コーポレートブランドの構築には、顧客や協力会社などの「社外向け」だけでなく、「社内向け」の活動もあります。これらは、互いに関係し合う車の両輪のような関係です。後編で今回取り上げるのは、社員を主な対象とした「インターナルブランディング」。当編集部が、共同印刷株式会社のコーポレートブランド「TOMOWEL(トモウェル)」構築プロジェクトのマネージャーを務めた元コーポレートコミュニケーション部長の杉山毅にインタビューしました。
[全2回]

インターナルブランディングは、「伝道師」を育てる活動

――「インターナルブランディング」とはどのような活動ですか。

杉山:インナーマーケティングとも呼ばれますが、文字通り会社の「内部」に向けての活動です。自社の理念やあるべき姿を、すべての社員に理解・共感・共有してもらうために行います。当社の場合は、グループ全社の役員から一般社員、派遣社員までを対象にしました。ブランド開発段階だけでなく立ち上げ後も継続する、長期的で横断的な活動です。

――運営体制はどのように構築しましたか?

杉山:全社横断的な活動を前提として、人選や組織づくりを行いました。

――なぜインターナルブランディングが必要なのでしょうか。

杉山:社員一人ひとりがブランドの伝道師だからです。コーポレートブランドを社外に発信・浸透するのは広告や製品だけの役割ではありません。電話の対応や営業活動、社会活動での、社員の意識や発言、行動もまた大きな役割を果します。確かな成果を得るためには、社員がブランドの理念・価値を正しく理解し共感した上で業務に当たる必要があります。社員一人ひとりが伝道師として社外とコミュニケーションすることで、アウターブランディングも円滑に推進できるようになるのです。

――具体的な「伝道」の例を教えてください。

杉山:当社の場合、「最高の伝道師」の一人は社長です。お客さま企業のトップにコーポレートブランドの理念を積極的に説明し、先方の感想を我々に報告しています。また、ある役員は会社行事の乾杯挨拶で登壇すると、乾杯の発声に「TOMOWEL」を使っています。大変ありがたい活動なので感謝しています。

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社員の会社へのエンゲージメントが、新しい企業価値を創出する

――インターナルブランディングは、社内に対して具体的にどのような効果がありますか。

杉山:インターナルブランディングにより、社員のエンゲージメント、つまり誇りや愛着といった感情が高まれば、社内が活性化してチャレンジ精神が旺盛になり、新しい価値が生まれやすくなります。具体的には以下の4つの効果があります。

①理念やビジョンの共有
②プライドの醸成
③モチベーション向上
④社員定着(離職率低下)と人事採用強化

①理念やビジョンの共有
社員の意識や行動の変革、全社の連携・団結の強化などを促し、企業風土を変える効果が期待できます。

②プライドの醸成
これが最も重要な効果だと思っています。「会社のあるべき姿・将来像」を、社員の想いを集結させて創り上げることができれば、社員は新しいブランドに誇りや愛着を抱くようになります。

③モチベーションの向上
②を通じて従業員満足度が高まり、社内が活性化してパフォーマンスが向上します。社員に、自ら学び、考え、行動する主体性が芽生えます。

④社員定着(離職率低下)と人事採用強化
②や③によって社員一人ひとりに「職場の環境を改善し、この会社に貢献して働き続けたい」という気持ちが芽生えるため、優秀な社員の離職を抑制できます。生き生きと働く社員の言動や印象は、優秀な人材の獲得にもつながります。

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「関心・理解」「共感・共有」「体験・拡散」がポイント

――インターナルブランディングにはどのような手法がありますか。
杉山:さまざまな手法がありますが、ここでは「ブランド浸透心理モデル」を使ってご説明しましょう。社員にブランドの理念・価値が浸透するプロセスを「関心・理解」「共有・好感」「体験・拡散」の3つのプロセスに分けて考え、有効な施策・ツール・メディア展開するという手法です。

① 関心・理解
ブランド理念・価値への興味・関心と理解を促すプロセスです。この段階ではブランドの理念体系をツール化します。アウターブランディング用と大半を共通した内容にしつつ、社内向けの情報を加えます。ブランドの理念に基づいた「行動指針」を作成して掲載すると、社員の理解が高まり、活動が円滑になります。当社の場合はグループ全体のあるべき姿を明文化した理念「TOMOWEL WAY」(前編参照)と、それを実現するための社員一人ひとりの意識を示す日々の心構えである「TOMOWEL ACTION」を制定しています。

