顧客や社会から共感を生むブランド開発において、自らのアイデンティティを見直し、大切にしたい価値観や事業方針を明確に定めることはとても大切なことです。私たち共同印刷は、創業120周年の節目を機に、新コーポレートブランド「TOMOWEL」を生み出しました。「TOMOWEL」を共に創出してくださった株式会社コトヴィア(COTOVIA) 代表取締役 荻原実紀さまに、顧客や社会から共感を生むブランドの開発について、共同印刷HintClip編集長の神がお話を伺いました。

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【この記事は連載です】
【対談】共同印刷×COTOVIA CI・デザインに留まらない、顧客や社会と共創価値を生み出すデジタル時代のブランディングとは?<前編>
【対談】共同印刷×COTOVIA CI・デザインに留まらない、顧客や社会と共創価値を生み出すデジタル時代のブランディングとは?<後編>
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◆企業の在るべき姿を定めて、ブランド価値として開発していく

神:前編では、デジタル社会における消費者の価値観の変化や、ブランディングの役割についてお話しいただきました。コトヴィアさまがブランド開発を行う際に大切にしていることを教えてください。

荻原:企業や事業そのものの個性=「らしさ」をつくっていくことがブランド開発であり、ブランディングであると捉えています。企業ブランドをつくる場合、私たちは、クライアントの経営者や社員の方々から潜在的な想いを受け取りながら、企業がどう在りたいのか、将来どのように進んでいきたいのかという「想い」や「志」を深め、理想とする将来像やイメージの方向性、企業の在るべき姿を明確に定めてからブランドを構築するよう努めています。さらに、時代背景、社会や消費者との関係性をふまえて、人々からの共感や愛着をどのように生み育てていけばよいのかを考えます。企業のめざす姿、社会的使命や存在意義の方向性によって、ブランドの作り方は変わってきます。

神:ブランド名は、時代背景や社会環境、消費者の価値観などに影響されるのでしょうか。

荻原:自社の競争優位性や強さを求めている時代には、NEWやSTAR 、WORLDなど、新しさや大きさを象徴するようなブランド名をつけられる会社さんも実際には多かったですよね。商品・サービスの真価を問われる時代においては、機能や質の良さを訴求するものが好まれるなど、ブランド名もさまざまです。

デジタル社会になり、消費者の価値観が、ブランドへの愛着・共感、企業理念への共鳴、社会的存在意義などをより重視するようになると、顧客(消費者・生活者・ユーザー)目線に立った、親しみやすさや社会との共存を想起させるネーミング、企業理念や精神性を象徴したブランド名などの創出が求められる傾向にあります。

また、この情報過多の時代のなかで際立った印象を持ち、選ばれる存在になるには、「直感的に素敵」と感じさせられるようなブランドイメージも重要ですよね。

企業のアイデンティティが価値として発信される時代において、私たちは、企業の潜在的な想いや美徳を引き出し、ビジョンを描き企業価値を共創し、それらが社会に共感してもらえたり、憧れたり応援してもらえるような、魅力的な企業存在を作りたいという想いで、ブランド開発を行っています。そこに企業の語れるもの、つまり物語(ストーリー)が生まれ、多くの人に選ばれ語り継がれていく存在になり、ステークホルダーと良好な関係性へと築かれる状況を創り出していきたいと思っています。

◆顧客体験(CX)向上のために、「理念に合わないことはしない」という経営判断と現場判断

神:前編では、CIを軸にした一貫性のある事業活動が大切だとうかがいました。CXにおいてはいかがでしょうか。

荻原:ブランドを継続して育む(価値としてブランディングしていく)ためには、市場に対して、大前提として顧客(ユーザー)視点であること、そして継続的にさまざまな仕組みや仕掛け(戦略や施策)を企画していかなければなりません。CXにおいても、ブランドポリシーで一貫性を持たせることが大切です。核となるブランドの世界観を構築し、その価値軸に基づいた事業活動を行っていれば、その一貫性はおのずと受け手側に伝わり、社会のなかで生活者や消費者の信頼や共感が育まれていくと思います。CIを軸にした事業活動は、CX向上につながっていくと考えます。

神:それは、「企業理念に合わないことはしない」という経営判断、事業判断にもつながっていくのでしょうか。

荻原:はい。例えば、「人と社会を豊かにする」というPHILOSOPHYを掲げていながら、どう考えても人と社会を豊かにしないような事業活動を行うことは、理念に則しているとは言えません。目先の一時的・数値的な利益などのために、大切な価値軸や判断基準とずれてしまえば、ブランドの信用・信頼を失い、提供するサービス・商品そのものにも影響が出てきます。顧客の選択肢の幅や情報収集の接点が広がるデジタル社会において、どのような顧客を理想とし、市場のどの領域をターゲットに定め、どの方向性へと事業を展開していくことをめざすのか。前編でCISの全体像についてお話しさせていただきましたが、企業理念に基づき、企業の経営戦略とマーケティング戦略とブランド戦略の整合性が取れていることは重要です。

