企業がWebサイトやSNS等で情報を発信するのは、もはや当たり前のこととなりました。そうしたなかで、SNS担当者がうっかり他者の著作権を侵害するなどして、トラブルを引き起こしてしまう事件がしばしば発生しています。

著作権侵害の加害者とならないためには、どのような点に注意すればよいのでしょう?
この記事では著作権についての基本をおさらいしたうえで、WebサイトやSNSの運営担当者による著作権侵害トラブルを防ぐためのポイントをご紹介します。

まずは「著作権」についておさらいしよう

著作権とは、かいつまんで言うと創作した著作物を保護する権利(利用を許諾したり禁止する権利)で、著作権法という法律で保護されています。著作権による保護の対象となる著作物は、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいうと規定されています。

著作権の保護対象となるものを創作した人は「著作者」と呼ばれ、自身の著作物に対して、「著作権(財産権)」と「著作者人格権」という2つの権利を主張することができます。「著作権(財産権)」は著作物の財産的価値を守るもので、複製権、上演・演奏権、上映権、公衆送信権・公の伝達権、展示権、貸与権、翻訳権などが含まれます。一方、著作者人格権は著作者の人格的利益を保護するもので、こちらには自身の著作物を公表するかどうかを決められる「公表権」、著作物の公表時に著作者名を表示するかどうかを決められる「氏名表示権」、著作物の内容や題名を勝手に改変されることを拒める「同一性保持権」が含まれます。

【参考】著作物にはどんな種類がある? | 著作権って何? | 著作権Q&A | 公益社団法人著作権情報センター CRIC

なお、著作権以外の知的財産権として特許権、実用新案権、意匠権、商標権などが挙げられますが、これらは、登録しなければ権利が発生しない「産業財産権」にあたり、権利取得のための手続きを必要としない「著作権」とは分けて考える必要があります。

著作権を侵害するとどうなるの?

著作権で保護された著作物を著作者の許諾なく利用すると著作権侵害となり、差止め請求や損害賠償請求を受けたり、また刑事罰に処される可能性があります。

たとえば、刑事罰は、個人が他者の著作権を侵害した場合、10年以下の懲役または1000万円以下の罰金、もしくはその双方が課せられることがあります。また、著作者人格権を侵害した場合は5年以下の懲役または500万以下の罰金、もしくはその双方と定められています。一方、法人などが著作権を侵害した場合は、行為者を罰するほか、3億円以下の罰金が課せられます。

ただし、著作権法には、私的利用を目的とした複製や図書館等における複製、教科書への掲載、引用といった一定の例外的な場合に限り、規定の条件を満たすことで、著作物を自由に利用できることが定められています。このようなケースに該当する場合は、著作物を利用しても処罰されることはありません。

著作物を自由に利用できるケースについては、以下の文化庁のWebサイトに詳しく紹介されています。

【参考】著作物が自由に使える場合 | 文化庁

このうち、企業のWebサイトやSNSの運用に特に関係が深いのは、「引用」に関する例外でしょう。
著作権法の第32条と第48条では、公表された著作物は、公正な慣行に合致し、引用の目的上、正当な範囲内で行われ、出所の明示がなされている場合、自分の著作物に他人の著作物を引用して利用できると定めています。またこのため、引用として妥当な範囲内であれば書籍や他者のWebサイトなどから文章等を引用することが可能ですが、この場合はあくまでも自社の創作部分が「主」、引用が「従」とならなければなりません。また、引用する必然性があること、引用部分を明確に区別すること、引用であることがわかるような表記をつけ、引用元や著作者名等を記載しておく必要があります。

なお、引用元の著作物に転載を禁止する旨が記載されている場合は、この例外規定は適用されませんので、注意してください。

どんな場合に著作権侵害になるの?

以上を踏まえて、具体的にどのような場合に著作権侵害となるのかを見ていきましょう。

「創作物はすべて著作物」と心得る

まず大前提として、創作性の認められる著作物については、基本的にすべて著作権による保護が成立すると考えておくのが無難です。しばしば芸術作品だけが著作権の保護対象であると誤解されることがありますが、芸術的な価値の高低で著作権の保護対象か否かが決まるわけではありません。素人の書いたイラストやブログ記事、他社のSNSアカウントが投稿したコメントなども、立派な著作権の保護対象です。

他者のWebサイト・ブログなどに掲載されている文章・絵画を自社のWebサイト上で紹介したい場合、引用の範囲を逸脱しないよう心がけるとともに、可能な場合はあらかじめ著作者の承諾を得ておくと安心です。

カタログからの引用可否は?

他社が制作したカタログに掲載されている写真の引用可否は、ケースバイケースです。
たとえば、写真やカタログページのレイアウト・編集などに創作性がある場合はカタログも著作物として扱われるため、カタログの無断転載はNGです。従って、他社のカタログをそのまま自社のWebサイトなどに掲載したり、カタログのレイアウト等をそのまま真似したりすると、著作権侵害となる恐れがあります。

またカタログの要素である写真やイラスト自体の著作権、写真の被写体の著作権にも留意する必要があり、カタログ製作者とは別に被写体の著作権者から利用許諾を得なくてはなりません。

ちなみに、Webサイトやカタログ等に掲載されている単に事実のみを掲載した数値データや簡単な表・グラフ等は、特にデザイン性を有するものでない限り、基本的に著作権の保護対象とはなりませんが、表現方法によっては著作性有無の判断が難しい場合もあるため、必要に応じて法律の専門家に相談したほうが無難です。

他社所有の施設の写真掲載はOK?

他社が所有する複合施設などを撮影した写真を自社の発行物に無断で掲載し、所有者からクレームがつくというケースがしばしば発生していますが、著作権法では、通常、建築の著作物は建築に関する図面に従って建築物を完成することと定義されていますので、自身で撮影した写真には建物の著作権は及ばないと考えられます。

このため、オフィスビルやショッピングモールのような実用的な建物を撮影した写真については、著作権侵害とはならないケースが多いと言えますが、著作権とは別に施設管理権や所有権、プライバシーなどを侵害するとしてトラブルになったり、有名な建物などではその写真の利用にあたって許諾を必要とする場合もあります。そのため、当該施設の所有者や管理者から許諾を取ったり、事前に法律の専門家に確認することをお勧めします。

フリーソフトやフリー素材の利用はOK?

商用利用可能なフリーソフトやフリー素材は、原則として自由に利用しても問題ありません。
ただし、著作者により「商用利用不可」の意思表示がされている場合は、フリー素材であっても、企業のWebサイトなどで利用することはできません。また利用条件が細かく定められている場合もありますので、規約等をよく確認しましょう。

なお、最近はCC(Creative Commons)やGPL(General Public License)といったライセンスの下で、画像やソフトウェア等の創作物をフリー素材またはフリーウェアとして公開することが増えてきています。これらも原則として無償で利用することができますが、「作者名を記載すること」「著作者のWebサイトへリンクすること」などの条件が設定されている場合があるため、こちらも利用に際しては必ずライセンス条件を確認するようにしてください。

基本を押さえて著作権侵害を防ごう!

以上、この記事では著作権の概要と著作権の侵害を防ぐためのポイントを解説しました。

企業による著作権侵害は、損害賠償や企業の評判低下といった深刻なトラブルにつながりかねません。
著作権侵害を未然に防ぐためにも「他者の創作物は無断利用しない」を基本姿勢とし、やむを得ず利用する場合は権利関係等を綿密に調査し、必要に応じて事前に著作権者の承諾を得るような習慣をつけておきたいものです。

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