「Apple Pay」がアメリカで誕生してはや4年。その後、イギリス・カナダ・オーストラリアをはじめとして日本・ヨーロッパ諸国などにもサービスが広がっています。一方、アメリカではそれに対抗すべくさまざまな電子マネーやペイメントサービスが台頭。例えばウォールマート全店で導入されている「ウォールマート・ペイ」やスターバックスの「モバイルオーダー&ペイ」など、顧客数や店舗展開を武器に急速に広がっているサービスもあります。ここでは米国在住の視点から、実際に使用し考えられるApple Payと比較したメリット、その導入のポイントなどを解説します。

アメリカにおけるモバイル決済の利用状況

モバイル決済の代表ともいえる「Apple Pay」は、「マクドナルド」などのファストフードをはじめとし、ドラッグストアや「メーシーズ」などのデパートメントストア、「ベストバイ」や「オフィスデポ」など、家電量販店のチェーン店で多く利用されています。

2017年6月、米カリフォルニア州サンノゼで開催されたAppleの開発者会議「WWDC17」では、明確な数字は上げてはいないものの、Apple Payはアメリカにおいて約50%*1のストアで利用できるとのこと。それには全米トップ100の外食チェーンなど、140を超える企業でApple payでの支払いが可能です。モバイルペイメントワールドの調べによると、アメリカ人がモバイル決済を利用する人口は2020年までに1億5000万人に達すると予想され、消費者人口の約56%を占めることになると言われています。

スターバックスや外食チェーン独自の「リワード」

スターバックスは、4~6月の第3四半期の決算で「モバイルオーダー&ペイ」が注文の13%*3に達したこと発表しました。ドリンクのカスタマイズはもちろん、フードも注文でき受け取り時間もわかります。注文後は店舗で注文ステッカーを発行、バリスタはそれを元にオーダーを準備。店舗の混雑緩和とオーダーミスの予防、さらに細かなオーダーにも対応する狙いでしょう。さらに、アプリを利用すると「リワード(モバイルペイを利用するともらえる特典や割引)会員」として、使った金額・キャンペーンに応じてリワードポイントがたまり、ドリンクやフードの無料、割引の利用ができます。リワード会員数はすで1,900万人を超え、アメリカ国内において売り上げの40%*4に達していると言われています。

モバイルオーダー動画リンク:https://www.youtube.com/watch?v=lKTE4Mb5XFM

他にも「マクドナルド」や「ドミノピザ」・「ピザハット」・「パパジョンズ」などのデリバリーピザ、「チックフィレ」・「サブウェイ」・「チポトレ」など、数多くの外食チェーンがアプリによる注文・決済を導入しており、それぞれ独自のリワードシステムを行っています。注文から受け取りまでドライブスルーよりも短く、さらにリワードも受けられるので、わざわざ「店舗で注文→現金支払い→受け取り待ち」をするメリットは、もはやなくなったと言えるかもしれません。

ウォールマートペイが導入された背景

ウォールマートでアプリによるモバイル決済が導入されたのは2014年。多くのチェーンストアが将来的な移行を見越し「NFC(近距離無線技術)システム」を導入した時期です。これまではクレジットやデビットカードを採用していましたが、多くの競合店が導入し始めたのをきっかけにウォールマートでは独自の決済システム「ウォールマート・ペイ 」を導入しました。
独自性の背景には、消費者の決済方法がモバイルペイに移行しつつも、NFCでは一部のデバイスしか対応していないことがありました。その上、クレジットカードによる支払いの継続を望む消費者が多かったこともあり、独自のシステム導入へ至ったようです。しかしこれにより、結果として他のペイメントサービスとは異なる動きが可能となり、さらなる利用者を押し上げていくことになったのです。ウォールマートで、米国サービス部門を率いるDaniel Eckert氏によれば、「ウォールマート・ペイ」は現在 4,774店舗で利用されており、ユーザーの3分の2は3週間以内に繰り返し使っているとのことです。

差別化を図る武器「セービングキャッチャー」

さらに、ウォールマートでは「セービングキャッチャー(近隣競合店舗より商品の値段が高い場合、自動的に差額が還元される仕組み)」を導入、他店との差別化を図っています。ウォールマートで買い物後、購入商品が他店より高額だった場合、レシートをアプリでスキャンするとその差額分をリワードとして「キャッシュバック」されるのです。そのリワードは次回以降に割引として使えるほか、まとまった額まで貯めて使うこともできます。アプリには買った商品や競合店が行ったセール情報、差額分など細かく表示されます。

筆者もこれを利用し始めてからは他店での買い物はほとんどなくなりました。アメリカでは、毎週スーパー各社がBOGOセール(Buy One Get One:一つ買うと一つ無料の半額セール)を行います。そのため以前は、セールに合わせ毎週違う店へ行っていました。しかし、セービングキャッチャーで同様の割引が受けられる上、有効期限もありません。クレジットとの組み合わせでポイントが倍になるなど、買い物をすればするほど特典が受けられる仕組みになっているのです。我が家では、昨年1年で$100以上のキャッシュバックを受けました。

このように「支払い」というサービスにつけた付加価値によって、消費者の購買意欲をかきたてながら顧客満足度も上げ、自身の売り上げへつなげるという仕組みを作りました。そして、これによって競合店のセール品の値引きだけで、大々的なセールもせずに集客が可能となり「ペイメントサービス」を利用した好事例となったのです。その他にも商品の価格を調べる、商品を返品する、店舗で処方箋の受け取りなど、多様なサービスを展開しています。また、「楽天Kobo」や「Google」との提携で実店舗からオンラインへと展開を広げ、新たな顧客層をつかむべく動きも見せています。

まとめ

Apple Payはモバイル決済の先駆者となり認知度をあげ、普及に多大な貢献をしてきました。現在においては、他のデバイスでもNFCシステムを使ってモバイル決済を利用できるストアも増えてきています。しかし、モバイル決済がさらなる広がりを見せる今、他の付加価値で勝負をすべく次なるステージに入ってきているのかもしれません。

https://home.bluesnap.com/snap-center/blog/22-mind-blowing-mobile-payment-statistics
https://www.restaurantbusinessonline.com/technology/starbucks-mobile-app-goes-down
http://blog.livedoor.jp/usretail/archives/52057889.html
https://www.pymnts.com/earnings/2018/starbucks-rewards-mobile-app-stocks-loyalty
https://www.bloomberg.com/news/articles/2017-11-07/walmart-pay-threatens-to-surpass-apple-in-u-s-mobile-payments

おすすめ資料