近年、物価高騰が続いていることから、「低価格ライン」や「オリジナリティ」を持つ小売り企業のプライベートブランド(PB)商品が、買い物客から高い支持や評価を得ています。
長年愛用して来たメーカー企業のナショナルブランド(NB)製品からのブランドスイッチをする顧客もおり、その存在は年々拡大しています。
そこで今回のHintClipでは、このPB商品をテーマとしてとりあげます。
日本や外国でのPB商品の位置づけや評価と合わせて、今後メーカー企業がPB商品ついてどのように捉え、スーパー・ドラッグなどの小売りに対しどのようにマーケティング・営業活動に取り組むことが重要かを提案します。

株式会社リテイルインサイト 代表取締役 倉林武也

日本におけるPB商品の評価について

今から20年ほど前に、買い物客を対象に小売りのPB商品について調査を行ったことがありました。
普段の買い物で「PB商品を購入するか?」「そのPB商品の評価はどうか?」といった設問で調査をした結果、「PB商品は(NB製品がない時の)間に合わせ」、「できるだけNB製品を選んで購入したい」、「品質がNB製品と比べて劣るイメージがある」などPB商品について厳しい声があがりました。
恐らく読者である皆さんも少し前なら「PB商品は積極的に選ばれる商品ではない」と言った印象を持っていたと思います。

それが今年、大手量販店のPB商品の売上が1兆円の大台を突破しました(2025年2月期の売上高推定1兆800億円の見通し)。
近年、食品や飲料をはじめ多くのNB製品が相次いで値上げしているなかで、PB商品の位置づけが大きく変化して来ました。

消費者の買い物行動について調査をした研究機関の発表によると、1年以内のPB商品の購入経験率は70%を越え、7割以上が1年以内にPB商品を購入、約7割が今後もPB商品を購入したいと考え、日常の買い物習慣にすっかりPB商品が定着していることが分かります。
PB商品の購入率の高いカテゴリーをみると、「お茶」「食パン」「ミネラルウォーター」「インスタント・レトルト食品」「冷凍食品」などが上位を占めています。
また、PB商品の購入者を見るとライフステージでは「子育て」「子手離れ」層、階層意識では「中の上」層の購入率が高いことがわかりました。
つまりPB商品の魅力は価格に限らず、NB製品との品質差が少なくなったことが想像できます。

海外の小売りにおけるPB商品の展開や特徴について

「PB商品が選ばれる理由」の掘り下げや、「今後のPB商品の傾向」を考える上で、日本の小売りよりもPB商品の開発の歴史が長く市場規模の大きい米国の展開からヒントを探したいと思います。

米国では買い物客がPB商品を利用する理由として、「価格」(71%)に並んで、「値打ち感」(72%)が上位に挙がっています。
PB商品の品質に対するイメージの変化が1つの要因になっているようです。また特に食料品について、PB商品は従来のNB製品と同様に優れた商品という認識を示しています。例えば「詳細な商品情報を提供する点でNB製品と同じ」(59%)「PB商品はNB製品と同じくらい健康的」(57%)、「PB商品への信頼感はNB製品と同程度」(57%)などの評価や感想が聞かれます。

こうした背景には、米国の小売り市場においてPB商品の開発や育成が小売りにおける競争の優位性を高める需要なビジネス戦略になっていることがあります。
海外の小売りのなかでは売上全体におけるPB商品の占有率が80%になっています。彼らはPB商品の開発に長年大きな投資をしてきました。また、そのなかで健康志向や環境問題などの機運を捉えて高付加価値商品(健康やサステナビリティに配慮した植物由来の食品)やグリーンラベル(倫理的に調達された製品であることを表示する)の提供、環境に配慮したパッケージなどの企画や製造にも積極的に取り組みました。

日本ではPB商品と言うと、食品や飲料を思い浮かべる方が多いですが、米国の小売りではほぼすべてのカテゴリーにおいて「PB商品化」が進んでいます。米国のPB市場は着実に成長しており、2024年のPB商品の売上高は過去最高に達しました。

