マーケティング活動を効果的かつ効率よく推進していくためには、自社製品・サービスのターゲットとなる「顧客」について深く理解するとともに、購買活動において時々刻々と変化する顧客の心理状態(インサイト)を正しく把握しておくことが大切です。

この記事では、マーケティング施策の企画・展開においてペルソナと並んで重要な要素である「カスタマージャーニー」について解説します。

カスタマージャーニーとカスタマージャーニーマップ

カスタマージャーニーとは、ひとことでいうと、設定したペルソナの行動や思考、感情を時系列で表したものです。直訳すると「顧客の旅」ですが、顧客インサイトの動きを旅に見立て、商品・サービスと顧客とのタッチポイントを洗い出すために使われます。

ペルソナの動きを見える化することで適切な場所、タイミングで、適切な情報を伝えることができるのです。

ある特定のペルソナ(※)のカスタマージャーニーを図表で表したものは「カスタマージャーニーマップ」と呼ばれ、近年、このカスタマージャーニーマップがマーケティング施策の企画・検討に広く活用されるようになってきています。

※ペルソナについては以下の記事をご参照ください。
ペルソナ活用のススメ 「顧客」を知ればマーケティングが変わる! 

カスタマージャーニーの作り方

カスタマージャーニーは、基本的には設定したペルソナに紐づけて作成します。関係者間で定義したペルソナを軸としてカスタマージャーニーを設計していくのが一般的な流れですが、ASIS(現状)のカスタマージャーニー、TOBE(あるべき姿)のカスタマージャーニーとマップを作り分ける場合もあります。

通常、カスタマージャーニーマップは、ペルソナの行動フェーズの遷移(情報収集→検討→来店→相談、見積もり→他社との比較→申し込みなど)を横軸に置き、「ペルソナの思考、タッチポイント、打ち手」といった要素を縦軸においた二次元の表のような形で表現されます。これにより、ペルソナがある段階から別の段階に遷移するためにどのような行動を起こすのか、その際にはどういった心理が働くのかといったことが明確になるとともに、それぞれのタイミングにおいてどのような場所(タッチポイント)でどういった施策を打つべきなのかを可視化することができます。

カスタマージャーニー設計のポイント

同じペルソナであっても行動のパターンが一つであるとは限らないため、必要十分なファクトを洗い出すのがカスタマージャーニーマップ設計時のポイントとなります。

例えば、自動車を買いたいと考えた消費者はまず情報収集を行いますが、情報収集の方法は一つではありません。インターネットで情報を検索する場合もあるでしょうし、最寄りのカーディーラーを訪れて営業担当者と会話する場合もあるでしょう。自動車メーカーにパンフレットを請求する可能性もありますし、最近ならSNSでフォロワーに質問を投げかけることもあるかもしれません。こうした行動を可能な限り洗い出したうえで、取捨選択するのが、カスタマージャーニーマップ作成時の重要なポイントとなります。

カスタマージャーニーマップ活用のメリット

では、カスタマージャーニーマップにはどのようなメリットがあるのでしょう?

最大の利点は、おのおののフェーズで顧客(ペルソナ)が取りうる行動を理解・把握できるため、先回りして適切なタイミングで適切な施策を打てるようになるということです。先程自動車を買いたいと考えている消費者を例に挙げましたが、ペルソナの代表的な情報収集のパターンが明らかになっていれば、そこに対してあらかじめ的確な施策を打っておくことが可能となります。例えば、情報収集の際にインターネットで情報を検索することがわかっていれば、自社サイトや比較サイトなどに自社製品の情報を掲載しておくことで、情報収集段階で見込み顧客とのつながりを作ることができます。

また、いま注目を浴びている「コンテンツ・マーケティング」においては、見込顧客が求める情報をコンテンツとして提供することで接点作りを行いますが、この際にもカスタマージャーニーマップが威力を発揮します。

各フェーズにおけるペルソナの心理、求めている情報を明確にしておくことで、どのようなタッチポイントにどんなコンテンツを準備しておくべきかが明確になり、コンテンツを用いた見込顧客との接点作りが効率的に行えるのです。

カスタマージャーニーマップの活用で施策の改善を図る

ここまででご説明してきたように、カスタマージャーニーマップを作成すると、顧客の行動や心理状態をフェーズごとに確認できます。そのため、各フェーズで打つべき施策をあらかじめ考えやすいというメリットが生まれますが、そのほかに、フェーズごとの課題の整理をしやすいという利点もあります。そして、それらの課題について、現行の施策のどこを改善すれば解決に至るのかを考える際にもカスタマージャーニーマップは大いに活用できます。情報が目に見える形でまとまっているので、アイデアの共有がしやすく、改善案を出し合う際のブレインストーミングにも役立つでしょう。

