CI、そしてコーポレートブランディング。Web上の情報やセミナーなどで考え方は理解できても、「具体的に何をし、どう進めればいいのか」に悩んでいませんか? そこで今回は、CI・コーポレートブランドの構築における実務のポイントをご紹介します。例として取り上げるのは、共同印刷株式会社が120周年事業として誕生させた新コーポレートブランドTOMOWEL(トモウェル)。HintClip編集部が、プロジェクトマネージャーを務めた元コーポレートコミュニケーション部長の杉山毅にインタビューしました。[全2回]

CIで、変革期における「理念と実態の齟齬」を解消する

――CIとコーポレートブランドを新たに構築することになったきっかけは何ですか。

杉山:一言で表現するならチェンジ(変革)です。一般的に、CIやコーポレートブランド構築は周年事業や事業構造の再編、事業領域の拡大、企業統合・合併、新会社設立など、企業にとっての変革期に行われます。
当社の場合は、印刷業を取り巻く環境が大きな転換期にあり、従来の印刷の領域を超えた事業が成長・拡大しているにもかかわらず、理念はまだ印刷事業を核として体系化されている状態でした。そこで、2014年6月にコーポレートコミュニケーション部から経営層にCIの導入を提案をしたのがプロジェクト開始のきっかけです。2017年に120周年を迎えるというタイミングも重なり経営層の理解が得られたため、2015年12月からCIが具体的に動き始めました。構築期間は2017年10月のコーポレートブランドの発表までの約2年でした。

実務で大切なのは、体制・啓発・一貫性

――ブランド構築で中心的役割を担うマネージャーの立場から考える「実務のポイント」は何ですか。

杉山:「社内のコンセンサス・ビルディング(合意形成)をいかに円滑に図るか」だと思います。調査分析やブランドコンセプト、ネーミング、デザインなどの検討の場でのファシリテーションも重要な役割ですが、私は社内調整により多くの力を注ぎました。具体的には、以下の3つのポイントを重視しました。
1つ目は「体制づくり」。意思決定が迅速で、かつ社員参加による全社横断型プロジェクトであることが理想です。
当社の場合、社長をトップとする「推進委員会」を組織しました。社長が参加することで、経営層の意思決定が迅速になります。
委員会事務局メンバーは経営企画部、広報部、法務部、事業部門、クリエイティブ部門などの代表者で、コンパクトに構成しました。少数精鋭にすることで、迅速で円滑な運営につながりました。事務局には外部の専門家を加えることも重要です。経営層は外部の中立的な意見には耳を傾けてくれます。
委員会事務局の下には全社の各部門から選出した委員を配置して、部門のとりまとめ役を担いました。委員のおかげで、社員の意見収集や、ブランド構築のプロセスごとの情報発信がより円滑に行えました。

2つ目は「インターナルブランディング(ブランド啓発活動)」です。大切なのは、初期段階から定期的に活動すること。CI導入の理由や基本方針を段階的に伝えることで社員の興味・関心が高まり、調査などにも協力的になります。決定したブランドネームやロゴデザインも、好意的に受け入れられます。

3つ目は「一貫性」です。ブランド構築の戦略やコンセプトからネーミング、ロゴデザイン、アウトプットする広告表現までが一貫した考え方で理論的に構築されていないと、社内の合意形成は難しくなります。プロジェクトのリーダーとしてブランド構築をブレることなく推進できれば、経営層から一般社員まで、多くの人が新しいブランド理念に納得できるはず。そこには必ずエンゲージメント(愛着)が生まれます。

今回の経験をもとに、CI導入とコーポレートブランド構築の概念図をまとめた資料をご用意しています。気になる方はぜひ下部の申し込み欄からダウンロードしてください。

コンセプチュアルで一貫性のあるコミュニケーションを展開

――外部発信などのコミュニケーション段階、いわゆるアウターブランディングでは、どのようなことに留意すべきでしょうか。

杉山:「コンセプチュアル(理論で裏付けされた)」な発信であることです。ブランドコンセプトを核として一貫性のある理論的なストーリーで企画制作することが重要です。

――具体的には、どのように「コンセプチュアル」や「一貫性」を実現しましたか。

杉山:以下の図1~3をご覧ください。
当社のコーポレートブランド「TOMOWEL」には、120年の長い歴史で積み上げてきた信頼と共同印刷らしさを大切にしながら、全社員が望む未来への想いを結集させました。人や社会や環境の課題を解決しながら、共に新しい価値を生み出し成長するという、CSRやCSV、SDGsと共通するソーシャルな想いが込められています。