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「TOMOWEL ACTION」ブランド理念を実現するための社員の意識を示す日々の心構え

理念体系に対する関心や理解を深めるためには、ポスター、トップメッセージなどの動画、コンセプトブックなどが必要です。しかしツールの配布や視聴だけでは限界があります。そこで有効なのが、全社員を対象にしたセミナーの開催です。会場での質疑応答が、理解を深める絶好の機会になります。
当社ではコーポレートブランド発表前後の2017年から2018年の期間に、全グループを対象に約50回のセミナーを開催し、2,000名程度の社員が参加しました。また、セミナー用のツール制作では、クリエイティブスタッフと十分な打ち合わせを重ねて、専門用語を使い過ぎないなど、わかりやすさを配慮した動画やテキストを用意しました。

② 共感・共有
ブランドの理念・価値に共感し、会社の仲間と共有するプロセスです。全社員の共感・共有を高めるには、CI・ブランド構築を推進する委員会は社員へのメッセージを伝えるだけでなく、社員を対象にした調査や浸透活動の結果をフィードバックしましょう。また、社員同士が会社やブランドへの想いを共有できる施策・ツール・メディアの活用などが有効です。最大のポイントは、ブランドを生み出す活動に自分も「参加」しているのだと自覚してもらうこと。当社では委員会の立ち上げ段階からブランドの本格的な運用開始までの期間、「CIニュース」という媒体を定期的に発行して社員の共感・共有を促しました。また、トップと若手社員が会社の将来あるべき姿について話し合う座談会や、社員同士が「自分たちでできるブランド浸透活動」について話し合うワークショップなどを開催しました。社員のエンゲージメントはかなり高まったと思います。

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CI・ブランド構築の社内コミュニケーションツール「CI NEWS」

③体験・拡散
ブランドの理念・価値に基づいた行動を促し、その体験を拡散するためのプロセスです。CI・ブランドの理念や行動指針の下、社員が自らブランドを浸透させるための年間活動計画を考え、実践に取り組みます。活動の内容はツール・メディアを使って共有・拡散します。年度ごとに活動結果を評価して、優れた取り組みは表彰します。また活動の結果、社員のブランド浸透度の効果測定も行います。
当社では「Go! TOMOWEL」と名付けた社内浸透活動を通じて、全社員がブランドの理念・価値を実践しています。
「Go! TOMOWEL」の概要をまとめた資料をご用意しましたので、ぜひ下部の申し込み欄からダウンロードしてください。

[後編まとめ]ブランド担当者のモチベーションのためにも

――最後にCI・ブランド担当者に向けて、インターナルブランディングについてのアドバイスをお願いします。

杉山:お客さまやお取引先から自社のブランドによい評価をいただけることは、社員なら誰でもうれしいものです。そしてその評価は、実はインターナルブランディングから生まれているのです。広告・広報など華やかな印象のあるアウターブランディングとは違い、インターナルブランディングは地道な活動です。しかし社員同士が「わが社のブランドっていいよね」などと共感しあい、そのイメージや価値を共有してもらえると、ブランド担当者として大きな喜びを感じます。この記事をお読みの皆さまも、そんな社員をたくさん増やすことを目標に、インターナルブランディングにぜひ取り組んでみてください。
社員のブランド支持者(サポーター)が増えることが会社のビジネスの成長につながります。

kakui-portrait-small.jpg共同印刷株式会社 トータルソリューションオフィス ディレクター

杉山 毅
1982年共同印刷株式会社入社。商業印刷部門の企画営業を経て、1987年よりセールスプロモーション部門でクライアントの事業戦略・マーケティング戦略のプランニングから、広告・広報・販促の各種ツール・メディアのクリエイティブ・ディレクションを担当。2008年からコーポレートコミュニケーション部門にて広報、IR・総会、CSRなどを部長として担当。2017年の自社の創立120周年では、CIとコーポレートブランド構築を含む周年事業の全体を統括管理。2020年から4月から現職。

資料ダウンロード
「インターナルブランディング ブランド社内浸透活動の進め方

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