CSR(企業の社会的責任)=社会貢献ではない
CSRとは、Corporate Social Responsibilityの頭文字を略したもので、企業の社会的責任と訳されています。社会的責任の国際ガイドラインであるISO26000では「利益を追求するだけでなく、組織活動が社会へ与える影響に責任をもち、あらゆるステークホルダー(利害関係者:消費者、得意先、投資家、仕入先、従業員、地域社会、行政機関など)からの要求に対して適切な意思決定をすることを指す」定義されています。言い換えれば、企業は利益を追求し、株主に配当を実施するだけでなく、ステークホルダー及び社会の意見や要請を聞き、消費者や地域社会、国際社会、そして地球環境に対して“社会の一員としてふさわしい責任”を果たさなければならないという考え方です。
CSRが社会的に注目されるようになったのは1990年代のこと。一つの大きなきっかけは、ナイキの製品をつくっている途上国の工場で発覚した児童労働です。この問題を発端として世界に広がった不買運動はナイキに数十億ドル規模の損害をもたらしました。前後に欧米先進国の企業で続発した「汚職や虚偽情報によるコンプラインアンス違反」や「サプライチェーンの人権問題」などと合わせて市民社会の意識が高まり、各企業のCSRの取り組みに高い関心が集まる起爆剤となったのです。
[主なステークホルダーの期待と要請]
グローバル化がCSRリスクを拡大
CSRが拡大する決め手となったのは、経済のグローバル化の劇的な進展です。大手の多国籍企業だけでなく、その調達先となる多くの中小企業が工場や事業所を世界各地へ展開するようになりました。先進国の企業が低コストで生産して利益を上げるために、労働者に劣悪な労働条件を課したり、児童労働により子どもたちの人権を侵害するなどさまざまな問題が顕在化しました。結果として、貧富の格差や環境破壊が進む懸念が高まり、発展途上国やNGO(非政府組織)などが、企業活動におけるCSRを注視するようになったのです。同時に、大気や土壌、水質の汚染といった環境問題も地球規模で広がり、エネルギーの大量消費によって引き起こされる地球温暖化が世界的な課題となってきたこともCSRの普及を後押しすることになりました。
もう一つはコンプライアンスの問題です。現在でも起き続けていますが、製品安全のテスト結果の偽造、食品の産地偽装や不当表示、個人情報の大量流出、リコール隠しなどの企業の不祥事が多発。消費者や社会が企業に対して厳しい目を向けることになり、企業や製品・サービスの評価にも大きな影響を及ぼすようになりました。結果として、法令遵守や雇用、納税はもちろんのこと、企業倫理や公正な取り引き、多様性への配慮(人権・国籍・性別・年齢・障がいの有無)、従業員の能力開発などが企業に求められるようになりました。さらに責任範囲は、企業内にとどまらず、調達先、取引先など、バリューチェーン全体へと拡大を続けています。
2000年代に入り、社会的な要請がさらに高まります。2010年11月には、国際標準化機構(ISO)が企業のみならず、規模や所在地に関係なく、あらゆる種類の組織を対象とする社会的責任(SR)に関する手引きを定めた「国際規格IO26000」を発行しました。
制定にあたっては、世界各国の政府、経済界、労働者、消費者、NGO/NGOなどさまざまなステークホルダーが参画。「説明責任」「透明性」「倫理的な行動」「ステークホルダーの利害の尊重」「法の支配の尊重」「国際行動規範の尊重」「人権の尊重」など、社会的責任に関する7つの原則をもとに、組織が実践していくための活動のガイドラインとなっています。
[拡大するCSR]
日本のCSRはどのように発展したか
CSRというと、日本では寄付やボランティアをイメージする方がまだまだ多いのが実状です。自然災害の被災地に義援金や自社製品を送る支援、発展途上国への井戸の提供や学校の建設、環境であれば植林活動などです。これらは、「社会貢献活動」と呼ばれ、CSRの一部ではありますが、中心的なものではありません。
“企業経営の視点”で日本と海外を比較してみましょう。
ある調査では、日本の経営者にとってCSRとは「よりよい商品・サービスを提供すること」であり、ついで「法令を遵守し、倫理的行動を取ること」「事業活動の過程で生じる環境負荷を軽減すること」となっています。「三方良しの商習慣」や「会社は社会の公器」という考え方の強い日本企業では、日々のサービスや商品を提供することこそが社会貢献であり、その役割をすでに果たしているという考え方がCSRの対する基本的なスタンスです。
一方、欧州を中心とする先進国で普及したCSRは社会・環境への価値追求と事業活動そのものを統合させ、さらにリスクマネジメントを徹底していくこととして捉えられています。その上で“企業が与える社会・環境・経済面における長期的な影響と提供する社会価値そのものを高めていくこと”だという定義も存在します。つまり、世界はリスクマネジメントとしての側面だけでなく、社会・環境・経済の3つの側面における活動において、企業価値そのものを上げていくという意味のCSRへと進化を遂げているのです。その一つのキーは、「社会・環境への価値提供は財務リターンと矛盾しない」という考え方です。日本では長年「CSRは(投資ではなく)コスト」という考え方が多勢をしめてきましたが、欧米では企業経営者、さらには投資家の間にも、投資とリターンという考え方が浸透しています。2011年にハーバードビジネススクールのマイケル・ポーター教授が唱えた “CSV: Creating Shared Value”※という概念も、この考え方に沿っています。
そして、CSRの推進に大きなドライブとなったのが、「ESG投資」の進展です。それまで企業の財務情報を基にしていた投資評価に加え、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)面の活動や実績を考慮して投資することです。欧米では2010年代に始まり、大きな流れになりました。遅れていた日本でも、最大の機関投資家であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が2015年に「PRI(国連責任投資原則)」に署名したことで、ESG投資に注目が集まり、2020年を迎えてさらに活発になっています。同時に、2000年代は大企業による粉飾決算や不祥事隠蔽などの事件が相次ぎ、多くの企業が退場を余儀なくされたことで、コンプライアンスの側面からもCSRへの要求が高まり続けています。
「CSR元年」とよばれてから2003年から17年。今では一部上場企業の90%以上がなんらかのCSR関連情報の開示に取り組むなど、企業活動における欠かせないスタンダードになっています。とはいえ、未だ跡を絶たない、企業のコンプライアンス違反や不祥事、労働環境の問題などの状況をみると、まだまだ“市民社会の厳しい監視の目が必要です。
例えばショッピングでのブランドの選択、就職先企業の選定、ビジネスにおける取引先企業の決定など、個々人がそれぞれの立場で、CSRの視点を忘れずに企業を評価して行動することが、真のCSR浸透のために必要なのではないでしょうか。
※CSV: Creating Shared Value
経済的価値を創造しながら、社会的ニーズに対応することで社会的価値も想像するというアプローチ。経済的価値と社会的価値を同時実現する共通価値の経営戦略。
[CSRで取り組むべきこと](世界的な報告の基準であるGRIスタンダードより)
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