ESGの考え方の起源

ESGは企業の持続可能な経営に不可欠な三つの要素である、環境(Environmental)、社会(Social)、企業統治(Governance)の頭文字をとった言葉です。ESGが世界に普及するきっかけとなったのが、2006年に提唱された国連責任投資原則(PRI:principles for Responsible Investment)です。この原則は、非財務情報であるESG(環境、社会、企業統治)の要素を投資判断基準に組み入れることで、投資する企業を適切に評価すべきだという理念に基づいています。
本来国連は、企業行動に直接的な影響力を持たない組織です。しかし、国連の使命である紛争、気候変動、人権侵害などの世界規模の課題を解決する鍵は企業行動にあり、その企業を変えるには機関投資家への働きかけが重要だと考え、世界の機関投資家たちにPRIへの賛同・署名を呼びかけたのです。
世界には、環境や水・食料、人権の問題など多くの課題があります。特に近年は、気候変動に伴う環境変化が人類を含むすべての生物に大きな影響をもたらすことが確実視されるようになりました。つまり、地球環境や社会が健やかでなければ経営は成り立たず、永続的な企業成長も望めない世界になっているのです。
そこで1994年に登場した経営の概念が、サステナビリティ社の創始者であるジョン・エルキントンが提唱した「トリプル・ボトム・ライン」です。簡単に言えば、これからの経営は利益などの経済面だけでなく社会面や環境面にも配慮し、均衡させるべきという考え方です。これにより、環境や公害など一部の問題のみに偏っていた企業の関心が、貧困や人権など社会面にも向けられるようになりました。日本においても、CSR報告のガイドラインとして活用されるGRI(グローバルレポーティングイニシアティブ)に、この考え方が反映されています。

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CSRとESGはどう違うのか

では、CSRとESGはどう違うのでしょうか。両者とも、トリプル・ボトム・ラインの概念に基づいて生まれた考え方ですが、CSRは企業に課せられた社会的責任のことであり、問題を起こさないため、または問題が生じた際すみやかに情報を開示するための取り組みです。一方ESGは、企業の中長期的な成長とリスク回避のため、環境、社会、企業統治など広範囲の課題へ向き合う取り組みです。これを企業の長期的な成長に対する投資の判断指標とするのが「ESG投資」です。
つまりESGとCSRは、活動としてはほぼイコールの関係と言えます。CSRが企業の社会対応力の向上につながるのに対し、ESGは企業の中長期にわたる成長を促すための企業戦略なのです。またESGは、環境、社会、企業統治の要素をさらに細かく分類した評価項目が設定されていることも特徴です。
企業側はそこから重点テーマ(マテリアリティ)を絞り、取り組み内容を開示します。その開示情報をもとに、投資側は投資判断を行います。

ESG投資とESG経営

ESGにおいては、企業側の取り組みがESG経営、投資側の取り組みがESG投資になります。ESG投資は従来からあったSRI(社会的責任投資)と混同されがちですが、実際は似て非なるものといえます。
SRIの起源は1920年代まで遡ります。米国のキリスト教団体が、宗教的倫理観に基づき、アルコールやギャンブル、タバコを扱う企業などを投資対象から除外したことが始まりでした。これは、特定の企業・業種を排除するネガティブ・スクリーニングの手法で、1980年代からは一部の機関投資家の間でさらに注目されるようになりました 。
日本においても、環境問題の高まり や1997年の京都議定書採択により、SRIはエコファンドの名で徐々に知られていきます。しかしこれらの投資は、あくまで一部の投資家が余剰資金で行うもので、投資手法の主流にはなりませんでした。さらに2008年のリーマン・ショックにより、SRIのムーブメントは急速に衰えていきました。

ESG投資は安定したリターン獲得が目的

SRIが主流にならなかったもう一つの理由は、社会貢献的な意味合いが強く、投資側のリターンが十分でなかったことです。一方、2006年のPRI(責任投資原則)に基づいて生まれたESG投資の目的は、投資リターンの向上と投資リスクの回避にあります。ここが従来のSRIとESG投資の大きな違いです。つまりESG投資は、短期的なリターン獲得ではなく、リスクを回避しながら安定した収益を長期にわたって獲得することに有効な手法なのです。事実、過去10年のベンチマーク収益率を上回る投資パフォーマンスが実証されています。
ESG投資は、これからの時代に必要不可欠な投資手法として世界に注目されているのです。

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日本におけるESGの高まり

日本でESG投資が注目されるようになったのは2017年頃です。日本の国民年金と厚生年金を管理する世界最大の機関投資家GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が、2015年にPRIに署名し、ESG投資を行うと宣言したことがきっかけでした。この動きに関連運用会社や生命保険会社などが次々と続き、投資先である大企業にもESGの対応を求めるようになります。すると大企業もまた、取り引き先となる中小企業などにESG対応を促します。
その結果、就職活動などの身近なところでもESGを用いて企業を評価する流れが出てきました。もはや日本においても、ESGと企業活動は切り離せない関係性になりつつあるのです。
日本では、特にガバナンス体制に着目する企業が増えています。欧州と違い、企業経営において監視と執行の役割が分離されていない企業が過半数を占めていると言われており、ガバナンスが適切に機能せず、ESGの監視が甘くなることが懸念されているからです。

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ESGはSDGsと共に、世界共通の必須課題になりつつある

さらに2015年、パリ協定や国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)により、ESGの活動は各国が取り組むべき必須課題として、一層継続的な広がりを見せています。ESGもSDGsも、持続可能な社会の実現に向けた取り組みであることは変わりません。
SDGsが、国連加盟国の政府が企業などの幅広いステークホルダーへ働きかける世界共通の取り組みならば、ESGは、投資家が明確なESG評価項目をもとに、企業をサステナブルな方向へ牽引していく取り組みとも言えます。
国際社会はさまざまなガイドラインやフレームワークにより、協調し、よりよい未来社会への変革を推し進めているのです。

Vol.4「SDGs編」に続く

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