クリエイティブの品質管理について、役割の異なる3名のプロが語り合う企画の後編です。今回は「クリエイティブの品質をどう高めていくか」に焦点を当てます。制作・品質管理・校正に携わる3者が、ポジティブチェック、体制整備、DX・AI時代の取り組みなど、クリエイティブの品質向上の最前線を語ります。
(ファシリテーター:HintClip編集長 杉山 毅)
ポジティブチェックと「エンピツコメント」の意義
杉山:菅原さんは、前編では「ポジティブチェック」という言葉を使っていましたね。
菅原:「より良い表現にするための校正」という意味です。文脈上違和感があったときに、校正者がエンピツ書きで提案を入れることがあります。例えば、プレゼントキャンペーンを告知するページに「応募可能です」と書かれていたのですが、「『ぜひご応募ください!』としたほうが、応募意欲が高まるのでは?」とエンピツ書きでコメントしたところ、採用されました。
杉山:「エンピツ出し」や「エンピツコメント」と呼ばれているものですね。
寺田:エンピツコメントは、第三者の視点から「もっと読みやすく」「より伝わりやすく」するためのヒントをいただけるので、ありがたいです。問い合わせ・資料請求・購買などのコンバージョンの向上につながるケースもあります。
香山:カタログに注釈を入れたところ、「位置がよくないので、読者が誤認する可能性がある」というエンピツコメントをいただいたことがあります。とても助かりました。
杉山:生活者や読者の視点で、問題点に気づいてもらえるわけですね。
寺田:エンピツコメントがきっかけで、クライアントとの関係がより良好になることもあります。
杉山:なるほど。信用・信頼の醸成につながるわけですね。
品質管理は、企業のリスク対策にも役立つ
杉山:エンピツコメントには、ほかにどんな効果がありますか?
寺田:消費者や社会の視点からもチェックしていただけることですね。いわゆる「炎上リスク対策」としても有効です。例えば、クライアントの視点から見れば問題のない比喩表現でも、消費者に不快な思いをさせてしまうことがあります。
杉山:ほかにリスク対策の事例があれば教えてください。
香山:「類似表現」という問題もあります。私が担当している女性用インナーウェアのカタログでは高機能な下着を掲載していますが、競合他社の類似商品とコピーなどが似てしまうことがあります。競合他社の表現も、随時チェックしておく必要がありますね。また、デザインの類似というリスクもあります。ある通販会社さまのカタログでは、表紙に使うビジュアルが、著作権侵害に当たらないかを、当社の法務部に依頼して慎重にチェックしました。
杉山:菅原さん、校正校閲の専門家という立場からご意見をいただけますか?
菅原:私たち校正者は、こうしたリスクの回避に役立っているかもしれません。しかし、責任範疇を明確化する必要があると思っています。特に法律が深く関わる場合は、校正者のチェックに加え、専門家の意見が不可欠です。
杉山:当社では、法的リスクがある場合は法務部がチェックします。扱う商品によっては、医師など専門家の確認も必要ですね。
品質管理は「体制」が重要
杉山:品質管理は、立場が異なる人たちの「連携」で成り立っているのですね。
香山:体制づくりが品質を大きく左右すると思います。特に、いわゆる「定期物(定期発行カタログ)」や「厚物(大型カタログ)」では重要です。
杉山:どのように体制をつくっていますか?
香山:担当している月刊の定期物では常に4〜5号分が同時進行するため、全体統括するディレクターがいます。そしてページごと、あるいは商品カテゴリーごとに担当ディレクターを配置します。また、製版への入稿原稿の進捗状況の確認に加え、校正校閲に関する業務の取りまとめを担う、「デスク」という役割の担当者もいます。
杉山:さらに、デザイナーやコピーライター、フォトグラファーなどもいるわけですね。体制を運用するにあたり、気を付けていることはありますか?
香山:一番問題になるのが「情報管理」です。商品の仕様や金額などの変更があった場合、全スタッフにうまく共有できていないと、大事故につながってしまいます。クライアントに複数のご担当者がいる場合、情報が錯綜することがあるので、クライアントとの情報共有にも配慮しています。
杉山:情報はどのように共有しますか?
香山:ビジネス用のチャットサービスや、チーム向けのタスク管理サービス、クラウド型の共有ストレージなどをうまく活用しています。

「メディアミックス」における品質管理
杉山:情報共有は、紙のカタログのWeb化や、カタログのチラシ化など、別のメディアに展開する場合も重要になると思います。このような「メディアミックス」では、どのような品質管理をしていますか?
