前編ではアメリカンガールの「体験型店舗」が包括的なベースサークルによって顧客を取り込む秘訣を紹介しました。さらに、この店舗では体験を軸にしたシームレス化を図る戦略で顧客を誘導しています。アメリカンガール人形の第一世代である「ミレニアム世代」の取り込み、計算された店舗設計、マルチチャネルやリワードの活用など、後編ではそれぞれのサービスを展開しながらリピートを促す仕組みを紐解いてみたいと思います。

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全米の少女たちの憧れ!「アメリカンガール」NY旗艦店の「究極の顧客体験」とは?

人形の第一世代である「ミレニアル世代」の取り込み


アメリカンガールが設立された1986年、その第一世代は、子育てをする「ミレニアル世代」の親です。Pew Research Centerによれば、この世代はアメリカ成人の約29%、労働力の3分の1以上をを占め、女性のおよそ50%が母親です。また、他の世代より高学歴の傾向が見られ、女性の46%が学士以上の学歴を持つと言われます。彼らの消費も「所有」より自身や家族の幸せを「体験」・「共感」することに価値を見出す消費行動がベースであることは周知の事実でしょう。

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また当初、人形の原点は「教育を体感するもの」して、彼らの親のうち富裕層をターゲットに販売を始めました。その後、自分が学び、遊んだ思い出のある人形を、教育を受けた「良識ある親として」、あるいは「ブランドのファン」として子供達に買い与えました。例えそれが高額と言えど、「2018 National Parenting Product Award」のような「親のお墨付き」の賞を受賞する安心な「玩具」であるゆえに、高学歴の母親の教育観にもマッチし、物理的な人数の多さを持ってアメリカンガールを支えています。

そして店舗にも、その当時、自分が遊んだ同じ物語と人形(Be foreverシリーズ)が販売され、親世代という「大きな顧客」には懐かしい過去の「追体験」ができます。そして「小さな顧客」の子供が持つ人形や本、店での本格的な世界観や多彩なサービスは「新しい体験」、「特別な体験」として共感と価値を生み、この世代の親たちを店舗に向かわせるのです。世代的な特徴をも取り入れ、買うことは所有ではなく体験のステップ、あるいは買う行為そのものが特別体験に置き換えられているのです。

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周到なリテールデザインが生むエクスペリエンスのシームレス化

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現在のアメリカンガールN.Y店は玩具を売るただの小売店ではなく、来店自体が特別な「体験」と「機会」になるよう、店舗そのものが周到な計算とデザインによって設計されています。これは、ティファニーやmacy’s、サムソン、ハーレーダビッドソンなどといった、名だたる企業の店舗や内装を手がけた「FRCH Design Worldwide」社によるものです。

小さな顧客と人形のそれぞれの年齢に合わせて1日女王になれる高級感、ヘアやネイルを施すサロンの拡張、人形をカスタマイズデザインするための「Create Your Own Design Studio」など、それにインタラクティブなテクノロジーの強化を特に交え、ブランドイメージに沿った「未来的」なストーリーテリングを提供しています。例えば、店内各所にあしらわれた「ピンク」もテーマごとにピンクの色調を変え、ミレニアム世代が遊んだ「Be forever」商品エリアには「ミレニアムピンク」を使うなど、顧客体験の満足度を高めるべく、あらゆるディテールや設計に気を配っています。

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設計担当ディレクターのMike Ruehlman氏によれば、空間内の技術的統合はこれまで以上に大切で、技術的な機能強化がされた体験型店舗は、アメリカンガールのブランドイメージに合った触覚、聴覚、嗅覚、視覚など、顧客の感覚レベルを高める手助けになっています。そして、それらが『仕掛け』となり生態系のように循環し、来店者の購買意欲を高めていますすとインタビューで語っています。

体験のデザインやテクノロジー強化した空間は、小さな顧客が店舗すべてをシームレスに体験でき、来る度に「新鮮さ」と「新体験」を味わう。一度の来店で終わらせない、まさにリピートを促す仕掛けの一つなのです。実際、アメリカンガールの専売店全体で9,400万人以上の来店と、経験豊富な小売向けの「プレミアモデル」として認められ、数々の賞も受賞しています。

独自の販売戦略で逃げ切った「実店舗のショールーム化」

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一般的な小売店は、ECサイトの普及によって店舗の「ショールーム化」に悩まされてきました。店舗で商品の魅力や概要を確認後、ネットで安値購入する消費者の賢さから小売店はビジネスの機会を失いつつありました。

人形の発売当時は、「ダイレクトマーケティング」で売り上げを伸ばしました。その流れを踏襲し、カタログでの自社販売・直売店・オンラインのみの販売(年間4500万人以上閲覧)手法をとってきました。膨大な顧客データを蓄積してきたカタログ販売は、現在も昔ながらの本タイプ、カーソルを合わせると商品の詳細やそのアクセサリーが見られるデジタルカタログの2種類を用意しています。このカタログ最大の消費者向け玩具カタログ」として、アメリカの消費者カタログトップ30の1つにランクされています。この戦略が、結果的に店舗の「ショールーム化」を防ぎ、売り上げを守る一因となりました。

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「マルチチャネル化」と「リワード」戦略がもたらすサービス

けれども、消費者がオンライン購入を利用するとは言え、統計では2021年末までに小売全体の売上82.5%は実店舗で発生するとも言われています。つまり、実店舗の特別体験がキーとなっているアメリカンガールは顧客誘導の成功事例と言えるでしょう。さらなる利益拡大も求め、デジタルネイティブで共有を求める「ミレニアム世代」にも対応し、SNSや動画などあらゆる方向から「マルチチャネル化」を進め、顧客体験のシームレス化も図っています。

そして、それと併せて「リワード」戦略も巧みに活用しています。サロンやカフェの経験も子供の遊びに使う金額としては高めで、誕生会や宿泊プランなどは数百、数千ドル単位のお金が動くハイエンドであることも事実です。その中で、したたかな顧客目線のサービスとして「リワード」を導入し、さらなるリピートを促す「体験」に仕立てています。

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リワードには大きくわけて3つのランクがあり、過去の購入金額が349ドルまでは「シルバー」、699ドルまでは「ゴールド」、それ以上は「ベリー」。それぞれ特典に「誕生日プレゼント」があるものの、ランクごとに「特典の差別化」も図られています。どれも200ポイント(以下P)で10ドルの「ギフトカード」が得られますが、1ドル購入につき、シルバー1P、ゴールド1.25P、ベリー1.5P加算と、ランクが高い(=沢山購入した)ほどPが貯めやすくなっています。

しかも、新着情報がいち早く届くのはゴールドとベリーのみ。最高ランクのベリーはさらに、季節ごとにスペシャルプレゼントが「店舗」で貰える仕組みです。「買えば買うほどお得」に、「素敵な体験」ができると顧客心理へ訴えかけます。ウェブサイトにはリワードを楽しむ顧客たちのコミュニテイーまであり、どんな特典で、どれほどお得で楽しんだか、リワードも「体験」としてシェアされているのです。

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まとめ

「女の子に夢と希望を与える」というコンセプトの元に、すべての戦略が絡み合い緻密に「仕掛け」を作るアメリカンガール。店舗体験は「感動」や「共感」を生み、次なる体験とリピートを導きます。そして、前述の「教育・出版・玩具」を一直線上にしたエクスペリエンスと顧客の購入意欲を高めて行くのです。

【前編はこちら】
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