◆共感を生む新コーポレートブランド「TOMOWEL」がめざすもの

荻原:共同印刷グループが新たに導入されたコーポレートブランド「TOMOWEL(トモウェル)」は、関わるすべてと共に良い関係を築くという意味で、日本語のトモ(共・友・知・智)と、英語の「WEL(Wellの古語:良い・満ちる・親しみ)」を合わせて創った言葉です。共生、友愛、知識、知恵など、人間本来の良さや能力を結集して、充実した「豊かな世界」を実現していくという想いを込めています。

藤森社長は、「このブランドの強さは、背景にある意味やメッセージ性にある」と決定時に仰っていました。まさに、御社がめざしておられる世界、フィロソフィーを象徴した理念ブランドです。導入後、社内での浸透や愛着度はいかがですか。

神:社内では浸透してきていますが、社外へはまだ不十分で、これから地道な活動を通して徐々に浸透させていくことが必要なのかなと感じています。ブランド名に共同印刷の「共(TOMO)」の字を継承しているところは弊社らしいなと思います。親近感が湧き、発展性を感じました。

荻原:「TOMOWEL」には、共同印刷グループが創業時から築き上げたものを大切にし、社員や社員の家族、取引先、消費者、潜在顧客、社会とのつながりなど、関わるすべての人たちと共に良い関係を築き、未来を創り拡げていきたい、という想いが込められています。

ブランドの核に事業領域を定める企業もありますが、TOMOWELの場合は、「印刷を核に広げていく」という事業方針にフォーカスし、「無限の可能性」としています。価値観や考え方を育み、愛着を持つことで一体感が生まれ、それが企業の力になって、人間力、組織力、企業力へとつながっていく。そうした想いが、ブランド構築の背景にあります。

コーポレートブランドの創出にあたっては、藤森社長から「可能な限り社員全員参加型に」と方針が示されました。経営企画部門、広報部門、プロモーション部門、クリエイティブ部門などさまざまな部署からなる「実行委員会」が部署横断型で作られました。社員の皆さまのご意見や想いを受け取りながら、皆さまから出てきた言葉をキーワード化し、会社の在り方やめざす姿の方向性をCI戦略の方針仮説として策定して、ブランド名やブランドコンセプトが開発されていきました。トップダウンでもボトムアップでもなく、社員の皆さま全員と共創したブランドです。

最初にご依頼いただいた時にも思いましたが、共同印刷さんは本当に人間力の素晴らしい方ばかり。人の財というのは、企業の素晴らしい価値だと思います。今後、外観上でも社内体質としても、ますます「関わるすべてと良い関係を築くTOMOWEL」さんへと、ブランドを企業文化として育成され、ご成長ご発展なされることを期待しています。

神:TOMOWELの理念は言葉の選び方も違和感がなく、言葉の一つひとつが弊社らしいと思います。社内でも、「これからさらに事業領域を広げていこう」という方向性は皆で意識していましたが、それぞれが漠然と思っているところもありました。言葉で明確に可視化されたことで分かりやすく、今後創り出していきたい社風と合っていると思います。

荻原:TOMOWELのブランドロゴ(※図1)のデザインコンセプトは、人間・未来・意志の強さ・高品質・高精度です。コーポレートメッセージである「共にある、未来へ」に、企業の想いを凝縮しました。

TOMOWELのブランドロゴは比較的クセの少ないニュートラルな書体から作られています。それは、誠実でまっすぐな共同印刷さんの社員姿勢や、正々堂々と向かっていく人間力を示しています。「T」と「L」が右上がりで企業の発展成長を示し、小文字の「e」にしたのは、全体として一体化したブランドロゴとして視認性を高め、一語として認識してもらえるよう曲線と直線のバランスをとっています。

新ブランド理念体系「TOMOWEL WAY」(※図2)に書かれている言葉も、社員の皆さまのアンケート結果や、ヒアリングしてうかがった言葉、社史や色々な文字情報のなかの言葉を紡いで、ブラッシュアップして作った言葉です。皆さまの想いあふれる言葉を組み合わせて、実現していきたい未来を力強く推進していくための意志をTOMOWEL WAYとしてまとめました。

TOMOWELロゴ.jpg
※図1 TOMOWELロゴ+共にある、未来へ
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※図2 TOMOWEL WAY