具体的にどんな施策の改善を目指すことができるのか、いくつかの例をご紹介します。

営業活動の改善

タッチポイントが「営業担当者の訪問」であった場合、その営業活動の結果、顧客にどんな行動や心理状態の変化があったかをカスタマージャーニーマップで整理してみます。その際、実際に顧客が示した反応のほかに、顧客へのアンケートで寄せられた意見をまとめるのもよいでしょう。その結果、例えば営業担当者の知識や話し方などに問題があるという課題が発見できれば、それらの点を見直すといった方法で、営業活動の改善を目指すことができます。

リピート率の改善

例えば、衣類の通販サイトにおいて、「リピート率が低い」という課題があった場合、どのフェーズの、どういったシーンで問題が生じているかについて仮説を立ててみます。そして顧客へのインタビューやアンケートを通じてその仮説の検証を行い、リピート率アップにつなげるといった改善策が考えられるでしょう。初回購入者数がかなり多いのにリピート率が低い場合には、販売サイトのデザインやプロモーションは魅力的でも、「商品の到着が遅かった」「衣類の品質が想像より低かった」といった問題がある可能性もあります。そういった仮説やその検証の結果をカスタマージャーニーマップに整理し、商品の品質やサービスの見直しを行うことで、リピーターの増加を目指すことができるでしょう。

店舗運営の改善

実店舗への来客数が少ない、あるいは顧客の滞在時間が短いといった課題がある場合も、カスタマージャーニーマップを利用できます。マップをもとに、来店前後のどの段階で問題が生じているかについて仮説を立て、スタッフへのヒアリングやその他の調査によって、その仮説を検証してみます。例えば、「スタッフの声掛けのタイミングが遅い」という仮説を立てたところ、SNS上での調査において、「店の照明が暗すぎる」「ウィンドウディスプレイが魅力的ではない」といった別の問題が明らかになる場合もあるでしょう。そのように新たに判明した問題も合わせてマップに整理し、店舗運営の改善につなげることができるでしょう。

BtoBにおけるカスタマージャーニー

ここまでは、一般的なカスタマージャーニーの設計や活用の方法などをみてきました。これまでご説明してきたことは、BtoC、BtoBのどちらでもベースとなるものですが、ここでBtoBビジネスにおけるカスタマージャーニーならではの特徴についてもご紹介します。

複数の人が購買の決定に関わる

BtoBの大きな特徴のひとつは、購買の決定に複数の人の意思が関わってくるということです。

BtoCであれば、1人の個人がある商品を購入することを決めれば、すぐに売買契約の成立へと進めるところ、BtoBの場合は、直接の担当者のほかに、関連部署や経営層の判断も仰がなければならないことが多いでしょう。カスタマージャーニーの作成時にも、それらの意思決定者をすべて把握したうえで、そのなかのキーパーソンについて特に詳しい情報を収集するといったステップが必要になります。

購買プロセスの複雑化・長期化

上記のように「複数の人が関わる」ことの結果として、購買のプロセスがBtoCに比べて複雑化・長期化することが多いのもBtoBの特徴です。

例えば、ある部署で新たな什器(例:書庫、パーティションなど)の購入が必要となった場合、その什器を共有する部署との話し合いや、他部署への同時導入およびリースの検討など、購買を決定するまでにいくつものプロセスを経ることが予想されます。そういった場合に、どのようなプロセスで、どんな情報が必要とされ、それらをどのタイミングで伝えれば効果的かをカスタマージャーニーマップで探っていく必要があるでしょう。

BtoCと比較して購買に至るまでのステップは長くても、「適切な場所、タイミングで、適切な情報を伝える」という点は同じです。常にその基本に立ち返って顧客の必要な情報をベストタイミングで提供できるように準備しましょう。

カスタマージャーニーの活用で顧客インサイトをより深く理解する

以上、本記事では顧客の行動や心理状態を可視化するカスタマージャーニーという分析フレームについて解説しました。

カスタマージャーニーは、人々の価値観が多様化し変化も激しいなかで、顧客インサイトの理解を促進するための強力な手法として注目されています。うまく活用すれば、さまざまな場面でマーケティング施策の効果を高められるようになるでしょう。

現在、カスタマージャーニーを自社のマーケティング戦術に取り入れていないという方は、ぜひこの機会にカスタマージャーニーのメリットを理解し、今後の活用について検討してみてはいかがでしょうか。

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