今、多くの企業が注力しているオウンドメディア戦略。その拠り所となっている「コンテンツは資産である」という思想は、「コンテンツマーケティングの父」と呼ばれるジョー・プリッツィの次の言葉から広まったとされています。
Content is not a cost, it’s an asset.
コンテンツ制作は消費ではなく、将来価値を生む資産である。
直訳だと伝わりづらいので意訳していますが、さらに補足すると、もともとプリッツィは「顧客を動かすのは、広告ではなく価値ある情報提供だ」と主張してきたマーケティング研究者です。たくさんお金をかけても使い捨てになってしまう広告をcost(消費)と考え、それに対してコンテンツはasset(資産)なのだと彼は表現したのです。
それではプリッツィが言うようにコンテンツが資産だとするなら、運用してその価値を大きくするにはどうしたらよいのでしょうか?
今あるコンテンツ資産にもっと働いてもらいましょう!
プリッツィが説いた「コンテンツマーケティング」が世界共通のマーケティング概念にまで押し上げられた2010年代後半、「誰もがインターネットで情報発信できる今の時代、自社でコンテンツを作ってWebメディアを運営すればいいじゃないか」と考える企業が増え、それまでマス広告に巨費を投じていた企業の中にもオウンドメディアに舵を切る企業が出てきました。
代表的なところでは、『トヨタイムズ』(トヨタ自動車株式会社)や『Make New Magazine』(パナソニック株式会社)などが好例でしょう。外部メディアに頼ることなく自分たちの言葉で伝えるという意味では、確かにこうした事例こそがオウンドメディアと言えるのかもしれません。
でも「うちの会社もコンテンツマーケティングに本腰を入れないとな」という段階のベンチマークとしてはややハードルが高過ぎます。ひとまず理想型として頭の隅に置いておきつつ、現実に視点を戻して、何から取りかかればいいか考えていきましょう。
オウンドメディアと言っても、必ずしも新しいコンテンツをゼロから制作しなければいけないわけではありません。ほとんどの企業では、戦略的に運用されているかどうかはともかくとしてすでにさまざまな形でオウンドコンテンツを持っていることと思います。そうした「今あるコンテンツ」にもっと働いてもらおうという発想で、まずは既存コンテンツをリユースして多チャンネル展開し、現状リーチできていないターゲットの掘り起こしを試みてみるのはどうでしょうか。
動き回る消費者 “ムービングオーディエンス”
現代の消費者は、一定の場所やメディアに固定されず、Webサイト・SNS・動画・アプリ・オフラインメディア(新聞・テレビ・雑誌など)・リアル店舗などを行き来しながら情報を得ています。マーケティングの世界でこうした消費者のことを「ムービングオーディエンス(Moving Audience)」と呼びます。
広告=マス広告だった時代の媒体計画はテレビ・新聞・雑誌+α(屋外広告など)を組み合わせるシンプルなものでした。しかし行動・関心・接触チャネルが常に変化し続けるムービングオーディエンスを相手にしなければならない現代のクロスメディア戦略では、顧客接点をより多角的・多面点に設計する必要があります。短い周期で次から次へと目先を変えていく従来のマス広告の方法論はここでは通用しません。
ちょっと脱線しますが、例えばWeb広告の場合、ディスプレイ広告のコンバージョン率は1%あれば好成績とされています(諸説あります)。100回クリックしてサイト訪問まで持っていけたら1回成果が出るわけですが、仮にクリック率が0.5%だとするとこの1件のコンバージョンのために広告表示(インプレッション)は2万回されている計算になります。何が言いたいかというと、人はたった1回情報に触れただけでは心を動かしてはくれないということです。
プリッツィも「オーディエンスがどこに移動しても価値を提供できる『メディア企業的思考』を持つことが重要」と述べています。と言ってもそれほど難しい話ではなく、重要なのは、メディアを横断して動き回るオーディエンスに対して「ひとつの情報」を繰り返し何度も目にしてもらえる顧客体験(CX)を創出すること。そのための顧客接点を設計することです。
特に自社発信のオウンドメディアは、あらゆるチャネルに展開される情報の「起点」として機能します。「起点」で発信した価値ある情報が、ペイドメディアやSNSなどの各チャネルでブレなく伝わることで、顧客との信頼関係はより強固なものとなります。
では次に、コンテンツ資産が限られている場合でも実践しやすい具体的な手法を紹介しましょう。
ワンソース・マルチユースで顧客接点を多チャンネル化
