日本プロモーショナル・マーケティング協会顧問で、統合プロモーション戦略センター主宰である坂井田稲之氏に、デジタル化により変化するプロモーションの現状についての解説と、今後のプロモーションの在り方についての提案をしていただきました。「情報取得環境の激変」と「購買行動」との関係など、坂井田氏ならではの統合的な視点のプロモーション理論からは、学ぶ点が多々あります。
(HintClip編集長 杉山 毅)

統合プロモーション戦略センター

主宰

坂井田 稲之氏

1941年:藤沢市生まれ/1964年:自由学園最高学部経済学専攻課程卒/1964年:(株)博報堂入社/2000年:日本プロモーショナル・マーケティング協会 専務理事/2001年:(株)博報堂退職/2016年:日本プロモーショナル・マーケティング協会 顧問

著書:『ニュー・セールス・プロモーション・ハンドブック』(日本能率協会)/『SPプランナー入門』(宣伝会議)『プロモーション企画技法ハンドブック』(日本能率協会)/『統合プロモーション企画入門』(宣伝会議)/『販売促進24の課題と72の回答』(宣伝会議)  
共同執筆:『広告に携わる人の総合講座』(日本経済新聞社)/『広告大百科・第8巻/経営と広告』(電通出版)/『現場発想のSP作戦』(日本能率協会)/『電通広告年鑑』(電通出版)/『サイン・アンド・ディスプレイ年鑑』(マスコミ文化協会)/『マーケティング・コミュニケーション大辞典』(宣伝会議)

1. 広告界の急速なDXとコロナ禍が、プロモーションの「存在基盤」を揺るがしている

■インターネット広告支出は、2019年に第1位に
インターネット広告は、旧来の広告メディアの弱みであった「ターゲティング力」「レスポンス機能」「成果把握性」という3つの強みで、広告メディアとしての合理性を広く認めさせた。

■守備範囲を拡大した“広告活動”
“広告界”は、このインターネット広告を取り込むことで、成果説明力を高め、従来の告知機能だけでなく共感形成力も高め、さらにはプロモーションの売り物であった「アクティベーション(行動喚起)機能」も取り込んだ。その結果、今や、広告とプロモーションの境目は、ほぼ消滅している。

■広告主の「セールスプロモーション」への期待は低い?!
他方、“SP界”は、人から人への伝達、商品への直接的な接触、人流や人々の密の演出、そして売り場の盛り上げなどのSP独自の強みがコロナ禍で「禁じ手」になり、大きな打撃を被った。
それだけでなく、広告界のDXによる広告とプロモーションの「境界消滅」も加担し、プロモーション関連支出は、不振と言われるマス媒体支出よりも大きく減退している(参照「2020年度の広告業売り上げ前年比」経済産業省特定サービス産業動態統計)。
なによりも、得意先のセールスプロモーションに対する重視度は低い。
アドバタイザーズ協会の2020年から2021年における「重点広告課題」調査では、提示の16課題中「セールスプロモーションの強化」への賛同率(複数回答)はわずか12.6%で8位の位置付け(1位は「デジタルマーケティングの実践」で同賛同率は66.7%)であった。

2020年広告業の売上前年比.jpg

2. 情報取得環境は激変した。だが「購買行動」はほとんど変わっていない

■「指名買い」率の低さは、なんと不変
購買行動は、大別すれば「購入前の検討」と「購買の決定」とに分けられる。購入前の情報取得・検討段階は、広告情報のDXで激変した。
しかし、購買行動の焦点である「ブランド指名買い」の低さは、コロナ禍でメモ持ち買い物やEC購買の傾向が強まったにもかかわらず、さほど変わっていない。
買い物全体のなかでのブランドの指名買い率は少ない。いわゆる「衝動買い=非計画購入」が、圧倒的だ。多くの買い物は、事前に購入ブランドを定めそのブランドを買う訳ではない。
売り場では、頻繁にブランドスイッチが生じ、知らないブランドの「試し買い」が多々行われている。買い物の多くは、今も昔も、思い入れの少ない低関与な行動である。

店内決定率.jpg※1(大槻): 原文は⇒大槻博(1982)「衝動買いはなぜ起こるか:小売業態別に見る」『消費と経済』(日本経済新聞社)第6巻第4号153頁 
※2(POPAI):1969年に広告代理店や印刷会社、POP 広告制作会社などが中心となり発足させたPOP広告協会日本支部 (現 日本プロモーショナル・マーケティング協会)の通称。

