2026年版統合報告書の傾向と対策を解説するシリーズ企画の2回目は「トップメッセージ」を取り上げます。
発行企業が1200社を超え、IR領域のツールから企業コミュニケーションの基幹ツール
となった統合報告書。そのコンテンツのなかで読者が特に注目するが「トップメッセージ」です。なぜなら、継続的な企業価値の向上に向けた経営トップの「統合思考」をうかがい知ることができるコンテンツだからです。
そこで今回は、多くの企業の統合報告書の制作を支援しているコンサルタントの山内 由紀夫氏と、共同印刷の専門チームのディレクター 松本 愛美に、統合報告書の「トップメッセージ」の傾向、コンセプト、重要な要素、事務局レベルで配慮すべき点について対談していただきました。

〈ファシリテーター〉HintClip編集長 杉山 毅

統合報告書のトップメッセージの傾向

松本:統合報告書のトップメッセージには、どのような傾向が見られますか?

山内:日本企業のトップメッセージはこの数年、質的な向上が加速しているように思えます。かつては単年度の業績報告や短期の戦略、株主還元についての説明が中心でした。

しかし近年はパーパスやビジョンを見据えて、自社ならではのアプローチで企業価値の向上をわかりやすく説く「価値創造ストーリー」を、経営者の目線から誠実に語るようなトップメッセージが多く見られるようになりました。

松本:社長が自身の経歴を振り返り、どのような経営哲学や考えを持っているかを示すメッセージも多くなりましたね。

山内:特に新任社長のメッセージでは、専門性や人柄、価値観を積極的に伝え、親しみを感じてもらおうと工夫を凝らすメッセージをよく見かけます。
会社の進む方向性や成長戦略もさることながら、経営者としてどのようにリーダーシップを発揮し、成果につなげていくのかを、自身の言葉で伝えることが重視され始めています。

トップメッセージのコンセプト

松本:統合報告書のトップメッセージは、どのようなコンセプトで作成するべきでしょうか?

山内:決算短信や有価証券報告書での業績報告に書かれているような内容表現や、ニュースリリースをなぞるような中期経営計画の概要説明だけでは、読者の印象に残るメッセージになり得ません。
メッセージの構成としては、経営理念の説明に始まり、強み、戦略、サステナビリティ、ガバナンス、結びのメッセージと続くのが半ば「定番化」しているようにも思えますが、情報の網羅性を重視しすぎると、「事務局主導でまとめあげたメッセージ」という印象が強まり、やはり読者の心に残りにくいメッセージとなりがちです。
大切なのは、「経営者として、今、何に頭を悩ませているのか」「限られた時間を、どのようなことに費やそうと決めているのか」という点にフォーカスし、メッセージを構成することです。統合思考を体現する立場にある経営者であれば、それらは必ず、中長期的な企業価値の向上につながる内容であるはずです。

一言で言えば、経営者が常日頃考えていることをトップメッセージとして発信すべきということです。

松本:型通りのメッセージでは、事務局が用意したものと投資家は見抜いてしまいますね。最近は、CEOがビジョンや戦略を、CFOはそれを支える財務戦略について語り、さらに人材戦略や事業戦略、リスク管理やサステナビリティ経営などを統括するCxOが登場して、強固な執行体制の存在を多面的に語る報告書も増えています。

山内:確かに、CEOだけでなく、CEOを補佐する執行部門の統括者がメッセージを発信する統合報告書が増えています。CEOメッセージにとどまらず、トップメッセージがさまざまな切り口から発信されるようになったと言うこともできます。
気を付けなければならないのは、各メッセージの内容が、縦割りにならないように配慮することです。例えば人材戦略にかかるCHROのメッセージであれば、自身の守備範囲の話だけに終始せず、CEOが旗を振る全体戦略への貢献や意思疎通、CFOなど他のCxOとの連携や部門横断的な課題への対応などについても触れてほしいと思います。

松本:そうすることで、CEOとの信頼関係が強固なこと、会社全体の執行がスムーズであることの説得にもつながりますね。

トップメッセージに重要な4つの要素

トップメッセージに重要な4つの要素

松本:統合報告書のトップメッセージにおいて重要な要素を教えていただけますか。

山内:長期投資家に対する説得を強く意識するのであれば、トップメッセージの発信に際して重視すべき要素は4つあります。
それは、「市場環境の見立て」「経営資本の活用」「経営の持続可能性」「リーダーシップのあり方」です。

1つ目の「市場環境の見立て」は、経営トップ自身が、短・中・長期で、市場動向や機会・リスクをどのように捉えているかについてです。それが読者である投資家の見立てと異なる場合には、投資家に新たな気づきを与えることにもなり得ます。意見の違いが対話の材料となることもあるでしょう。

2つ目の「経営資本の活用」は、企業価値の最大化に向けて、ヒト・モノ・カネなどの経営資本をビジネスや経営活動にどう配分するかの表明です。いわゆる「6つの資本」をうまく活用しますというだけでなく、どのような時間軸でどう配分することが企業価値の最大化につながると考えるのか、広い意味でのキャピタル・アロケーションについて、自身の考え方を示してほしいところです。

松本:なかなか難しい話です。例えば、中期的な注力事業を軌道に乗せるために、まずは採算度外視でその事業を支える人材の確保・育成に注力するとか、稼ぎ頭の事業で足元のキャッシュを稼ぎ、その一部を、10年後の新たな収益の柱として見込む新事業の開発活動に継続的に注ぎ込むといったようなことですね。

