丸の内エリアから最先端のデータ活用によるイノベーションをめざす「丸の内データコンソーシアム」と、多様化する女性のインサイトを研究するマーケティングラボ「WIC@LAB(ウィカラボ)」。今、この二つの共創による女性ペルソナデータを活用した新プロジェクトが進んでいます。
「丸の内データコンソーシアム」の運営に携わる三菱地所の小松原綾さま(写真左)と「WIC@LAB」を主幹する共同印刷の吉丸滋美(写真右)による対談の後編では、現在取り組んでいる新プロジェクトの内容から、女性ペルソナデータの可能性、そして5年後・10年後を見据えたデータ利活用のあり方まで語り合っていただきました。
[全2回]

社会的な付加価値の提供をめざすレジレス型店舗「FANTRY」

——丸の内データコンソーシアムとWIC@LABが共同で取り組んでいるワークショップについて

小松原:現在、丸の内データコンソーシアムとWIC@LABでは、マーケティングプラットフォーム「ペルソナキューブ」を活用して、3月4日に東京・有楽町の有楽町ビル1階にオープンした「FANTRY」の品揃え(MD)コンセプトを検討するワークショップを開催しています。「FANTRY」は、おにぎり、サンドイッチ、お弁当、サラダなどの品揃えを中心に、近隣および東京都内にある評判の飲食店やお店などから仕入れた魅力的な食料品を取り揃えた、レジレス型の食料品店舗です。ユーザーは好きな商品を見つけたら、店内・店外に関わらずオフィスのデスクなどでも、アプリでバーコードをスキャンしスマートに決済ができます。また、アプリの決済情報と行動解析技術を活用し、どこに、どの程度、何の商品を補充するかなどを解析することで、ユーザーのニーズを満たしながら食品ロスの削減をめざしています。

FANTRYサイト:https://fantry.jp/

「FANTRY」外観

「FANTRY」店内

スマートフォン決済

小松原:この店舗のメインターゲットは幅広い年代の女性ですが、オープン当初より課題となっていたのが品揃えでした。店舗の陳列棚を見みると、美味しそうなチョコレートやおしゃれなドリンクなど、女性を意識した品揃えになっているのですが、あくまで“女性が好きそうなもの”であり、データ分析結果を商品選定に反映できている訳ではありませんでした。丸の内データコンソーシアムで吉丸さんから「ペルソナキューブ」のお話を伺い、「女性のペルソナデータを活用することで、より女性に響く品揃えにできるのでは」と考え、共にワークショップを企画することにしました。

吉丸:私も実際に店舗へ伺ったところ、さまざまな産地の健康飲料水を仕入れているなど商品設定が工夫されており、とても面白い店舗だなというのが第一印象でした。また、商品を選んだらそのままピックアップして会社の席に戻ってから会計できる仕組みも、忙しい丸の内OLには嬉しいはずです。一方で、どこにあるのか、何のお店なのかが少しわかりにくく、もったいないなという印象も抱きました。「FANTRY」は、仰るように社会的な視点からもフードロス削減やオフィスワーカーの時間の有効活用などさまざまな付加価値があると思います。しかし、そこに付加価値があることを明確に伝えないと、忙しい女性は興味を示すことなく通り過ぎてしまうので、どう伝えていくのかが今後の課題ですね。

小松原:そこも「ペルソナキューブ」のデータを活用して改善したいところです。現在、ワークショップでは5~6人ずつの3グループを構成し、品揃えをどう改善していくかのアイデア出しやデータ分析を行っています。吉丸さんには、女性のニーズに関する基礎データをご用意いただいて、次はペルソナデータを活用して各々のペルソナに対してどのようにアプローチしていくかを検討したいと考えています。

吉丸:現在は新型コロナウイルス感染拡大の影響によりオンラインでのワークショップを行っており、このスタイルも初めての試みですね。

小松原:私も丸の内データコンソーシアムでワークショップは何回も経験しているのですが、オンラインでのワークショップ開催は初めてです。オンラインでは発言の整理が難しい面があるので、各チームに司会進行役を付け、書記やシステム操作などの役割分担も行っています。