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▼TOMOWELについての詳細はこちら

荻原:コーポレートカラーの赤は、共同印刷の旧ロゴ使用時は、鮮やかで情熱的な「金赤」を使用されていました。「強く情熱を持って挑戦的に事業価値を創出していく」という想いを受けて、TOMOWELでも引き続き「赤」を使用していますが、人とのつながりや共存、調和、豊かな未来、安心感や落ち着いた印象を与えるために、ほんの少し深みのある赤を採用しています。赤の色合いも、数パーセント違いのカラーサンプルを壁一面に並べて、視覚的、感覚的にどれが一番近いのか、かなり議論して選びました。ここまでくると理論以上に、適していると思うものを「直感的に選んでいくレベル」であり、まさに理解や意味訴求以上に、感性で受け取る印象を大事にし、感覚訴求型でカラーを決めていくことができました。緻密に共に創るプロセスを経ることができたのは、さすが印刷会社さんだなと思いました。

神:色にこだわるところも、弊社らしいと思います(笑)。私たちの核となる事業は印刷事業ですが、デジタル化で印刷事業自体が縮小しているという危機感があり、市場が求めているものに対して、私たちも変わっていかなければならないと感じていました。

創業120周年というタイミングでコーポレートブランドが変わり、向かうべき方向性や事業方針が明確になりました。可視化されたことで、腑に落ち、社内の意識や考え方は確実に変わってきています。それが結果につながっていくのはまだ先にはなりますが、社員のベクトルが揃うというのは、とても大事なことだと思います。

荻原:コーポレートブランドを変えたり、新しく創るということは、勇気ある決断だと思います。コーポレートブランドは経営方針に寄るところがありますし、良き文化として育てるのに時間もかかりますし、すぐに投資効果がはかれるものでもありません。もちろんブランドイメージを築けば、顧客や社会との良好な関係性につながり、積み上げていく価値の成果が数字へとゆくゆく反映されていきます。CI再構築もブランディングも御社の意思決定者である経営層の決断と理解があって実現できていることだと思います。

また、新しい世界観を構築するのに、従来あったDNAや価値観・世界観から全くかけ離れたまったく違う方向性にしてしまうと、社内や現場で歪み(ひずみ)が生じてしまいます。これまで蓄積された文化や社風を無視して「強さ」や「競争優位」だけを全面に打ち出したブランドを作ってしまうと、社員が居心地が悪くなってします。違和感なく受け入れられるには、「その企業らしさ」を大事に継承しながら新しい価値を創り出し、イメージ・マーケティングの上で実態の半歩か一歩先を進んでいるくらいが理想的です。そうするとイメージが実態を牽引してくれ、めざす方向性や世界観へと近づいていきます。

神:たしかに、イメージも価値観も違う言葉になっていたら、受け入れられなかったかもしれません。

荻原:あまりにもかけ離れた世界観だと、当然ながら、社員だけではなく、取引先や顧客も違和感を持ち、受け入れられないという現象が起こり得ます。そこに「想い」がなければ、社員も共感できず、受け入れることができませんから。共感や感性が問われるこの時代に、人の心と距離のあるブランドというのは、育むのが難しいと思います。「TOMOWEL」には、藤森社長の想いや社員皆さま一人ひとりの想いが詰まっています。

新たなコーポレートブランドを企業文化として根付かせるには、デザインシステムとしてブランドイメージを保持・管理し、理念浸透や行動実践に移していく積み重ねが大切です。そのブランドデザインに基づくさまざまな制作物やコミュニケーションツール類も、人が管理していくわけですから、ご担当者もブランド管理者としての目線と意識を持ち、各場面へブランドイメージを創り育てるという前提で展開し、後世にも引き継いでいく必要があります。社内にチーフデザインオフィサーやディレクターを置いたり、外部目線で専門家の定期監修を起用したりする企業さまもいらっしゃいます。イメージが崩れていくのも担当者による人的要因で起こり得ていくことを十分に留意しておく必要もあるでしょう。

会社から発信するさまざまなコミュニケーションツール一つから、日々の事業活動や社員の行動に至るまで、理念に即しているかを確かめながら、永続的に大切に運用し展開していくことが大事です。社外への発信も堂々とTOMOWELに込められた想いを繰り返し発信していくことで、本当の意味で貴社グループがめざされる「豊かな世界」の実現ができるのではないでしょうか。

AIやIoTなど技術の進化も進み、より人間らしい生活、より地球を意識した社会へと時代は変化しています。時代の方向性とブランドへのコンセプト「TOMOWEL」という名前がより一致してくる可能性があり、ますます貴社に求められること、共創型で未来を創りだすことは広がりそうですね。ぜひ、TOMOWELブランドを大切に育てていっていただきたいと願っております。

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【この記事は連載です
【対談】共同印刷×COTOVIA CI・デザインに留まらない、顧客や社会と共創価値を生み出すデジタル時代のブランディングとは?<前編>
【対談】共同印刷×COTOVIA CI・デザインに留まらない、顧客や社会と共創価値を生み出すデジタル時代のブランディングとは?<後編>
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