全米の少女たちの憧れ!「アメリカンガール」NY旗艦店の「究極の顧客体験」とは?【前編】

2017年11月にロックフェラーセンターに開設されたゴールドに輝く店舗。顧客の少女たちを迎えるのは、甘いだけの可愛いピンクではない、強い自己主張を感じるビビットなピンク。それでいながらも上品なピンクの世界。「アメリカンガール」の店舗は「究極の顧客体験型」店舗と呼ばれていますが、そのゆえんが内装にも現れています。ネット販売では得られない、ここでしか体験できない価値を提供し、全米の少女たちを集めるその強さの秘訣とは一体何でしょうか。そして、リピートを促す仕組みはどこにあるのでしょうか。前編では「究極の顧客体験型」店舗と呼ばれている強さの秘訣を探りたいと思います。

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全米の少女たちの憧れ!「アメリカンガール」NY旗艦店の「究極の顧客体験」とは?【後編】

女の子という顧客に高く支持される「アメリカンガール」とは?

アメリカンガール社は主に3〜12歳(本については5歳から)を対象に、人形とそれに付随する服やアクセサリー、出版社として本も販売する企業で、現在はバービーなどで有名なマテル社の傘下にあります。2016年までにおいて、2900万体以上の人形と1億5300万冊以上の本を販売、2015年の売上高は5億7,200万ドルとなっています。この企業の事例とビジネスの本質を探るにあたり、そのベースとも言えるプレザント社の企業背景を知る必要があるでしょう。

顧客体験を紐解くための重要な原点である「創業者の理念」

創業者のプレザント・ローランド氏は教師として勤めた後、教育関係の出版物などに携わる「Boston Educational Research」という企業で製品開発のディレクターとなります。そこで、教育資料を提供していくうち、「歴史」というテーマに魅力を見出しました。その後、彼女自身が歴史物語を書き、その歴史に触れる方法の一つとして、1986年「プレザント社」として登場人物の人形を売り出したのが始まりです。その物語には、社会問題や児童労働、人種差別、マイノリティーなど、テーマ性の強い話題も盛り込まれ、後述する人形のスタイルに受け継がれます。当初から人形は高価でしたが、富裕層へ向けた「ダイレクトマーケティング」を巧みに利用し大ヒット。1989年までの3年間で年間売上高が3000万ドルに達しました。

そして、1992年に人形の販売と並行し出版にも力を入れ始め、玩具メーカーにありがちな業績の低下をカバー。出版物においても子供向け雑誌、社会問題や子供の悩みを解決するアドバイスブックなど、アメリカンガールの人形ベース以外の教育系本も手がけ数々の賞を受賞。その後も、教育を背景にアメリカンガールを発展させていきます。1998年、プレザント社はマテル社に7億ドルで売却、人形生産ラインと出版社は「アメリカンガール」に社名変更しましたが、現在のプロトタイプはこの創業者の「理念」に端を発しているのです。

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©AmericanGirl AmericanGirl

顧客と物語と人形がシンクロする「ストーリーテリング」の活用

アメリカンガールは、「体験」という形でも収益を底上げさせており、これには包括的で計算された人形と「教育・出版・玩具」が一線上に並ぶ「エクスペリエンスビジネスのシームレス化」が見て取れます。まずはアメリカンガールのベースとも言える人形について見てみましょう。

物語の主人公である人形は13種類で、販売形態も最初に売り出された時と変わらず、人形と本、付属品がセットになっています。価格も115ドルと子供に与える人形としては高価です。この人形は、物語や歴史などを体感することが目的の一つのため、先に物語が作られ、必ずしも白い顔ときれいな服で飾られたものばかりではありません。例えば、奴隷の子や少数民族の子など、物語や時代背景による服装、人種における肌の色などを忠実に再現していることが特徴的です。

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子供達はまず物語を読み、登場人物や世界観を想像し、あるいはそこで提起されるテーマについて考えます。ファンタジーの世界に入り込んだワクワク感や思いの体験を「物語から飛び出した人形」でリアルに体感します。ファンタジーが人形によってリアライズ化され、再び物語(本)へ戻るきっかけとなります。これは「ストーリーテリング」によって、ただの本と人形ではなくなり、相互の特別な価値を見出す重要な体験へ変化するのです。