■ 情報取得の激変が「誤解」を生んだ?
商品情報の取得は、購買行動の一部である。だからその激変をもって、購買行動が変わったといっても「全くの間違い」とは言えない。
ただし、購買のもう一つの重要な部分である「購買決定行動」は、ほとんど変わっていない。前半の変化だけを見て購買行動の全体が様変わりしたと見るのは早計だろう。

■ 購買は、2つの対立軸で決まる。どちらかだけでは「二刀流」に負ける
購買には、いろいろな要因が影響する。だが、簡単に言えば「好きか嫌いか(認知・態度形成)」と「損か得か(購買動機付け)」の2つの軸で決まる。
だから、思い入れの少ない商品に固有の価値を付加し「指名買い」してもらう“長期記憶対策”(ブランドを好きになってもらう対策)は重要である。
一方、厳しい競争のなかでは、とくに競争相手がひしめき合い「ブランドの自己主張」の最激戦地である購買時点では、「購買の直接的な動機付け(損か得か)提示」つまり“短期記憶対策”が欠かせない。
それなのに、ブランドを好きになってもらうための“長期記憶対策(態度形成)”だけであったら「二刀流」には負けてしまう。

3. インターネット広告は「好きか嫌いか軸(認知・態度形成)」と「損か得か(購買動機付け)」の2軸に機能する

■情報提供だけでなく、応答行動を引き出すインターネット広告
インターネット広告はクリックさせることで、より詳しい情報や商品体験の要請、購買条件の問い合わせ、ECでは購買までを行わせる。
インターネット広告は態度形成と購買行動の壁を、難なく乗り越え、見事に「二刀流」を可能にして見せた。そして、旧来の広告とプロモーションの壁は消失し、広告と販促の一体化が進んだ。
かつては、宣伝広告部門の「空爆展開」と販促・営業部の「歩兵展開」の2つの軸で市場戦略が成り立っていた。だが、インターネット広告の幅広い可能性から、宣伝と営業の壁は崩れ、マーケティングDXの下に「広告部門」のインターネット広告基軸展開に一本化されつつある。


「インターネット広告」は、広告とSPの壁を崩した

インターネット広告は広告とSP.jpg

■ 圧倒多数の得意先では「リアルな店舗」での販売が主軸。依然、購買時点対策が重要だが…
とは言え「リアルな店舗」での販売が主軸の得意先は、圧倒的に多い(参照『2020年度の「売り場別」購入金額』商業動態調査/経済産業省)。ここでは、依然、販売店の店内施策の重要性は変わらない。それにも関わらず営業主導の店内展開は、多くが個別的・散発的にしか行われていない。
メーカーの購買時点施策の表現内容は「広告表現そのまま」が強まっている。
販促・営業部発の「購買形成」の側からの表現内容設定ではなく、態度形成目的からの表現設定が圧倒的である。
いわゆる「セールスキャンペーン型の展開」は、コロナ禍の影響もあってか減少している。
広告と販促の壁が無くなった結果、(恐らく無意識に)広告・販促コミュニケーションの全体が「態度形成目的」へと比重を移している。
だが購買は「好きか嫌いか」軸と「損か得か」の2つの軸で決まる。加えて消費の成熟は、思い入れの少ない低関与購買の傾向を強める。
激しさを増す購買時点競争に勝つには、「購買動機付け」が、ますます重要なはずだ。それにも関わらず、その影が薄まっている。なぜだろうか。

売り場別購入金額.jpg

4.EC購買率は8.08%、クリック率は1%という「不都合な事実」

■インターネット広告が、購買行動を完全掌握した訳ではない
「セールスプロモーション離れ」は、インターネット広告への傾斜に起因するところが少なくない。
確かに、商品情報の取得は、圧倒的にネット広告へと移行した。しかも、インターネット広告はEC購入では、正に、態度形成から購買行動までの促進を完遂する。
とは言え、経済産業省の2021年7月発表によれば「ECでの購入」が全産業(物販系)に占める割合はわずか8.08%に過ぎず、食品産業ではたった3.31%である。
またその「行動喚起力」では、広告表示数に対する平均的なクリック率(CTR(Click Through Rate)が、一般に1%程度だと言われている。

EC購入率.jpg

■購買動機付けは、依然としてプロモーションの最重要機能
インターネット広告は、態度形成段階での評価は疑うべくもない。それは、態度形成から購買動機付けまでの能力を持つ。
しかし上記の「事実」は、買い物全体のなかで果たしている購買動機付けが、さほど大きくはないことを示している。
買い物支出の9割以上を占めるリアルな店舗での購買動機付け策は、依然重要であり、プロモーションの購買動機付けという貴重性は、決して失われてはいない。
それにも関わらず、なぜ店内展開が個別的・散発的にしか行われず、以前は盛んであった広告から店内展開までを一体化した「セールス・キャンペーン型展開」が減少しているのだろうか?