寺田:紙媒体をPDF化してWebで公開する場合は、校了データを使うようにしています。ただし、製版部門で画像などを調整していることがあるので、気を付ける必要がありますね。
杉山:紙媒体の情報を使ってWebサイトを作成する場合は、どうでしょうか?
香山:紙媒体とWebサイトは別チームになることが多いのですが、どのタイミングでWebチームに原稿を渡すかが重要です。紙媒体のほうが先行してスタートしますが、校了前にWebサイトの制作が始まるため、フィックスしていない原稿を彼らに渡す場合が多いです。校了データとの「擦り合わせ」を行う必要があります。
菅原:メディアミックスの場合、Webサイトに正しい原稿が使われているかを、校正者が確認することが多いですね。その場合、原稿の管理体制も把握するようにしています。
寺田:私たち品質管理ディレクターは、この点にも配慮するように工程を事前設計しています。例えばCMS(Content Management System/コンテンツ管理システム)を導入している場合、商品データをどのような形で管理・運用するかが重要になります。
DX/AI時代における品質管理とは
杉山:最後に、デジタル校正について話を聞かせてください。DX化の波は品質管理の領域にも及んでいるようですね。
寺田:メディアミックスが一般的になった結果、情報の一元管理が非常に難しくなりました。また、働き方改革でリモートワークが一般化したため、スタッフ全員がいつでも原稿にアクセスできる環境を整備することも必要です。さらに、赤字の散逸による事故を防ぐために、今後は「デザインレビューツール」の導入も検討したいと考えています。加えて、赤字の修正率や手戻り回数、校了までのリードタイムなどを数値化できるようしたいですね。これにより、品質管理ディレクターの設計業務が、より正確になると思います。
杉山:制作ディレクターとしては、どう考えていますか?
香山:デジタル技術は今まで以上に積極的に活用したいですね。デジタル校正やAI校正には、とても関心があります。一方で、いわゆるメケン(目で見ての検査=目視確認)のような、人の目で見ないと気付きにくい部分もあるので、デジタルとアナログの両方をバランスよく取り入れていきたいですね。
杉山:校正会社としては、いかがでしょうか。
菅原:当社では、AI校正の導入を検討中です。オンプレミス(ローカル環境)で運用すれば、クラウド型のAIよりも情報漏洩のリスクが低くなります。私は、AIはクレーンやブルドーザーのような「重機」のような存在だと思っています。人が直接力比べをするのではなく、重機を自在に扱う運転手のように、AIを使いこなすことで品質向上に貢献したいと思っています。
杉山:デジタル活用によって、クリエイティブの品質管理がさらに向上することを願っています。本日はありがとうございました。

【写真左】
共同印刷株式会社
プロモーションメディア事業部 生産管理部 品質管理課
寺田 勇生
2001年に共同印刷へ新卒入社。製版部門に配属後、制作部門へ移動。
マーケティング、デザイン、ディレクション部門など、さまざまな役割からプロモーション業務に携わる。
紙、Web、空間デザイン・イベント運営と媒体を問わない経験をもとに変化の時代に適応する品質管理体制の設計・運用に従事。
【写真中央】
共同印刷株式会社
プロモーションメディア事業部 生産管理部 品質管理課
香山 幸子
大手広告代理店での営業からキャリアをスタートし、その後はクリエイティブ業務へ。コピーライティングを中心に、企画立案からデザインまで幅広く携わる。
2012年に共同印刷へ入社後は、通販カタログを中心に情報誌・DM・リーフレットなど多様な媒体のクリエイティブを担当。現在は制作ディレクション業務を続けながら品質管理部門にて、校正校閲体制構築など制作プロセス全体の品質向上にも取り組んでいる。
【写真右】
株式会社ゼロメガ
代表取締役
菅原 秀宣
雑誌記者、ライター、校正者、校正会社役員を経て、2010年株式会社ゼロメガを設立。ゼロメガでは「日本の情報を、正しく。」を社是として、地方支社展開・多言語校正・BPO支援・校正隣接業務含むマルチタスク受注・AIの利活用による校正および文書生成など、従来の校正・校閲領域に加えて顧客課題の最前線での支援に取り組んでいる。
私たちがお役に立てること
想いをカタチに 企画編集/クリエイティブ
プロモーション活動の全体を俯瞰しながら、お客さまの求めるイメージを各種ツールへとカタチにします。
詳細はこちら
関連資料
-
-
マーケティング視点でつくる「企業情報誌」編集企画バイブル
資料をダウンロード

