銀行口座を持たない人が約7割の国も!?

東南アジア諸国連合(アセアン)では、シンガポール(口座保有率98%)やマレーシア(同85%)などの一部を除くと、ベトナムやミャンマーなど、未だ銀行口座保有率が低い国が多数あります。膨大な労働人口を誇りながら、多くが銀行口座を持っていないという現状は憂慮すべき問題であり、この課題解決のために「キャッシュレス化」への需要は大きくなりつつあります。そこで近年、にわかに注目を浴びているのが「ブロックチェーン技術」。今回は、銀行業務をそのまま代替するとも言える「ブロックチェーン技術」をベースに、タイを本拠地とし急速に事業拡大を進めるスタートアップ企業「Omise」の事業やビジョンに迫ります。

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ブロックチェーンとは何か?

ブロックチェーンとはデータ保存の新しい技術であり、データの「固まり(ブロック)」を「鎖(チェーン)」のようにつないでいき保管します。改ざんなどの不正な取引が事実上不可能な仕組みとなっており、2009年に取引が開始された仮想通貨の一つ「ビットコイン」を支える技術として開発されました。

現在では仮想通貨のみならず、国際送金や証券決済など、金融に関するほかの分野や土地登記から選挙の投票管理まで、様々な非金融分野への応用も期待され、汎用性の広さが高く評価されています。ブロックチェーンが優れている点は「収集された情報や取引の信頼性が高く、公明な記録を残せる」こと。このため、特にセキュリティが重要とされるような銀行業や保険業における応用が期待されているのです。

デジタル空間での信頼を確保する

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ブロックチェーンの特長は「分散型台帳技術」と言われる特定の管理者が存在しない情報管理体制にあります。これまでは特定の管理者による「中央集権型」でしたが、ブロックチェーンでは同じネットワーク内にいる参加者全員が分散して取引データを管理することで、改ざんに強く信頼性の高い取引を実現。また、システム障害が起こりにくく、低コストで運用できる点も特徴的です。

では、ブロックチェーンを活用すると社会はどう変わっていくのか。どのようにビジネスとして活用できるのか。今回、タイを拠点に拡大を続けるOmise社の『Omise Go』を事例に紐解きます。

タイを起点にアジアを制覇、そして世界へ! 「Omise」の着眼点

https://www.omise.co/

冒頭で触れたように、アジアの一部では約7割の人々が銀行口座を持てず、不自由な生活を強いられています。銀行口座がないためクレジットカードを作ることもできず、結果として「キャッシュ払い」がまだ一般的で、オンラインでの買い物も代引きなどを活用しています。さらに、貯金や資産管理ができないため、計画的なお金の使用を困難にし、金欠に陥ったりすることもあるのです。

このような課題にいち早く着目し、日本のシリアルアントレプレナーである長谷川潤氏が2013年に友人とタイで立ち上げたのが「Omise(オミセ)」という「オンライン決済サービス」のスタートアップです。

当初はeコマースのプラットフォーム事業を立ち上げる予定で準備を進めていましたが、決済機能を導入する段階になり決済システムに関連した大きな壁に直面。自社のみならず他社も抱えている課題であり、これをビジネスチャンスと捉えて事業内容を変更しました。そして、このOmiseが2017年2月17日に発表したのがブロックチェーン技術を用いた、「eWallet」サービス『Omise GO』です。この『Omise GO』は仮想通貨としても使えます。

では、このサービスを使うメリットはどこにあるのでしょうか。
一言でいうと「送金や決済がすばやく簡単に」実現できます。あるいはスマホひとつで支払いが完了するので、両替いらずで面倒な小銭にも煩わされず、アジア各国で支払いが可能になります。他にも、銀行口座を持っていない人でも手数料などなく、ネットワーク上で資金のやりとりも可能にします。本サービスは、途上国などで多くの人々が抱える問題を一気に解決し、新たな決済インフラとして発展していく可能性を高く秘めているのです。

例えば、本拠地であるタイでは2017年9月に「McDonald’s Thailand Co., Ltd.(タイのマクドナルド)」と提携し、マクドナルドが提供するWebサイトやモバイルアプリを通じて、オンライン注文がスピーディーにできるようになりました。以前はカード決済のために別画面で承認する必要がありましたが、今は同一画面で決済可能です。

本サービス発表時の長谷川氏によるコメントでは、「『Omise GO』は決済を利用するすべての、“とりわけ銀行口座を持たない人々”との、本物の「良好な関係」を築き、真のファイナンシャル・インクルージョンを提供していきます。人と人を繋ぎ、誰もが利用可能な金融システムを提供する『Omise GO』は、縁を結び、誰でも持つことのできる「小さな価値」の象徴として、「五円」が今回の名称とロゴとしてふさわしいと考えました」とあり、名称やロゴからもその企業姿勢が伝わってきます。

「誰もが利用可能な金融システムをつくる」というビジョンをもとに、通貨や資産の種類、国や法律の管轄権に関わらず、手軽に低コストで、任意のネットワークからネットワーク」に送金できる分散型ソリューション、これをユーザーや企業に提供しようと邁進するOmise。本サービスが拡大すれば、あらゆる資産や価値を最小限のコストで交換可能にするネットワークが実現します。アジア各国をはじめ、世界中の人々の日常生活におけるお金にまつわる問題を一気に解決し、新たなビジネス革命や思っても見なかったビジネスチャンスが生まれる日が来るかもしれません。

まとめ

ゴールは、「人々の生活を金融とデジタルコマース革命を通じて変えていくこと」と見据える長谷川氏。高いビジョンとブロックチェーンのような最先端技術を結び付けることにより、ビジネスの可能性も無限大に広がります。一見複雑に見えるブロックチェーンも、人々の生活にまとわりつく長年の悩みを解決するために「どう使うか?」、という視点から考えるとわかりやすくなることでしょう。新たなビジネスの切り口として、Omiseのような好事例から学ぶことは多そうです。

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