5. 実は、売り場展開には「ブランド価値」だけでなく「売り場価値」が必要

■売り場の同意なくして、店内展開は実現しない
売り場での購買動機付け施策が後退している理由は、態度形成から購買動機付けまでのオールマイティというインターネット広告への過信だけではない。
店内展開の「実施」の難しさに原因がある。
売り場は、あくまでも販売店のモノであり、店内展開には売り場の同意が欠かせない。
売り場での購買動機付け施策は、メーカー側の一方的な要望では実現しない。
売り場の側とメーカーの側との双方が「ウインウイン」になる施策でなければ成立しない。

■ 売り場展開は、「売り場課題」を解決する提案でなければ受け入れられない
ブランドマーケティングではなく「カテゴリーマネジメント」が、売り場展開の実施には必要になる。販売店はブランドスイッチに興味は無い、買上げ客数が変わらないからだ。流通の側は、「売り場」の顧客変化(客数・客単価の増加)が課題である。
売り場展開は、ブランドと売り場の双方が「ウインウイン」でなければならない。売り場展開は、対消費者と対流通の「両面対策」なしには成り立たない。
売り場展開は「ブランド」のプロモーションであり、同時に「カテゴリー(売り場)課題解決)」のプロモーションでなければならない。この異なる2つの視点を持って、初めて今日の購買時点での動機付けは成り立つ。
消費者にとって、「ブランドを買うべき理由」が重要であると同じように、流通にとっても「ブランドを強調販売すべき理由」が重要である。消費者に対して「ブランド価値」の提示が必要なように、流通に対しても「売り場価値」の明確化が必要だ。

売り場価値はブランドの「売り場貢献度」.jpg

6. Trade Relations活動を組み込んだ新しいモデル「C&TR Promo.」

■流通とのRelations形成が大事になる
購買形成を求めるほど、流通の巻き込みが必要なる。さらに加えて「売り場価値」という「意味の伝達」が必要になるほど、「流通へのコミュニケーション」が重要になる。
また、主要な販売店への説得者である営業員の「説明力」を高める必要が高まる。
流通との戦略的協力関係(サステイナブルな販売協力関係)を形成するための体系(Trade Relations)が必要になる。

■Consumer&Trade Relations Promotionである必要
新しいプロモーションは、もはや旧来の“Consumer Promotion”の視点だけでは成り立たない。“Consumer&Trade Relations Promotion”でなければならない。
単に「店内販促資材」を提供するだけでなく、売り場にとってのブランド価値を納得してもらい、共に「売り場顧客」を開拓するメッセージを持ち、展開施策を共同実施し、ウインウインの関係強化を実現する必要がある。
そのために、販売店へのコミュニケーション展開“Trade Relations”の視点から体系的に行う。また、営業員の販売店指導力と店内展開実現力を高めるための「コーチング・プログラム」も同じく“Trade Relations”の一環として行う。
プロモーションは、消費者にブランドの価値を伝えるだけでなく、販売店の側に向けて「売り場価値」を伝える必要がある。 「このブランドは、売り場のどのような課題をどう解決するか」を明快に伝える必要がある。
しかも、消費者にとってのブランドの価値と、販売店の側にとっての「売り場価値」は、同じ一つのブランドから発するのだから、当然、相互に通じ合う「表裏の関係」でなければならない。

新しいモデル“Consumer&Trade Relations Promotion”

ドリレーション.jpg

7. プロモーションは「ブランド価値」を掲げて、販売成果に結実させねばならない

■消費者は低関与な選択を行いながら、決して「寛容」ではない
今日の購買動機付けでは、「売り場課題」への考慮が必要であると同時に、消費者の広告表現への厳しい批判に対する配慮が必要である。広告表現に「真っ当さ」を欠くとたちまち炎上する。他方で、人々の問題意識に的中した広告表現は、直ちに「いいね」を稼ぐ。
広告表現は厳格な消費者審査に耐えなければならず、かつてない見識が求められている。
この企業は、このブランドは、「どの側に立つか?」が銘柄選定の重い基準になり始めている。他方で、思い入れの少ない低関与な選択を進めながら、神経質と思えるほどの「厳しい選択基準」を懐深く抱えている。確かに低関与な選択を行っているが、だからと言って、消費者は決して「寛容」ではない。

