ソーシャルメディアをはじめ、さまざまな情報があふれる昨今。現代の消費者は、特定のブランドや製品を選ぶ際に、ブランドや製品の原材料に関する透明性、高い品質を担保した商品の提供、地域社会や社会貢献活動への参加など、「信頼性」によって購入を決定します。このような消費行動は星の数ほどの製品であふれているコスメ・ビューティー業界にも当てはまります。肌を改善するために有益であると認識されている成分がさまざま入っている製品よりも、消費者は、より安全で、よりクオリティが高く、より効果的な製品に興味を持つようになりました。例えば、限定された数の商品数しか持たない英国の美容ブランドLixirskinは、世界の美容業界や愛好家の注目を集めています。わかりやすい簡素なパッケージ、シンプルなケア。このようなわかりやすさがもたらす信頼性こそが、強力なブランド提案になる可能性があることを示唆しています。

本記事では飽和が進む美容業界において注目されている世界各国の美容ブランドを事例として取り上げながら、新たな時代の美容マーケティングについて紹介します。

○『Less is more』ミレニアルが支持するトレンド

米国をはじめとして世界で経済や消費をけん引するミレニアル世代。米国ではミレニアル世代の人口は約8,700万人と、総人口の約1/3を占めており、強い消費トレンドや社会への影響力を持っています。この世代の女性たちの特徴は過去の女性たちとは異なり、複雑でやたらステップ数の多い肌の手入れやメイクアップに時間をかけず、自分らしくあることに重きを置いていること。

全米のミレニアル世代の女性たちから支持されているGlossierはまさにこのような女性たちの想いを体現したブランドであるといえるでしょう。人気ブロガーだった創業者Emily Weiss(エミリー・ワイス)が立ち上げたブログから2010年にスピンアウトしたこちらのブランド。ブランド理念として『Less is more(少ないほうが、心や人生は豊かになる)』を掲げ、足し算のメイクではなく、本来持つ美しさを引き出すシンプルなライフスタイルを提案しています。女性たちが自分らしいアイデンティティを持ち、自分自身の未来を自らの手で切り拓くことのできる時代にふさわしいブランドストーリーやフィロソフィーがミレニアル世代の女性を中心に支持を受けて、2018年に年間収益1億ドルの規模のビジネスに成長しています。

また、同様にCheryl Yannotti Foland(シェリル・ヤノッティ・フォーランド)が10年以上美容業界で経験を積んだのちに2015年に米国西海岸で立ち上げたlilah b. は、『We believe with less, you are more.(少ないほうが、心や人生は豊かになる)』というブランド信念のもと、肌にやさしいだけではなく、メイクの持ちがよいことを特長とした化粧品ブランドを立ち上げています。創業者シェリルの目標は仕事などにいそしむ女性たちが一日中メイクを直さずにいられて、シンプルな美容習慣を提供することにありました。さらに、製品はアロエなどの天然の栄養成分と保湿成分が含まれているほか、一部の製品はビーガン対応がなされており、動物実験は一切行っていません。このようなブランド哲学は、動物虐待のない製品を好み、かつ、日々多忙なミレニアル世代やジェネレーションZ世代を中心とした若い世代から高く支持されています。

両社とも2010年以降に立ち上がった美容業界の新興企業でありながら、「Beauty should be about quality, not quantity(美は量ではなく、質に宿る)」というシェリルのメッセージにあるように、シンプルかつ時代に合った独自性ある理念を消費者にソーシャルメディアなどを活用して直接伝えることで一気にトップに駆け上がった好事例と言えるでしょう。自社のブランド理念から複雑でわかりにくい要素を取り除き、現代の消費者に刺さるキーワードだけを残す。これこそ、ものがあふれる時代にブランドの独自性を女性たちに伝える一つの方法なのです。

○急成長したブランドのターゲット。どんな女性たちが購入しているのか?

