アメリカのEC販売率は10%を超え、中国ではアリババをはじめ各社がしのぎを削っています。中国EC市場は2018年までに1兆ドルを記録、世界の4割を占めるといわれています。このように、市場がますます拡大し消費行動に大きな変化をもたらすなか、企業が頭を抱えているのが「物流にまつわる課題」です。包装・荷役・流通加工・倉庫の在庫管理から、配送・情報管理まで、物量の急増によって企業側の早急な物流改革が迫られています。

そこで今回、Amazonなどや国内外の物流業界に精通する『株式会社イー・ロジット』の角井亮一氏に、最新の物流と企業戦略に関する海外事例や課題解決方法を伺いました。

【こちらの記事は連載です】
物流を制する者が市場を制す! 「勝ち組戦略」を角井亮一氏に聞く【中編】 物流を制する者が市場を制す! 「勝ち組戦略」を角井亮一氏に聞く【後編】

角井亮一氏

■プロフィール/角井亮一氏

株式会社イー・ロジット代表取締役兼チーフコンサルタント。上智大学経済学部を3年で単位修了後、米ゴールデンゲート大学でmba取得。『船井総合研究所』などを経て、家業の『光輝物流』に入社。2000年に設立した『株式会社イー・ロジット』は、現在310社以上から通販物流を受託する国内ナンバーワンの通販専門物流代行会社となっている。

また、物流人材教育研修「イー・ロジットクラブ」の運営や物流コンサルティング、テレビ・ラジオ番組でのコメンテーターなど、多方面で活躍中。『物流がわかる』、『オムニチャネル戦略』(ともに日経文庫)、『すごい物流戦略』(PHPビジネス新書)、『物流革命』(日経ムック)など、著書は日米中韓台で27冊。

グローバル規模で急速な進化を遂げている物流業界の最新

2017年の「ヤマトショック」をはじめ、近年、物流に関する問題がクローズアップされていますが、業界では何が起こっているのでしょうか。

「まず言えるのは、Eコマース(いわゆるネットショッピング)が増え、物の流れ方が変わってきているということ。特にグローバルでの物流スピードがアップし、ロット自体も大きいものから小さいものへと移り、国内外を問わず宅配も進んでいます。

世界では『グローバルフォワーディング』という手法が広がってきています。『フォワーディング』とは、さまざまな輸送手段を使って貨物をスピーディーに運搬する業務のことです。例えば、以前はミャンマー奥地にあるメーカーの商品はミャンマーでしか売ることができませんでしたが、今は世界中で販売可能です。商品一つひとつを各国の顧客に届けることもできますし、まとめてアメリカに送り『Amazon経由で売る』ということもできるようになってきました。

私はよく『商流変われば、物流変わる』と言うのですが、まさに世界の商流が変わってきているので、物流も変化の真っただ中にあるというわけです」

では、その中で最先端を走っているのは、どのような企業なのでしょうか。

「世界で一番のシェアは『DHL』で、新興国を中心に積極投資を行い、シェアを伸ばしています。また、特色のある企業として、アパレル業界で有名な『ZARA』は、スペインにある本社から世界中どこへでも、48時間以内に商品を納品できる物流体制を構築しています。さらに『Amazon』は2018年12月、自社専用の航空貨物機を50機に増やし国内配送の体制強化を図る戦略を新たに発表し、話題になりました」

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未来を先取りする「Amazon」の物流戦略と投資

「アメリカでは宅配量が爆発的に増え、宅配大手3社(UPS・FedEx・USPS)だけでは対応しきれなくなっています。そこで『Amazon』は地域宅配会社に協力を得るだけでなく、『Amazon』の配送を手がける小規模オーナーの起業を支援する『Delivery Service Partners(デリバリー・サービス・パートナーズ)』や、クラウドソーシングを利用し、一般人が配送を行う物流版ウーバーを推進する『Amazon Flex(アマゾンフレックス)』など、次々と新たな対応策を打ち出しています。

