「モノをつくっても売れない時代」といわれる現代において、停滞したビジネスを打破する手法として「デザイン思考」が注目されています。P&GやAppleといったグローバル企業などで積極的に採用され、数々のヒット商品を生み出してきました。日本でも商品開発に取り入れる企業が増えていますが、一方で“デザイン”という言葉には「見た目の美しさ(だけ)」というイメージもあるため、この手法に関心を示さない企業も少なくありません。しかしそれが誤解であることは、「デザイン思考とは何か」をビギナー向けに説明した本稿を読めば、きっとおわかりいただけるはずです。前編では、デザイン思考の考え方と、そのカギとなる「ペルソナ」について解説します。開発やマーケティング担当の方はぜひご一読ください。

デザイン思考とは「イノベーションを生み出す手順」

デザイン思考とは、Appleの初代マウスのプロダクトデザインなど、数多くの実績を持つアメリカのデザインコンサルタント会社IDEO(アイディオ)が確立したアプローチ手法です。IDEOでCEOを務めるティム・ブラウンは、デザイン思考を「デザイナーの感性と手法を用いて、人々と技術力を取り持つこと」「現実的な事業戦略にデザイナーの感性と手法を取り入れ、人々のニーズに合った顧客価値と市場機会を創出すること」と定義しています。もう少しわかりやすくすると「デザイナーの感じ方・考え方・手順を軸にして、よりよい製品を開発すること」といえるでしょう。ここでいう「デザイナー」とは、「自分たちの主観に基づき、利用者が本当に求めるものや最高の使用体験を生み出せる人材」を指します。決して「製品の見た目をカッコいいカタチにする(だけの)人」ではありません。
それでは、なぜP&GやAppleはデザイン思考を取り入れたのでしょう。それは「イノベーションを創発するため」だといえます。日本では、イノベーションとは「技術革新」だと考える方が大半を占めるようですが、本来は「経済的・社会的価値を生み出すあらゆる改革行為」を意味し、その真の目的は「いかにしてユーザーをより満足させるか」にあります。
過去の経験や実績を分析して問題解決を重ねていく従来型のビジネススタイルは、右肩上がりの時代においては有効でした。しかし現代のような不確実の時代に、この手法は通用しません。先が見えないがゆえに、過去のデータ(だけ)から生まれたアイデアは、時代の変化に対応しきれない可能性が高いのです。常に新たなアイデアが求められる時代には、ユーザーが本当に求めているものは何かを知り、そしてユーザー自身も気付いていない欲求を「発見」する必要があります。これらがイノベーションのタネになることは、説明するまでもありません。そしてこの「発見」のプロセスにおいて有効なのが、デザイン思考なのです。
一つ例を挙げましょう。IDEOの共同創設者の一人であるデイビッド・ケリーは、2003年にスタンフォード大学デザインスクール「d.school」の創立に参画し、巨額の出資を行いました。このプロジェクトにケリー氏とともに加わったのが、ドイツのICT大手「SAP」の共同創業者であるハッソ・プラットナーです。プラットナー氏は売り上げの大半をERP(Enterprise Resource Planning:企業資源計画)システムに依存していた当時のSAPの状況に危機感を抱き、開発部門にデザイン思考手法の採用を提案。しかしそれは受け入れられませんでした。そこでプラットナー氏は社外組織であるd.schoolで、デザイン思考による製品開発に着手することに。ここで生まれた高速処理データベースによって、SAPはERP依存の経営状況から見事に脱却できました。現在では、SAPのさまざまな事業活動にデザイン思考が活用されています。

デザイン思考のカギを握る「ペルソナ」

デザイン思考でプロダクトやコンテンツを開発する際、特に重要なのが「ペルソナ」の設定です。
ペルソナとは、「その製品やサービスを利用する架空のユーザー像」のこと。メインとなるターゲットの特性を一人の人物像にまとめたものを指します。ペルソナを作成することでユーザー像が細かな面に至るまでより明確になるため、デザイン思考においては、次項で説明する各ステップを具体的に進めやすくなります。したがって、ペルソナはデザイン思考の最初のステップに取りかかる前に作成しておくのが理想です。開発部門と議論しながら、市場動向やユーザー傾向を最もよく知るマーケティング部門が主導する形で進めるとよいでしょう。
ペルソナとよく似た概念に「セグメント」があります。セグメントとは「区分」のこと。市場全体から年齢や性別などの属性データ(デモグラフィックデータ)で顧客を抽出します。一方、ペルソナはユーザー特性に幅がほとんどなくてピンポイント的。そうすることで、ユーザー像を行動やライフスタイルだけでなく、その心理まで思い描きやすくしているのです。セグメントとペルソナを混同しないよう気を付けましょう。

※ペルソナの作り方やセグメントの違いの詳細は、HintClip「多様化時代に勝つためのペルソナマーケティング再入門」(記事はこちら)で説明しています。

■ペルソナの例(簡易版)

ペルソナの例(簡易版)

■セグメントとの違い

セグメントとペルソナの違い

まとめ:デザイン思考とは、「人間中心」の創造プロセス!

デザイン思考とペルソナの関係について、簡単にご説明しました。デザイン思考を展開する際に重要なのは、「人間中心」であること。ユーザー像をペルソナとして具体的に描くことは、テクノロジーありきの発想ではなく、デザイナーが持つユーザー中心の考え方や顧客視点の製品開発を徹底することといえます。つまり、デザイン思考は「人間中心」の創造プロセスなのです。

また、デザイン思考では人間同士が集まることで形成される「多様性」も求められます。この「多様性」については後編で説明します。


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参考文献:オージス総研「デザイン思考(その1~9)」
「デザイン思考 その1」
「デザイン思考 その2 —登場の背景—」
「デザイン思考 その3 —イノベーション—」
「デザイン思考 その4 —集合知—」
「デザイン思考 その5 —共感—」
「デザイン思考 その6 —問題定義—」
「デザイン思考 その7 —創造—」
「デザイン思考 その8 —プロトタイプ—」
「デザイン思考 その9 —テスト—」

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