人的資本とは、経済でいう「ヒト・モノ・カネ」の「ヒト」=人間の持つ能力を資本としてとらえた経済学の概念で、「ヒト」を知識やスキルなどの付加価値を生み出す源泉とみなす考え方です。
人的資本の定義に一貫したものはなく、国際機関や各国の会計基準などにおいても異なっています。
たとえば、経済協力開発機構(OECD)では「個人的、社会的、経済的厚生の創出に寄与する知識、技能、能力及び属性で、個々人に備わったもの」と定義されています。
また、内閣官房の非財務情報可視化研究会から公表された「人的資本可視化指針」では、「人材が、教育や研修、日々の業務等を通じて自己の能力や経験、意欲を向上・蓄積することで付加価値創造に資する存在であり、事業環境の変化、経営戦略の転換にともない内外から登用・確保するものであることなど、価値を創造する源泉である『資本』としての性質を有することに着目した表現である」とされています。

人的資本と人的資源の違い

「人的資本」を企業の視点から見ると、従業員としての個人が持つ資質(倫理観、協調性、リーダーシップなど)や能力(知識、技術・技能など)を、企業の付加価値を生み出す「資本」とみなしたもの、ということになります。
人的資本と似た言葉に、人的資源がありますが、これは人材そのものを経営資源として位置づける考え方に基づいていて、人はあくまで消費する「資源」という考え方です。
一方、人的資本は従業員のスキルや知識を「資産」として捉える考え方であり、人は「資本」となり組織の価値を向上させるものです。
つまり、「人=従業員にかかる費用がコストとみなされるか、投資として捉えられるか」が大きく違います。
これを企業の視点から見ると、従業員としての個人が持つ資質(倫理観、協調性、リーダーシップなど)や能力(知識、技術・技能など)を、企業の付加価値を生み出す「資本」とみなしたもの、ということになります。

人的資源 人的資本

人的資本の情報開示における国内外の動向

近年のESG情報開示要請の高まりを受けて、人的資本に関する情報開示についても義務化が進んでいます。
企業が従業員のスキルや能力、知識などを報告することで、投資の評価などに反映していく流れが強まっており、 ESGのSocial(社会)の部分に含まれる「人的資本」について、2018年には世界初の人的資本に関する情報開示ガイドラインとして、ISO(国際標準化機構)が ISO30414を公開。
企業の人的資本状況を定量化することを目的に、人的資本の情報開示について基準が明確化されました。また、2020年にはSEC(米国証券取引委員会)も、人的資本に関する情報開示の義務化を公表しています。

こうした中、日本国内でも情報開示の義務化への動きが顕著になっており、2021年6月施行の改訂版コーポレートガバナンスコードにおいては、人的資本に関する情報開示が求められています。
海外では、前述のISO30414をベースとする人的資本情報開示の義務化と、これに準拠した「人的資本レポート」の発行が増加しており、日本も同様の方向へ進んでいくことが予想されます。

人的資本経営とは?

経済産業省では、人的資本経営について「人材を資本として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方」と定義づけています。これは、人的資本経営の重要性などを取りまとめ、2020年に経済産業省が公表した報告書「人材版伊藤レポート」を基点としており、世界的な潮流となりつつあった人的資本経営への注目が、このレポートを機に日本国内でも高まるようになったと言われています。

それでは、人的資本経営と従来の人材戦略はどこが違うのでしょうか。それは、先ほど紹介した「人的資源」と「人的資本」の違いと同様に、人材を「資源」と捉えるか「資本」と捉えるかという視点の違いとなります。
これまでの人材戦略では、人材の管理をコストとして捉え、人材をいかに効率的に運用するかが重視されていました。

それに対して、人的資本経営における人的資本とは、価値創造に向けた投資です。例えば、成長分野の専門人材の採用や、教育への投資を増やすなど、成長戦略に紐づいた人材戦略を積極的に展開していきます。
そして、データや客観的な指標に基づいて意思決定を行い、企業と人材の双方が納得し、ともに成長していける環境構築をめざしていきます。

日本国内の人的資本経営に関する動向

2022年8月に、人的資本に関する情報開示のガイドラインとして、内閣官房の非財務情報可視化研究会が「人的資本可視化指針」を公表しました。
主な開示事項としては、人材育成、従業員エンゲージメント、ダイバーシティ、健康・安全、コンプライアンス・労働慣行などが挙げられています。また、上場企業に対しては、2023年3月期以降、有価証券報告書において人的資本に関する情報開示を行うことも義務化されました。

人的資本経営の気運は今後ますます高まっていくことが予想されますが、人的資本経営にはどのようなメリットがあるのでしょうか。人的資本経営には大きく5つのメリットがあると言われています。

  1. 1. 従業員の能力を可視化できる
  2. 2. 生産性の向上につながる
  3. 3. 投資家の注目に応える
  4. 4. 従業員エンゲージメントの向上
  5. 5. 企業価値向上(ブランディング)への貢献

人的資本は無形資産の中で「経済的競争力」に分類され、企業の競争性を大きく左右し、人的資本投資に注力する企業ほど、競争性の高い企業だと評価されます。
財務省のデータによると、人的資本の投資収益率は非常に高く、有形資産への投資収益率が20%であるのに対し、人的資本への投資は約50〜60%となっています。
人的資本自体の効果に加えて、他分野の投資とのシナジーも期待されており、人的投資に積極的な企業は、機械・ソフトウェアといった設備投資や研究開発などへの投資でも、高い結果が出やすい傾向があります。

さらに今後はISO(国際標準化機構)のサステナブル経営に関するガイダンスIWA 48やTCFD(気候変動)、TNFD(生物多様性)に続く人的資本に関するTISFD(不平等・社会関連財務開示タスクフォース)など新しいフレームワークが立て続けに発効されます。
人的資本への取り組みと情報開示が、企業の競争力と評価に大きな影響を与えるのは確実な状況であり、組織の規模の大小を問わず、積極的に取り組みを進めていく必要があると言えるでしょう。

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