■メッセージ性を備えて、当期目標達成に寄与する
ブランドの「メッセージ性」は、ますます重要になっている。
だが、プロモーションの役割は、当期の販売目標の達成に寄与することにある。
中長期の「ブランド・イメージ戦略」に第一義の役割がある訳ではない。
それにも関わらず、ブランド価値を消費者に向けて的確に「今買うべき理由」として翻訳し、同時に流通に向けて、ブランド価値を「強調販売するべき理由」として魅力的に言い換える。
今日のプロモーションは、購買動機付け施策にメッセージ性を加えて、確実に当期目標の達成に寄与しなければならない。

プラス「メッセージ性」で、当期目標の達成に寄与する

プラス「メッセージ性」で登記目標を達成に寄与する.jpg

8. SDGs潮流のなかでのプロモーションの新しい形

■急速な気象変動の深刻化が、SDGsを無視できなくさせた
いったい誰が、「SDGs」のこれほどの浸透を予想しただろうか。
異常気象による災害に加えて、全く予想もしなかった世界中の経済を狂わせるコロナ禍は、人が我が物顔で勝手気ままに生きることを、儲けた者勝ちの格差社会を、さらには個々人の尊厳の無視などを放置させないという機運を一気に高めた。
企業も、健全な社会があって初めてサステイナブルな活動が成り立つことを理解し始めた。事業活動を通じて、より住みやすい地球環境やより良い人間関係の形成に積極的に寄与すべきとの理解が進んでいる。
マーケティングも広告も販売促進活動も、積極的に社会や環境に良いコトづくりへ参画すべきとの認識が広まっている。

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■「売れさえすれば…」ではない「証し」が必要に
プロモーションの役割は、購買行動の促進であり、それも直接的な購買の動機付けである。
だが、今日の購買促進では、積極的に社会に良いコト、世間に納得が得られる「メッセージ性」を持つことが求められている。「売れればいい」ではない証しとして、社会に良いコトのメッセージが重要になってきた。
いずれの展開であっても、社会に良いコトを広げる一環としてプロモーションを位置付ける必要がある。

■ 皆が「グッドニュース」を待っている。良いコト提案の芽は、私たちの周りにたくさんある
今の世の中、問題が山積している。だから、誰もが「グッドニュース」を必要としている。問題の山積は、反対側から見れば、良いコト(スマートなコト、ヘルシーなコト、心温まること、地方を応援すること、正にグッドなコト)の提案の芽が、私たちの周りにたくさんあるということだ。

何か一つ、小さな一つでも良い。
「グッドニュース」をプロモーション・メッセージとして提案し実践する。
「良いコト」に結びつくプロモーションが、消費者の共感を得られれば、消費者同士のコミュニケーションで好意的に共有され、「ブランド価値」と「売り場価値」が高まることも想定できる。
そんな、メーカー・流通・消費者が共感できるプロモーション・メッセージを備えていることが、これからのプロモーションの一つのモデルではないか。

9. 共に!「グッドニュース・プロモーション」の提案

■社会に良いコト×素敵な売り場発信 “Good News Promotion”
社会に良いコト提案のムーブメントを「売り場展開」につなげ、顧客づくりを推進する
「グッドニュース・プロモーション」には、以下のような特長がある。

“Good News Promotion”

「グッドニュース・プロモーション」の5つの特長

  1. (1) ブランドの新需要開発
    プロモーションが第一に果たすべき「購買行動促進」を、とりわけブランドにとっての「新需要の開発」で果たす。
  2. (2) グッドニュース・ムーブメントづくり
    成熟した市場は、購買行動促進においても「社会性」を要求する。今、買うべき理由の「質」が問われている。社会に良いコト、みんなが嬉しいコトを提案し、実践する「グッドニュース・ムーブメント(活動))」で社会・消費者からの共感を得る。
  3. (3)「C&TR Promo.」体系の取り込み
    購買行動促進は購買時点に帰結する。しかし、圧倒的に多くの購買時点は流通業のモノ。購買時点活動には流通業との「戦略的協調」が欠かせない。そのため、“Consumer Promotion”と“Trade Relations”を組み合わせた「C&TR Promo.」の体系を取り込む。
  4. (4)「売り場価値」を流通と共有
    「グッドニュース」が消費者だけのものであるなら、売り場の協力は得られない。売り場にとっても価値のある「グッドニュース」でなければならない。対消費者の「ブランド価値」と一対で、売り場課題を解決する「売り場価値」を中心に“Trade Relations”を展開する。
  5. (5) デジタルとフィジカルの立体的な施策展開
    DXの進むなかで、各プロモーションの「実施施策展開」は情報伝達の個別化・双方向化・ソーシャル化を取り込み、多面的・立体的に構成される。

グッドニュース・プロモーションの計画フロー

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