アメリカ、中国などにおけるキャッシュレスの波がまさに今、日本にも押し寄せています。さまざまなプレーヤーが勝ち残ることを目指し、群雄割拠の様相を呈しており、通信キャリア関連の「PayPay」やIT企業が運営する「楽天ペイ」「LINEペイ」、銀行系サービスなど、消費者がどのサービスを選べばよいか、それぞれの違いがわからないくらいの数のプレーヤーでひしめき合っています。そのようななか、米国内において、一大プレーヤーがこの領域に参戦を表明しました、Appleです。

2019年3月に行われたAppleの新製品発表イベントで、iPhoneと連携させて使用するApple独自の新サービス「Apple Card」が発表されました。そして、いよいよ8月から一般ユーザーのもとに届きはじめ、その世界観に注目が集まっています。本記事ではその魅力に迫ります。

■Apple Cardとは?

Apple Cardとは、ゴールドマン・サックスとマスターカードとの提携のもとに展開されるアップル独自のクレジットカードです。このカードはもちろん、ただのクレジットカードではなく、Appleらしいユーザーの使い勝手をおさえたUX(ユーザーエクスペリエンス)がふんだんに盛り込まれています。消費者目線で考えぬかれた魅力的なキャッシュバックシステムなど、従来のクレジットカードにはないようなメリットが感じられ、まさに新たなAppleワールドを体験できるサービスといえるでしょう。

申請手続きも非常に簡単で、iPhoneのWalletを開いて数ステップで完了します。また、チタン製の物理カードも申し込むと数日で届きます。郵送されたカードにiPhoneを近づけると「アクティベート」ボタンが出てきて、それを押すだけで利用が開始できるというスムーズさにも注目です。まさに、iPhoneユーザーのためのカードであるといっても過言ではないでしょう。さらに、支払い/管理などがすべてWalletで完結できるようなUXの設計、よりApple Payの利用を促進するキャッシュバック制度などさまざまな特長があります。具体的にどのような特長があるのか、以下でご紹介します。

-魅力的で排他的なキャッシュバック

もっとも消費者の心をつかんでいると思われる特長は、キャッシュバックです。Apple Cardを使って買い物をした際にそれぞれ使い方によってキャッシュバックが得られます。iTunes storeや app storeなどApple関連での買い物の場合は3%、Apple Payで買い物をすることにより2%、マスターカードが使えるお店でチタン製の物理カードを使うことで1%のキャッシュバックが発生します。このキャッシュバックは使ったその日のうちに、“Daily Cash”として他の支払いに使用できます。Apple Cardのキャッシュバックが、従来型のポイント制度(月締めでポイント付与が付与されて、限定された場所でのみポイントとして使えるなど)と大きく異なるのは、即座に各種料金の支払いやApple Pay、あるいは自分の銀行口座への振り込みも可能だという点でしょう。

ユーザー側は、毎日買い物した金額に応じて、“稼げている”という感覚を持てるともいえます。消費者の利用や購入意欲を巧みに刺激する、シンプルでわかりやすいメリットを、現代人が片時も手から離さないスマートフォンを通して提供しているという点でも学ぶべき点が多くあります。さらに、一般的なクレジットカードとは違い、入会金や年会費、手数料などがすべて無料です。遅延手数料もなく、一日毎に自分で支払いのタイミングをアプリ内で簡単に調整することが可能であり、クレジットカードを使うときの大きな懸念である、支払い日までにお金を銀行に準備しなければならないといったようなプレッシャーからも解放されます。

-家計管理もできるアプリの利便性

Apple CardはすべてがiPhoneの中のWallet内で完結するように設計されています。商品などを購入した際の実際の支払い、過去の使用履歴の確認など、すべての行動を一つのアプリ内で終わらせることができます。たとえば、過去の使用履歴を見ると、使用した場所の地図や使用した商品のカテゴライズが自動的に行われて、簡単に確認ができます。

また、サービス自体もシンプルにわかりやすく設計されています。現在、ショッピング、飲食、エンターテイメント、サービス、旅行、交通、健康の7つの支出カテゴリがあり、出費内容に基づいて仮想カードの色が変わっていくなど、一目でみて自分の消費行動が把握できるようになっています。今の残高が時間とともにどのくらいの利子になるかを確認ができ、円形のスライダーを使用すると、支払い金額を調整することもできます。支払いの準備ができたら、即座に支払うことで利息を節約することも可能です。――

-消費者のプライバシー/セキュリティーに対する対応

これ以外にも、Apple Cardは、セキュリティー面でも注目されています。従来のApple Pay等と同様に、touch ID、Face IDを活用することにより、本人のみが使えるように設計されています。基本的にアプリ内を経由して支払う仕組みとなっており、物理カードにもクレジットカード番号の刻印もないため、他人に利用されることもありません。その他、Apple以外のサービスを利用するためにクレジットカード番号が必要になっても、必要な時のみにランダムな数字が発行されるというシステムも導入されており、セキュリティーやプライバシーへの対処が施されています。ゴールドマン・サックスはApple Cardで取得できた消費者のデータは第三者に広告やマーケティングに活用されることはないとも宣言しており、昨今問題となっているプライバシーへの配慮も万全です。

■所有欲を駆り立てる物理的カードの魅力

Apple CardはiPhone上のバーチャルカードがメイン機能ですが、Apple Payが使用できない店舗でも利用できるように、物理カードも配布しています。この物理カードそのものも、実にAppleらしさを感じられるカードです。カードは初代MacBook Air同様のチタニウムを削って作られており、独特の高級感が漂います。表面にAppleのロゴ、EMVチップ、カード所有者の名前だけがあり、裏面もゴールドマン・サックスとマスターカード、カードの底辺までひろがっている磁気テープだけといういままでの商品同様のミニマルデザインです。このように、カード自体も、過去のiPhoneへの熱狂のように、Appleファンなどの所有欲を駆り立てているともいえるでしょう。

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■Apple Cardによって作り出される世界

ここまで、みてきたように、Apple CardはただのApple専用のクレジットカードではなく、Appleがこれまで世の中に生み出したiPhoneやMac Book、Apple Watchなどと同様に究極なまでにシンプルで、ユーザーフレンドリーなUX を感じられるAppleの新サービスです。

もちろん、従来のAppleファンが利用し、その世界観を楽しむということもあるでしょう。しかし、それだけではなく、今後の金融業界を揺るがすような大きな変革となる可能性も秘めています。Apple Cardは他の競合企業と比べて承認を受ける信用レベルがあまり高くなくてもよいとされています。実際、ゴールドマン・サックスは、対象者を「アメリカ市民または合法的に在住が許可されている人」としています。これは、これまでクレジットカードが持てなかった層、例えば学生などが手に入れるチャンスであるということです。このようなファーストクレジットカードユーザーをAppleがいち早く囲い込むことにより、その他のAppleワールド、昨今特にAppleが力を入れている「Apple TV+」(アップルのストリーミングサービス)などのサブスクリプション型サービスへのいざないともなり、ますますAppleワールドの裾野が広まることが予想されます。

2019年夏、米国において本サービスは開始され、広がりをみせています。今後、日本含め世界への拡大のゆくえ、それに伴う特に若年層を中心とした消費者行動の変化から目が離せません。

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