2011年にAppleが「Siri」をiPhone4sに搭載してから、AIによる音声アシスタント商用化の歴史がスタートしました。その後、スマートフォンを製品としては持っていないAmazonが室内空間での利用を主目的として2014年にスマートスピーカーAmazon Echoを発表してから「音声アシスタント」のマーケットが本格的に成長し始めました。Amazon Echoがスマートフォンやタブレットの10分の1くらいの価格で購入できたことも普及を促進した要因に挙げられます。

スマートスピーカー先進国の米国では、使用している成人の数は2018年1月時点で4,730万人だったのが、2019年1月には6,640万人と40.3%の増加率で、普及台数は約1億3,300万台と推定されています。今やスマートスピーカーを利用する成人は4人に1人から、3人に1人に迫ろうという勢いです。*1

これに対し、日本ではスマートスピーカーの認知度は2018年12月の時点で76.1%あるにもかかわらず、普及率は5.9%、つまり94.1%の人がまだ持っていないことになります。*2
いずれは日本のマーケットもキャッチアップしてくると想定されますが、先行事例として、米国のスマートスピーカー最新事情をレポートします。

AmazonとGoogle の2大メーカーで米国マーケットの8割以上を独占

米国におけるスマートスピーカーは1位のAmazonと2位のGoogleで8割以上のシェアを維持していますが、次のデータのように徐々にGoogleや、Appleを含む、その他のベンダーによるシェアが伸びています。

2019年 Amazon 61.1%、Google 23.9%、その他 15.0%*1
2018年 Amazon 71.9%、Google 18.4%、その他 9.7%*1

2019年のユーザーが2018年よりも40.3%増えていることを考えると、Amazonがシェアを低下させたのではなく、Googleやその他のサードパーティにおける台数が伸び、スマートスピーカーのマーケットの拡大と多様化が始まったと考えられます。

特に信頼性や音声アプリなどを重視する一般ユーザーはAmazonやGoogleを選択しますが、音楽再生が中心のユーザーはSonos、JBL、Harman Kardon、Boseなどのオーディオメーカーの商品に魅力を感じているようです。しかし、多くのオーディオメーカーのスマートスピーカーにはAmazon Alexa又はGoogle Assistantが搭載されていますので、AIアシスタントのシェアはAmazonとGoogleの2社でほぼ独占状態と言えます。

スマートスピーカーのカギを握るAIアシスタントと音声アプリ

AIアシスタントはユーザーが話しかけるたびに学習を重ね、その能力を発展・進化させています。さらに、ユーザーがさまざまな質問やリクエストをすることにより、ユーザーの好みなども学習し、パーソナライゼーションがさらに高まるため、一度慣れてしまうと手放せない存在になります。

そのため、先行して過去のさまざまなデータの蓄積や経験によって性能を高めてきたAmazon AlexaとGoogle Assistantが高いシェアを獲得しているのは容易に理解できます。サードパーティにおいても、独自のAIアシスタントは開発せず、信頼性・拡張性の高いAlexaやGoogle Assistantを搭載する企業が多いのですが、この傾向はスマートホームのデバイスメーカーにおいても同様です。

<主なスマートスピーカー・メーカーとAIアシスタント>

メーカー

主力製品

AIアシスタント

Amazon

Amazon Echo

Alexa

Google

Google Home

Google Assistant

Apple

HomePod

Siri

Sonos

Sonos One

Alexa

スマートスピーカーのユーザーにとってもう一つ重要なのは機能を拡張してくれる音声アプリであるAmazon Echoの「スキル」とGoogle Homeの「アクション」の存在です。音楽を楽しむ、ニュースを聴く、料理のアシスタント、エクササイズのコーチ、語学学習の先生、ホテルやチケットの手配、スマート家電の操作など、さまざまな広がりを見せており、これらの音声アプリはユーザーがスマートスピーカーを選択する際のカギを握る存在となっています。

