10月25日(木)に開催した株式会社東洋経済新報社とのセミナー「業務効率化を実現する物流オペレーション改革~「自動認識技術」の活用で変わる物品・在庫管理業務などの最適化~」の、株式会社流通研究社 代表取締役社長、月刊マテリアルフロー 編集長、一般社団法人 日本マテリアルフロー研究センター 常務理事の菊田一郎氏による講演では、物流現場作業の自動化や省力化について解説されました。講演のポイントをご紹介します。
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業務効率化を実現する物流オペレーション改革~「自動認識技術」の活用で変わる物品・在庫管理業務などの最適化~ 「パネルディスカッション」
■講演のテーマ
多くの企業が取り組む、自動認識技術を含む物流現場の自動化と省力化は、生産性向上への解決策として、「1.テクノロジーの活用による圧倒的な生産性向上」と「2.協働による生産性向上」の2つの方向性があります。それぞれの具体的な事例を挙げ、それらが本当に現場で実現可能かを講演のテーマとしてお話したいと思います。
■我が国物流が直面する課題
日本国内の物流が直面する課題として、次の3つがあります。
- 1.構造的な人口動態変化
→総人口・生産年齢人口の劇的な縮小 - 2.物流需要の拡大=供給力不足
→EC需要の劇的拡大、利便性の徹底追求、アジア+グローバルサプライチェーン - 3.「働き方改革」の進展
→過重労働の忌避、「人権」宣言。物流も働き方改革を実施する必要性。
■国内物流が探るべき戦略・戦術
これらの課題を受け、次の2つの方向性による「生産性向上」が考えられます。
- 1.テクノロジーの活用による圧倒的な生産性向上
→IoT、ICT、AI、ロボティクス、マテハン - 2.協働による生産性向上
→物流共同化、コネクト&シェアリング・ロジスティクスなど、もはや一企業として取り組むものではないという「経営戦略」。
■「1.テクノロジーの活用による圧倒的な生産性向上」の事例
●コンビニエンスストアによるRFIDアイテムタギングの取り組み事例
「コンビニ電子タグ1000億枚宣言」達成をめざし、コンビニ、ドラッグストア各社が相次いで、商品へのRFIDアイテムタギングの実証実験を展開しています。最近では「無人コンビニ」も取り組まれています。また物流センターやメーカー、各コンビニエンスストアとサプライチェーンの間で、情報共有システムの構想があります。
●アパレルブランドによるRFID事例
アパレルブランドのBEAMSは、全店の商品にRFIDのアイテムタギングを実施しています。それによりお店での棚卸や物流センターでのピッキングや検品が容易になっています。物流センターでは、他の陳列されている商品のタグを読まないようにするなど、ピッキング効率化をはかっています。
●中国の先端流通・物流システムの事例
アリババ系のネットスーパー盒馬鮮生では、電子棚札を利用し、価格をリアルタイムに反映しているほか、ネットから注文があったものをピッカーが店内でピックアップし、チェーンコンベアでバックヤードの出荷センターへ運ばれていく仕組みを導入しています。
●JD.com/京東(ジンドン)グループの事例
アリババと並んで有名なJD.com 京東(ジンドン)グループでは、物流自動化先端技術で急速に進化しています。無人で商品を運ぶ自動運転車やドローンの開発を自社グループで始めています。自動仕分け機や搬送ロボットが動き回っているといった先進的な光景が見られます。
●良品計画のオートストアの事例
日本のオートストアの事例として、鳩山センターにオートストアを新導入した良品計画の取り組みがあります。入出庫作業を大きく軽減し、時間短縮を実現。パレットラックからの手作業による出し入れが問題でしたが、自動化を実現しました。ロボットの自動走行で、非常にスピーディーに入出庫ができるようになり、人の歩行距離をほとんどゼロにできます。3分の1~4分の1まで効率化を実現しました。