いつでもどこでも「ひとつの情報」をオーディエンスにインプットする。これに有効なのが「ワンソース・マルチユース」による顧客接点の増設です。
もし今、印刷物だけでしか発信していないコンテンツがあるとしたら、それをWebコンテンツに再編集するだけでもやってみる価値があると思います。なぜなら一度Web流入したオーディエンスに対してはWebマーケティングが有効になるからです。Webマーケティングが有効になれば、Web上にさらに多くの顧客接点を増設することができ、顧客エンゲージメントの維持向上が飛躍的に効率化されます。
複数チャネルで継続的な接点を持てるほど、顧客の購買行動はスムーズになり、LTV(顧客生涯価値)の向上にも寄与します。ワンソース・マルチユースによる多チャンネル展開は、この「購買行動の最適化」を低コストで実現できる手法でもあります。
状態にもよりますが、印刷データ(DTPデータ)はWebコンテンツに二次利用しやすいデータです。可読性や視認性を考慮したリデザインや、画像データの軽量化といったWebに最適化するプロセスはもちろん必要ですが、印刷会社のWeb制作部門にはそうした再編集のノウハウがすでに十分蓄積さているので、コンテンツ開発を企画からスタートするのに比べると低コストで制作期間も短くて済みます。スモールスタートでテスト的にコンテンツマーケティングを始めたい場合も、ワンソース・マルチユースを最適解としておすすめします。
蛇足になるかもしれませんが、「印刷物をWeb化しましょう」と提案すると「だったらPDFをWebページに貼っておけばいいじゃない?」と言う人が割と高確率で現れると思います(経験上…笑)。しかし残念ながらそれではコンテンツの資産価値は上がりません。Webコンテンツの優位性は、CTAボタン*やリンクを起点にオーディエンスが次の行動を起こしてくれるところにありますが、PDFにはそのようなCTA機能がありません。
もし「二次元コードをPDFに掲載すれば?」とさらに返されたら、「その二次元コード、PDFをスマホで見てたいらスキャンできませんよね?」と教えてあげてください。
*CTAボタン
アクション喚起(Call To Action)のためのボタン。サイト訪問者に対してクリックを促してコンバージョンを達成させるためのボタン。
デジタルファーストなコンテンツ制作も増加中
「コンテンツは資産」の真意、つかめてきたでしょうか?
コンテンツは無形資産ですから、お金や不動産のように数字で価値を測ることは難しいですが、マネタイズに不可欠な「顧客の心を動かす顧客接点」として機能するという意味でまさに「資産」にほかなりません。もしWeb化していないことで顧客接点の空白地帯ができている既存コンテンツが手元にあれば、「資産運用」のチャンスと考えてコンテンツマーケティングに挑戦していただければと思います。
前段では印刷物のWeb化を例に挙げて「ワンソース・マルチユース」を紹介しましたが、カスタマージャーニーがオンライン上で完結するWeb完結型の消費行動を想定したデジタルファーストなコンテンツ制作も増えています。
現状、手元にリユースできそうな既存コンテンツが無い場合は、Web広告・SNS(ソーシャルメディアマーケティング)・メールマーケティングといったWebマーケティングの各施策に展開しやすいWebコンテンツから制作するのもよいでしょう。
ただしWebコンテンツと印刷物では同じ素材でも異なるファイル形式のデータを使用するため、オリジナルデータや中間制作物から編集し直してそれぞれに最適なデータを作成するのが一般的です。もし将来的にWebコンテンツから印刷物を制作する可能性があるなら、Webと印刷物、両方のノウハウを持つ制作パートナーを起用し、こうしたデータの二次利用をスムーズにしてもらえる環境で制作してもらうことをおすすめします。
まとめ
コンテンツマーケティングの分野では近年、外部メディアに依存しない情報発信をめざすオウンドメディアへの取り組みが盛んですが、必ずしも新しいコンテンツを制作しなくても、自社が持つ既存コンテンツを「ワンソース・マルチユース」して多チャンネル展開することで限られたコンテンツ資産の価値を高めることが可能です。
大切なのは、どの顧客接点でも「ひとつの情報」をインプットすること。Web化できていないために顧客接点の空白地帯ができている印刷物がもしあれば、資産形成のチャンスだと考えてください。
共同印刷では、印刷物とWebを横断的にディレクションできる経験豊富なエキスパートが、貴社の事業戦略に資する顧客接点設計をご提案しながらコンテンツ開発のお手伝いをしてまいります。ぜひお気軽にご相談ください。
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