ヤンゴンからミンガラバー(こんにちは)!ヤンゴン在住の筆者が先日夏休みに日本へ帰国したところ、テレビではさかんに放映されるミャンマーのニュース。さらに驚いたのはその内容です。「近代化するミャンマー」「ミャンマーが熱い」「世界中から参入」…。では、実態はどうなのでしょうか。

今回は、現地在住の日本人から見たミャンマーのリアルと、日本企業のビジネス参入におけるポイントについてお伝えします。

ミャンマーの全体像

ミャンマーは、北は中国、東はタイ、西はバングラデシュとインドに接する、日本の約1.8倍の国土に、推定5千万人が暮らす農業国です。アウン・サン・スーチー氏率いる民主政党が、国民投票により、26年間続いた軍事政権を打ち倒したのが2015年11月。実際の政権交代がなされたのが、2016年4月でした。それから数ヶ月経過し、新政権の体制が整い、ようやく機能し始めたようです。つい最近の報道によると、滞っていた投資委員会による外国からの投資案件の審議が再開、7月申請分の約4億ドル(約383 億5,000 万円)が認可され、外国からの投資認可が政権交代前の水準まで回復。
その内容は、3分の1が石油・ガスなどのエネルギー分野、次いで電力。製造業については、件数こそトップですが、金額ベースでは全体の10分の1に留まっています。

一方、新政権が動き始めたことでストップした分野もあります。前政権が認可したヤンゴン管区の約200棟の高層建築プロジェクトについて再審が行われることになり、工事が止まった建築現場が目につくようになりました。ヤンゴンはもともとオフィスビルの供給が少なく、国際水準の物件には高い賃料が課せられ、ミャンマー進出の足かせの一つとなっています。例えばバンコクではオフィスビル賃料が平均20ドル/1㎡であるのに対して、ヤンゴンでは2016年6月で平均54ドル/1㎡。ビジネス環境の整ったバンコクの拠点からミャンマーをオペレーションする企業も少なくありません。余談ですが、駐在員の生活コストランキングにおいても、東南アジアでは1位はもちろんシンガポール、2位はなんとミャンマーというから、これには駐在員当事者も驚きです。
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ヤンゴンのダウンタウンをのぞむ。高層建築がほとんどなく、高いものでも20階程度。建築中の物件が散見できる。

質の向上が求められる労働市場

ミャンマー人の平均年収は、去年の1,000ドルから今年は3割アップの1,300ドルと言われています。一方、筆者がヤンゴンのダウンタウンでヒヤリングしてみると、一般的なワーカーは月収60~70ドル、英語が話せると100~300ドルの仕事があり、日系企業の総合職だと400~500ドルが相場で平均年収を大きく上回ります。皆そろって、3割アップの実感はまったくないと首を振っていました。企業にとっては、政治情勢が比較的安定していることに加え、安い労働力もあって、テロの脅威に脅かされる近隣のアジア諸国よりも魅力的に映るはずです。加えて民族的にも温厚な性質で、親日国であることでも知られています。識字率も都市部で92%、農村部でも87%と非常に高い数字(*1)ですが、教育水準は低いため、日本のJICAがミャンマーの教育要綱改定などに多額の無償円借款を実施するなど、底上げに必死です。また、今年に入ってからシンガポールのリードで職業訓練所を開設し、技術教育センターがオープン。海外投資の受け皿となる質の高い労働力の創出に注力しています。
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ヤンゴンの公立小学校3年生の教室の様子。みんなタナカを塗って白い顔。小学校とはいえ雑居ビルに間借りしており、校庭や理科室などの施設は一切ない。

ミャンマーの闇

日本ではあまり語られることがないミャンマーの闇にも、あえて触れておきたいと思います。 前述のとおり平均収入が上昇傾向にあるものの、その恩恵は市井の人々にはまだまだ届きません。加えて、度重なる洪水の影響で、物価(CPI)は主食である米を筆頭に6~30%上昇。しかも、外国からの高価で魅力的な商品が続々と並ぶようになってきました。数年前はなかった携帯電話の通信費も払わなくてはいけません。子供の教育費も急上昇しており、現地の人々の生活はますます苦しくなっているのです。

犯罪も凶悪化しているそうで、新聞には連日、窃盗やヤーバと呼ばれる薬物売買の逮捕者の記事が並びます。民主化によって貧富の差がさらに大きくなり、貧しきものの怒りが爆発するのでは、と危惧する声さえ聞こえてきます。前政権の経済大臣が「ミャンマーの発展はゆっくりでよい。物価の上昇率を抑え、最新の技術を安価で手に入れることができるのだから」と発言したそうですが、最底辺の人々の生活を守るために、必要な判断だったのでしょう。

寄り添うブランド

ヤンゴンの幹線道路から脇道へ入っていくと、道端にはテントの下のコーヒー屋や、商品をたくさんぶら下げたパパママ・ストアがあり、その店先には必ず使い切りパックに包装された有名ブランドのコーヒーやシャンプーが揺れています。値段は1パック100チャット(10円)。1瓶、1ボトル買うお金のない人たちにも手の届く価格。市井の人々を切り捨てないブランドが、ローカルなゼイ(市場)で存在感を放っています。

ミャンマーの宣伝広告・プロモーションの現状

ヤンゴンきっての大通り、カバエー・パゴダ通りやダウンタウンのストランド通りには数多くの大型屋外広告が設置されています。南国気質のこの国で、意外なほど頻繁に張り替えられ、きちんと管理されています。バスやタクシーのラッピング広告は安価が魅力でたくさん走っています。

一般消費材について、いわゆるプロモーション的な活動はまだ本格化していませんが、企業による寄付活動は盛んに行われています。敬虔な仏教徒たちの価値観にのっとって、災害救援として大々的に寄付をして見せ、パブリシティ活用するのです。
スマホが大ブームのいま、フェイスブックやLINE、ViberといったSNSも広く普及しており、通信事業者とタイアップしてSNSのパケット料金をディスカウントもしくは無料にするキャンペーンも行われています。
ラッキードロー(くじ引き)のプロモーションもウケがよく、通信事業最大手のMPTは昨年末から年始にかけて、SNS、テレビなどを組み合わせた大規模なラッキードロー販促を実施し、新規顧客の取り込みを図りました。
また、昨年ミャンマービールを買収した日系ビールメーカーはCSRの一環でビール工場を一般公開。アトラクションの少ないヤンゴンにあって大人気を博しています。日本の大手広告代理店も拠点を開設しており、現地日本企業のマーケティング支援に当たっています。

このように、海外からの投資が集まり、労働市場も向上しているようかのように思われているミャンマーですが、現地の人々の生活水準は実感として高まっていないのが現状です。続々と日本企業が参入し始め、他企業が追随する土壌は整いつつありますが、ようやく民主化に動き出したミャンマーでビジネスを始めるには、発展する同国のイメージと現地の生活実態の違いを理解し、現地の人々に寄り添う活動が、参入に成功するポイントとなるのではないでしょうか。

*1 出典 Myanmar Times 2015年9月23日
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どこにでもある雑貨屋。コーヒーやミルク、シャンプーに洗剤、あらゆるものが小分けパックでぶら下がっている。

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