●アッカ・インターナショナルのAI物流ロボット導入の事例
AI物流ロボットを導入したアパレル・フルフィルメントの新鋭、アッカ・インターナショナルのECファクトリー千葉では、「ALIS」というECデータ一元管理連携システムを持ち、お店とECの在庫を統合的に管理して最適なフルフィルメントを行っています。その物流現場において、AIロボットを導入し、ロボットが必要な商品が陳列された棚ごと持ってくる仕組みを導入。人間が歩く必要がなくなりました。
●ASKUL(アスクル)のロボットハンド、シャトル自動走行方式の事例
ASKULは、BtoBに続いてBtoCでもLOHACO(ロハコ)を展開し、EC物流で徹底的に自動化を進めています。ASKUL Logi PARK横浜ではEC需要の急拡大に戦略的対応をすべく、ロボット含む自動化物流を実現しています。ロボットハンドで商品を吸着するピースピッキングロボットの実証を進めつつ、人間の作業を代行するシャトル自動走行方式(GTP)の仕組みも導入しています。
●メイワパックスのトラックへの積み荷などを自動化している事例
メイワパックスの工場では、包装資材などの印刷に関する販促ソリューションをワンストップで行っています。無人フォークリフトをリニューアル導入し、作業サイクルを25%向上しました。印刷用のシリンダーを自動倉庫から印刷エリアまで搬送するラインにおいて、2台のレーザーガイド式フォークリフトがお互いを認識してコラボするコントロールシステムで従来以上に効率化しました。
●北陸トラック運送の完全デュアル方式のデジタル集品システムの事例
総合物流会社である北陸トラック運送では、完全デュアル方式のデジタル集品システムを導入しています。これは人間との共生的システムで、デジタルピッキングを一歩進め、完全にデュアル方式で効率化するものです。上の段と下の段に分かれており、2ラインを同時に作業することで手間を減らしています。また、LEDのグリーンランプで人の導線を示すという「人間の作業を支援する仕組み」も取り入れています。
●GROUND(グラウンド)のコンテナ搬送ロボットの事例
テクノロジー活用の物流ソリューションを提供するGROUND社は、バトラーという搬送ロボットの国内代理店。これまで紹介されてきたGTPタイプ(自動倉庫や棚搬送ロボットなど)とは異なり、AMRロボットタイプ(自律モバイルロボット)です。GTPでは何千個もの棚を置き、人間が入れない区画を作る必要があるため非常にコスト高になりますが、AMRでは棚ではなくコンテナを搬送するロボットで、人間が棚からピックし、やってきたロボットが持って行くという仕組みです。自動化ロボットにはこの2種があり、両タイプの最適な組み合わせを考えていくべきと言われています。
●オリックスグループによるロボットレンタルの事例
AMRロボットは400~600万円と高額なため、中小企業が導入するにはむずかしい事情があります。そこで、オリックスグループが各種ロボットレンタルする提案をはじめています。
■「2.協働による生産性向上」の事例
●製造業パネルディスカッション・ライバルとの協働が進行
飲料、加工食品、日用雑貨業界の大手メーカーなど、企業の枠を超えた物流の協働化の取り組みが進んでいます。シェアリング、協働化によって生産性を向上していこうという取り組みです。加工食品業界では、協働物流会社を全国で立ち上げようとしています。こうして企業の枠を超えた業界での取り組みが進んでいるなか、業界をも超えた取り組みができないかと一般社団法人日本マテリアルフロー研究センター(JMFI)を立ち上げ、活動しています。
■結論に代えて~ヨーロッパ中世との相似から
もはや生産性向上なしには物流は回らない時代になっています。ヨーロッパ中世におけるペストの流行では「人口減少→賃金上昇→技術革新」という流れがありましたが、今、日本の人口減少の現状もこの流れに似ているとの見方ができます。同じように技術革新につながる良いサイクルが動き出している。それにはテクノロジーと協働の両方が必要ではないかと考えています。