ボタン一つで手軽にデータ分析ができる「ペルソナキューブ」

――「ペルソナキューブ」の特長や可能性、今後の期待について

吉丸:「FANTRY」の課題解決のためのワークショップでご活用いただいている「ペルソナキューブ」は、20代から60代の女性10,000人へのアンケートデータを内蔵したマーケティングプラットフォームです。カテゴリとしては、データ分析ツールやビジネスインテリジェンス(BI)※の分野に属するものだと思います。大きな特長は、すべてのデータがペルソナを接点として結びつき、解析のメインとなっているところです。分析ツールのなかにはポジショニングマップやキーワードマップなど、多変量解析のアウトプットを出せるものはありますが、これらで分析する場合、まずローデータがあってその分析軸を一生懸命考えながら見ていかなくてはなりません。「ペルソナキューブ」の場合、その過程を省いて、まずペルソナがあって、このペルソナたちにどういう影響変数があるのかという視点で見るところから始められます。絞り込みのパラメーターを操作するだけで「こんな人がいる」「こういう好みがある」ということがすぐに見える化できます。普段、分析をしない方や他の業務と並行されている方でも、手軽にデータ分析を始められるツールとして開発しました。

※経営・会計・情報処理などの用語で、企業などの組織のデータを、収集・蓄積・分析・報告することにより、経営上の意思決定に役立てる手法や技術

図1:ペルソナキューブのイメージ

ペルソナキューブのイメージ

図2:ペルソナ詳細画面(例)

ペルソナ詳細画面

図2.ペルソナ詳細画面

小松原:どんなに便利なツールでも、使いやすくないと途中で断念してしまいますから、手軽さや使いやすさは普及する上で非常に重要だと思います。私も「ペルソナキューブ」を使いましたが、一目でペルソナとその傾向がわかり、しかもアウトプットはグラフできれいに可視化されるので、非常にわかりやすいと感じました。また、さまざまな軸で解析ができるようになっており、自分が見たい観点で自由に選択もできるので、単に見ているだけでも面白いです。不動産業界の目線として、「丸の内OLはどういうものが好きなのか」という特定の地域の傾向が気になります。今後はそういった地域ごとの違いも見えると面白いかもしれません。

吉丸:「地域による違いがあるとよいのでは」「丸の内OL、新宿OL、大手町OLで分けて傾向を探れないか」というご要望は、富士通さんからもお寄せいただいています(笑)。仰るように、そういういった地域による違いはあると思いますので、エリアがインサイトを定義するようなパラメーターは今後増やしていきたいと思っています。

データの利活用で社会貢献・環境貢献の道筋も見えてくる

——これから5年後、10年後の「データビジネス」のビジョンについて

小松原:当社はデータを集めて、活用する第一歩を踏み出したばかりですが、データを取得して何に使うのかを考えたとき、徐々に見えてきたのは「データの利活用は社会貢献・環境貢献にもつながる」ということです。例えば当社では、昨年、株式会社グルーヴノーツとともに、AI や量子コンピュータを活用し、東京・丸の内エリアにおいて廃棄物処理のルートを最適化する実証実験を行いました。この実証実験では、廃棄物量のデータ等をもとに、どう収集・運搬したら効率的かを量子コンピュータで分析しました。その結果、収集・運搬ルートの最適化によってCO2排出量を57%も削減できる可能性があることがわかったのです。現在、このデータをもとに今後どのように運用していくかを検討しているところですが、蓄積したデータを使って最適解を導き出しビジネスに反映させていけば、最終的に社会貢献・環境貢献にもつながっていくので、大いに期待しています。

三菱地所ニュースリリース:AI や量子コンピュータを活用した廃棄物収集の運搬業務・経路の 最適化検証で CO2 排出量削減の可能性を確認

吉丸:さまざまな社会課題がビジネスに直結する時代ですので、おっしゃったようなデータの活用をしていくと企業も、社会も、地球もよい方向に向かっていきますね。

小松原:そうですね。そのためには、データを使うことが、もっと当たり前になればよいなと思っています。現在は、いざデータを活用しようと思っていても、まず必要なデータを探し、何に使うか頭を悩ませ、1年がかりでようやく反映できるというように非常に時間がかっています。
データを見ることが日常的に行われ、使うこともスピーディに行われるサイクルが出来上がれば、お客さまにも、社会にも、地球にも貢献できることが増えていくと思っています。他の企業と「こういうデータを探しているのですが、ありませんか?」「こんなデータが出たので、使ってみてください」などと連携できると、相乗効果が発揮され、データ利活用の共創が当たり前になっていくのではと感じています。