山内:3つ目の「経営の持続可能性」は、パーパスに込められた想いやビジネスとのつながり、社員への浸透に向けた取り組みや、ガバナンス、リスク管理、コンプライアンスといった仕組みの構築についてです。
先が見通せない時代にあって、事業環境がどのように変化しても柔軟に対応できる経営力、つまり経営のレジリエンスを高めることが、経営の持続可能性につながります。
ガバナンス体制については、単に体制を整えているという説明ではなく、自分たちのビジネスや企業風土を踏まえたガバナンス体制や取締役メンバーのスキル構成となっていることを、経営トップの言葉で丁寧に語ってもらいたいと思います。

松本:自社のビジネスモデルや企業風土にマッチした経営基盤やガバナンス体制づくりを、事業環境の変化も踏まえながら経営トップの言葉で語るべきということですね。「事業活動を通じて社会に貢献します」というフレーズも、多くの企業のトップメッセージで見られるように思います。

山内:当然ながら、民間企業は慈善活動を目的としている訳ではありません。ただし、社会との共存共栄が期待できない会社は長続きしないとも考えられています。
ビジネスモデルや経営が社会・環境に対して確かなポジティブ・インパクトを及ぼしつつ、継続的な企業価値の向上につながるものであるか否かを、多くの投資家は見極めたいと思っています。
それゆえトップメッセージでは、「こうやって社会・環境に貢献します」ではなく、「社会・環境に貢献するビジネスを、こうやって企業価値の向上に結び付けます」と発信してほしいのです。

そして、4つ目の「リーダーシップのあり方」については、企業価値を最大化、持続可能性を高めるために、経営トップがどのようにリーダーシップを発揮するのか、自分の使命をどのように考えているのか、自身の経営哲学や強みを踏まえて想いを語ることが重要です。

松本:リーダーシップが伝わると、この社長であれば逆境に立ってもやってくれる、安心できると感じられ、投資家だけでなく顧客や社員にも響く、魅力的なメッセージとなりますね。

トップメッセージにおける「一貫性」と「変化」の両立

松本:企業からは、長期的な考え方は変わらないため、どうしても同じような内容になるという悩みが聞かれます。

山内:毎年、ぶれずに同じことを伝えることに違和感はありません。特に初見の読者にとっては欠かせない情報であり、昨年と同じだから今年は省くという考え方は無用です。
一方で、事業環境が前年と同じということもありませんので、事業環境の変化を受けて、長期的なスタンスを変えることの要否を、自分なりにどう捉えているのかを伝えることは重要です。
ビジョンに向けた道筋のなかで、事業環境の変化を受けて中長期的な舵取りに影響あるのか否かを語ってほしいと思います。

松本:事業環境の変化に対する社長の考えや葛藤が伝わると、納得感が高まります。

山内:また、事業環境が変われば経営の重要課題も見直しが必要となるはずです。
特定したマテリアリティが10年前から変わっていないような会社もありますが、そのような会社のマテリアリティは、それが経営にとって本当にマテリアルな課題なのかを疑いたくなります。トップメッセージには、この点についての議論も含めるべきです。

事務局レベルで配慮すべき点

松本:トップメッセージの作成において、事務局レベルで配慮すべき点についてはいかがでしょうか。

山内:多くの統合報告書には価値創造プロセス図・ストーリー図がありますが、その図が意図するところを経営トップが把握していない、または腹落ちしていないといった状況に遭遇することも少なくありません。
まずは、価値創造図に対する社長の率直な意見を聞き、そのうえで、事務局が描くストーリーと社長の頭にあるストーリーのギャップを埋める必要があります。
加えて、統合報告書のトップメッセージはどうあるべきかを社長に理解してもらい、社長自身が描く価値創造ストーリーを、自身の言葉で語ってもらえるように働き掛けてほしいと思います。

松本:投資家と対話する前に、社内において統合報告書に対するトップの関与を高め、社長と粘り強く対話・説得することが重要ですね。

山内:そして、統合報告書の完成度を高めるためには、制作の早い段階から、社長に今年の統合報告書で伝えたいテーマや中面のコンテンツを伝え、トップメッセージの方向性や内容について詰めておくべきです。

松本:経営トップのメッセージが、CxOメッセージや価値創造プロセスなど、統合報告書の主要コンテンツと連動していると、全社が一体となって一つの方向に進んでいること、経営トップのリーダーシップがうまく伝わりますね。
社長への啓蒙や対話においては、事務局の方から言いにくいことも多くあると思います。そのような時は、多くの統合報告書の制作を手掛けてきた私たちを活用してほしいと思います。

「統合報告書の傾向と対策」 Vol .3の予告

「2026年版 統合報告書の傾向と対策」シリーズ企画のVol .3のテーマは「サステナビリティ開示」を予定しています。

【写真左】

山内コアバリューデザイン合同会社

代表

山内 由紀夫

都内信用金庫のシステム部門、証券運用部門、経営企画部門を経て、IR支援会社において企業分析、アニュアルレポート・統合報告書・サステナビリティレポートの企画・編集コンサルティングに携わる。2018年からはメディア系コンサルティング・ファームで企業の価値創造ストーリー構築を支援。2021年7月、山内コアバリューデザイン合同会社設立。

【写真右】

共同印刷株式会社

プロモーションメディア事業部 コミュニケーションデザイン部 ディレクター

松本 愛美

2020年に共同印刷株式会社入社。営業としてデータプリントやBPO業務を中心に幅広くお客さまの課題解決に向き合う。現在はクリエイティブ部門のディレクターとして、統合報告書の企画制作を中心に、IR活動の支援を担当。営業時代から一貫して「お客さまの課題解決」を大切にしている。

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