メーカー企業は今後PB商品をどう活用し、向き合う必要があるか

メーカー企業も、自社のNB製品の開発や販売活動には莫大な投資や大きな労力を掛けてきました。
しかし、競合他社との差別化や利益率の改善を目的に取り組まれた小売りのPB商品の現在の姿に、以前のような絶対的な差を見いだすことはもはや難しい時代になっています。
コモディティ時代の商品開発では、「機能を超える、価値をつくる」ことが重要であると言われますが、(そんな価値をつくり)すぐに結果を出すことは難しいことです。
これからの時代、PB商品と対峙するのではなく「NB製品とPB商品の共存」をめざした新しい取り組みが小売り・メーカー企業の両者に求められます。

そこでメーカー企業が小売りへの取り組みとして「PB商品を介して行える具体的な方法」を4つの視点で挙げてみます。

① 買い物の相性の良いNB製品とPB商品から訴求するテーマを設定

併売値やリフト値からNB製品とPB商品の買い物の相性の良い(同時購買されやすい)商品を見つけてメニューやテーマ設定による訴求を行う。
これは買い物かごに入った組み合わせをデータで抽出するもの。最近ではエナジードリンクとグミの同時購入の多さ(併売率の高さ)が話題になりました。
この際に提案をするメーカー企業も小売りの立場に立って「小売りが数あるPB商品のどれを売りたいか?」をまずは考えることからはじめると良いです。

小売りの店頭で見られたNB製品とPB商品の展開

  • ●生ビール(NB製品)と鶏もも唐揚げ(惣菜)による相性バツグンのアピール。
  • ●スナック(NB製品)にスパイス(PB商品)をかけて新しい味。

② PB商品の新しい魅力や使い方をNB製品で見つける

PB商品のマヨネーズにNB製品のレモン汁を加えてアレンジマヨネーズを提案している売り場(エンドでの展開)を目にしました。
釜めしのもと(NB製品)と冷凍餃子(PB商品)によるアレンジメニューなども同様の事例です。
こうしたPB商品と自社のNB製品によるアレンジ(食品ならメニューの提案や、生活用品や消耗財であれば使い方や生活シーンなどのテーマについて)を考えることも提案の方法です。
PB商品は加工食品や飲料以外にもたくさんのカテゴリーにあります。

③ NB製品の購入をきっかけにPB商品の利用を促す施策

NB製品を購入条件とした懸賞企画によりPB商品を景品として扱う。
これは購買行動の入り口をまずはNB製品にして、その後(景品としての位置づけでも)PB商品のトライアル利用を促す仕組みです。
ただし、懸賞企画として一過性に終わらせないことが注意点になります。

④ 販促施策として小売りと共同してPB商品を開発する

小売りが独自にPB商品を開発するには、企画開発からマーケテイング活動までの負担が多くかかります。もちろんコスト負担になる可能性もあります。
そこでメーカー企業が持つノウハウを提供して「〇〇スーパーマーケットと食品メーカー〇〇による開発商品(PB)」として打ち出します。
中長期の展開に限らず、期間限定で販売する展開方法などを(販促施策として)検討してみてください。

メーカーと小売りが共存しながら、新しい市場を創出する

メーカー企業においてはNB製品の開発や育成、販売のためのチャネルの開拓、店頭での販促などさまざまな課題や行うべきことがあります。
PB商品による市場の拡大が今後も予想される時代のなかで、小売りとメーカー企業が(同一のカテゴリーでないところでの)共存する売り方を考えて、新しい市場を創ろうとする取り組みは、両者においても必ずメリットが生まれるものと考えます。

まずは、メーカー企業の自社のNB製品を、前述の①から④の施策に当てはめて検討をしてみましょう。

株式会社リテイルインサイト

代表取締役

倉林武也

2018 年に流通小売業やメーカー・事業会社のマーケティング領域におけるコンサルティング業務を担う会社として起業。営業戦略や販売の支援、社内組織の活性化や社員の育成(ナレッジや Teams や LINE などプラットフォームを使用した活動支援)を行う。近年、広告・コミュニケーションや販売促進のあり方が大きく変わる中、リアルな「場」(チャネル)や商談における課題をインサイトの抽出やデジタルを含む方法で最適解や将来に向けてのあるべき姿を追求。JPM(日本プロモーショナルマーケティング協会)アワード最終審査員 宣伝会議「ビジネスプロデュース力養成講座」「行動デザイン講座」ほかに登壇

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