音楽、動画、ニュースにソフトウェア……さまざまなコンテンツにおいてサブスクリプション型のサービスが増えています。皆さんも一度は利用されたことがあるのではないでしょうか?「サブスクリプションモデル」とは、定額料金を支払うことで一定期間、繰り返し商品やモノ・サービスの利用権が得られるというビジネスです。

「サブスクリプションビジネスをすることで、チャネルや顧客層の拡大につながる」と言うのは、シリコンバレーに駐在し、現地のトレンドをウォッチし分析している森井啓允さん。この記事では、「オープンハウス社」にてChief Innovation Officerの森井さんが現地で体感した面白いサービス、勢いのあるスタートアップのトレンドを「サブスクリプション」の観点で切り取ってもらい、前編でご紹介、後編ではこのビジネスにおける社会的な背景、成功のためのポイントを考察します。日本でもサブスクリプションモデルによる新たなビジネスの可能性を考えるヒントになるのではないでしょうか。

【森井啓允さん(もりい・ひろみつ)プロフィール】
新卒でTBSテレビに入社、番組制作、宣伝プロデューサーなどを担当。同社を退職後、ソフトバンクに入社し、新規事業開発に従事しシリコンバレーに駐在、現在は急成長不動産企業の「オープンハウス」で不動産テクノロジーを中心に現地の最先端かつユニークなビジネスモデル・技術を発掘し新規事業の企画開発を担当。

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1、STITCH FIX

https://www.stitchfix.com/

「Stitch Fix」は顧客一人ひとりにぴったり合った衣類をスタイリストが選び、定期的に送ってくれるサービス。サンフランシスコで2011年に20代の女性が始めたウェブサイトから急成長、すでに約270万人ものアクティブ会員を抱えます。17年にはNASDAQ上場も果たしました。

サービス内容は、ユーザーがまず身長・体重などのサイズや洋服の好みと予算、利用したい頻度などを登録。その情報をもとに、人間のスタイリストとAI(人工知能)が洋服やアクセサリーを5つ選び、定期的にユーザーの自宅へ届けます。スタイリング代として一律20ドルの利用料がかかりますが、1着でも購入すればその20ドルを購入費に充当することができます。欲しくない物は無料で簡単に返送でき、また5着すべて購入する場合は全品25%オフになります。

森井さんの体験によると、まず届く箱が「ゴージャスでおしゃれ」。開封するとスタイリストが自分のために考えてくれた、おすすめコーディネートの書かれたカードが入っていて特別感があるそう。一般的なアパレルECでは従来、顧客の希望通りに届くことが必要とされていました。しかし、Stitch Fixでは逆に、何が届くかわからないというワクワク感が楽しみになっているといいます。また、気に入った点、購入しなかった理由などを書きフィードバックすることで、AIが顧客データを学習、その人へのスタイリング精度がどんどん改善されていくのです。

こうしたUXのすばらしさ、スタイリスト代と値引きの巧妙な値段設定、その仕組みが成功の要因ではないかと森井さんは分析しています。公式にはセールなどを行わないブランドアイテムを扱っているため、Stitch Fixが今後プライベートブランドへの開発に力を入れれば、より収益を高められるのではないでしょうか。

参考:Stitch Fix Company Fact Sheet
https://investors.stitchfix.com/static-files/86696edb-107f-42de-9f04-899b3cd93363

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2、Dollar Shave Club 

https://www.dollarshaveclub.com/

「Dollar Shave Club(以下 DSC)」 は定期的に、髭剃りの替え刃を自宅に届ける会員制サービス。2012年の設立後、ユーザー数320万人へとうなぎのぼりの成長を見せ、2016年に大手のUnileverに約10億ドルで買収されました。大躍進の秘密は、髭剃りの「利益構造を突いたマーケティング手法」に見出すことができます。

もともと、アメリカにおける髭剃り市場は「P&G」のGilletteと「Edgewell」のSchickという製品の2強支配。価格は、髭剃り本体と替え刃のセットは10ドルを越え、替え刃だけでも3ドル以上します。DSCのWebサイトを見ると、替え刃4枚パックが1ヵ月6ドル~9ドル、スターターキットは本体と刃のセットに替え刃4枚、クリームもついて5ドルです。この差額を生むのが「マーケティング費」なのです。大手の髭剃り価格にはテレビやラジオ広告費、小売店の棚を占有するための莫大なマーケティング費が上乗せされているのです。

まずDSCは、小売店を通さず消費者に直販するという「D2C(Direct to Consumer)ビジネス」の手法をとっています。オンラインでユーザーに直接つながるチャネルを切り拓き、低価格で同クオリティの商品を提供するわけです。そのプロモーションとして同社を強烈にアピールしたのが、You Tubeにアップされた動画です。社長自ら出演、やや過激で笑いをさそう演出は、再生回数が2500万回を上回りました。莫大な広告費を使うことなくデジタルネイティブな「ミレニアル世代」に訴えかけることに成功したのです。

DSCでは、カミソリ単体は安価でも「定期購入」によって刃の交換頻度が増え、髭剃りクリームなども購入していることで、結果的に髭剃りへの使用金額が増加する可能性も含んでいるのが面白いところ。ちなみに歯磨きやシャンプーなどのパッケージもあります。購入頻度の変更やスキップは簡単にでき、こちらも利用した森井さんによれば、やはり「豪華な箱」に入って届いたそうです。さらに、おまけのようについてくる読み物の存在が、Stich Fixにあったような「何が来るかわからないワクワク感」を担っているとのこと。

YouTubeのDSCプロモ動画
https://www.youtube.com/watch?v=ZUG9qYTJMsI
ph:03

3、Spacious 

https://www.spacious.com/

「Spacious」は、開店前などの午前~夕方までの時間帯に高級レストランのスペースを「コワーキングスペース」として利用できるサービス。Spaciousがいくつものレストランを束ね、会員はどのスペースでも自由に使えます。ニューヨークで始まり、現在はサンフランシスコと合わせて約20のレストランが登録。おおむね、午前8時半ごろから午後5~7時ごろまで利用可能。年間契約すると月額99ドルできわめて雰囲気のよい、快適なWiFi環境とコーヒー・紅茶サービスのあるコワーキングスペースで仕事ができるのです。初めの1週間は無料の「トライアル期間」もあります。

ほかにも「MoviePass」という月額9.95ドル払うと劇場で映画を見放題という驚くようなサブスクリプションサービスもあります。現段階では、利用者が見れば見るほど赤字が膨らみ「ビジネスモデルとしては破綻している」とも言われていますが、MoviePass側は利用者データを収集できる点に重きを置いているとのこと。日本においては、リスクや採算性を鑑みてなかなか手を出しにくいであろう試みに目が離せません。

後編では「サブスクリプションモデル」のビジネスが、近年目立って成功している背景と成功のポイントを考察していきたいと思います。

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