Glossierが美容業界で躍進した理由の一つとして、ある特定の消費者のペルソナを分析したうえで化粧品へのニーズをとらえて製品を開発し、販売およびマーケティングのプロセスをシンプルなものにしていることがあげられます。ヴォーグの元スタイリングアシスタントであったエミリー・ワイスによる美容ブログからスタートしたこのブランドは、彼女自身が美容業界の既存製品と、現代を生きる女性たちの美容ニーズとの間に大きなギャップがあるという気づきから生まれています。エミリー・ワイスが描いた現代を生きる女性たちのペルソナ像は、自分らしさを大切に、クールに日常を楽しみ、過度な装飾を好まない等身大のミレニアル世代の女性です。結果としてありのままの自分を肯定する、多様な価値観や考え方を持った女性たちがこのブランドのソーシャルメディアに集っています。彼女たちが好むのは、超人的なスーパーモデルではなく、日常でどこにでもいそうな女性モデルです。

実際、Glossierのターゲット消費者は飾り立てすぎず、ナチュラルな外見を好む24歳から35歳のミレニアル世代の女性たちです。彼女たちは個人的な楽しみを満たすために買い物でお金を使うことに抵抗感がなく、買い物行為そのものに価値があるととらえ、ときには社交的な要素を満たしてくれるとも考えています。そして、グラマーで魅力的であることよりも、自らのありのままの姿(現実の自分)に寄り添ってくれる美容ブランドを好みます。

さらに、Glossierでは、上記以外に以下のようにターゲット消費者を設定しています。

・明るい肌のトーンから暗い肌のトーンまですべての肌の色が対象です。

・オンラインショッピングはもちろんのこと、Glossierのショールームや各都市で開催されているポップアップ店舗にも足を運び、体験型の消費を好んでいます。

・ひんぱんにInstagramを中心としたソーシャルメディアを閲覧し、新たな製品を発見することに喜びを感じる女性たち。新たな製品について友人にシェアしたり、レビューを書くことにもあまり抵抗がありません。

・これから人気が出そうな、あるいは現役のインフルエンサーから美容と美のヒントを収集しつつ、自らもソーシャルメディアで積極的に配信しています。

GlossierのInstagramをのぞくと、そのプロフィールには「Glossier Inc. is a people-powered beauty ecosystem Skin first, makeup second.」とあり、まさに一人一人のユーザーがつくる美容のエコシステム=美容ブランドであることを実感します。たとえば、投稿のなかには、どこにでもいそうな女性モデルが白髪まじりの実母と一緒に登場し、Glossierのメイク製品を使ってビデオの前でメイクの仕上げをしているビデオがあったりします。しわのある母親世代も使える、ありのままの美しさを引き出すブランドであることもうまくアピールされています。また、Glossierが創業5周年を迎えたときメッセージには「Glossierは私に活力をくれます。私が疲れきってエネルギーがゼロになっているときも私の肌をケアしてくれます」。とのユーザーコメントも。単なる美容製品を超え、日常にエネルギーと活力を生み出してくれるようなブランドの姿勢にも、女性たちは深く共感しているのです。

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○まとめ

「Less is more(少ないほうが、心や人生は豊かになる)」とうたう新興美容ブランドが熱烈な消費者の支持を得る現代。成功しているブランドは、限定されたターゲット消費者に対して、シンプルかつ独自性のある製品やライフスタイル提案に特化しています。また、それぞれのブランドはソーシャルメディアなどを通して直接消費者に語りかけ、自分たちのブランド哲学をさまざまな言葉や写真で表現し、消費者もブランドを支える一員としてときには製品開発に巻き込むなどして、そのエコシステムに組み込んでいます。情報があふれ、日々の仕事や生活で疲れている消費者にとって、シンプルでわかりやすく、かつ、消費者の心に勇気を与えてくれるようなブランドの存在は何よりも代えがたい存在となっているのではないでしょうか。また、これこそが現代の美容ブランドにもっとも求められている要素なのです。

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