吉丸:三菱地所さんは、データの利活用を普及させていく上で、今後どのような位置付けで活動をされていくのですか。

小松原:「スマートシティ」というキーワードが注目されているように、街づくりの中でデータ利活用の位置付けが高まりつつあります。
現在、株式会社unerryと共に取り組んでいるビーコンを使った位置情報の活用も、当社がエリアをマネジメントしているからこそできる取り組みです。例えば、エリア内の人の動きに関するデータを活用することでイベントを盛り上げたり、店舗の売り上げを伸ばしたりすることができたら、エリアの魅力向上につながります。このように、できることから始めていくことが重要だと考えています。

[後編まとめ]データの利活用が“当たり前”になる時代を見据えて、向き合い方の議論を

——データの利活用を当たり前にしていくために、何が求められるのか

吉丸:データの利活用を当たり前にしていく上で、新型コロナウイルス感染症拡大の影響はとても大きかったと感じています。コロナ禍のなかで一歩も外に出られないという状況になり、多くの人が改めて実感したのが“データの力”だと思うのです。
データを扱える企業や人が、今後、ウィズコロ、アフターコロナのなかで生き残っていくことが浮き彫りになった。“データを使って当たり前の世界”はすぐそこまで来ており、そこに向かっていくサイクルも格段に速くなっていると感じます。

小松原:確かに、オンラインでやりとりをしないといけない状況が強制的につくられたことで、企業や人々の感覚が変わった気がします。企業の社員だけでなく上層部も含め、「オンラインで進めなくてはならない」と認識するきっかけになりましたね。

吉丸:ただ、5年、10年先を見据えたときのデータ利活用のあり方はもっと考えていかなくければなりません。
昨年出版された、『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』(藤井保文・尾原和啓 共著/日経BP社)という本を読みましたが、例えばある国では病院に行くと、すぐに保険の担当営業が電話をかけてくるくらいデータの流通や行動データの監視が進んでいる。もちろん、国が異なるので日本が同じ道をたどるとは考えづらいですが、そうした社会になるのが本当によいのかと考えると、データに対してネガティブな感情、不安な気持ちになる方もいると思います。ですから、5年後、10年後に“データ利活用が当たり前になる世界”になることを前提に、私たちは今どう変わっていくべきなのか、データをどう扱うべきなのかを、早い段階で考えていかなくてはならないのです。

小松原:そうですね。丸の内データコンソーシアムでも、さまざまな企業と連携してこの先のデータ流通のあり方を検討していきたいと考えています。

吉丸:ウィズコロナでは本当に思いもよらないことが次々に発生しています。昨日まで順調だった業界が一気に打撃を受ける一方、急激に需要が伸びて対応が追い付かない業界があります。ウィズコロナ、アフターコロナが続くと思われるこれからの時代、データやデジタルの力を活用して、誰かの課題を皆で解決する、アイデアを共創して、社会をよりよくしていく仕組みが、もっと必要になってくると思います。

多様化する女性のインサイトをとらえるマーケティングラボ WIC@LAB(ウィカラボ)
https://wicalab.com/

三菱地所株式会社

エリアマネジメント企画部 オープンイノベーション推進室

小松原 綾さま

2019年より三菱地所エリアマネジメント企画部オープンイノベーション推進室にてMarunouchi UrbanTech Voyagerプロジェクトを担当。丸の内エリアにおける先端技術の実証実験を企画実施するほか、丸の内データコンソーシアムを運営し、企業間でのデータ活用に取り組む。

トータルソリューションオフィス マーケティングソリューション部 担当部長

吉丸 滋美

1993年共同印刷入社後、クリエイティブ部門、営業企画部門、デジタルプロモーション部門、IT開発研究部門を経験しながら2009年にデータ分析サービス体制を立ち上げ。2015年、社内外メンバー参加型の「これからの女性市場研究会」をスタート。2017年に20~60代女性をターゲットにしたペルソナマーケティング支援サービス「ウーマンズ・インサイト・コミュニケーション(WIC)」をリリースし、2018年より女性ペルソナプラットフォーム開発に着手。2020年6月WIC@LAB(ウィカラボ)を発足しペルソナキューブをリリース。

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