約80,000を超えるAmazon Skillsの最新事情

2019年3月11日のBloomberg BusinessweekによるとAmazon Alexaのスキル(音声アプリ)は現在80,000にも上り、数の面ではGoogleを大きく引き離しています。しかし、同記事では80,000という数にもかかわらず、キラーアプリとなるようなヒットが出現していないとの厳しい評価を下しています。

その原因は、ユーザーが数あるスキルのことを知らない(そもそも、ビジュアルがないので音声アプリの存在は認知されにくい)、音声アプリにふさわしい新しい発想のスキルが出てきていないなどが挙げられます。しかし、最近これらの課題に対応するスキルが登場してきているようです。以下、米国での最新スキルの事例と今後の可能性についてご紹介します。

■ Skill Finder
「Alexa、Skill Finderに今日のスキルを教えて」と話しかけると、まだユーザーが知らないクールなスキルをAIが見つけてくれます。また、カテゴリ別にスキルを調べられるので、ビジネス、ゲームなど分野を指定して人気のあるスキルを知ることができます。
これは、音声アプリの重要な課題 <スキルを見つける方法がわからない> に対するソリューションとなるアプリで、今後はいろいろな切り口のスキル検索アプリが期待されます。

■ Roomba
iRobot社の掃除ロボット「ルンバ」を操作できるようにするスキルです。「アレクサ、ルンバにクリーニングを開始するように伝えて」と言うだけでルンバが掃除を開始します。清掃の予約も簡単にでき、仕事などで出かけている間に掃除が完了します。デバイスを操作するスキルはスマートホームには必須で、今後スマートデバイスメーカーとのコラボレーションでさまざまなスキルが生み出されることが予想されます。

■ 7-Minute Workout
代謝を高め、ストレスを軽減し、脂肪燃焼に効果があるように設計された「7分間のエクササイズ」を音声でガイドしてくれます。必要に応じて休憩を取り、次のエクササイズを開始する準備ができたらAlexaに知らせると再開。 自分専用のコーチが側にいるような感覚です。
このようなタイプのスキルは、「耳」以外は全てが自由になる音声アシスタントには最適で、今後エクササイズだけではなくダンスレッスンや、調理指導など、コーチングをコンセプトとしたスキルの可能性を感じさせます。

■ Ambient Sounds
Ambient Soundsは、Alexaユーザーに非常に人気のあるスキルです。落ち着いたサウンドループを再生し、眠りを早めたり、安眠をサポートしたり、リラックスさせたりするのに役立ちます。 オプションには、大雨、遠くの雷雨、宇宙、森の夜など40以上のサウンドがあります。
安眠や精神安定といったことは家/部屋という空間が前提となりますので、このスキルもスマートスピーカーの新しい領域を開拓するヒントになるでしょう。

■ Fitbit Skill
FitbitとAmazonが提携し誕生した「Fitbit Vears2」はAlexa搭載のスマートウォッチです。FitbitスキルはAlexaを通じて「Fitbit Vears2」が測定した、体重、歩数、運動目標、睡眠追跡などのデータについて音声で知ることを可能にしました。
Ambient Sounds がメンタルケア用とすると、Fitbitはヘルスケア用途に分類されますが、Fitbitスキルは異業種とのコラボレーションによって機能やサービスを拡張させた事例と言えます。

スマートスピーカー市場はまだ始まったばかりで、マーケティングへの応用もアイデア次第でいろいろな可能性があります。その中で、多くのマーケッターが注目していると思われるのは次の4点です。

  1. ① SEOに変わるVSO(Voice Search Optimization /音声検索の最適化)についてのノウハウ構築
  2. ② 自社をアピールできるような斬新な切り口の音声アプリの開発
  3. ③ 宣伝媒体としての音声アプリの利用方法
  4. ④ 顧客サービスへの音声アシスタントの活用方法

スマートスピーカー市場の未来を予測するには、今後も米国などの先行動向を注視・分析するとともに、そこに隠されているヒントを学び取ることが重要でしょう。

【参考URL】

*1SMART SPEAKER CONSUMER ADOPTION REPORT MARCH 2019 US
*2電通デジタル、スマートスピーカーの国内利用実態調査

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