体験を特別なものにする「徹底したパーソナライゼーション」

このアメリカンガールではほかに、「カスタマイズ」できる人形も存在します。肌・髪の色とその濃さ、瞳まで自由に組み合わせられ、2017年には玩具業界に進むジェンダーレス化を受け、男の子の人形も登場しました。現在は男の子の人形が17種類、女の子に至っては、髪の色78種・目の色48種・肌の色48種から組み合わせて選ぶことができます。また、購入者が人形とお揃いの服やアクセサリーを身につけられるように、人が着られるサイズとともに販売されています。

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さらには、病気などの子供たちとそれにまつわる松葉杖、補聴器といったような小道具まで取り揃えており、髪を失った子供には「髪がない」人形まで存在するのです。人形が最初に作られた時代から、一貫してマイノリティーな人々への体験も提供する姿勢は変わらず、それは上述のような教育を前提にしていることも理由の一つです。

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コストや生産ラインを考えれば効率がよいとは言えません。しかし、人形自体が高価であること、出版における収益もこれをカバーしていることもあるでしょう。この徹底したパーソナライゼーション」は、バービーのような価格帯が低めの大衆向け人形と明らかな差別化を計り、子供のおもちゃの枠を越えた「自分の分身」として、「人形を持つ」という体験ですらより特別なものに変えるのです。

女の子の夢と希望を実現する「カスタマーエクスペリエンス」

店舗では、少女と人形の年齢に合わせたおしゃれや贅沢さを楽しむ設計がされています。人形の販売以外にも、レストランやカフェ、ヘアサロン、そしてホテルと提携した宿泊パックまで企画されテーマパークのようです。これは、以前プレザント社で行っていたミュージアムツアーの構想が元で、製品に生命をもたらす意味と女の子という顧客が望む夢と希望を体現し提供しています。

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例えば、ヘアサロンではプロのヘアスタイリストが、本格的なヘアアレンジやカットを人形に施すサービスも。人形を専用の椅子に座らせ顧客の子供達が望む髪型にします。ヘアアレンジは1回15ドルと高額ですが、自分と同じ髪型や好みの髪型で一体感を体験するのです。5ドルの追加料金で好みのネイルも施してくれます。また、アメリカでは小学生がいつピアスを開けるか話をすることもあり、その記念すべき初ピアスも人形と一緒に行うサービスまであります。

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さらに、カフェでは人形と一緒に、心くすぐる「ケーキスタンド」にのせられたクッキーやケーキを食べられるアフタヌーンテイー、そして、ビストロでのランチやディナーができます。また、パーテイー会場でのバースデーパーテイーは予約で埋まり、希望日が取れない時があるほどの人気(N.Y店)です。しかも、パーテイー後には「Goody bag」というお土産が渡され、人形用のTシャツや風船、人形サイズのショッピングバックまで入っており、体験した顧客と同じものが揃えられているという徹底ぶりです。

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これらは、人形を顧客の付随品とするのではなく人形自体も「カスタマー」として扱うことで、人形を「自分の分身」のようにとらえる顧客により高い満足感を与えます。そして、自分の体験する(したい)ことを一緒に行うという「究極の体験」が 一体感や愛着を生み出し、次への体験と来店を促します。さらに、その思い出を持ち帰り「もう一人のカスタマー」とともに、今度は自分の世界でそれらを「追体験」をするのです。

アメリカンガールの店舗は「すべての女の子が一日お姫様になれる場所」とも言われています。これは「女の子が憧れる夢のひととき(体験)を叶え、思い出を作るために、高額であろうと喜んで投資する」という重要な意味を持ち、それが提供できることでもあります。顧客と人形に向けたさまざまな体験サービスは安くはありません。しかし「2種類の顧客」へ向けた、妥協のない本格的な特別体験は顧客を魅了し、他にはないカスタマーエクスペリエンスを可能にしています。

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まとめ

教育を体感するための人形が本の主人公となり、玩具となり、夢の体験を追体験できる分身。単なるおもちゃではない、大きく強いコンセプトの元に作られた人形は、様々な世界を顧客に体験させる橋渡しのようになっています。他の玩具とは一線を画し体験のシームレス化も可能にし、アメリカンガールの強みの一端を担っています。後編では、リピートに促す仕組みについて見ていきたいと思います。

アメリカンガール公式サイト
https://www.americangirl.com/

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