日本では当初、『日本通運(ペリカン便)』が『Amazon』の配送を手がけていましたが、その後、佐川急便が加わりました。しかし、再配達も多い宅配では、料金とコストが合わずに佐川急便は、大型商品以外から撤退しました。その代わりに、ヤマト運輸が参入しました。ところが、ヤマト運輸も物量増加に追いつけなくなり、2017年の『ヤマトショック』、『総量規制』などが起こったわけです。

『Amazon』はこうした危機を事前に予測しており、地場の小規模な宅配会社のネットワークをつくり、『デリバリープロバイダ』という総称で2015年10月から配送を始めていました。これが『ヤマトショック』を機に爆発的に増え、そのシェアは2017年4月の5%から2018年4月には20%と、一気に4倍になっています。今後さらに、全国展開していこうという動きも出てきています」

世界最大のEC企業である「Amazon」は、物流に積極投資するロジスティクスカンパニーでもあると角井氏は言います。その施策には、他社が学ぶべきノウハウも多くありそうです。

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「社会の根幹」をなす物流の重要性

最近は『物流を制する者が市場を制する』といっても過言ではないともいわれますが、その理由について角井氏に伺ってみました。

「そもそも世の中は、物流があるから成り立っているといえます。物流を通し、商品をお客様に納品してはじめて売上が立つわけで、この流れが止まれば大きな混乱が生じます。

例えば、前回の消費増税(2014年4月1日)時は、3月の駆け込み需要による物流量の増加で深刻な『トラック不足』に陥り、3月末の納品がストップするという事態も発生しました。その結果、3月計上の売上が4月に繰り越されるというケースも出ました。つまり、物流のことをきちんと考えておかないと、月の売上が立たないということもあり得るのです。

物流を強みに成功した企業としては、『アスクル』が有名です。この社名は『明日来る』ということで、物流のサービスレベルを表現したものになっています。物流に力を入れることで、競合他社では最後発だったにもかかわらず、その足腰の強さでマーケットシェアを伸ばし、ナンバーワンになったのです。

また『セブン‐イレブン』は新規出店前に惣菜工場や物流センターを新設する戦略を取っています。まずはロジスティクスを整える。だから後から出店しても、競合他社を負かし伸びていく。欠品がないというのが強みになるからです。これもやはり、ロジスティクスの力だといえます」

今後は小売業であろうとメーカーであろうと、ますます「物流」を戦略的に考えていく必要がありそうです。

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「物流戦略」が企業発展に必要な理由とは?

「最近はロボット関連へ投資する会社も出てきています。『Amazon』は倉庫内でのピッキング作業の効率化に、自走式ロボットの会社『KIVA SYSTEM』を買収していますし、アスクルはピッキング工程の自動化に向けロボット関連企業『MUJIN』と業務提携し、その技術を取り入れています」

このように、物流へ積極的にR&D投資する企業が増えており、また、そういう企業が伸びてきているともいえます。角井氏は「物流が関係ない企業はない」と力説します。

「商品配送という物理的なデリバリーだけではなく、例えば、返金システムなどもロジスティクスの一環です。返金がスムーズかつスピーディーであれば、顧客満足度も当然、高くなります。銀行も現金を扱うわけですから、その流れをスムーズにするロジスティクス戦略は重要です。仮にATMが少なければ、利便性も低くなりますよね。ATMをどこに、どのくらい置くかということも『ロジスティクス戦略』といえるわけです。

また、東京丸の内にあるビルなどは、地下物流がかなり進んでいます。地下へ大型トラックが入れるようにすることで、あれだけ多くの飲食店の出店が可能になっているのです。ロジスティクスがしっかりしていなければ、とても対応しきれません」

このように企業の「成長・発展」を考える上で、物流戦略は避けて通れない『重要課題』だといえます。そこで中編では、日本企業が抱える課題について具体的に掘り下げていきます。

【こちらの記事は連載です】
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