリエイティブ、お客さまの社内の連携支援まで、幅広い支援を行っているわけですが、これは「一歩踏み込んだ企業理解」のためには必要な業務であると考えています。
杉山:クライアントとの作業分担やフローにも変化があるのですね。とはいえ、制作会社側にとっての負荷も増えると思いますが、どのように対応しているのでしょうか。
宮澤:最も重要なのはスタッフィングです、IRツールの経験はもちろん、得意とする業態は何かなども踏まえ、ジャストな外部スタッフをアテンドすることが重要になります。
当社ではIR領域に限らず、広告・広報・販促の幅広い領域の企画制作を行っています。それ故にクライアントの要望・要請に応じた多様なスタッフのアサインが可能な点が強みと言えます。
4年間取り組んできて、さまざまな外部の制作会社さんや知見のあるブレーンも増えてきており、クライアントごとに最適なスタッフィングを行うことが可能です。
お客さまと同じ視点のチームの一員であること
杉山:宮澤さんが、統合報告書ディレクション業務の中で心掛けていることは何でしょうか。
宮澤:“下請け”にならないということです。
上からでも下からでもなく、クライアントと同等の立場を持ったチームの一員として接することが大切です。
統合報告書を制作するチームの一員として意見を言ったり、内容やデザインもそうですが、原稿の催促であったりも「お伺い」ではなく、自分の言葉として伝えることで信頼度も高まり、問題が発生した際にも、対等な立場で解決に望めると考えています。
企業メッセージをストーリーとして発信し続ける
杉山:これからも、非財務情報開示のフレームも含めて、統合報告書のありかたや位置づけが変化し続けると予想されますが、どのように対応していこうとお考えでしょうか。
宮澤:有価証券報告書でのサステナビリティ情報開示義務化、さらには、さまざまな国際的な開示フレームの動向もあいまって、統合報告書は「コミュニケーションツール」としての性格が強くなっていくと考えられます。
その時に問われるのが、企業としてのメッセージを、ストーリーとして発信していくことです。
われわれのチームは、統合報告書を作るために生まれたチームですが、企業がその存在意義や強みを伝えていくための経験値を生かし、「統合報告書」という枠組みにとどまらず、多くの企業のコミュニケーションに貢献していきたいと考えています。

共同印刷株式会社
プロモーションメディア事業部 コミュニ-ケーションデザイン第1部 コンテンツプロデュース第1課
宮澤 隆紀
建設会社、出版社、印刷会社を経て、2019年に共同印刷グループに入社※。出版社では、クルマ、ファッション、スポーツなどの雑誌を担当し、編集長も経験。印刷会社ではディレクターとして、主に厚物とよばれる製品カタログや図録、カレンダーを制作。共同印刷グループに入社後は、製薬会社を中心にインストア・アウトストアのプロモーションを担当する。2021年より統合報告書を中心にディスクロージャー誌や企業広報・IR関連をメインに担当している。
※2019年共同日本写真印刷株式会社入社。2021年共同印刷マーケティングソリューションズ株式会社に社名変更。2024年共同印刷株式会社に吸収合併。
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発行意義からフィードバックまで 統合報告書 編集バイブル
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