共同印刷 企業サイト「トモウェルとは」

図1:共同印刷のコーポレートブランド TOMOWEL (ネーミングコンセプト)

001.jpg

図2:グループ全体のあるべき姿 TOMOWEL WAY(全体像)

002.jpg

図3: TOMOWEL WAY(定義)あるべき姿の明文化

003.jpg

「TOMOWEL」のネーミングコンセプトは「関わるすべてと共に良い関係であり未来を創り拡げていく」です(図1参照)。
このネーミングコンセプトにマッチした動画メディア「GetWel(ゲットウェル)」を当社のクリエイティブ部門が、2017年11月からスタートさせました。「クリエイティブな人の応援メディア」をコンセプトに、創造的な思考を身に付けたいと思っている方や発想のヒントを求めている方などに向けて、クリエイティブのヒントとなるコンテンツを、FacebookやYouTubeを通じて配信しています。
メインコンテンツである「クリエイターズ・インタビュー」では、当社に関わるクリエイティブな人たち(デザイナーやイラストレーターなど)に出演していただき、視聴者とつながることでソーシャルなブランディングメディアとなっています。

004.jpg

005.jpg
GetWel

もう一つのコンテンツはブランド広告です。TOMOWELのブランド理念は、グループのあるべき姿を明文化した「TOMOWEL WAY」として体系化されており、「PHILOSOPHY」「STANCE」「FIELD」「VISION」の4つの要素で成り立っています(図2・図3参照)。
「FIELD」には「私たちは“未来を開拓する者”である。すべての垣根を越えてつながり、生み出された恵みを生活・社会・環境に巡らせていく」とあることから、社員を“未来を開拓する者”として登場させるブランド広告シリーズ展開しています。実際の製品・サービスの担当者をモデルとして採用することで、社員のブランディングへの関心を高めています。

006.jpg

007.jpg
共同印刷 企業サイト「企業広告」

[前編まとめ]ブランドの浸透がエンゲージメントの実現につながる

――ブランド構築のプロセスも、外部への発信も、一貫性が大切だということがよくわかりました。

コーポレートブランドは、社員の「将来こういう会社になってほしい」という想いを表現するものです。創出すればいいということではなく、その後の育成も重要になります。社外や社内にしっかり浸透すれば、社員のプライドが醸成し、ビジネスを円滑に成長させ、お客さまや社会からエンゲージメントを獲得することができるのではないでしょうか。ブランディングは関わる人たちの気持ちを動かす活動であるべきだ、と考えています。

――社内でのブランド活動、つまりインターナルブランディングは、どのように展開しましたか?

社内に向けても、たくさんの取り組みをしました。この点については[後編]で詳しくお話しいたします。

kakui-portrait-small.jpg共同印刷株式会社 トータルソリューションオフィス ディレクター

杉山 毅
1982年共同印刷株式会社入社。商業印刷部門の企画営業を経て、1987年よりセールスプロモーション部門でクライアントの事業戦略・マーケティング戦略のプランニングから、広告・広報・販促の各種ツール・メディアのクリエイティブ・ディレクションを担当。2008年からコーポレートコミュニケーション部門にて広報、IR・総会、CSRなどを部長として担当。2017年の自社の創立120周年では、CIとコーポレートブランド構築を含む周年事業の全体を統括管理。2020年から4月から現職。

資料ダウンロード
「CI・コーポレートブランディングの考え方・進め方 基本の基本」

詳しくはこちらから▶▶

私たちがお役に立てること企業価値を高める周年事業コンセプトの明確化、ターゲットの設定、最適なツールの選択、安全な運営など、企画開発から運営まで幅広くお手伝ます。詳細はこちら 私たちがお役に立てること次代につなげる社史・年史制作共同印刷は多種多様な制作実績によるノウハウを生かし、強力なスタッフ体制で、貴社に最適な提案を行います!詳細はこちら

【関連記事】
【対談】共同印刷×COTOVIA CI・デザインにとどまらない、顧客や社会と共創価値を生み出すデジタル時代のブランディングとは?<前編>


おすすめ資料